FF14 異聞冒険録   作:こにふぁ

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 崖から落下したあと、俺たちは近くで見つけた浅い洞窟に身を置いた。

 日は沈んで、洞窟の外は雪が吹きすさんでいる。

 

 湿った枝を集め、ウィンドシャードで乾かしてからファイアシャードで火を付けた。クリスタルは冒険者だけでなく、生活においても必需品だ。

 (まき)の量は夜を越すには心もとないが、火の暖かさと洞窟を照らす光は、気持ちを落ち着かせた。

 

 枝を手にとって、焚き火に放り込む。動くとあちこち痛むが、死ぬほどではない。崖の下は厚く雪が積もっていたのは幸いだった。

 俺が痛みで顔をしかめたのを見て、隣に座っているルッカが口を開いた。

 

「痛むの? 大丈夫?」

「どうってこない。冒険者は頑丈なんだ」

「……ごめんなさい。私のせいで……えっと、フロスト、くん?」

 

 そういえばまともに名乗っていなかったな。

 

「フロスト、でいい」

「ありがとう……フロスト」

 

 怪我はともかく、剣を落としてしまったのが痛い。

 この辺りは雪の中でも、大きな魔物がうろうろしている。視界が悪い中、ばったりあったら目も当てられない。

 今は動かないほうがいい。それに、

 

「きっとジンが来る。アイツはあれぐらいじゃ死にはしない」

「うん、分かった。信頼してるんだね」

 

 俺は肩をすくめてみせる。

 これは言えないが、正直のところ心配している。崖を迂回するだけだが……迷子になってる可能性はある。

 

「…………」

「………………」

 

 黙っていると、風の音と薪がパチパチと弾ける音が、大きく耳に響いた。嫌な音ではない。

 

「…………そうだ、悪い。地図、取り返し損ねた」

「ううん、いいの。中身は頭に入ってるから。嫌な人に盗られなくて良かった」

「……そうか。どんな宝なんだ? 安心しろ、横取ったりなんかしねぇよ」

 

 ルッカはくすくすと笑い、それからポツポツと話し始めた。

 

「詳しくは分からない。そこにあるのは何かを開く、(かぎ)のようなものだって」

 

 

────────────────────

 

 

 ルッカは物心が付いたころから、両親に連れられて旅をしていたそうだ。

 旅の目的は、先祖から伝わる、地図に記されたものを見つけるためだったらしい。

 

「お父さんはね、夜ごと地図を広げては、私に話をしてくれた。今考えると、そこまで本気じゃなかったかもしれない。私が旅を辛く思わないように……そのためだったのかも」

 

 旅は楽ではなかったが、両親は優秀なクラフターだったため、飢えたりもしなかったらしい。旅の生活は、良い思い出だそうだ。

 クルザス地方に来たのは第六星歴が終わる直前で、両親は霊災によって亡くしたと、ルッカは言った。

 

「一人になって、はじめは生きるのに必死だった。最近になってようやく、時間を使えるようになったの。お父さんと、お母さんの夢に……ううん、違う。これはもう、私の夢でもある」

 

 それからルッカは地図の解読に時間をかけたという。地図は普通のものではなく、海図のようにも見えたが、星の軌道を記す星図のようにも見えたらしい。

 両親は海に浮かぶ島だと考え、海沿いを点々と巡ったらしいが、ルッカは別の仮設を立てた。

 

「ここから北にある山脈には、水属性と風属性の影響で、大雲海が広がっているの……その空には巨大な”島々”が浮いている。

 ──未開の土地、”アバラシア雲海”。私は、地図がその地を示していると思ってる!」

 

 

────────────────────

 

 

 ルッカは言い切ると、少し興奮した様子で身を揺らしている。

 

 宙に浮かぶ島々……にわかには信じがたい話だ。だが、海都があるラノシアにも、大地が浮き上がっている遺跡はあった。エーテルの起こす事象に、ありえないことなんてないかもしれない。

 俺はつばを飲んだ。

 宝の地図なんてのは、眉唾なものばかりだ。だがこれは、期待をさせてくれる。

 

「……そうか、それであの”マナカッター”か」

 

 俺はルッカの組み立てた小型の飛空艇のことを思い出した。ただの趣味で作るにしては、あまりにも仰々しい。

 

「……最初は、そのつもりだったんだけどね」

 

 ルッカはそう言って、がっくりと肩を落とした。

 

「マナカッターは風属性を受けて飛べるけれど、やっぱり推進力としてのエーテルは必要なの。だけど……私、絶望的にエーテル量少なくて……」

「あぁー……それは、仕方ねぇさ……」

 

 体内のエーテル量というのは、先天的なものだ。クリスタルや青鱗水を使うことも考えたかもしれないが、今度は船の大型化が必要だ。

 そもそも、魔物にあったら終わりだろう。冒険者が単独で魔物と戦えるのも、エーテルあってのものだ。

 ルッカはうつむいたまま、続ける。

 

「アバラシア雲海にある拠点も航路も、貴族が管理してる。とてもじゃないけど、協力なんて、許可なんてもらえない。もう開拓が進むのを待つしかないかなって……()()()()()()

 

 俺には、ルッカがいわんとしてることが分かっていた。

 今コイツの前にいるのは、危険も、規則を破るのもいとわない腕利きの()()()だ。

 

 ルッカは真っ直ぐに俺の目を見て、言った。

 

「お願い……! 私を、アバラシア雲海に連れて行って! 宝なんてあげる。ただ、この目で見届けたいの」

 

 その目には不安が浮かんでいるが、それ以上に強い意思を感じた。

 

 ……宝はいらないだって? そんなこと言って良いのか?

 

「俺たちは、遠慮なんてしないぜ」

 

「……それじゃあ!」

「ああ、その依頼──このフロストとその仲間が、確かに引き受けた!!」

 

「──ッ! ほんとうに、ありがとう……!」

 

 そう言ってルッカは目に涙を浮かべ、俺の胸に飛び込んでくるかと思ったが、とくにそういうことはなかった。俺は軽く広げた腕を、そっともどした。

 ルッカはただ自分の膝を抱くようにして、喜びを噛み締めているのか、かすかに震えている。

 

 微笑みを浮かべていたルッカは、ふと心配そうに言った。

 

「でも……いいの? 魔物に、蛮族だっているよ。きみの仲間もやるって言うかは……」

「ハッ、問題ない。やるに決まってるさ」

 

 空に浮かぶ島に、未開の地。危険な魔物や蛮族の果てに、お宝が待っている。

 ドマから伝わる卓上遊戯でいう”満貫”だ。あいつら、よだれを垂らして喜ぶに違いない。

 

「いいね……仲間、なんだね」

「……バカで大酒食らいの、無鉄砲な連中さ……まぁ、退屈はしないな」

 

 ルッカは軽く吹き出すと、抱えた膝に頭を乗せてこちらを向く。

 

「ねぇ、どんな冒険をしてきたのか、教えてよ」

「ああ、いいぜ。ラノシアに行ったことはあるか? これはある浸食洞であったことだが……」

 

 

────────────────────

 

 

「そんなこんなで、俺たちは新たな冒険を求め、この地にやってきたってわけさ」

「すごい……! ”光の戦士”のほかに、こんな冒険者がいたなんて!」

「ま、まぁな。あいつらも、そこそこやるよな」

 

 ルッカは楽しそうに俺の話を聞いた。ウルダハを牛耳る極悪商人の陰謀を打ち破った話や、20mはある帝国の魔導兵器との戦いに目を輝かせた。

 

 …………まぁ、多少は、おおげさに話し過ぎたかもしれない。

 だが、楽しそうにしているから、良しとしよう。別に自分のことを、知ってほしいわけじゃない。笑ってほしいだけだ。

 

 どこまで本気にしたのかはわからないが、ルッカは憧れるように言う。

 

「ふふ。冒険者かぁ……私も、もう少しエーテルがあればなぁ……」

「……なろうと思えば、なれるさ。ただ、そんなに良いものじゃない。所詮は根無し草だ」

 

 すこし、良いように話しすぎたかもしれない。いつまで、こんな風に生きられるというのか。いつ、どんな死に方をするのだろうか。誰にも分からないし、何の保証もない。 

 

「うん……それでも、きみたちみたいな、仲間がいるなら……」

「…………」

「……ごめん。いいの」

 

 

 沈黙がしばらく続いた。

 再びパチパチと、薪の燃える音が響く。

 火が揺れるたびに、洞窟の岩影が、呼吸をするように動いた。

 話をしているうちに、俺とルッカは、肩が触れ合うような近さにあった。

 俺は焚き火で照らされている、ルッカの横顔をそっと眺めた。

 

 

 ……ちょっとイイ雰囲気だな。

 

 これは、ハァ、ハァ、し、しっぽを触らせて貰えるんじゃないだろうか。

 ……よし、お願いしてみよう。10秒カウントしたら……いや、18秒にしておこう。心の準備がいる。

 ……15……

 ……10……

 5

 4

 3

 2

 1…………!!

 

 

「ざぁ、がぁぃるぜぅあ」

 

 

「ウボァアアアアアア──ッ!!」

「わッ!? な、なに!? ──あ、ジンくん! 良かった無事だったんだね!」

 

 洞窟の入り口には、のっぽの角付き男が突っ立ていた。肩に乗った雪を払い、いつもどおり柔和に微笑んでいる。

 

 俺は立ち上がってジンに近づく。

 見れば服が少し焦げているが、大きな怪我をした様子はない。

 見慣れない、布でくるまれた筒のような物を抱えている。だが、なにを拾ったのかはいったん置いておこう。

 それよりも言わないといけないことがある。 

 

 俺はジンの肩に手を乗せて、見上げる。

 

「ジン、無事で良かった。心配したぜ。ところで、ちょっと1時間くらい外をぶらぶらしててくれないか? な?」

 

 言葉は分からないかもしれないが、俺の真剣さは伝わるはずだ……!

 しかしジンは、眉をひそめて首をかしげる。

 

「ふぁふぁ……? わっざ、うぼぁー?」

「そ、そんなこと言わずに、ほら30分、いや、15分で良い! なっ!」

「ゔぇっしゅっ」

 

 ジンはくしゃみをすると、ひょいと俺の横をすり抜けて焚き火に近寄る。

 そのまましゃがみ込んで、手のひらを火に向けてあぶり始めた。

 俺はその場に崩れ落ちた。俺の……俺のしっぽタイムが……

 

「ざぁごぉるらい?」

「えっと? ……うん、怪我はないよ。フロストがかばってくれたから」

 

 背後でなにかを話してるのが耳に入る。

 俺の脳は正しく情報を処理するが、なにも理解できなかった。

 涙でゆがむ地面だけを眺めていた。

 

 

「ねえってば! まだ出ないの? 早く戻ったほうがいいと思うんだけど」

 

 いつの間にか近くにきていたルッカが、俺の肩を揺すった。

 

「あ、ああ。うん、そうだな……」

 

 俺は地面に尻をつけたまま答える。

 

 仲間をイシュガルドに置いてきたままだ。

 事情はどうあれ脱走した形だ。時間が立つほど置いてきた仲間の立場は悪くなる。

 

 とにかく、俺たちが神殿騎士団に利する行為をしたのだと、そう思わせる必要がある。 

 本当なら、ジャンヌを生け捕りにして持って帰るのがベストだった。だが、そうはならなかった。死体も爆散してしまっただろうし。

 

「なにしてるの、ほら立って。ソウルクリスタル、持ってるんでしょ? あれを回収したって言えば、きっと許してくれるじゃないかな」

 

 俺の悩みを察したのか、ルッカがそう言った。

 こいつには今日の戦いのてんまつは話していた。

 

 そうね。ソウルクリスタルね。あれはたいそう貴重なものだ。嫌な言い方をすれば、脱走犯の命よりもずっと重いだろう。交渉材料にはもってこいだ。

 

「フロスト、どうしたの……? どこか痛む?」

「…………?」 

 

 ルッカと、のそのそと近寄ってきたジンは、並んで俺を見下ろしていた。

 立ち上がろうとしない俺に、疑問と心配の入り混じった表情を向けている。

 

 少し迷ったが、正直に言うことにしよう。

 なに、大丈夫さ。

 こいつらはきっと、一緒に考えてくれる。俺に殴りかかったりもしないだろう。

 

 俺はしゃがみ込んだまま、2人を見上げた。

 

 

 

「ソウルクリスタル……どっか、落としちゃった」

 

 

 

 俺は舌を出して、可愛く笑ってみせた。

 

「………………」

「………………」

 

 ルッカは洞窟の外を見た。

 雪は振り続けている。

 ルッカは俺に向き直ると、もう一度、外に目を向ける。

 雪はしんしんと振り続けている。ジンの足跡すら、もう消え始めていた。

 

 ジンは洞窟の天井を仰ぎ見ている。

 呆れているのか、笑っているのか。その表情はうかがいしれない。

 

 しばらく固まっていた後に、ルッカがはっとした顔で言った。

 

「…………わ、分かった! こっそり自分のものにするつもりでしょ? だ、ダメだよそんなのっ!」

 

 俺は感心した。

 ほんの少しの付き合いだが、だいぶ俺のことが分かってきたようだ。

 俺は舌を引っ込めて、普通に笑ってみせる。

 

「ハハハ…………マジっす」

「…………マジっすか」

 

 大マジっす。

 どこで落としたか分からないが、おそらく崖から落ちたときだろう。

 あのとき、ソウルクリスタルは手に握っていただけだ。うっかり手から離してしまっても、仕方がない。

 クリスタルが無いと気付いたのは、結構たってからだった。

 

「ど、どうするの……? 悪者はやっつけました、でも証拠はありません。じゃあ、納得してくれないよね……」

「ね」

「……ね、じゃないってば」

「はい……うん?」

 

 俺とルッカがぼそぼそと話していると、ジンが手をひらひらさせている。

 そのまま小脇に抱えていた布の包みを開く。

 

「なぁに、それ……ひぃ!? な、う、腕!?」

 

 包みから現れたのは、血の気が抜けて白くなった()()()だ。

 

「ジャンヌのか!? でかしたぞ、ジン!!」

 

 俺はジンに飛びついて礼を述べるが、ジンは迷惑そうな顔で揺らされている。

 

 これは戦闘の際に、ジンが切り飛ばした腕だ。

 おあつらえ向きに、神殿騎士団の紋章が入った指輪が、割れた篭手の隙間から覗いている。

 ジャンヌの腕だという証拠にはなるだろう。

 

 これでなんとか、悪漢を追った正義の冒険者、という構図はできあがる。

 俺はザザッと地面を鳴らして、洞窟の口を向き直る。

 

「よしッ、帰るぞお前ら! 凱旋だ! ジン、前を頼む。俺、武器ないんだ」

 

 何故かしらけた目で見られているが、気にしないでおこう。

 

 

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