FF14 異聞冒険録   作:こにふぁ

18 / 33
3−1

 

「──ハァッ!? お、王家転覆ゥ? あ、あの、”光の戦士”が?」

 

 俺はその話を聞いて、思わず声を上げた。

 話の主は慌てたように小さな指を口に当てながら、器用に小声で叫ぶ。

 

「しぃ──ッ! ばかっ! 大きい声出すなよ……そういう(うわさ)なんだ」

 

 リンクパールを通じてそういう話を聞いたと、ララフェル族のココルは高い声を抑えて言った。

 このクルザス地方から離れたエオルゼアの中心地では、その話で持ち切りらしい。

 俺たちがいる”忘れられた騎士亭”は、クルザス地方の皇都”イシュガルド”にある大衆酒場のひとつだ。今は昼食を食べに来た客で賑わっている。

 このイシュガルドに着いて、何日かが過ぎていた。この酒場はお気に入りだ。

 

「そいつは。ちょっと信じられねえな……何でそんなことをするってんだ」

 

 低い声でうなるように言ったのは、トールだ。ルガディン族らしく、赤く錆びた剣山のような(ひげ)を触りながら眉をひそめている。

 ココルは両手でジョッキをいじりなら、うつむきがちに口を開く。

 

「なぜかなんて、知らないけど……かなり確かな話らしいんだ。あのウルダハの王女も、もう何日も姿を見せてないって……あ、暗殺されたって噂も出てるのに……」

「……信じられねえな。強ぇ奴が、暗殺だと?」

 

 認めたくない。そう言いたそうにトールは繰り返し答えた。

 

 光の戦士とは、ここエオルゼアでは有名な人物だ。”英雄”だの、”蛮神を征するもの”だの……その噂は、枚挙に(いとま)がない。

 ソイツは()()新人冒険者として名を上げ、最後には国を救った。まさしく英雄譚の主人公だ。

 ……俺とトールは一度だけ、その背を戦場で見かけたことがある。その強さを目の当たりにした。腹立たしいことに、それは大きな借りだ。そう思っている。

 俺は給仕の人に手を上げ、エールを追加で注文した。

 ここクルザスは環境エーテルの影響で、年中雪の降る気温の低い地域だ。だが、だからこそ、暖炉(だんろ)の火で温まった室内で飲むエールは、格段に美味い。それが昼間ならなおさらだ。

 渋い顔を作り黙る二人に、俺は言う。

 

「いや、俺はやると思ってたぜ……そりゃそうだろ? 英雄だなんて祭り上げられてりゃ、そりゃあ次は王座にだって着きたくもなるぜ」

 

 間違いなくそうする。俺だったら、そうする。

 トールは鼻から息を吹き出すと、少し残念そうに呟いた。

 

「……フン。英雄も、人間か……それでココル。捕まったのか? ”光の戦士”は」

「逃げたって。”(あかつき)の血盟”の人たちも、みんな」

 

 暁の血盟もエオルゼアでは知られた名だ。

 俺たちもしばらく所属した、”クリスタルブレイブ”の母体のようなものだった。エオルゼアの救済を目的とした集団で、”蛮神”問題の解決に加え……ア……アシ……なんとかって言う(やから)とも争っているらしい。かなり重い問題のようだった。俺たちがクリスタルブレイブを辞めるのに前後して、それらとの戦いで犠牲者も出たと聞いていた。

 ”英雄”も、続く戦いの中では少しくらいおかしくなっても不思議じゃないさ。

 

「案外、この辺りに逃げてきてるかもな! ハハハッ──おっと」

 

 笑う俺のそばに、小柄な影が立っていた。エプロン姿で、エールの入ったジョッキを持っている。

 

「お待たせしました、エールでっす」

「ああ、ありがとよ。あとアンテロープの串焼きも追加で」

 

 最近見かけるようになったララフェル族の給仕さんだ。かしこまりましたでっすと、頷きながら立ち去った。

 俺は木をくり抜いたジョッキを口に寄せながら、辺りを眺める。

 イシュガルドにはララフェル族があまりいないと、ココルや、ココルの親父のコルベール卿の話で聞いていた。だが全くいないというわけでもなさそうだ。

 酒場の隅ではなんと、黒い角を生やしたアウラ族もいる。エオルゼアではあまり見かけない種族のはずだ。そいつは見るからに凄腕だ。だが拒絶の雰囲気が強く漂わせ、近寄る気にはならない。

 イシュガルドは閉鎖的と言うが、意外に多様性のある国かもしれないな。

 

 アウラ族と言えば……またか。ジンがいない。

 ジンは俺たちの仲間の一人だ。背が高く、東方の格好に刀を差したジンは、ひどく目立つ。フラフラ出歩いて迷子になるならまだマシだ。妙な厄介事を持ってこないといいが……。

 

 頭上でカラカラとドアベルが鳴る音がした。

 屋外へつながる扉が、吹き抜けになったこの建物の上の方にある。壁に沿うように取り付けられた階段から、足音が降りてくる。

 足音で分かる。ジンだ。

 そして……足音で分かる。()()()のようだ。

 

「貴方達がこの迷子の仲間? ……イヤだ、もう飲んでるの? 下賤(げせん)ね」

 

 まだ昼間よ、と悩ましげに言ったのは、もちろんジンではない。ジンは共通語を使えない。

 ジンの背後から現れた見知らぬそいつに、俺は呆気に取られていた。トールとココルもぽかんと口を開けている。

 ジンが気まずそうな顔で、のそのそとトールとココルの間に座った。

 謎の人物は続けて言う。

 

「ドラゴン族を倒した余所者(よそもの)というのは、貴方達……? ……そうは見えないわね」

「……はぁ……どうも。えっと、どちら様で?」

 

 見下した目で言葉を吐き捨てるそいつに、俺はなんとか声を絞り出した。

 迷子を保護しただけじゃないな。どうやら俺たちが目当てで現れたようだ。

 

「貴方がリーダー? ……フン、がっかりね。神殿騎士団のジャンヌよ……覚えなくても良いわ。どんな面をしてるか、見に来ただけだから」

「……あぁ、そうかい」

 

 失礼な奴だ。ま、それぐらいが接しやすいさ。

 神殿騎士団とはイシュガルドの国防、治安維持に関わる軍事組織だ。あの有名な竜騎士の部隊もそこに含まれる。国軍だけあって大きな組織だ。()()()のなってないヤツも、混じってるということか。

 

 それにしても奇っ怪な姿だ。

 ソイツは身体的な特徴はミッドランダー族を示しているが、背も高く鍛えすぎているせいか、そうは見えない。

 やけにバサバサとしたまつ毛だ。唇になにか塗っているのか、白くテカテカとしている。肌は浅黒く雪国に合わない。髪はサイケデリックな色に染めている。

 ジャンヌと名乗ったそいつは、背の高い筋骨隆々の男だった。

 

「大した連中には見えないわね。で、も」

 

 だが、喋り方や化粧はどうだって良い。見せたい角度があるのか知らないが、体をくねくねさせられるのも心底うっとおしいが、まあ、良い。

 

 気に食わないのは、その目つきだ。

 そいつは口元を歪め、不躾な目で俺たちを順繰りに眺めた。感じが悪い、というより、気色が悪い。

 値踏みするような目だ。興味と……憎しみも感じられた。

 俺とトールの間に立ったジャンヌは、馴れ馴れし手付きでトールの肩に触れた。

 

「……アナタは、なかなか見どころがあるわァ」

「………………勘弁してくれ」

 

 トールはぞわぞわと鳥肌を立て、小さな声で呟いた。俺が笑いをこらえて顔を伏せると、ココルが同じようにしていた。

 

「あなた、神殿騎士には興味なぁい? 私の分隊にって、口を聞いてあげるわ。こんな未来のないヤツらと、つるまなくても良くなるわよ」

 

 その言葉にトールは表情をピクリと動かした。

 そして肩に乗った手を払いのけると、目をギロリと動かして言った。

 

「興味ねえな。クソ退屈そうだ。おい……気安く触るんじゃねえ」

「…………ッ! この……」

 

 何の(つくろ)いも(ひね)りもなく、淡々と言い放った。

 手を払われたジャンヌは目に怒りを浮かべ、唇をピクピクと震わせた。トールはその目を黙って睨み返している。

 

 トールは”守り手”として、天性のものを持っている。それは腕力や体格だけじゃない。敵愾心(てきがいしん)を煽るという才だ。

 低いトーンの声や乱暴な仕草、目つき、そして若さからくるだろう無鉄砲なクソ生意気な雰囲気。それに飲まれたものは萎縮し、そうでなければコイツに自分が上だと示すのに、やっきになるだろう。

 つまり何が言いたいかと言うと……俺の仕事がやりやすいってことだ。

 俺が笑みを噛み殺しながら視線を上げると、ジンが呆れたようにこちらを見ていた。目ざといやつだ。

 

「……まあ良いわ。精々大人しくしていなさい。迷惑をかけない虫けらなら、わざわざ潰さないわ。サヨナラ。異端者を追わないとイケナイの……貴方達がそうだったら良かったわ」

 

 そう言ってジャンヌは背を向け、来た方の階段へ歩みだした。

 ……異端者? ああ、コルベール卿の話にあったな。ドラゴン族側に立った人間のことだ。屈服したのか、何か利益でもあるのか……色んな人間がいるものだ。

 ドアの閉まる音を聞き、安心した俺は泡の引いたエールを持ち上げようとして、取り落しそうになった。

 テーブルをバンバンと叩く者がいた。

 

「な、なんだアイツ……むかつく、ムカつく!! フロストッ! 何でお前はなにも言い返さないんだ!」

 

 ココルだ。そういやココルにしては珍しく噛みつかなかったな。親族が貴族のコイツには、立場ってのもあるだろう。

 

「まぁ落ち着けよ。嫌味を言われたぐらい、別に怒るほどのことじゃねぇだろ? それに──」

 

 俺は余裕たっぷりに見える態度を示しながら、

 

「一杯、奢ってくれるみたいだからな」

 

 手に持った革の袋を持ち上げてみせた。

 あいつが()()()()()()それを軽く振ると、チャリチャリと子気味のいい音が鳴った。それなりのお給金を貰っているみたいだな。

 

「…………クッ、ガハハハ! やりやがったな!」

「アイツの財布? スったの? うわー……ひひひ、フロスト! このドロボーめっ!」

 

 ……おっと待てよ。今のは聞き捨てならないな。

 俺はゆっくりと財布の紐をほどきながら、チッチッと舌を鳴らす。

 

「ど・ろ・ぼ・う? 俺を呼ぶなら──ん?」

 

 答え始めたところで、意識を中断された。

 財布から、貨幣ではない()()()としたものがこぼれ落ちた。

 

「何だこりゃ? …………クリスタル?」 

 

 俺はそれを手に取り、目の高さに持ち上げて観察した。

 それは確かにクリスタルだが、普通のクラフトなどに使うものとは、少し違うように見えた。

 針金が固定され、細い鎖が繋がっている。装飾品にしては無骨な作りだし、クリスタルをそのまま装飾品にすることは余り無い。それに……強い()を感じる。

 

 俺がそうしてソレを眺めていると、息を呑むような音が続けて聞こえた。

 

「うわっ!? フ、フロスト、それ!!」

「お、おい。まさか、ソイツは!?」

「………………ッ!!」

 

 トールとココル、珍しいことにジンまでも、目を見開き、息を詰めるようにして俺が手に持ったソレに視線を注いでいる。

 

「な、何だよ。コレ、知ってるのか?」俺はその剣幕に、たじろぎつつも聞いた。

 

 ココルがつばを飲み込むように頭をコクと動かし、口を開いた。

 

「一度見たことがある……間違いない。そ、それは、()()()()()()()()だ……!」

 

 

────────────────────

 

 

「へぇ、これが……()()

 

 もちろん、ソウルクリスタルについては聞いたことはある。冒険者を続けていれば耳にする。だが大したことは知らない。それを持てば技や力を得ることができるってことぐらいだ。

 ソウルクリスタルを持つような者は多くない。それを持つ者は、冒険者が属するギルドと違い、一家相伝や伝統芸能のような形で、少数に受け継がれることがほとんどだ。

 そういう限られた戦闘技能を持つ集団を、門戸を広く開いた”職業組合(ギルド)”と対比して、”(ジョブ)”と呼ぶこともある。

 

「そう、それにそれは……”ナイト”のソウルクリスタルだ」

「”ナイト”……ウルダハのか? 何でアイツが」

 

 ”ナイト”とは、単に騎士(ナイト)という意味だけじゃない、ひとつの剣術集団を指すことがある。砂都ウルダハの銀冑団に伝わる、”守り手”に特化した集団だ。魔術も操り、無敵みたいなふざけた名前の技も有名だ。

 

 ココルはクリスタルから目を動かさずに続けて言う。

 

「ウルダハとイシュガルドも、昔は技術交流もあったしね……その頃のものじゃないかな。それに神殿騎士も、ウルダハの騎士も、技術体系はほとんど一緒だよ」

 

 なるほど。

 ココルの言葉を、俺は意外には思わなかった。

 エーテルを使った技術というのは、非常に洗練されている。どんな場所、どんな相手でも、同じ武器を持っていれば同じような動きになる。それぞれの武器の技術体系は、それほどに広く深く浸透している。

 ナイトの技も発祥がウルダハの銀冑団というだけで、その技術はある程度広まっているのだろう。

 

 俺は改めて、手のひらに収まるそのクリスタルを眺めた。淡く、揺れるように光っている。

 不思議な輝きだ……俺は何か吸い付いてくるような、引き込まれるような感覚を受けた。その感覚に従って、俺はクリスタルに軽くエーテル伝わせた。

 

「う……こ、これは!?」

 

 クリスタルが強く輝き、込めたエーテルが共鳴してある感覚が伝わってきた。

 そのクリスタルの光を見たココルが声を上げた。

 

「お、驚いた! フロスト。お前、ナイトの才能があるんだよ!」

「……な、なるほどな、ソウルクリスタル……これは、技の記憶か……!」

 

 俺に伝わってきたのは、”ナイト”の技術だった。妙な感じだ。使い慣れた道具を持ったときのように、乗り慣れた座席に座ったときのように、すでにその技たちを使い慣れたような感覚だった。

 驚くべき代物だ。本来なら長い時間をかけた修練で得る()()を、一瞬で体得できるようなものだ。そりゃあ、ありがたがられるわけだぜ。

 

「ナ、ナイトだと……? フ、フロスト。ちょっと、俺にも貸してみろよ」

 

 トールは体を前のめりにさせ、手を差し出してくる。

 俺がエーテルを伝えるのを止めるのと同時に、クリスタルの光は消えた。

 

「ああ、ほらよ。ココルはともかく……お前もよく分かったな、トール」

 

 俺はトールにクリスタルを渡しながら、これがソウルクリスタルと見抜いたわけを聞いた。

 トールはクリスタルを受け取ると、そのまま強く握りしめた。

 

「ぐっぬぬぬ……俺が住んでた村に、(まじな)い師の真似事をしてる爺さんが居てな。これとよく似たものを持っていた……」

「ト、トール、次貸してっ! なあフロストっ、どんな感じだった?」

 

 ココルは興奮した様子で俺に詰め寄ってくる。俺がクリスタルから何を感じたかを伝えると、ふんふんと頷いて考え込むようにしている。

 

「……なるほど、コツ……記憶か」

「ああ。何なんだこれは?」

「分からないよ……でも……なぁ、前に、トームストーンの話したの覚えてる?」

 

 トームストーンとは古代帝国アラグの碑石だ。好事家が集めてはいるが、冒険者にとって直接利用できるものではない。ただの交換材料だ。

 

「ぬぅぅうう……情報がどうとか言ってたやつか……っぬぅぅぉおお」

「そう、情報媒体。恐らくだけど、それに近いものなんだと思う。

 もちろん文章や音声としてじゃない。つまり技や術、そういうものがエーテル波長として、記憶されてるんじゃないかな。それと……これは、そのクリスタルによるんだろうけど……”思い”や”気持ち”……つまり、”魂”も」

 

 どんなものにしろ、使い込んだ道具には”クセ”のようなものが残る。そういうものを手にした時に、自然とそれの動かし方が分かることがある。きっとそういうものなのだろう。知らんけど。

 

「ぬぅううぅうう!!」

「魂ね……()()()クリスタルだもんな。大量生産できないか? 高く売れそうじゃねぇか」

「わかんないよ、魂や記憶を結晶化するなんて……よほど長い時間か、アラグ並みの技術がないと」

「ふんッぬぉぉぉぉおおおお!!!」

「うっるせぇーーッ! トール、諦めろ!!」

 

 トールは顔を真っ赤にして(元々赤い肌だが)、額に青筋を立ててクリスタルを握りしてめている。全く光る様子はない。そもそも力を込めればどうこうってモンじゃねぇ。

 

「──クソがあッ!! なんで俺がナイトになれねえ!!」

 

 トールは吐き捨てるように声を上げ、テーブルを叩く。

 ナイトに憧れてたのか? 分からなくもない。ナイトといえば物語にもよく出るいわゆる花形だ。コイツはそういうのに憧れる、ミーハーなところがある。まあ、フォローぐらいしておくか。

 

「ふっふーん。ま、しょうがねぇよ、トール。こういうのはさ、ほら、才・能だからさ……仕方が”ないと”いうもんさ。別にナイト才能が”無いと”言っても、これからじゃねぇか。”なっ、意図”的にどうこうできるもんじゃねぇよ。がんばら”ないと”な!!」

「…………う、うごごぉぉお……コイツコロス……いつか、ブッコロス……」

 

 俺はトールに励ましの言葉を贈りながら考えていた。

 そもそもトールは剣も盾も使ったことない。少なくともこのソウルクリスタルに込められたのは、ナイトの応用としての技術だ。

 俺には剣術士の経歴があり、土台がある。そうではない剣を握ったことがない人間に、剣を使った応用技術の”コツ”を伝えたって分かるはずがない。面白いから言わないけど。

 

 俺とトールのやり取りを、からからと笑いながら見ていたココルが口を開いた。

 

「まぁ、クリスタルがどれぐらい人を選ぶかなんて、知らないけどね。すごいんじゃん、フロスト。これがあれば、お前…………あっ……」

 

 ココルは機嫌の良さそうな顔を一転させ、真っ青な顔で止まった。

 

 …………ひどく、嫌な予感がする。

 

「お、おい、何だよ……か、顔がこわばってるぜ? お、驚かしてるんだろう?」

 

 俺はすでに逃げ出したい気持ちになりながら、なんとか声を絞り出した。 

 

「ははは。あ、あ、あのさ。そのクリスタルって……さっきのジャンヌってやつの、だよね?」

「そ、そりゃあ、そうだろうよ。アイツの財布に入ってたんだから……」

「その、さ。異端者を追ってるって言ってただろ? ほら、いざ戦うって時にさ、その、ソウルクリスタル、持ってなかったらどうなるかな? って、あはは……」

「……はは、そりゃ、おめぇ……」

 

 戦闘中に使えると思っていた技が、突然使えなくなるなんて命取りもいいところだ。

 普通に死ぬ…………あっ。

 

「…………」

「………………」

「………………ああ、ココル。さっき貸せって言ったな。渡すぞ」

「バッ、いらないよ! フロスト、ヘイっ!」

「投げんな!! クソッ……こんなつもりじゃ……! ジン、手ぇ広げてんな!! そういう遊びじゃねぇんだよ!!」

 

 ま、まずい。流石にこんなつもりじゃなかった。

 クソ野郎とは思ったが、死んで欲しいとまでは……信じてくれ、俺はそんなつもりは……!! クソッ、誰も聞かねぇ言い訳ほど無意味なものは無い!!

 

「おい! お、落としもんを届けに行くぞ……! クソッ、どこ行ったアイツ!?」

「興味ないね」

「あ、いってらっしゃ~い」

「ぜぅ」

 

 仲間たちは急に善良な市民面をして姿勢を正している。舐めた野郎たちだ。当然、逃がすはずもない。

 

「いいから来い! もし俺が捕まったらあることねぇこと喋り倒すぞッ!!」

「ホント退屈しねえよ、このクソッタレが!!」

「ドロボー! ドロボー! ドロボーッ!!」

「……ッ…………ッッ!」

「うるさいッ! 全員、黙って付いて来い!!」

 

 当然、一蓮托生だ。仲間ってのはそういうもんだろう。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。