「逃げる? そんな必要ないわ」
ジャンヌは狼煙を踏み消し、こちらを向く。
口元を歪め、余裕たっぷりに言う。
「お前はバラバラに刻んで、雪に
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視界が真っ白だ。
焦点が合わない。自分がどういう体勢かも分からない。白の中に赤い花が咲いた。血だ。クソッ……俺の血だ!
俺は顔を上げて、鼻だか口だかから流れる血をぬぐった。
突いた膝を雪から離して、立ち上がる。意識が飛んでいた。どれくらい、などと考えている暇もない。
ジャンヌが、こちらに向かって来る。
「ふふふふ。たいそう格好の良いことを言っておいて、その程度ォ?」
「……ち、ちょっと待てよ……こんなはずじゃあ」
「言い訳は、みっともないわよ──ッラァ!!」
ジャンヌが剣を斜めに振り下ろしてくる。
俺はなんとか盾で受け止め、横に流そうとする。だが、
「──ッグ!?」流しきれず、体が弾かれる。
「ふふふ、フハハハハッ!!」
ジャンヌは哄笑しながら、続けて剣を振り続けてくる。
クソッタレ……見誤った!
装備の違いがある。
俺が身につけているのは、守り手も攻め手も共有できるような、動きやすさ重視の汎用性のある鎧だ。小手すら着けていない。
目の前のこいつは、全身をしっかりとした金属の鎧で守っている。
だが、そんなことは問題じゃない。
俺は……ちったぁ名の売れた、歴戦の冒険者だ! 死にかけとはいえ、”ドラゴン”だってぶっ殺した!
こんな……ちっぽけなニンゲンひとり、どうってことはないはずだった。
魔物との戦いに慣れた冒険者が、人間の武芸者に苦戦することはよくあることだ。技の威力よりも、立ち回りが優先される。
だが、そんなことは、問題じゃない!
──対人の戦闘は、俺の得意分野だ!
ジャンヌが横薙ぎに剣を振るう。
出し惜しみをしてはいられない。俺はエーテルを身にまとい、頑丈さを高める戦技、”ランパート”を展開する。
強い衝撃が、盾を通して体に伝わってくる。ランパートですら衝撃は殺しきれず、盾の裏側が顔面にぶち当たり、また血が飛び散る。
見誤ったのはこれだ。
人間ではありえない、異常なまでの腕力。
「ガハッ……て、てめぇは……いったい」
「ハ──ハハハハッ!」
乱暴に剣をぶつけてくる。常軌を逸した力だが、単調な攻撃だ。
クソッタレめ、なめやがって。
少し驚かされたが、人間の形をした、魔物だと思えばどうということはない!
やりようはいくらでもあるんだよ!
俺は体を前後に揺らし、大ぶりの剣を
まずは、いったん、突き放すッ!
「うっとおしい──は、な、れ、やがれェ!!」
「──ッ!?」
俺は剣にエーテルを通し、思いっきり”フルスイング”で殴りつけた。致命打を与えるためではない。あえて剣を受け止めさせ、遠ざける。対人戦闘でのみ見られる技のひとつだ。
予想外に重い一撃を受けただろうジャンヌは、驚きの表情を浮かべていた。そのまま、数メートル後ろに、勢いよく吹っ飛ばすことに成功した。
「……チッ。やるじゃない……ム?」
崖の手前で踏みとどまったジャンヌが、悪態をつく。そして自らの目に手をやった。
……クッククク。ツイてるぜ。
まぐれだが
俺はこれから、ひたすら血の入った死角から攻めれば良い。
もはや勝ったようなものだな。
「ギャーッハッハッハ!! 油断したな、狙い通りだぜ! さあ命乞いをしてみろ! 地に頭をつけて、止血をすることを許してやる!!」
俺はそう挑発しながら、ジャンヌとの距離をはかる。
当然、降参などするはずがない。逆上して突っ込んでくるのを、期待し、警戒する。傷を塞ごうとすれば、それも
だが、ジャンヌは、予想通りには動かなかった。
「ふっ、うふふふ。貴方……名前を、訊いてなかったわね。教えなさい」
ジャンヌは傷から手をはなし、血が流れるままにしている。
嫌な予感だ。
「…………フロストだ」
答える義理などないが、突撃する気にはなれなかった。ただ状況を先延ばしにするために、名乗った。
「そう……フロストというのね……フロスト、フロスト、フロスト。可愛いわね、貴方。無謀で、
……クソッタレ、それは、没収されたほうに、賭けていたんだ。
牢屋で、兜の騎士は言っていた。
誰と誰が、
ジャンヌは剣をだらりと下げたまま、エーテルを展開する。
「”
ジャンヌがそう唱えると、エーテルが光となってジャンヌの頭上から注がれる。
顔に残る血を、ジャンヌがぬぐう。ぬぐったあとには、傷ひとつない額があった。
”ナイト”のソウルクリスタル。ジャンヌはその戦技を使う、ナイトだ。
クソッタレめ。それは、大問題だ。
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「ふふ、ふははッ!!
「…………い、嫌味なヤツだな……ゲホッ」
俺はかろうじて立っていた。だが、ボロボロだ。お釣りも出やしない。
すでに、”ランパート”も”センチネル”も、”リプライザル”も”アームレングス”も使ってしまった。こういう戦技は、エーテルの残量に関係なく、立て続けに何度も使えるものではない。
俺はエーテル量に自信はあるが、使える戦技の数や、その出力には限りがある。
ソウルクリスタルを持つ者との間に、ここまで差があるとは思っていなかった。戦技の質と数が違いすぎる。
加えて得体の知れない腕力が、その差を押し広げている。
「フハハハハッ! 下種の人間ごときがァ!! 図に乗るからよォ!」
ジャンヌは勝ちを確信し、ゲラゲラと笑っている。
これは、死ぬかもな。
シャレにならない。思考が鈍る。
血を流しすぎた。めまいがする。
まるで、エーテル酔いに似た感覚だ。
『…………! ……ャンッ!!』
「…………?」聞き慣れない声がする。
いつの間にか……さっきまでとは違う場所にいた。
目の前に立っていたジャンヌの姿もない。
雪原には変わりはない。隆起した大地が見える。少なくとも、西部高地ではありそうだ。その景色には、ときおりノイズのようなものが走る。
そうか。これは、現実じゃない。
「……これは、”過去視”、か?」
俺の秘密の、”過去視の力”だ。役に立った試しがないので、そろそろ存在を忘れていた。
『なにをしているんだ! ジャン!! 死にたいのか!?』
俺は声の方に頭を向けた。
声を上げていたのは、背の高い耳の尖った、エレゼン族の男だ。白い鎧姿。見たこともない顔だ。
だが、ソイツが首から下げているものに、見覚えがあった。細い鎖に、特徴的な意匠の金属の細工が、クリスタルを固定していた。
こいつ、恐らく──
『……待ってくれ、スコット……なんてことだ。あんな……』
男はもうひとりいた。スコットと呼ばれたエレゼンに肩を掴まれ、揺すられながら棒立ちしている。
そうだ。スコットだ。酒場で見たソウルクリスタルの持ち主。あれと同じものを身に着けている。
かたわらの男は……髪は短く、染めていない。化粧もしていない。だが、間違いない。ジャンヌだ。
2人の男は、同じ方向を見ている。どちらも鎧はボロボロだ。
ジャンヌの欠けた鎧の隙間からは、スコットと揃いの意匠のクリスタルを、首に下げているのが見えた。
何を見ている? これは、いつの景色だろう。
いや、待て。そんなことよりも、”今”俺はどうなってる? まさか、敵の前で無防備に突っ立てるってのか!?
俺は焦りを覚えながら、男たちの見ている方に目をやる。
息が止まる。
そこにいたのは、巨大な龍だった。
碧みがかった黒い鱗。頭からは4本の節くれだった凶悪な角を生やしている。家屋ですら覆いつくせそうな巨大な翼を持っている。
だが、一番ヤバいのは、その目だ。琥珀色に輝くその目からは、異常なまでの憎悪を感じた。”邪竜”という言葉が頭に浮かぶ。
それなりに遠くにいるはずだ。だが、そんな風には思えなかった。
龍は、俺を見ていた。いや、そんなはずはない。俺はここにはいないのだから。
ソイツはただ、こちらを見ているだけだ。それだけで十分逃げ出したくなる。
『スコット。見ろ……なんて……
ジャンヌの幻影が、そうつぶやいたのが聞こえた。
次の瞬間、風景がまた変わっていた。
暗い。風が動いていない。どうやら部屋の中だ。ろうそくの灯りがちらちらと、2つの影を揺らしている。
片方はジャンヌだ。もう片方は、顔が影になって見えない。
『──本当に、良いな』影になった方が言った。
『ああ。何でもしよう。スパイでも、密輸でも。早く、それを……』
『…………分かった。さあ、飲むがいい。この”■■■”を』
ジャンヌは飾りの付いた金属の杯を受け取り……いや、待てって。
そんな場合じゃ、ねぇんだよッ!
終われッ、覚めるんだ!!
「あらあら──何をぼぉってしてるのよ!!」
「うわッ──!?」
意識が雪上に戻ると、目の前に剣が迫っていた。
俺は横っ飛びし、転がって距離をとる。顔の穴という穴に雪が入ってくるが、構ってはいられない。
「しぶといわね……もう、飽きたわ。終わりにしましょう」
ジャンヌはうんざりした顔で、こちらに歩いてくる。かなりマズい状況だ。
何か、何か手はないのか。
「……り、”竜の血”っては、どんな味だ?」
俺は、幻影の中で聞いた言葉を口にした。
ジャンヌが足を止めた。
「…………あら……知ってて立ち向かってきてたの? ……でも、良くは知らなかったみたいね。そう、これが、竜の血の力」
ジャンヌは手を大仰に広げて言う。
知ったことではない。そのまま、気分良く喋ってろよ。
俺は呼吸を整え、体力を回復させる。
「素晴らしい”力”よ……でも、全然たりないの。もっと、もっと飲まないと! そのためならなんだってするわ!」
竜の血……まさか、本当に”血液”を飲んでるわけじゃあるまい。おそらく身体を強化する薬だろう。依存性のある何かが、混ぜられてるに違いない。
竜の血を語るジャンヌの目は、普通じゃない。
「イシュガルドの人間も、異端者どもも、どうだっていいの。馬鹿みたいに争っていればいいわ。それを利用して、もっと竜の血をもらうの。そして──」
恍惚とした表情で、ジャンヌは言う。
「
ずっと最初から、見誤っていた。コイツの奇抜な格好は、竜を模したものだったのだろう。
人が竜に? こいつは、正気じゃない。
「だから…………テメェみてぇなァア!!」
「…………ッ! グッ!?」
ジャンヌがいきなり突っ込んで来て、剣を振り下ろす。
なんとか受けることはできた。だが──
「薄汚い! ドブネズミの! 分際でェェ!!」
続けて何度も、剣を打ち付けてくる……マズい、盾が、持たない!
「ドラゴン族を殺しただなんて! 許せないわよねェ!? オラァアッ!!」
強烈な一撃で、俺の盾はバキバキに砕け散った。
もう完全に限界だ。俺は足に力を込めて、この場から逃げようと試みた。
だが、判断がおそすぎた。
ジャンヌが自らの盾で、俺をぶん殴った。
視界がぐわんぐわんと揺れ、俺は膝を突いた。
「はぁッはぁ……ふふ。それなりに、楽しめたわ」
ジャンヌは俺の胸ぐらを掴み、そのまま軽々と俺を吊るし上げる。
「死になさい」
まいった。もう打つ手なしだ。
終わりってのはあっけない。
俺は目をつむり、その瞬間を待った。
その瞬間は、なかなか訪れない。
「……なによ、あれ」
目を開けると、ジャンヌは明後日の方向を見て、眉をひそめている。
俺がそっちに目を向けると、少し遠くの空を、小型の帆船がゆらゆらと飛んでいるのが見えた。
あれは……
俺は、手に力が戻ってくるのを感じた。俺にできることは、まだある。
「ゲホッ……ハハ、俺の仲間だぜ……運が、悪かったなァ。おい、降参しろよ」
マナカッターは、大きく帆を膨らましている。こうしてみると、風脈に乗っているというのがよく分かる。
真っ直ぐには進めていない。大きな渦に乗るように、円を描いてこちらに向かってくる。
「……なぜ逃げもしないと思ったら、こんなことを期待してたの? ふん、あんな小さいのじゃ、乗れて2,3人でしょう」
ジャンヌはそうあざ笑い、俺を雪上に放り投げた。俺は無様に雪に突っ込む。もう受け身を取ることもできない。
それでも、俺はすぐに立ち上がった。
限界だと思っていたが、人間ってのは現金なものだ。希望をチラつかせられると、もうひと絞りできる。
俺は自分の口角が、勝手に持ち上がるのが分かった。
「……何よ、その顔。助かるとでも思ってるの? お前を殺すのなんて、10秒もあれば十分よ」
ジャンヌがこちらに体を向け、言う。
10秒…………10秒だってよ。
本気だろう。
力の差を考えれば、間違っちゃいないさ。
「ふふッ……ヒヒヒッ」
「…………何が、おかしいの」
俺は笑う。
口の端が切れてズキズキと痛むが、関係ない、笑え。
「ヒヒ、ハッハハ……ぎゃーっはっはっは!!」
「…………イカれたの? とにかく、不愉快だわ」
ジャンヌは顔を歪め、一歩踏み出した。そして、
「もう、死になさ──……」
すぐに、その歩みを止めた。
ジャンヌは目を見開き、麻痺でもしたように、その場でブルブルと震える。
「……こ、この……き、貴様、まさか……」
へぇ、分かるんだな。
ジャンヌの目を見て、もう一度にっこり笑ってみせる。
俺は、左手に持った
それには細い鎖がついている。鎖から、金属の細工で固定されたものがぶら下がっている。
その
「こ、この……ッ! 腐れ
「ぎゃーっはははッ!! おいおい、今のは聞き捨てならねぇぜェ!!」
ドブネズミなんて論外だ。
俺は。
「俺を呼ぶなら──”
「下種がァアッ!!
ジャンヌが雪を散らし、勢いよくこちらに突っ込んで来る。
俺はクリスタルを握り、残ったエーテルをありったけ込める。
すぐ前に迫ったジャンヌが目を剥き、吼える。
「ば、馬鹿な……貴様なんぞに! その技が、使えるものかァッ!!」
ジャンヌは剣を振りかぶり、真っ直ぐ俺に打ち下ろす。
俺は恐怖を押し殺し、腹に力を込める。
俺は、クリスタル持った手を上げる。応えろ、クリスタルよ。
振り下ろされた剣が、鈍い音を立てた。
剣の刃は、俺の手の甲に触れて、止まっていた。
ジャンヌの顔がよく見える。俺はソイツの、驚愕と憎悪の混ざった表情を眺めながら、大きく息を吸う。
「”
俺の体を、凝集されたエーテルの力場が覆っている。
”
「クソッタレがァァアア!! そんな技が、いつまでも保つわけねぇだろうがァア!!」
ジャンヌは激高したまま、滅茶苦茶に剣を振り回し、下がろうとする。
俺は防御もなにも放り捨て、ひたすら急所を狙う。逃しはしない。
必然的に、足を止めて打ち合う形になる。
コイツは、10秒あれば俺を殺せると言った。
「10秒もあれば、十分なんだよッ! ソイツが
俺の考えに気付いたのか、ジャンヌは顔を上に向けようとする。俺はそれを妨害する。視線を自分に向けさせるのが、”守り手”の仕事だ。
風脈に沿って走るマナカッターが、ちょうど俺たちの頭上を通り過ぎた。
ジャンヌは闇雲に、頭上へ剣を振り上げようとする。
俺は両手で自分の剣を握り、ジャンヌの剣を、全力を込めて押さえつけた。
影がひとつ落ちてくる。
「……ぁああアア!! 下種が!! クソ下種共がァア──ッ!!」
「シィィイイィィァァァアア────ッ!!!」
空気を裂くような気合を上げながら、マナカッターから落下してきたジンが、刀を一閃させる。
ほとんど真上から落ちてきたジンは、袈裟斬りに刀を叩きつけた。
ジャンヌの右腕が千切れ飛び。そのまま、ほとんど真っ二つにする勢いで、胴体を刀が通り過ぎる。
ジャンヌの体は、半回転して雪に叩きつけられ、そのまま沈黙した。
雪上に着地したジンは、そのまま膝を付いてうつむく。
「ジャンヌ……確かに俺は、無謀だった。滑稽だったな」
そもそも、一人で戦おうとしたのが、大間違いだった。なんで、”攻め手”のジンを連れてきたっていうんだ。
俺は、基本ってものを忘れていた。
「囲んで叩くのが、”
────────────────────
「うわ!? だ、大丈夫なの、それ?」
崖のそばに飛空艇を着地させ、降りてきたルッカは引き気味の顔で言った。
無理もない。念入りにいじめられたからな。ひどい面をしているだろう。
俺はルッカの方へと歩み寄りながら、尋ねる。
「たいしたこと、ねぇ……ポ……ポーション、あるなら……」
最後まで言い切れずに、雪の上にぶっ倒れた。
ジンは少し離れたところでしゃがみ込んでいる。ゲロゲロ言いながら、昼食のメニューがなんだったかを確かめていた。
かなり無理をさせたようだ。出しちまった分ぐらいは、おごってやるか。
そばに立ったルッカが俺に、ポーションバシャバシャとかける。
けっこう質の良いポーションのようだ。手作りだろうか。錬金術もかじっていそうだ。
「助かるぜ……なぁ、”竜の血”ってのはないのか? あったら試してみてぇな」
ふと、思いついたことを言った。
薬ひとつで、あれだけ強くなれるなら使ってみたくなる。依存性はあるのかもしれないが、なぁに、一度ぐらい平気さ。
「そんなの持ってるわけないでしょ! 少しでも変異したら、市民ですら死刑なのに!」
軽口で言ったつもりだったが、ルッカは真剣な声を上げた。
「…………待て、なんだって? 強化の薬じゃねぇのか? 変異だと……」
「竜の血は、
そう言ってルッカは、飛空艇の方に走っていった。
竜の血は、”血液”そのものだった? アイツの、竜になるという言葉は、妄想じゃなかったってのか。
…………それは、マズイッ!
俺は痛むのも構わず、体を起こし、叫ぶ。
「ジンッッ!! ソイツにとどめを刺せ!!」
ジンは、すぐにジャンヌが倒れていた方に構えた。だが──
「……ッ!?」
そこには血の跡しかなかった。
動けるわけがない、生きてるわけがない傷だったはずだ。
腕力だけではなかった。あいつは、ドラゴン族の生命力、そこまで獲得していたのか。
「ふふフフ。はーッはッはハハ!! ド、ドブネズミがァ、このワタシに勝ったつもりカ!?」
かすれた叫び声の方へ顔を向けると、血まみれのジャンヌが、離れたところで仁王立ちしていた。
なにか角張った物を持っている。細い縄が伸びて、その先がバチバチと火花が散って……
って、ば、爆弾じゃねぇか!? なんでそんなもんが! 異端者への手土産かッ!?
遅れて、硝煙のニオイが鼻に届く。見れば爆弾は、ジャンヌの足元にいくつも転がっている。
「に、人間風情ガ、私ヲ──ワ、ワ、ワタシは、美しキ竜になる!!!」
爆弾の威力だとか、考えている時間は無かった。
俺は力を振り絞って、雪を蹴る。
ポーションの瓶を抱え、棒立ちしているド素人に向かって、走った。
「え、えっ……キャアッ!?」
「舌、噛むなよ」
ルッカを抱えて、崖を飛んだ。
直後、頭上で轟音が鳴り、強烈な光が降っている雪を照らした。
崖はそれなりに高い。
まったく、今日はよく落ちる日だな。
雪ときどき、