風「最近、勇者部への依頼もすっかり落ち着いてきたわねー。」
昨日、高校入試を終えた風がほっとした様子でつぶやく。
園子「ほんとだね〜。こうしてるとだんだん眠くなってきちゃうよ……」
机のサンチョに頭を乗せた園子のまぶたがゆっくりと閉じていく。
友奈「わあ〜。園ちゃん、気持ち良さそうだね!」
夏凛「そうね〜……じゃないわよ!まだ活動中よ!園子、起きなさい!」
樹「さすが夏凛先輩、ツッコミも切れてますね!」
夏凛「何か嬉しくないわね……」
そのとき、勇者部のパソコンに1通のメールの受信音が鳴り響く。
東郷「風先輩、勇者部宛の依頼メールが来ました!」
東郷が少し興奮気味に風に伝える。
風「勇者部にとっても今年度最後の依頼になるかもね、どれどれ〜?」
6人が一斉にパソコンの前に集まる。依頼内容は「不登校の小学生の息子を立ち直らせて欲しい」というものであった。
6人全員が言葉を失う。
友奈、東郷、風、樹、夏凛、園子「……」
最初に静寂を破ったのは夏凛だった。
夏凛「やるわよ…!」
友奈「そうだね…!ずっと辛い気持ちだなんてかわいそうだよ!」
夏凛と友奈の表情に迷いはない。
風「ちょっと待って、心の悩みっていうのはとても繊細なものよ。掛ける言葉を間違えるだけで一生立ち直ることができないかもしれないのよ。」
風は数年前に両親を亡くした際の、ずっと部屋でふさぎ込んでいた樹の姿を思い出していた。
東郷「私たちに何かできることはあるのかしら……ねえ、そのっち?」
東郷からの問いに園子からの返事は無かった。
東郷「どうしたの、そのっち?」
園子は微かに震える声で答える。
園子「依頼主の名字、三ノ輪って書いてる……」
(三ノ輪家)
三ノ輪母「乃木さん、鷲尾さん、お久しぶりです。勇者部の皆さん、今日はどうか鉄男のことをよろしくお願いします。」
風「鉄男君の今の状況を教えて頂けませんか?」
三ノ輪母「はい、私たち三ノ輪家の長女、銀は2年前の御勤めの際に戦死いたしました。鉄男はそのことをまだ引きずっているみたいなんです。とてもお姉ちゃんっ子だったもので…」
風「そうなんですか……分かりました、私たちにできる限りのことをさせて頂きます。」
三ノ輪母「ありがとうございます!」
(鉄男の部屋の前)
風が鉄男の部屋をコンコンとノックする。
風「お姉さん達、鉄男君とお話ししたいことがあるんだー。」
鉄男からの返事はない。
友奈「どうしましょう?直接会ってお話しできないと…」
夏凛「無理やり入るわよ。」
樹「やめてください!夏凛先輩。」
樹が慌てて夏凛を制止する。
そのときドアの向こうから少年の声が聞こえる。
鉄男「姉ちゃんの友達だけ入っていい……」
皆の視線が東郷と園子に集まる。
東郷と園子はお互いの顔を合わせて小さく頷くと、ドアノブに手をかけた。
園子「失礼しまーす…久しぶりだね、鉄男君。」
鉄男「お久しぶりです…鷲尾さん、乃木さん。」
東郷「お久しぶりね、鉄男君。」
園子「元気だった…?」
園子が様子を伺うようにたずねる。
鉄男「はい、体の方は全然…」
東郷「学校……行ってないの?」
東郷がさっそく切り出す。
鉄男「はい……」
園子「どうして…?」
園子が心配そうな表情でたずねる。
鉄男「人に会いたくないんです。」
東郷「銀のことが原因…?」
鉄男「……」
鉄男は黙って下を向く。
東郷「私たちに話してくれないかしら…?」
少しの間をとった後、唐突に鉄男が口を開く。
鉄男「みんな、どーせ姉ちゃんのことなんて他人事だったんだよ。」
園子「どういうこと?」
園子の心配そうな表情は変わらない。
鉄男「姉ちゃんが死んで心から悲しんでたやつなんているのかな?みんな3日経ったらもう笑ってやがったよ。姉ちゃん誰のために命を懸けて戦ったんだって感じだよ。」
鉄男があざ笑った。
東郷「その皆の笑顔こそ、銀が命を懸けてでも守りたかったものじゃないのかしら?」
鉄男の形相が変わる。
鉄男「姉ちゃんを勝手に英霊扱いするな!姉ちゃんは身体中穴だらけになって血まみれになって死んだんだ!誰が好きでそんな死に方するんだよ!怖かったに違いない!辛かったに違いない!誰もそんなこと分かろうともしないじゃないか!」
園子、東郷「……」
鉄男「姉ちゃんが死んでから2年間、毎日姉ちゃんに会いたいって思うよ。
でも思っても思っても、もう姉ちゃんは帰ってこないんだよ……」
鉄男「ただいまって言ってくれないんだよ……まだお別れも言えてないのに……」
鉄男の頬を涙が伝う。
東郷はぐっとこらえていたが、溢れ出す涙を止めることはできなかった。
園子「てっつー……」
園子が目を閉じたまま鉄男を優しく抱きしめる。園子の頬には一雫の涙が伝っていた。
園子「あの後の戦いでね、わっしーは記憶と下半身の機能を、私は身体中の機能をほとんど無くしちゃったんだー。そのことに気づいたときはすっごく怖かったけど、それでも戦い続けることができたのはみのさんが私たちに「頑張れ…!」って力をくれたからなんだよ。みのさんは最期まで絶望じゃなく希望を見てたんだよ。その希望はてっつーや弟くんの幸せな未来なんだよ。」
園子「私ね、イネスの前を通るたびにみのさんとわっしーと一緒にジェラートを食べたことを思い出すんだー…」
園子「でもね、全然悲しくなんてならないよー。だってそれは最高に楽しい思い出だもん!みのさんが命を懸けて私たちに遺してくれたものなんだから!」
鉄男「姉ちゃんが遺したもの……」
園子「そうだよ!悲しみなんかよりも、ずっと大切な思い出や幸せな未来をみのさんは遺してくれたんだよ!」
園子「てっつー、ずっと悲しい顔してたらみのさん心配しちゃうよ?みのさんのこと思い出して悲しくなる時もあるかもしれないけど、みのさんはてっつーの笑顔を見て喜んでると思うなー、「私、頑張ってよかった…!」って!」
鉄男がゆっくりと顔を上げる。
鉄男「姉ちゃんは絶望じゃなくて希望をもって戦ってた……」
鉄男「うん……!俺、姉ちゃんの分まで頑張るよ!」
鉄男の瞳にもう曇りはなかった。
「うん、頑張れよ鉄男!須美と園子もありがとな!」
東郷、園子「うん……!」
夕焼けが空を真っ赤に照らしていた。