「ピピピッ……!」
7時ちょうどにセットした目覚まし時計で目が覚めた。
「う〜ん……」
まだ眠い目をこすりながらカーテンを開けると、外には真っ青な空が広がっていた。
「いい天気ね。」
「あ、お姉ちゃんおはよう!」
愛しの我が妹も目を覚ましていたようだ。
「おはよう樹、今日は早起きなのね。」
「もちろん、だって今日はお姉ちゃんの卒業式だもん!」
「でも、卒業式に出席するのは2,3年生だけじゃなかったっけ?」
「そーなんだよ〜。せっかくのお姉ちゃんの卒業式なのに〜。だから私は部室で待ってるよ。」
少し不満そうな顔をした樹が制服の袖に腕を通す。
「大丈夫よ!最後にちゃんと部室にも顔を出すから。」
「最後」という言葉で少し寂しい気持ちになってしまった。意識しないようにしていたのに。
「もしかしてお姉ちゃん、少し寂しい…?」
我が妹ながら、なかなか鋭いものだ。
「少しだけね〜。でも、同じくらい次の高校生活も楽しみなの。とうとう私の女子力が存分に発揮される場所にいくんだわ!」
「発揮できるといいね〜、お姉ちゃん♪」
この屈託のない笑顔に何度救われたことか。本当に大好きだよ、樹。
最後の通学路は、桜並木を樹と2人で並んで歩いた。
1年前よりも身長差が縮まった樹の成長をひしひしと感じた。
学校に着くと、卒業式は粛々と行われた。
仲の良かった友達と別れることを考えると心臓がつかまれたような気持ちになったが、それでも私は泣かなかった。
自分の3年間に想いを馳せると、真っ先に勇者部での思い出が蘇る。
「1年生の頃は毎日1人で部活してたわね……懐かしいなー。」
放課後になると1人で誰もいない部室に向かい、静かな部屋で淡々と依頼をこなす日々。やりがいはあったが、味気ない毎日だった。
「2年生になると、友奈と東郷が勇者部に入部したんだったわねー。」
友奈と東郷の第一印象は「礼儀正しく、とてもいい子たち」だった。
でも実際に一緒に活動していると、それだけではないことも分かった。
東郷は愛国心のかたまりで、横文字を使うとすぐに訂正させようとしてくる。
友奈は友奈で困ってる人を見ると、自分のことなんて一切考えずに助けようとする。少女の帽子を拾うために、急に川に飛び込んだときなんて本当に焦った。
「全く…世話のかかる子たちだったわね。」
自然と笑みがこぼれる。
この頃からだったか、「勇者としての使命を果たしたいという気持ち」と「お役目に当たらなければみんなで楽しい日常を過ごせるという気持ち」が葛藤するようになったのは。
「そして3年生になって、樹と夏凛、最後に乃木が入ってきたのよねー。」
最初は樹が友奈と東郷と仲良くできるか少しだけ心配だったけど、2人とも本当に樹には優しく接してくれた。
夏凛との初対面は樹海化のなかで斬新なものだったが、日が経つにつれて私たちに素の姿を見せてくれるようになって嬉しかった。
そして何より、私は夏凛を1人の戦士として信頼していた。
乃木は…初めて会ったとき、お人形さんみたいで可愛い子だなと思った。
でも色々あって少し心に何かを抱えているのではないかとも感じた。
そんな乃木にとって少しでも勇者部が安らぎの場となっているのなら、私は心から良かったと思う。後は残された1年を勇者部の仲間たちと全力で楽しんでほしい。
頑張ってね、みんな。
「ぐすっ……」
部室の前までやってきたが、ドアに手を伸ばすことができない。だってこんな顔みんなに見せられる訳がない。
溢れ出しそうな涙を拭っていると、唐突にドアが開いた。
「何やってんのよ、みんな待ってるわよ。」
いつになく優しい顔をした夏凛がゆっくりと私の手を引く。
部屋に入ると、
「風先輩、ご卒業おめでとうございまーす!!」
みんなが待っていた。
それからはみんなが用意してくれた料理を食べながら、思い出話に花を咲かせた。
「友奈ったら、いきなり私にグーパンチ喰らわしてきたのよ!」
「だって〜、演劇のセットが倒れるなんて想定外でパニックになっちゃって。」
「お姉ちゃん、私もかける音楽間違えたんだしお互い様だよ。」
「そういえば樹、初詣のとき甘酒で思いっきり酔っ払ってたわよねー」
「夏凛さ〜ん、そのことは触れないで下さ〜い!」
「いっつんは酔うと笑い上戸になるんだね〜」
「それをいうと風先輩は泣き上戸ね。」
「東郷、すごく恥ずかしくなるからそれは言うな〜!」
しばらくして、真っ赤な夕日が部室を照らし始める。
そろそろみんなが終わりを意識し始める頃だろう。
盛り上がった思い出話もすっかり落ち着き、部室はしんと静まり返る。
ああ、終わっちゃうなぁー、最後の部活動が。
寂しい。今すぐ声を上げて泣きたいぐらい寂しい。
でも今日までは部長なんだから、最後まで部長らしくしなきゃね。
さあ、いつも通りに締めよう。
「みんな、今日の部活はここまでー!お疲れ様!」
でも誰もその場から動かない。
隣を見ると友奈が下を向いて泣いている。
「友奈……」
「うう……風先輩、寂しいよ……」
やめてほしい、そんな顔されたら私もう我慢できないよ……
私は溢れ出しそうな涙を必死にこらえながら、友奈を抱きしめた。
「友奈、今までありがとう。大好きだよ。」
夏凛も下を向いて顔を上げようとしない。
「夏凛、今までありがとう。勇者部を任せたわよ。」
夏凛を抱きしめる。
「ぐすっ……、絶対に、絶対にまた来てよね。」
「当たり前よ、毎日来てあげるんだから。」
最後に夏凛の頭を撫でる。
東郷の方を見る。
「風先輩、今までお世話になりました。私、風先輩の後輩で本当に良かったです。これからもお元気で……」
「うん、東郷もありがとうね。勇者部の司令塔を任せたわよ。」
東郷と強く抱き合う。
乃木の方を見る。
「ふーみん先輩、今までありがとう…。私だけ入部の時期が遅くて、部に馴染めるか不安だったけどふーみん先輩のおかげで私、今とっても勇者部楽しいよ……!」
その一言で全てが報われた気がした。
「最後の1年、みんなと思いっきり思いっきり楽しんで、最高の青春を送ってね。今までありがとう、乃木。」
乃木を抱きしめる。
最後に樹の方を見る。
樹が悲しそうな笑顔を私に向ける。
「お姉ちゃん、私泣かないよ。だって、これからはお姉ちゃんの隣を歩けるくらい強くなるって決めたんだから。勇者部だってお姉ちゃんがいなくても、このメンバーでしっかりやっていけるよ。だから……安心して高校にいってね。」
樹の目から涙がこぼれる。
「お姉ちゃん、今までありがとう、大好きだよ……、高校にいっても私たちのこと忘れないでね……」
私は正面から樹を抱きしめた。涙なんてもう気にならない。
「ばかね……、私があんた達のこと忘れるわけないんだから。」
「樹、十年後も百年後もあんたは私の大切な妹よ。ずっと愛してるわ……」
「ふーみん先輩、最後にみんなで写真撮ろうよ!」
「いいわね!乃木。」
「さんせーい!」
「思い出になるわね!」
「ちょっと風、押しすぎよ!」
「いいじゃないの〜」
「みなさーん、セットしましたよ〜!」
「では、5、4、3、2、1、」
「はい、チーズ!」
「パシャッ!!」
こうして、楽しくて、大変で、幸せだった私の勇者部での3年間は幕を閉じた。
友奈、東郷、夏凛、樹、乃木。本当にありがとう、大好きだよ……!