FF14 異聞冒険録   作:こにふぁ

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「うるさいバカ! 小物! 飲んだくれ! ミッドランダー!! 人の気も知らずに!!」

「悪かったぜ、ココル。お前は魚介類なんかじゃ……ちょっと待て。なんでミッドランダー族をそこに並べた!? はっ倒すぞテメェ!」

 

 巴術士に商売替えをしたココルの機嫌を 俺はひどく損ねさせてしまっていた。

 どうにかなだめて話を聞いてみると、幻術士ギルドの門もすでに叩いていたようだ。

 だが、適正がなかったらしい。「自然の声を聞けとか、わけがわからない」というのはココルの言葉だ。

 

 いくらギルドが体系的な教えをしてるからって、習う方にその素質があるとは限らない。俺だって今さら魔法を習えと言われても、ごめんこうむる。

 

 冒険者ギルドは、パーティにひとり”癒し手”を入れることを推奨している。だがそもそも、体系的に癒しの魔法を学べるのはグリダニアにある幻術士ギルドくらいだ。

 それ以外は個人でどうにかするしかない。

 もちろんギルドが全てではない。一家相伝や武門、そういった形で技術を継承している場合も多くある。だが一般に広く門戸を開いているギルド(職業組合)と違い、存在自体を秘匿にしていることが多い。

 

 聞くところに、巴術というのは算術と関わりが深く、理詰めで構築されているらしい。

 それがココルにとって、腑に落ちるところがあったようだ。適正があったということだろう。

 

「騒がしいな……癒しの呪文は使えるんだろう。ならいいじゃあねえか」

「いいぞ、トール。回復料金10%引きだっ」

 

 黙ってジョッキを(かたむ)けていたトールが、うんざりするように話を締めた。

 ココルは機嫌を取り戻し、嬉しそうにうなずいている。つーか、金取る気かコイツ。

 トールの言うとおりで、巴術士は癒しや毒気など、補助寄りの術を使うことが出来る。

 確かにパーティのバランスは、少しは良くなったと言える。

 

「それに”軍学”っていう、守りの術に特化した体系もあったらしいんだよ」

 

 そういう失われた技術も研究されているらしいが、ギルドにはまだ導入されていないとのことだ。ココルも独学でだが、資料を探したりしているらしい。

 

 それにしても、戦い方は変わるだろうな。

 俺が戦闘時の陣形について思考を巡らせていると、店に背の高い男が入ってくるのが見えた。

 そいつはひらひらとした異国の衣装を身にまとっている。

 俺が片手を上げると、それに気付いた男は歩き近寄ってくる。頭の横に生える白い角をこちらに向けている。それはアウラ族の特徴だ。

 

「よぉジン、ちょうどいいな。そろそろパイが焼き上がるころだぜ」

 

 さっきから、厨房の方から良い匂いが漂ってきていたところだ。

 

「ざぁ、ざぅんずぐぁぅ」

 

 この男の名はジン。姓はあるのか無いのかすら知らない。

 背が高く、細身だが屈強なアウラ族は、ここエオルゼアと呼ばれる土地ではあまり見かけない種族だ。頭の横からは角が生えており、それが耳の代わりに大気の振動を感じ取っているらしい。

 東方出身(たぶん)であるジンは、”刀”を操る”侍”と呼ばれる剣士の男だ(たぶん)。

 常にぼーっと微笑んでる呑気そうな男だが、その腕は確かだ。

 常に前のめりなトールや、むらっ気の大きいココルと違い、冷静で安定した働きをする。コイツ頼みにプランを立てることも多い。それに、恐らくだが、まだ実力を見せきってはいない。

 

 ジンは嬉しそうにうなずき、椅子を引き寄せて座った。()()()のようなものをテーブルに置くと、手振りだけで酒を注文した。店員さんももう慣れたもんだ。

 

「何だそりゃあ。字か……フロスト。読んでみろよ」

 

 トールはジンが持ってきたチラシを覗き込み、眉を寄せて言った。

 ここエオルゼアで字が読めるやつは多くはない。半分もいないだろう。俺たちの中では俺とココルが読み書きを出来て、トールは自分の名前が書けるってぐらいだ。ジンは言うまでもない。

 俺はチラシを手に取って、書かれている文字を眺める。小難しい書き方で、見たことのない文字もあるな。

 

「どれどれ……ああー、冒険者求む、レヴナンツトール……ん、グランドカンパニー"エオルゼア"先行組織ィ? ハッ、なんだそりゃ。えっと……ク、ク、クリスタル……ブ、ブ……」

 

()()()()()()()()()だ」

 

「うおっ、バデロンさん」

 

 いつの間にか俺たちのテーブルの側に立っていたのは、この酒場の主バデロンさんだった。この酒場は冒険者ギルドの窓口でもあり、ここらの冒険者はこの人には頭が上がらない。

 

「クリスタルブレイブ……? 知らないな……儲かりそうな話?」

「儲かるか、はどうだろうな。”暁の血盟”は、流石に知っているだろう」

 

 バデロンさんは湯気の上がるパイが乗った皿をふたつ、テーブルに置きながら話し始めた。

 

 ”暁の血盟”、それぐらいは知っている。もともとは研究者のような連中が集まる、胡散臭い団体ぐらいの認識だったが、ここ最近で一気に有名になった。

 あの、”光の戦士”を(よう)していることでだ。

それだけでも、”暁の血盟”が俺たち冒険者の話題に上るのは当然のことだろう。光の戦士なんて知らなきゃモグリってレベルだ。

 

バデロンさんの話によるとクリスタルブレイブというのは、その暁の血盟によって音頭を取られた組織らしい。

 

 そもそもグランドカンパニーというのは、リムサ・ロミンサ、ウルダハ、グリダニアの各国で組織された軍事組織だ。国の防衛、維持に特化していて、いわゆる()()()()から遠ざけるように作られている。

 冒険者が所属することも多く、組織的な強みと、傭兵的な自由度を(あわ)せ持ったような団体だ。

 

 クリスタルブレイブは、さらにその国家間の境目を取り払った、”先行統一組織”という触れ込みで、グランドカンパニー・エオルゼアを成そうとしている。

 なんと国家間だけではない。人種の垣根を越え、蛮族さえも取り込むことを理想としているようだ。

 これを聞いて最初に思ったのは、”そんなバカな” だ。無理に決まっている。夢物語もいいとこだ。

 

「それで冒険者を広く募っているらしい。いっちょう応募してみたらどうだ?」

 

 バデロンさんの話を聞き終えて、俺たちは顔を見合わせた。どいつも判断しかねるって面をしている。

 俺はバデロンさんの顔を見上げ、皆の思いを代表して言う。

 

「そいつはご立派だと思うね。だけど……俺たち向きの話には、聞こえねぇぜ?」

 

 エオルゼアのためになんて、大層なことを考えている俺たちではない。以前、帝国との争いに加わったのだって……俺たちなりの理由があったからだ。

 

「ハハハ! 分かってるさ。だが、給料は出るから損はしないぜ。それに……ちょっと気になることもあってな」

「気になること?」

「柄の悪い連中が紛れ込んでるみたいでな……いや、俺の勘違いなら良いんだが」

 

 バデロンさんはそう言って口を濁した。確証のない不安のようなものを感じているらしい。

 

「もしかして……探れって意味か?」

「いいや、そういうわけじゃない。ただ、お前さんたちぐらいの小悪党が居たほうが、風通しが良くなるってもんだ」

 

 組織は多数の人間が集まってできる。澄んだところだけを集めようったってそうはいかない。もし表面が綺麗に見えていたとしても、底に何が溜まっているかは分からない。

 バデロンさんはそういう流れの止まった(よど)みみたいな部分をかき回すことを、俺たちに期待しているのかもしれない。

 

 バデロンさんは「まあ考えてみな」と言って、去っていった。

 俺たちはその背を見送り、程よく熱のとれたパイにさじを伸ばしながら今の話について相談を始めた。

 

「最後のは……褒められてたのか?」

「そうじゃあねえだろ……だが、何をしろって意味だ?」

「はふはふ……ふぁふぁ」

「多分、好き勝手遊んで良いってことだと思うぜ」

「えぇ……ココはそういう意味じゃないと思ったけど……で、どうする? やるの?」

 

 仲間はもぐもぐと口を動かしながら俺を見る。

 

「…………よし、やるか! そうと決まりゃあガンガン食うぞ! ここの飯とは、しばらくおさらばだからな!」

「ひゃっほー! メシだ、メシだ! 山ほどもってこ〜い!」

「ジン!! てめえ片方ばっか食うんじゃねえ! 中身が違えんだよ!!」

「はふっはっふ、ふが!」

「おねーさーーーん!! エール4つぅぅう!」

 

 組織に属するなんてあんまり好みじゃないが、アウトロー気取りも格好悪い。

 ここらで安定した組織にコネを作っておくのも悪くないだろう。

 決めたら決めたで、期待のようなものが湧き上がってくる。ひょっとしたら俺たちがエオルゼアを救うなんてこともあるかもしれない。

 

 そうだ、俺たちの冒険はここから始まるんだ!

 

 

 

 

 2週間後。俺たちは武器の横流しの嫌疑をかけられて、クリスタルブレイブから指名手配されていた。

 

 

────────────────────

 

 

『それで……もう、大丈夫なんですか? フロストさん』

「ああ、アリム。心配はいらない。もうクルザスに入ったからな、追手も無理はできないさ」

 

 俺は片手で外套のシワを伸ばしながら、もう片方の手に持ったリンクパールに言葉を投げていた。外套はその辺の雑貨屋で買った。安物で、重い割に風をよく通す。

 

 とんだ濡れ衣を着せられたものだ。

 こんなところ(クルザス)まで来てしまった。

 クルザスはアルデナード小大陸の北側の地域で、グリダニアのある黒衣森やモードゥナに隣接している。

 ここらは第七霊災の影響で気候が激変して、ひどく寒い。今も雪が、夜の空からちらほらと降ってきていた。

 酒場が背後にあるが大きな声は聞こえない。この辺りはあまり騒ぐことはしないようだ。雪が音を吸って、周囲はしんとしている。

 

『良かった……その、これから……どうするんですか?』

 

 リンクパールの通信先はグリダニアにいるアリムという名の子どもで、この辺りではほとんど見ることのないヴィエラ族だ。

 なんやかんやあって縁ができて、こうして連絡を取ったり、グリダニアに寄るときは弓の修行の面倒をみたりしていた。酔狂なことに冒険者になりたいらしい。

 

「しばらく三国の方には戻れそうにないな。ココルのやつに()()があるみたいだ。ほとぼりが冷めるまではこっちにいるかな……」

『……あっ、あの! ボクに、何かできることは無いでしょうか? フロストさんたちの無実の罪を晴らす何かを!』

「アリム……!」

 

 な、なんていい子なんだ!

 同じ組織の連中に槍を向けられ、逃避行を強いられて荒んだ心が、じんわりと溶かされるような気持ちになる。

 しかし、妙なことを言っているな。

 

「無実の罪って、なんのことだ?」

『……え? 何言ってるんですか! 横流しのことですよ! フロストさんたちがそんなことするはずないのに!』

 

 ああ、そういうことか。

 合点がいった。アリムは少しだけ勘違いをしていたようだ。

 

「してたぞ。横流し」

『もちろんです! だからボクが…………えっ』

 

 しばらく沈黙が続いた。

 俺が言葉の続きを待って、肩に積もり始めた雪を払っているとリンクパールの向こうからおずおずと声が聞こえてきた。

 

『あ、あの……なんて言いました?』

「言わなかったっけ? 横流しの件で追われてるって。まあ、()()()ってのは濡れ衣だけどな」

 

 俺たちが横流ししていたのは、染料(カララント)だ。

 クリスタルブレイブの制服は、やけに発色の良い高級品を使って染めていた。

 それを拝借して、知り合いの商人に割安でゆずっていた。減った分は適当に近い染料を混ぜて水増ししておいた。

 言っておくが、俺ひとりの仕業じゃない。仲間たちもそれなりに乗り気だった。着任してすぐに雑用に回されて、荷運びや伝令やらの地味な仕事に飽きていたのだろう。

 

 それである日、東ザナラーンの辺りで荷運びの仕事をしていたら、同じ制服着た連中にえらい剣幕で追い回された。

 褒めらることをしたとは思っていないが、殺そうとすることもないだろう。あのダッサい敬礼を、裏でゲラゲラ笑いながらやっていたのが悪印象だったのかもしれない。

 

「しかし……どうすっかな。あの組織がこのまま成長しちまったら、それこそ逃げ場がねぇ」

『…………捕まれば良いんじゃないでしょうか』

「ふはは! ウケるぜ、それ。お前も言うようになったな! ……あれ? もしもし?」

 

 切れちまった。まぁいいか、通信はいつでもできる。

 俺はリンクパールを仕舞い込むと、上を見上げ”アドネール占星台”を眺めた。文字通り星を見るための巨大なその塔は、星の動きからドラゴン族の活動を予測するためにあるらしい。ちょっと何言ってるか分からない。

 この場所は、その塔を中心にちょっとした集落になっている。

 

 とにかく、まだここはクルザスの入り口だ。明日は、もっと奥地へと進まないといけない。

 俺は再び外套に乗った雪を払い、振り返って酒場の扉を押した。

 

「……だからさ、アイツを差し出せば大丈夫だって……全部アイツのせいにしようよ」

「……そう簡単にいくかよ。襲ってきた奴ら。明らかに俺達を殺そうとしてただろう……それに、アイツの首にそんな値打ちがあるとは思えん」

「ぜぅ…………」

 

 入り口から少し奥に入ったところに、なにやら不穏なことをぼそぼそとしゃべる仲間が目に入った。完全に悪党の面だ。

 いつもの騒々しさはなく、顔を突き合うように寄せて話している。

 この地域はどうにも苦手だ。ひどく寒く、雪がうっとうしい上に、人がどうにも排他的で陰気臭いのだ。

 

 この小さな酒場でも、あまり、いや明らかに歓迎されていない。

 棚に並んだ酒を注文しようとしたら「貴方の口には合わないわ」なんて店員に言われてしまった。

 結局、頼めたのは安物のワインとカチカチのパンだけだった。トールたちも不機嫌な面になるはずだ。

 奥地へ進めばマシになるのだろうか……不安がつのる。

 だが腐っていたって時間の無駄だ。落ち込んで暗い顔をしていようと、暖かいスープを差し出してくれるやつなんて俺らにはいない。

 仲間たちに近寄った俺は、努めて明るく声を出した。

 

「やっほーーー! 暗いぞ〜お・ま・え・ら! もっと明るく行こうぜ!!」

「…………」

「………………」

「…………チッ」

「すまん、今のナシ。俺が悪かった」

 

 俺は椅子に座り、咳払いをして仕切り直す。

 

「明日、夜明けとともに立つ。北には城塞があるからな、そっちは避ける。西の洞窟から回っていく。ああそうだ、宿は無ぇ。裏のチョコボ厩舎を使っていいらしいから、そこで寝るぞ」

 

 貯めてある(わら)は発酵して暖かいらしい。宿を探していると小馬鹿にしたような笑いとともに村人からそう言われた。ハハハ。滅びろ、クソども。

 

「それで、どこに向かうんだ。この調子じゃあ……まともな飯にありつける気がしねえな……」

 

 トールがげんなりした顔で口を開いた。もっともな意見だ。

 

「この辺りで美味いモンが食えるとすりゃ……1つしか無い。目的地は──”皇都イシュガルド”だ」

 





なんと推薦を書いてくれた人がいたみたいです。
感謝!

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