FF14 異聞冒険録   作:こにふぁ

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幕間といった感じになります





 

 俺たちが石畳を鳴らして歩いていると、何人かの兵士の姿をした連中が”大審門”から現れた。ちなみに、この大審門というのが皇都イシュガルドに通じる唯一の門らしい。

 先頭の兵士が横柄な態度で、俺たちに話しかけた。

 

「貴様たちか? そこでドラゴン族と戦っていたというのは」

「ああ、あっちで死んでるぜ」

 

 突然息を吹き返したから、倒した。俺の話に、兵士たちは顔を見合わせていた。

 頭をすっぽりとおおう兜で、表情は伺えないが歓迎はされていなさそうだ。

 

「フン……ドラゴンヘッドの砦へと行けば、いくらか懸賞金が出るだろう」

「そりゃどうも。とにかく、少し休ませてもらうぜ」

「……長居はしないでもらおう。行くぞ」

 

 兵士たちは足音を揃えて立ち去った。

 ぼろぼろの旅人を見かけて、ポーションのひとつも寄越さないとはね。つれない態度だ。鎖国状態というのは本当らしい。

 城壁へ足を踏み入れると、何人か兵士がばたばたと走り回っているが、こちらを気に留めるものはいない。奥の方には頑丈そうな、巨大な門が固く閉ざされている。門の前にも兵士が門番として立っていた。

 

 こっそり通り抜けるのは、無理そうだ。

 一通り眺めた後、ここを抜けるのに”あて”があるなんて言っていたヤツに、声をかける。

 

「ココル。お前の()()ってのは……あてにできるんだろうな?」

 

 俺はココルの狙いが上手く行かなくても、門を避けるなり裏から回るなり、なんとでもなると思っていた。

 だが、それは大間違いだった。

 まったくいかれた風景だ。まるで彫刻で削り出したみたいに、イシュガルドは巨大な山のてっぺんにあった。尾根が細長くこの大審門まで続き、ほかは断崖絶壁だ。

 あてが外れた日には、ここまでの行程がピクニックに思えるようなハイキングの始まりだ。

 

 当のココルは手を目の上にかざしながら、きょろきょろと辺りを見渡している。

 

「まぁ、待ってよ……ココは運が良ければって言ったぞ……お、いたいた! ひひ、見てな」

 

 ココルは、にやっと笑うと、城壁の奥にすたすたと歩いていく。

 奥では門番がちょうど交代したところで、新しく来た男が槍の調子を確かめていた。

 門番はココルの姿を認めると乱暴な物言いをしながら、しっしと手を振った。

 

「ん? 何だ薄汚いチビめ。この国は人の出入りを制限している。下がれ──ッうごぉ!?」

 

 ココルはその門番の、すねの辺りを思いっきり蹴り上げた。

 隣に立つトールがぼそと呟いた。

 

「……何考えてんだ。アイツは」

「さぁな……いざとなったら、アイツは置いて逃げよう」

 

 俺は走り出す心づもりだけして、成り行きを見守った。いちおう辺りの兵士が気付いた様子はない。

 ココルは、怒りでだろう、少しうわずった声を上げた。

 

「ず、ずいぶん偉そうじゃないか……トマス!」

「うっぐ、あったた! こ、この……!? な、なぜ……私の名前を?」

 

 門番はしゃがみこんでいる。自分のすねを両手でこすりながら、蹴りを入れたヤツの顔を見上げた。

 犯人は両手を腰にあててふんぞり返りながら、言う。

 

「あいかわらずトードは苦手なのか?」

「な、何を……なぜ……!」

「ひひひ、ベッドにトードを入れておいたときが、いちばん傑作だったぞ!」

 

 なんつーことしてんだコイツ。いや、どういうことだこれは。

 門番は目を大きく見開き、口をパクパクさせている。

 

「…………! そ、そんな……ココ、おコ……おお、お嬢様!! よくぞご無事で……っ!」

「そう。ココだよ、トマス! 久しぶりだね。ちょうど番兵に居てくれて良かったよ」

「何をのん気なことを……皆、心配しておりましたぞ……」

 

 俺とトールは目を見合わせた。

 トールは何がなにやらって顔で肩をすくめているが、もう俺はだいぶ読めてきていた。

 門番とココルはまだ会話を続けている。

 

「ごめんよ……決めたことだったんだ。でも、今困ってて……仲間もいるんだ。なぁ、通してくれるよな? トマス」

「はい! よろこんで!」

「ありがとう……お父様には黙っててくれるな?」

「いえ! すぐに連絡をいたします!」

「ありが…………えっ」

「門を上げてくれ! このものたちは大丈夫だ。我が(あるじ)ゆかりのものだ!」

 

 門扉が音を立てて上がり、半分ほど開いて止まった。

 

「さっ。お早くお通りください。さあ、護衛の方もどうぞ!」

「わっト、トマス、それは……」

「悪いなトマスさん。通らせてもらうぜ」

 

 誰が護衛だとは言いたいが、通行証(ココル)に逃げられる前に行ってしまおう。

 俺たちが通ると、門はすぐに降ろされた。

 こうして俺たちは、イシュガルドへの一歩を踏み出した。

 

 

────────────────────

 

 

 その者はわずかなお供を伴いやってきた。

 陰謀により、あらぬ汚名を着せられ、辺境へと撤退しなければならかった。

 それでもなお再起を信じ、希望を探し求め、彼らは歩み続けていた。

 彼ら異邦の者たちが、この地で数々の冒険を成し遂げることを……この時、知るものはいなかった……なんてな。

 

「フロスト。何ニヤニヤしてやがる。ココル……てめえは良い加減に観念しろ」

「あわわ、まずいよ戻ろう!? 家出同然で飛び出したんだ……おおお怒られるぅ!」

 

 トールに小脇に抱えられたココルがじたばたと手足をうごめかせている。

 俺たちは、イシュガルドへと続く長い石橋の上を歩いていた。

 橋の上の風は強い。雪が石畳の上を走り、すぐに雲海へと消えていった。

 

「それにしても、あてがあるなんて言ってたが……ココル。お前まさか、()()()()とはな……なあ、ちょっと金貸してくれよ。かならず かえすから」

傍流(ぼうりゅう)傍流(ぼうりゅう)だけどね……ううぅ、ホントは言いたくなかったんだ……お前らに言うと、身代金とか言い出しそうだしな……」

 

 なるほど、その手もあったか。

 

 コイツの出自については、もともと妙だとは思っていたのだ。

 良いとこの育ちのようなのに、砂都、森都、海都の三大都市に馴染みがないようだった。”イシュガルド”というのには、まだ少し違和感は残るが……何か事情があるのだろう。

 

 長い橋を渡りきり、都市の足元までやってきた。巨大な都市だ。同じ石造りでも、ウルダハとは随分と様相が異なっている。

 荘厳な門が上がり、俺たちはイシュガルドへと足を踏み入れた。

 辺りを見渡す間もなく、すぐに私兵らしき連中に取り付かれた。

 

「お嬢様、よくぞご無事で。さあコルベール卿がお待ちです」

 

 色々見て回るのは、次の機会になりそうだ。

 

 

────────────────────

 

 

 ココル邸は、なかなかの豪邸だった。

 通された部屋はすこし暖か過ぎるくらいで、なにかいい匂いがした。

 外は他の建物と同じ石造りで、どちらかといえば地味な雰囲気だったが中は洒落ている。

 天井は高く、そこに吊り下げられた照明も細かい細工がしてあり、暖かく光を反射してる。つまり、高そうだ。そこいらに置いてある花瓶や燭台などの調度品も、いかにも瀟洒(しょうしゃ)といった感じで、もれなく高そうだ。良くは分からないが、配置なんかも洗練されているのだろう。

 イシュガルドってのは、戦争続きの貧乏な国だと思っていた。だが、金ってのは集まるところには集まるらしい。

 俺とトールとジンは、口をぽかんと開けて部屋を眺めていた。

 ココルは足元で、あーとかうーとか言っている。

 

 奥の扉が開き、豪華だが落ち着いた服装をした男が入ってきた。

 長身痩躯、とがった耳、エレゼン族の壮年の男だ。貴族らしく撫で付けた長髪に、整えられたヒゲを生やしている。

 

「お待たせして申し訳ない。お客人よ。我が名はアデール・ド・コルベール。お見知りおきを……さて、大変失礼だが、一時、時間をいただきたい」

 

 男はそう言って、俺たちの足元に強い眼差しを向けた。

 ココルが指をもじもじとさせながら、何歩か進んでコルベール卿の前に立った。

 

「ご、ご無沙汰しております。お父様」

「ココ……いや、ココルと名乗っているそうだね……娘よ」

「お、お父様……あ、あの私は……」

「少し、黙っていなさい」

 

 声を震わせるココルに、コルベール卿がぴしゃりと言った。

 

「……似てねえ親子だな」トールが呟いた。

「いや義理だろ、普通に考えて」 

 

 違和感に感じていたのはそこだ。なるほど、養子か。

 イシュガルドはエレゼン族主体の都市だ。貴族というなら、当然エレゼン族のはずだと思う。その貴族が、ララフェル族を養子に取るとはね。相当の事情か、変わり者だ。

 

 コルベール卿はココルを見下ろしたまま、厳しい声で話す。

 

「お前は家人の言うことも聞かず、家職も放り出して飛び出した。あまつさえ、こうして自身が困窮した時に、投げ捨てた家を頼るというのは……まったく身勝手で浅慮な行いだ。そう思わないかね」

「う、うぅ……」

 

 ココルはすっかり小さくなり、シュンとしている。

 隣のトールが前に出ようとしたのを、俺は軽く肘をあげて止めた。

 俺たちが口を出す権利はない。必要もな。

 

 コルベール卿は俯いたココルの前にひざを床につき、今度はその顔を見上げて口を開いた。

 

「だが、こうして無事で居てくれたことを」

 

 先程までとは違う、優しい声だった。

 

「そしてこうして父を頼ってくれたことを、嬉しく思ってしまう……私もまた、浅ましい人間だ。本当に、良く無事で戻ってきた……喜びを隠しきれない父を、笑ってくれ」

「……っ……お父様!!」

 

 二人はひしっと抱き合った。

 へぇ、いいもんだな、親子ってのは。

 暖かな雰囲気と空気が流れ、花の香りが鼻腔へ届いた。香りが来た方を見ると、天井に網のような格子のようなものがあった。

 

 親子は少しの間そうしていた後、顔を離したコルベール卿がココルに語りかける。

 

「急ぎ古い知り合いへ連絡をとり、事情を調べさせてもらったよ。追われているのだね」

「はい……申し訳ありません。もし家名に傷を付けてしまうことになれば、私は……」

「良い、娘よ。分かっている……冤罪(えんざい)なのだろう?」

「……ぉぶ…………はい! お父様!」

「安心しなさい。イシュガルドでの滞在は、おまえの仲間を含めて手配しておこう。さて、仲間といえば……」

 

 おう、お父様、騙されてんぞ。

 コルベール卿は立ち上がると、こちらに向き直り優雅に頭を下げた。

 

「お客人、家人同士の揉め事を見せるなどと、お恥ずかしい真似をした。娘が世話になったこと、心より感謝致す。ひとまずは我が家へ滞在していただき、疲れを癒して貰えれば幸いだ」

「んあっ? あ、あっと」

 

 俺は頭を下げられたことに、ちょっと動揺してしまった。

 こんな風にきちんとした挨拶をするなんてこと、経験にない。心構えも何もない。

 

「こ、こっちらこそ、ソイツ……いや、ココルには助けられてて…その、都市に入れてくれて、助かったぜ……いや、ありがとうございます。よろしくおねぎゃしいまっ」

 

 …………クソッタレ! ぐだぐだだッ!!

 こちとら正真正銘の一般冒険者だ。貴族の挨拶なんざ知るものか!

 

「ふふ、自由に喋ってくれて構わない。冒険者風の口調は、娘がよく真似をしていた」

「……悪ぃな、そうさせてもらう。世話になるよ、助かるぜ……んだよ、トール」

 

 トールは笑うのをこらえるような面でニヤニヤとしている。

 

「締まらねえヤツだよ、お前は」

「うるせぇ、黙──」

 

 俺とトールの会話に、ガチャリという音が割って入った。

 

「コルベール卿っ! 暖房装置の修理、終わりまし……あっ、ごめんなさい。お客さんですね」

 

 続いた声は女のものだ。

 声の方を見ると扉が小さく開き、フードを目深に被った頭がおずおずといったように突き出していた。フードも服も、ほとんど見えない顔も、黒い機械油か何かで汚れている。 

 

「ルッカ君、ご苦労だったね。報酬は後で届けさせるから、上がってくれて構わないよ」

「はいっ。ごめんなさい、これで失礼します」

 

 女は嬉しそうにフードを揺らすと、頭を引っ込ませ扉を閉じた。

 

「彼女は技師でね。色々と家をいじって貰っている。さて、立ったまま話すこともあるまい。奥へ行こう、食事の準備ができる頃だ……ぜひ、旅の話を聞かせてくれたまえ」

 

 

────────────────────

 

 

「うお。このプギルの小せえみてえなの、美味いな……タレが美味い。なんだこりゃあ」

「トール、このフラン属みたいのもの良いそ。うわ、うっめぇ……それこそフラン属ぐらいのサイズで食いてぇぜ」

 

 食事は豪華なものだ。見たことのないものばかりで、どれも複雑な味がして、美味い。

 俺とトール、ジンが横並びになり、向かいにココルとコルベール卿が座っている。

 

「タレじゃなくて、ソースっていいなよ。それに、いちいち魔物に例えるなよ。もう、恥ずかしいなぁ」

 

 俺たちが料理に舌鼓を打っていると、ココルが呆れたように言った。

 いやぁ、実に美味い。美味いが……なぜこんなに、皿ばかりがでかい?

 どれも大きな皿の上にちょこんと乗っている。もっとどさどさ乗せてほしいものだ。ジンなど皿まで舐めそうな勢いだ。

 おまけに、順番にゆっくりと出てくるものだから、焦れてしかたがない。

 そういう文化なのだろうが、美味い分だけそわそわしてしまう。

 

 ココルは慣れているのだろう。ちまちまと行儀よく食べてる。いつもの食いっぷりを親父さんに見せてやりたいね。

 

「娘よ、お客人に失礼だぞ。家にいる時は、家人として振る舞いなさい」

「うへぇ……はぁい」

 

 コルベール卿はココルをたしなめると、俺たちに向かって微笑んだ。

 

「ふふふ、楽しんでいただけているようで、なによりだ。さてお客人、良ければ冒険の”目的”を聞かせてはもらえないだろうか……実のところ、私は物語の蒐集(しゅうしゅう)を趣味としている。娘が冒険に出たのも、羨ましく思う気持ちもあったのだ」

 

 なるほど……これはとびきり変わり者の貴族のようだ。よく見れば、部屋にはあちこちに本が置きっぱなしになっている。ココルが物語の類が好きと知っていたが、父親の影響が大きそうだ。

 コルベール卿の言葉を聞き、俺はトール、ジンと互いに目を合わせた。

 

 冒険の目的、か。

 一言では言い表せないさ。俺たちはまだ見ぬ風景。感じたことのない体験。そういうものを追いかけている。

 栄誉なんていらないんだ。危険すらスパイスに、黄金の価値のある()()を求めている。見つけたものがホンモノの黄金なら、そりゃヒツゼツに尽くしがたい。

 そしてそんな日々を糧に、夕日を肴に、美酒を喉へ流し込むのがなによりの喜びだったりするんだ。

 しかし時間は有限だ。全てを伝えるのはいつだって無理だ。言葉は選ばないといけない。

 俺たちは的確な言葉を思い浮かべ、前を向いて口を開く。

 

「金」

「飯」

「酒」

「あとは……」

「……観光かな?」

「それだ」

「ぜぅ」

 

 俺、トールが交互に口を開き、最後にジンがうなずいた。

 

「…………なるほど」

 

 コルベール卿はなんだか、物足りなさそうな顔をしていた。

 その横でココルが頭痛でもするのか、こめかみを抑えている。

 

「………ふむ………つまり、見たことのない景色や、出会い。その経験を噛みしめるための、(うたげ)や交流を、大事にしているということだね」

 

 コルベール卿は目をつむり、言葉を絞り出すように言った。大体あっている。言っておいて何だが、正直おどろきだ。

 だが、やはりこの貴族は、まだ分かっていないだろう。俺たちに取って冒険は生業(なりわい)なんだ。生きるため、なんだ。

 

「良いように言えば、そんな感じさ。だがコルベール卿、実際、俺たちはロクでなしの野良犬みたいなモンだ。縄張りがないと生きていけねぇ。

 三国には冒険者ギルドっつぅ、仕事の斡旋をしてくれる場所があったんだが……この辺りにそういうのはあるか?」

 

 コルベール卿は、ふむ、と言って自分のヒゲをなでた。愉快そうに微笑んでいる。

 

「ふふふ、そうだな……このあたりには冒険者という生き物はいない。酒場で仕事を探すといい。君たちの冒険譚を、楽しみにしているよ……さて」

 

 言いながら立ち上がったコルベール卿は、すぐ後ろにあった棚の、分厚い本を一冊手にとった。

 本の表紙をなでながら、元いた席に座り口を開く。

 

「物語には、それにふさわしい背景が必要だろう……この国の歴史について話しておこうと思うが、どうだろうか?」

 

 そう言ったコルベール卿は、いかにも話したくて仕方がないって顔をしている。

 俺たちは頷いた。

 

「ああ、頼むよ。教えてくれ」

「ふふ。さあそれでは、イシュガルドの建国神話……その第1章第1節から紐解かねばなるまい……」

 

 

          *

 

 

「……その前に、君たちが戦ったドラゴン族について話しておこうか」

「よっ、待ってました」

「フン。気になるところじゃねえか」

「ふふ、千年に渡るドラゴン族との因縁は聞き及んでいるね。

 だが、ドラゴン族の寿命が優に千年を超え、上位種に至っては五千年以上その名を残す……恐らく寿命など無いだろうことは、知られてはいまい」

 

「……はぁッ? 寿命がないだァ!?」

「お、驚いたぜ……そんな生き物がいるのか……」

 

「そう、寿命も無く、雌雄も無い。奴らに人間の概念は通用しない。千年前だろうと、昨日の出来事と変わりはないのだ。

 ……それを抜きにしても、狂気であることに変わりはないだろうがね」

 

 

          *

 

 

「いったい、なんでそんなに恨まれてるんだ? 何かあったんだろ?」

「その千年前の出来事こそが、イシュガルドの()()()なのだよ。”トールダン”という偉大な男が、天啓に導かれ、一族を連れてクルザスの地へやってきた」

 

「ふうん。なるほどな、そいつが王様か」

「ふふ、結末を急くものではないぞ。彼らが深い谷間に差し掛かった時、2つの赤い光が揺れた。

 それこそが”終末の日の翼”、”死体裂く者”、”邪竜”……! そう……”()()()()()()”だ」

 

「おお……ヤバそうな奴が出てきたぜ」

「盛り上がってきたな。ジン、そこの酒瓶くれ」

「ぜぅ」

 

「おっと、危ない……その前に、建国十二騎士についても話さねばな」

 

 

          *

 

 

「──四大名家の祖でもある、フラヴィアン・ド・フォルタンが持つ盾。その(いわ)れは、美しき一角獣が関連している。一角獣とは──」

 

「……これ……何人目だっけ?」

「…………さっきのゼーベンとかってのが5人目だろ、だから……」

「建国十二騎士のシルヴトレル・ド・ゼーメルですぞ、トール殿……おお、ゼーメルと言えば、ゼーメル要塞は見かけたかね? あの場所は天然の洞窟を利用した歴史深い要塞で──」

 

「……悪ぃ、トール」

「…………そのデザートを。よこせ」

 

 

          *

 

 

「それで洞窟と言えば、聖ダナフェンの落涙は……おっと、聖ダナフェンというのはね──」

「……あっ、ま、待った、ソイツなら知ってるぜ、ココルが教えてくれた! だから……」

 

「おおそうか! そう、ダナフェンという聖人はその昔、邪眼の魔物相手に、目隠しをして倒した伝説がある。そして戦神”ハルオーネ”の信徒として、模範的な勇敢さが讃えられて──」

 

「……だから………あ……はい」

「…………」

 

 

          *

 

 

「そう、氷河と戦争を司る女神にして、我らがイシュガルドの守護神。ハルオーネはその氷属の神力によって星一月の運行を務め……! ああ、星の動きといえば、アドネール占星台を見たと言ったね? あれは通常の時の概念を持たないドラゴン族の周期性が星にあると見出したことを端とする占星術を知らねば、理解できまい。占星術というのは──」

 

「……フロスト。そこの酒瓶くれ……」

「ああ…………空だけど、いるか……?」

「……じゃあ…………置いとけ……」

 

「そして占星術は元をたどると、”シャーレアン”が発祥となる。そう、あのシャーレアンだ! シャーレアンはここより西方で”知の泉湧き出ずる都市”とも言われ、15年前の”大撤収”により、今はその跡地に”イデルシャイア”と名乗る──」

 

 

          *

          *

          *

 

 

 俺は熱弁を振るうコルベール卿の横で、デザートのケーキをゆっくりと薄く削るように食べているヤツに声をかける。

 

「なぁ……おい、ココル」

「ん? なに?」

 

 熱弁はこの間もずっと続いているが、ココルは何でも無いような顔で答えた。

 ちなみにトールは死んだ目で前を見つめていて、ジンは完全に白目を剥いている。

 俺は少し、テーブルの上へ前のめりになりながら言う。

 

「この辺には、冒険者が泊まれるような宿はあるのか?」

「あるよ。ほら、さっき言ってた酒場ってのにいっしょになってる。でもなんで? ウチに泊まればいいじゃん? 遠慮しなくていいよ」

「ああ、いや、わりぃよ……肩も凝っちまうしな……ほら、(ぶん)ってもんもあるしな……」

 

 ココルはぺらぺらに削がれたケーキを口に入れながら、首を傾ける。

 

「なにモゴモゴ言ってんだよ。はっきりしなよ」

「……第1章から、この調子じゃ……ちょっとな」

 

 俺はそう言って、ココルの横に目を移した。

 

「そしてその瞬間!! その男、”ハルドラス”は高々と名乗りをあげ槍を天へと突き出した!! そしてぇ輝ぁく! ド・ラ・ゴ・ン・ダイブ!! ずどぉぉん!! ニーズヘッグはたまらず悲鳴を上げた!! グオオオオオオオンンン!!!」

 

 貴族の娘は耳を真っ赤に染めて、突っ伏した。

 

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