FF14 異聞冒険録   作:こにふぁ

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蒼天編です。紅蓮以降のネタバレはしないようにしています。
6000字ぐらいが読みやすいと見かけたので、試しにそれぐらいずつ更新してみます。



蒼天編
1−1


 



 

 雪が視界を覆っていた。吹雪は強くなる一方だ。

 空から降る分に加え、厚く積もった雪が風に乗って渦を巻いた。

 太陽の位置は分からず、空は薄く輝いている。目に映るのは白色だけだ。

 飛んできた雪が顔に当たり、体温を奪う。悪いことじゃない、頭を冷やすには役に立つ。

 俺は地面に顔を向け、膝を突いて雪をかき分ける。膝が濡れるが、構っている場合ではない。

 積もったばかりの柔らかい雪の層を、素手で押しのけて無くしたものを探す。安物の外套が水気を吸って、ひどく重い。

 

 風の音をかき消して、咆哮が響いた。

 それだけでも巨大な体躯であることを感じさせる、重い音だ。

 俺は焦りで足を滑らせて、雪へ頭を突っ込ませた。

 脇腹がずきずきと痛む。指は冷え切っていて、今にもぽろっと取れそうだ。

 

 クソッたれめ! 何だってこんなことに!!

 俺は雪の中で、この状況を招いたバカ野郎は誰だと呪った。

 

 だが、どう考えてもそのバカ野郎は俺なんだ。

 



 

 

 どこまでも続く真っ青な空の下、穏やかに風が吹いている。

 潮の香りはどこか懐かしく、生気を感じさせた。

 白い城壁は光を反射させて、眩しくも美しく、心を晴れやかな気分にしてくれる。

 

 足元も真っ青だ。

 宙に浮いた俺は下に目を向ける。

 ずっと下の方には海が青く輝き、波が小さく揺れているのが見えた。

 

「トールさん。俺が悪かったぜ。そう怒るなよ」

「そうだぞ、トールさん。このバカはともかく、ココは悪くないじゃん?」

 

 ここリムサ・ロミンサはエオルゼアの都市国家のひとつだ。海の都なんて呼ばれる通り、ロータノ海に面したこの都市は、もとは無数の小島や岩礁だったらしい。

 そこへ建てられた建築物に増築を重ね、繋がり、巨大化した歴史ある海上都市だ。

 

 主な産業は漁業に造船だ。貿易も盛んで活気に満ちている良い都市だ。

 もちろん景気のいい話ばかりではない。

 この土地は海賊の根城になっている。そもそもこの都市は海賊によって拓かれ、略奪によって富んできた場所だ。

 乱暴な話だ。それでも今の提督の意向で、随分と変わったらしい。

 

 海賊だけじゃない、”蛮族”の脅威もある。1種族で構成された排他的、かつ好戦的な種族がそう呼ばれている。海にはサハギン族が、島の中央にはコボルト族が住んでいて、都市とは土地や資源を取り合ってきた。

 だからこの辺りでは、”腕っぷし”が常々求められている。

 つまり俺たちのような、()()()の出番ってわけだ。

 

「てめえら……反省の色ってモンが見えねえんだよ」

 

 リムサ・ロミンサのそびえ立つ岩壁に、沿うよう取り付けられた幅広い通路がある。

 他の小島へと渡すその通路は木でできていて、鉄で補強されている。

 落ちるのを防ぐ欄干なんてものは無い。落ちたやつは”間抜け”ってことだろう。

 

 俺はその通路の外に、体を浮かせている。俺の首根っこからは、木の幹のように太い腕が伸びていた。

 俺を片手で吊るす、その腕の持ち主は怒りの表情を浮かべている。

 こいつの名前はトール・クラウド。”大金槌”のトールなんて呼ばれている。

 大柄の屈強な体躯で知られるルガディン族の男だ。そのご他聞にもれず、筋骨隆々の大男だ。赤く灼けるような肌で、凶暴そうな顔つきをしている。

 平均的なサイズであるミッドランダー族の俺を、片手で吊るせるとは大した腕力だ。

 ルガディン族は乱暴そうな見た目に反して、知的で忠義にも厚い奴が多いが、こいつは見たまんまだ。

 

 巨大な斧を背負い、鎖帷子で体を覆うこいつは、敵の一身に受けるパーティの”守り手”だ。無鉄砲の命知らずだが、頼りになる。欠かすことのできない仲間のひとりだ。

 

 ちょうど今は、こいつが前に惚れた女の話を酒の(さかな)にしながら笑っていたところだった。

 ゲラゲラと体を揺らしてところを、背後から首根っこを掴まれて海に突き出されて、現在に至る。

 

「だからココは降ろせってば、この唐変木! ウドラー! ココ話聞いてただけだし、トールがどんな趣味してたってぷふッ気にしないってば!」

「うるせえ!!!」

 

 トールの手によって吊るされているのが、もうひとりいる。手をバタバタさせながらわめいているそいつは、俺の半分もないサイズだ。

 ララフェル族と呼ばれる小柄な種族だ。一見子供のようで非力そうに見えるが、実のところ身体能力は他の種族に引けをとらない。エーテル操作に長ける彼らは、魔術の扱いだけではなく武具を得意にする者も少なくない。

 ココル・コルと名乗るコイツは、呪術を得意としている。真っ白なハットとローブを身に着け、大人しそうで可愛らしいと言っていい見た目だ。だが、とにかく跳ねっ返りな性格で、おまけに口汚い。

 

 ココルが余計な挑発をするものだから、今にも落とされそうだ。

 俺は、元々赤い肌をさらに怒りで赤く染めるトールに、なだめるように声をかける。

 

「お、落ち着け、トール。いくら下が海だってな、この高さじゃ怪我しちまうかもしれねぇ。まあ、死にはしねぇよ? お、俺たちは────泳げるからなァ!!」

「ぶふーっひゃ、ひゃひゃ!! フ、フロスト、サイコーそれ!」

「ぎゃーーはははは!!」

「ひゃひゃひゃひゃっ!」

 

「あばよ」

 

「おうおおおおお!? おち、落ちる!! ココル! 離せ!! 脱げる!!」

「うわああああああ!? 高い! 怖いいいいい! やだあああああ!!」

 

 ”大()()”のトールがいきなり手を離したため、俺とココルは大口を開けたまま落下した。

 ぎりぎりのところで通路の縁を掴むことに成功したが、ココルがズボンにしがみついている。どうにかして振り落とそうとするが、上手くいかない。2人ともども落下するか、ズボンを犠牲に俺ひとり生還するか、選択を迫られている。

 通路を道行く人は、助けようともしない。皆忙しそうに、自らの目的のために歩みを進めている。

 

 1500年続いた第六星歴を終わらせた、5年前の第七霊災。少し前に、リムサ・ロミンサ、グリダニア、ウルダハの三国の代表によって、その第七霊災を完全に乗り越えたことが宣言された。

 だが、第七星歴の元年を迎えたからと言って、俺たちのような一般人にはさして変わりはない。

 冒険をして日銭を稼ぎ、酒を飲んで騒ぐ。一般冒険者の日常なんて、こんなものさ。

 俺の名前はフロスト・カーウェイ。その辺に良くいる腕利きの冒険者だ。

 

 

────────────────────

 

 

「ったく、ひでぇことしやがる。ズボンが伸びちまった」

 

 俺は魚を揚げたものにフォークを伸ばしながら、ぼやいた。

 陽はだいぶ傾き、ここ”溺れる海豚亭”には冒険終わりの同業者や、労働者たちが集まり始めていた。

 魚を口に運ぶと、さくさくとした小気味の良い食感のあとに、まだ熱い魚の肉の旨味が口に広がる。生でだって食えるほどの新鮮な魚だ。たっぷりの衣に、たっぷりの油で一気に加熱する。そいつに塩をどっさりかけて食う。当然、美味い。

 旨味が閉じ込められたソイツの食べごたえは、肉にだって引けをとらない。

 

「フン。俺としたことが、手足を縛り付けるの忘れてたぜ」

 

 トールは羊肉と血とたっぷりの香辛料を腸詰めにしたものを、噛みちぎりながら答えた。もちろん肉だって食う。この辺りじゃ羊を畜産とする酪農家が多い。

 口元が油で汚れているのも構わず、そのまま陶器でできたジョッキを掴み、ぐいぐいと上げて中身のエールを一気に飲み干す。

 息を漏らしながらジョッキをがつんと置き、髭についた泡を拭う。

 トールは憎まれ口を言っちゃいるが、そんなことはもうどうでも良いといった面だ。

 

「おねーさーん! ボイルドクレイフィッシュに、えっと、ラビットパイおねがい!」

 

 ココルが元気よく、勝手に追加の注文を入れる。その体のどこに入るんだってぐらいに、こいつはよく食う。

 給仕の子が「はーい!」と愛想よく返事をして近寄ってくる。

 

「ええと、ラビットパイはニンニクと香草で香り付けしたものと、たっぷりのきのこのソテーを加えたものがあります。どちらにしますか?」

「……っ!」

 

 ココルは目を見開くと、こちらをぱっと振り返る。よだれを拭け。

 仕方がない。俺は黙ってうなずいてみせた。

 それを見たココルは目を輝かせ、給仕さんを仰ぎ見て口を開く。

 

「両方!!」

 

 と、笑顔で宣言した。仕方がない。両方美味そうだからな。

 豪商が集まる砂都ウルダハの、物珍しい食い物や酒も良いが、やはりリムサ・ロミンサの豪快な飯が俺は好きだ。

 それに最近、リムサ・ロミンサにある調理師ギルドにたいそう腕利きの職人が現れたらしい。そのためか一段と飯がうまくなった気がする。

 グリダニア? まあ……蜂蜜酒や果実を使った甘味も悪くないけどな、俺たちは肉と油を欲している。

 

 第七星暦を明けた宣言のあと、俺たちはあちこちを回っていた。

 グリダニアでは冒険者になりたいってやつの面倒を見たり、ウルダハで悪徳商人にこき使われたり。

 少しはまとまった金が入ったものだから、今はこうして、ここリムサ・ロミンサでヴァカンスってやつだ。

 

 それにしてもひどい食いっぷりだ。節するってことを知りもしない。

 ひと稼ぎしてはこうして、財布が底をつくまで遊び歩く。毎度のことだ。

 どちらかといえば、俺自身もそういうタイプだ。そういう生活を何年も送ってきた。だが、こうも揃いも揃っての放蕩ぶりを見せられると、俺がしっかりしなければと思ってしまう。

 こんなことで悩まざるを得ないとは。世の中ってのは、真面目なヤツが損をするようにできている。

 

 ひとまず俺は、会話をさせて食べる速度を落とさせる作戦に出た。

 適当に思いついた話題を振る。

 

「そういえば、ジンはどうした? 見かけねぇな」

 

 ジンというのは、俺たちのもうひとりの仲間だ。今日は姿を見ていないから、すっかり忘れていた。

トールが山盛りの腸詰めを次々と切り崩しながら、肩をすくめて言う。

 

「さあな。昼に市場をうろついてるのを見かけたぜ。言葉も覚えねえで何してんだアイツは」

「またか。そろそろ次の冒険の話を詰めようと思ったんだけどな。グリダニアこの間行ったばかりだし、ウルダハは……しばらく止めておきたい」

 

 ウルダハの悪徳商人が俺の命を狙っている。

 

 ジンは、ふざけたことに共通語を使えない。どこから何をしにエオルゼアに来たのか、何を言っているか分からないから知りようがない。

 だが、なんとなく意思疎通は出来ている気がするから、問題はない。 

 

「ぷはっ、どうせお腹が空けば現れるよ。食い物が残ってるかは、ひひひ。運次第だね。おねーさーん! エールみっつぅ!」

 

 ココルも気にする様子もなく、また勝手にエールの注文を入れた。 

 クソッ。ちっともペースが落ちやしねぇ。

 俺はジョッキに残ったエールを飲み干す。

 ホップの苦みと果物を思わせる芳香を鼻腔で味わいながら、目を動かしてこいつらの箸を止める材料を探す。

 ふと目を下ろすと、ココルの横の椅子に見かけないものがあるのに気がついた。

 

「ココル、何だそりゃ?」

「ん? なんだ、やっと気付いたのか……ふっふっふっ」

 

 ココルはちょっと眉をひそめると、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりにその眉を高々と上げて、言葉を続ける。

 

「お前らさ、怪我ばっかしてるだろ? だからさ、しょ〜〜がないからさ、ココがさ、”癒し手”ってやつに? なってやろうじゃんと思ってさ!」

「何!? お前ってやつは……やるじゃねぇか!」

 

 ココルの言葉に、俺は思わず声を上げて答えた。

 

 ”癒し手”。言わずもがな、癒しの呪文の使い手だ。

 冒険者ギルドの推奨するパーティには、敵を引きつけることを専門とする”守り手”と、癒しや補助の呪文を専門にする”癒し手”を、ひとりずつ入れることが基本とされている。この基本パーティが”初心者の館”によって広められてから、冒険者の生存率は大きく向上したらしい。

 ちなみにパーティの人数は4人から8人が推奨されている。それ以上の人数になると、広範囲の魔物が過剰に反応して集まり始める。半端な数では、余計に危険なんだ。

 

 俺たちのパーティは斧術士であるトールが”守り手”を、双剣士の俺と、呪術士のココルと、侍のジンが”攻め手”の短期決戦型のパーティだ。無謀もいいとこである。

 常々、”癒し手”の必要性は感じていた。

 同格以上との戦いも、未踏破の場所での冒険も、長期戦になりがちだ。ポーションでは無理があったんだ。

 

 もともと魔法を得意としていたココルが、”癒し手”を担うのであれば、俺たちのパーティはかなりバランスの良いものになる。

 呪術士には思い入れがあるように思っていた。こうして自ら、”癒や手”の修行をしていたとは。突然の告白に、俺は強い感動が湧き上がるのを抑えていた。

 

「うぇへへへ。まあ、見てなっ」

 

 ココルは得意げな顔をしたまま、椅子にあった()()を手に取る。

 そしてそれにエーテルを込めながら、とくに言う必要のない詠唱を口にする。

 

「”紅石に眠りし瞳、精霊の声に目覚めん、我が聖戦に光を” ──来い! ()()()()()()!」

 

 ココルが手に持つ()に書かれた文様に、沿うようにエーテルが強く輝いた。

 一瞬遅れて、ココルの足元から青く光るものが飛び出した。

 そいつは街の外にいるラット系のモンスターと同じぐらいのサイズで、見た目もそれに似ている。もちろん細部はずいぶんと異なっていた。

 青く光る体と、長い耳。体と同じぐらいある、大きな尻尾を持つ。額には赤く輝く宝石のようなものも見えた。こちらを見上げて首をかしげるそれは、思わず庇護欲を誘われる。要は、なかなかかわいい。

 

「じゃじゃーーん!! そう! ココ……()()()になったんだぜ!」

 

 そうだ、巴術士の使役するカーバンクル。ここリムサ・ロミンサでは、見かけることは少なくない。エーテルで構成された、魔法生物と呼ばれるそれは、生命と無機物の中間の存在であると聞いている。

 そうか。ふんふーん、巴術、巴術士ね。

 

「ココル」

 

 俺は湧き上がる感情を抑え、努めて冷静に仲間の名前を呼んだ。

 

「ねぇどう!? かわいーだろう! 名前どうしようかなっ? かーくんがいいかなぁ、むーたんにしようかなぁ〜。ねぇ、どっちが良いと思う?」

 

 ココルはカーバンクルに抱きつき、頬ずりしながらこちらを見上げる。

 カーバンクルはうっとうしそうに顔を背けている。まるっきり生き物のようで感心する。

 

 俺はその光景に笑顔を作りながら、言う。

 

 

「お前のむーたん、山に捨ててこい」

 

 

「…………なんでだよっ!!?」

「巴術士は”()()()”だァ!! このタコッ!!」

 

 ”攻め手”3人パーティに、変わりはなかった。

 


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