第35層北部に広がる超大型サブダンジョン【迷いの森】
この深い森はひとつのエリアに入った1分後に東西南北全てのエリア連結がランダムに切り替わる。そのエリア数は数百にも及ぶ厄介なエリアだ。
その上攻略組はサブダンジョンよりも、次の階層を解放するための迷宮区攻略に力を注ぐため、最前線が第49層に到達したらしい今でも殆どのエリアは手付かずで残されている。
出現するモンスターは比較的群れるモノが多く、特にプレイヤーがスイッチと呼ぶ前衛の交代行動も行うことが可能な程にはAIが優秀だ。
迷って出られなくなるリスクと、現状ほぼ不明なダンジョン仕様のリスクに、モンスターの連携によって死ぬリスク。これだけでもこの森に人があまり来ない理由としては十分だろう。
だからこそ、SAOで初めて殺人者の凶刃に曝された悲劇のヒロインと呼ばれる私が――【アザミ】が身を隠すにはこれ以上ないうってつけだった。
事件前も事件後も親身に接してくれていたアスナには悪いことをした。彼女はきっと私の失踪に気付いたら全力で捜索しただろう。でも最初にここに来たのは死ぬつもりだったからだ。何かを残して来るだけの気力も残っていなかった。むしろ生命の碑で生きているのがわかる分、変に勘繰らせているしれない。
最早今の私が知ったことではないが。
装備の選別は終わった。
髪の色を紫から白に染め替え、ポニーテールのオプションパーツを装着。同時に常時オンにしている《隠蔽》スキルのスキルMod――スキル熟練度によって解禁される選択式の強化オプション――《隠匿》が起動したままであることを再確認する。
アザミは普通に主街区などの人の目につく場所にいてはいけない。例え前線組以外が忘れ去った哀れな少女だとしても、どこから情報が洩れるかなんてわからない。
さっきまでは付けていなかったが、基本的につけっぱなしの染色剤やオプションで普段は髪の色も髪型も変え、黒かった瞳の色も赤に変更している。
更に《隠匿》スキルを使うことで《索敵》スキルのスキルMod《看破》によるプレイヤーネームバレも防ぐ。失踪以降常時起動していたことで大きく成長している私の隠蔽系統のスキルは、攻略組でも破ることは困難だろう。
防具は中層プレイヤーと大差ない軽金属系統を身に着ける。私のように
最後に茶色のローブを防具の上から着て、フードを被る。これでよし。
今回の目標は第26層。どうせ主街区に降りるのなら消費アイテムも買い足すとしよう。やや下の階層だから、あまり質のいいものは出回っていないかもしれないが。
「……転移。【センラル】」
拠点としているエリアに設立されている一方通行の転移門を起動する。戻ってくるときは再び迷いの森を経由しなければならないが、便利なものは便利だ。
数瞬白く染まった視界に、緑ばかりの景色ではなく活発とした街の景色が映る。第26層主街区センラル。多くの被害が出た第25層フロアボス攻略の直後に攻略組プレイヤーの心を癒したのはこの街だ。私もあの時はまだ攻略組として最前線を走っていた。
街にはNPC音楽団による穏やかなBGMが流れ、NPCが営む露店の品揃えも他の中層と比べて上質と言っていい。
クエストも充実していて、しばらくはここを拠点にするプレイヤーも多かった。
この広い街は活動拠点として申し分ない。しかしそれ故に犯罪者プレイヤーにとって狙い目となるプレイヤーも多い。今回仕入れた情報は、そんな中の1つだ。
消費アイテムを各店で補充してから、適当なベンチに腰かけてアイテムストレージから数冊の本を手に取る。タイトルは【アルゴの攻略本 Ver.62】、【血盟騎士団広報誌12月号】、【MMOトゥデイSAO出張版12月号】の3冊。アルゴの攻略本は無料だが、それ以外は1冊500コル。いずれも2、3日前の発行だ。
既に中身は読んであるが、最後の再確認。
開くページは最後の方の数ページ。前半部分は攻略に関係するページだが、今の私は興味がない。
どの本にも概ね同じオレンジプレイヤーの名前と容姿、装備が載せられている。スキル構成まで抜き取っているのはアルゴの攻略本だけだ。流石は【鼠】。相変わらず彼女の情報収集能力は仮想世界において他の追随を許さない。だからこそ私も困るんだけど。
そして最後のページ。ここには大抵レッドプレイヤー……殺人者の事が書かれている。
最初に【PoH】の名前が目に入る。言わずと知れた危険なプレイヤー。全てのレッドプレイヤーの親と言ってもいい。そして私の――。
ピキッと本から音が鳴り、耐久値が減ったことを示すようにポリゴン片が端っこから舞う。
「あっ……」
無意識に力が入ってしまった。どうせ奴についてはろくな情報が入っていない上に本人は滅多に現れない。一回飛ばそう。
次に書かれているのは、出現する層が安定しない【死神】と呼ばれるプレイヤーだ。
曰く、レッドプレイヤーだけを殺すレッド。
曰く、SAOにおいてモンスター以外に使用者も居なく、武器自体の存在を確認されたこともない【大鎌】を振るうプレイヤー。
曰く、どんな手段を使ってでも相手を殺す残忍な殺人鬼。
曰く、全くの正体不明。完全に身体を隠し尽くす黒のローブに、顔を覆う白い仮面。プレイヤー名すら不明の謎のプレイヤー。
どうやら、まるで情報は掴んでいないらしい。アルゴですら注意喚起に留まっている。
他に記載されているのは、PoHの側近と言われる【ジョニー・ブラック】と【赤眼のザザ】についてだ。こちらはある程度スキル構成が抜かれている。
力が入ってしまいそうになるのを抑え込む。アルゴの攻略本は無料でNPCの店でもらえるとはいえ、破壊して何度も貰いに行くのは流石にない。……今まで何度かやってしまっているけど。
一番の目的のページは最後のページにあった。
第26層に現れた新しいレッドプレイヤー。名前は【ギルラッド】。殺害人数は2人。顔写真まで綺麗に載っている。
迷宮区にてパーティーを組んでいたプレイヤーを殺したとして指名手配となっていて、各層での目撃情報はそれ以降一切無し。
生活に困っていたのか、魔が差したのか、狂ったのか。いずれかはわからないし理解するつもりもないが、彼が人を殺した事だけは確かなことだ。
ベンチを立ち、本を全てストレージに格納する。
足を進める先は迷宮区。確かここの迷宮区には安全地帯となる部屋があったはずだ。ひとまずはそこまで向かおう。
索敵スキルを起動。隠蔽を起動したままなのもあって、私をつけるプレイヤーはいないようだ。
主街区を出て、迷宮区へと向かう。この層のモンスターはとっくに私の敵ではない。
迷宮区に足を踏み入れながら、ストレージを開いてローブの下の装備を本気のものへと切り替える。今までのものより数段ステータスが上昇する。
再度誰もいないことを確認する。どこにでも現れて情報を仕入れるアルゴに尾行されている可能性は否定できないが、今の隠蔽スキルの熟練度ならばそう見つかりはしないはず。
モンスターが入ってこないエリアである安全地帯の扉を開き、中に身体を滑らせて即座に閉める。そして扉を自分の背中で抑える様に寄りかかりながらもう一度ストレージを開く。ここに至るまでやはり他の気配はなかった。殺人者が出た迷宮区に入ろうとするプレイヤーなんてそういないだろうから不自然ではない。
装備を変更する。茶のローブから全身を包む黒のローブ【死神の復讐鬼のローブ】へ。何もつけていなかった顔には全て覆いつくす白い骨の仮面【マヨヒガの住人の怨恨面】を。そして背中には大鎌【死神の大鎌】を。
その他いくつかの装備をローブの下に隠すように出現させるうちに意識が切り替わるような感覚が、冷たい冷気のように頭を冷やしていく。
「人を殺したんだ。私に殺されたって文句は言わせない」
今の私はアザミでもなければ有象無象の中層プレイヤーの1人でもない。
他でもない自分のために殺人者を殺す死神だ。
無事に二話を出すことが出来ました。
ビックリするくらい主人公が喋らない? 一人称とはいえ書いてる人もここまで地の分ばかりになるとは思わなかった。次回も多分そんなに喋りません。
迷いの森はまだシリカ達のようなプレイヤーが現れていない段階としています。
オリジナルのスキルModとかが出てきました。捕捉についてはこの場を借りてしましょう。
・看破
本来フレンド同士やパーティーメンバーなどといった場合でなければ確認できないプレイヤーネームを視認できるようにするスキルMod。
原作にてアスナの名前をキリトが把握した方法から、通常ではプレイヤーネームは不明であると解釈した故のオリジナルMod。
・隠匿
看破のメタスキル。看破によるプレイヤーネームバレを防ぐが、相手の看破の方がスキル熟練度が高い場合は貫通されることがある。
また、姿を視認していれば送ることのできるアイテムトレードなどを自動的に弾く効果を内包しており、徹底的にプレイヤーネームを隠し通すことに長けたModである。
・各ギルドの広報誌の類
まぁあるでしょう。ということで雑に追加。アルゴの攻略本は原作にも登場。
血盟騎士団広報誌は勿論血盟騎士団が。MMOトゥデイSAO出張版は原作登場のシンカー率いるギルド【MTD】が発行している。正しく述べるならば【アインクラッド解放隊】に吸収合併され【アインクラッド解放軍】と名を改めた今、かつてのMTDの広報部が作成している。
・第26層センラル
オリジナル主街区。本文中に記載した事のそれ以上も以下もなし。
こんなところでしょうか。スキルModについてはプログレッシブで出てきて、どれだけのModがあるのかはあまりわかっていないと思いますし、恐らくこれからもオリジナルで増えていきますがご了承を。
では今回はここまで。
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