誰が為に微笑むか   作:MYON妖夢

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賽は投げられた

 ――火花が瞬く。

 

「はぁっ……はぁっ……くそっ!」

 

 ――金属同士がぶつかり合う音が響く。

 

「ぐっ……なんだよ……なんなんだよてめぇは!」

 

 それに答える声は無く。代わりに送られるのは鋭く速い一閃。

 声を荒げながら受け止めた両手剣は砕け散り、後退るもいつの間に追い詰められたのか、背中には壁の硬く冷たい感触が触れるのみ。

 相手の表情すら仮面に隠されてわからないままに、目の前で暗く輝く刃が振りかざされる。

 

「や、やめてくれ……! もう抵抗はしねぇ! 監獄送りにだってしてもいい! だから。だか――」

 

 次の瞬間、逆さまになった視界に映ったのは、膝をついて地面に倒れ伏そうとしている、首から上はポリゴン片が舞うだけとなった胴体だった。

 

「――ら……。あ?」

 

 それが自らの身体だと気付く前に、結晶が砕けるような音と共に意識がこの世界から、この世から消えた。

 

「……お前はやめなかったのに、自分だけはその言葉を聞き入れてもらえるなんて思った? そんなこと、あるわけないのに」

 

 残ったのは、今一人の人間の命を奪ったというのに、平坦な声でそう呟く死神のような姿だけだった。

 

 

 

 

 

 ソードアート・オンライン(SAO)

 

 ナーヴギアと呼ばれる、脳に直接仮想の五感情報を与えることで仮想空間へと精神をダイブさせるという、ヘッドギア型ゲームハードを使用する世界初のフルダイブ型VRMMORPG。

 1ヶ月間のβテスト期間を経て収集されたデータを基に、2022年10月31日に初期ロット1万本を正式発売。瞬時に完売したSAOは、11月6日に正式サービスを迎えた。

 

 1万人が同時にログインできたわけではなかったが、多くの者はサービス開始と同時に自らの分身となるアバターを構成し、SAOの舞台である100層からなる巨大な鉄と岩により構成される【浮遊城アインクラッド】へと降り立ち、その世界の完成度に感銘の声を上げた。

 

 しかし同日17時半を回った頃に、鐘のような音と共に全プレイヤーが強制転移によって広場に集められ、開発者である茅場晶彦によって"正式サービス"の開始が宣言された。

 

 正式サービス……すなわち、"ゲーム内でHP(ヒットポイント)が0になったプレイヤーは、現実でも死亡する"SAOという名を冠したデスゲームだ。

 ゲーム内で死亡したプレイヤーは、現実で頭に身に着けているナーヴギアによって、高出力のマイクロウェーブを脳に直接流されて死亡する。現実で外部的要因によってナーヴギアを強制的に外された場合、ナーヴギアが破壊された場合、10分間外部電源から切断された場合、2時間ネットワーク回線未接続の場合。これらどれが発生しても同様だと茅場晶彦は語った。

 ログアウトボタンは既にメニューウィンドウから消失し、プレイヤーがデスゲームから解放される手段は100層からなるアインクラッドを踏破した時のみ。つまりゲームを全クリアした時のみとも語り、全プレイヤーの容姿をアバターから現実の姿に強制変更した。

 

 すぐにプレイヤー達は恐慌状態に陥った。当然だ。ゲームにログインしただけで自分の命を握られたなど、信じられるものではない。信じたとしても受け入れられるものではない。

 βテスターを含めた一部のプレイヤーはゲーム攻略へと乗り出したが、それ以外のプレイヤーは、現実への帰還の僅かな可能性に賭けた自死に走る者や、多くはない初期配布のコル()で宿屋に引き篭もる者が殆どであった。

 

 1層目は1ヶ月という期間を経て、フロアボスを打倒した事によって踏破され、そこから層ごとの攻略にかかる時間は少しずつ短くなっていった。最前線を走る攻略組と呼ばれるプレイヤーやその一歩後ろを着いていくプレイヤー達にとっては、このゲームはクリアできるのだ。という希望が見えていた。

 

 しかし戦うことを選べなかった故にコルを使い切り、ゲーム内だというのに律義にも感じる寒さや空腹を凌ぐことが難しくなったプレイヤー達を中心に、現状への不満、デスゲームという理不尽への怒り、ある程度生活が満たされている攻略組への逆恨みのような感情は、確実に募っていた。

 

 それでも一線を越えないのが人間の理性というものだ。しかしそんなもので抑制が効かなくなってしまうプレイヤーは極少数ながら存在した。窃盗や恐喝、詐欺などに手を染めるプレイヤーが現れるのは、ゲーム開始からそれほど時間はかからなかった。

 このゲームではシステム的に判別のできる窃盗や傷害などの犯罪を行ったプレイヤーは、頭の上に浮かぶプレイヤーカーソルがグリーンからオレンジに変わる。オレンジとなったプレイヤーは"犯罪者"となり、あらゆる戦闘や犯罪を不可能とする"アンチクリミナルコード有効圏内"通称圏内への立ち入りを、NPCの衛兵により禁じられる。つまりいつでもモンスターに襲われる危険がある圏外へと放り出されるのだ。

 

 それが周知されるようになったこと、オレンジカーソルをグリーンに戻すためのカルマ値回復クエストの異常な手間が周知されたことで犯罪に手を染めるプレイヤーは再び減ったが、表面化でくすぶる不満を煽るかのように、とある事件が起きた。

 

 攻略組の一角であったパーティーが、一人を残して全員"殺された"。

 

 間違いなく全員が実力者であった者達を殺したその手で、生き残った一人に音声を記録して再生を可能とする録音結晶と、写真を残す記録結晶を持たせ、それを情報屋経由で多くのプレイヤーに公開させた。

 記録されていたのは、彼らが殺される瞬間の写真と、起きた物事全ての音声だった。

 

『現状が不満だろう。苛立たしいだろう。発散しなきゃつまらないよなぁ? オレンジカーソル? そんなものでくすぶっているわけねえよなぁ? ゲームなんだ。楽しまなきゃ損だろう! そうさ、オレ達こそがレッド。レッドプレイヤーだ! 同胞よ楽しめ! イッツ・ショウ・タイム!』

 

 最後に首謀者である【PoH】と名乗ったプレイヤーのこの言葉で締めくくられたそれは、アインクラッド中に緊張をもたらした。

 初めて行われたであろう殺人。これを重く見た攻略組の各プレイヤーはPoHを探し出そうとしたが、まるで尻尾を掴むことが出来ずに時が経ち、やがてPoHが発足させたとされる殺人ギルド【ラフィンコフィン(笑う棺桶)】の捜索は引き続き行われていたが、メインの戦力は攻略へと精を出すことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 故に、気付かれなかった。人々からも忘れられていった。

 不幸か幸福か唯一生存"してしまって"、とあるギルドに保護されていた一人のプレイヤーは、その後どうなったのか。

 

 初めに気が付いたのは、"彼女"と友人だった攻略組のプレイヤーだった。

 

『あの子がフレンド欄から消えている』

 

 誰のフレンド欄にも残っていない。安全にそのギルドの所有するギルドハウスの一部屋を以て保護されていたはずの彼女は、その時期すら不明のまま誰の目にも触れずに失踪していた。

 第1層主街区である【はじまりの町】にある黒鉄宮。そこにある全プレイヤーの名が刻まれている【生命の碑】を確認しても、彼女の死亡は確認できなかった。そもそも死亡していたとしてもフレンド登録が消えることは無い。

 フレンド登録がなければフレンドメッセージを送ることもできない。インスタントメッセージというものもあるが、これは同じ層にいなければ受信できない上に、読んだかどうかの確認も取れない。事実上、彼女と連絡を取ることは一切できなくなったのだ。

 

 彼女と友人であり、攻略組の更に最前線を走るギルド【血盟騎士団】の副団長でもあるアスナは、犯罪者ギルドによって誘拐でもされ、フレンド欄からの追跡が不可能なようにフレンドを削除させられたのではないかと取り乱し、情報を集めたがやはりこれも不発。攻略組にとって最も信用できる情報屋である【鼠のアルゴ】ですらその行方を知らないとくれば、手詰まりだ。

 このゲームには"倫理コード解除設定"というものがある。メニューウィンドウの奥深くにあり本人の手でしか解除できない設定だが、簡単に言ってしまうと、解除してしまえば倫理に反する行動ではハラスメントコードの通報ウィンドウが出ないようになり、性的な"そういうこと"も出来るというものだ。

 同じ女性プレイヤーであるアスナには女にとって最悪の事態を安易に想像できてしまう故に、攻略以外の時間の全てを以て捜索に当たったが、手が届かなかった。やがて団長であるヒースクリフにも攻略の遅れを指摘されてしまう。奥歯が砕けそうなほどに歯を食いしばりながら、せめて一刻も早くこの世界から彼女を解放できるようにと、【閃光のアスナ】は攻略の鬼となった。

 

 しかしこの物語は【閃光】の攻略を語る物語でもなければ、【黒の剣士】の英雄譚でもない。

 

 この物語は、ただ一人の少女が歩む復讐譚である。

 




現状書いてる作品も満足に投稿できていませんが、折角ネタ提供もあったので書き上げてみました。
取り合えず書けるものから書いていこうと思います。
マスターBTさんからのネタ出しもありますしね。書くものにはきっと困りません。

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