FF14 異聞冒険録   作:こにふぁ

23 / 33
5−1

 

「エーテルを2つ使い、デモンズウォールを召喚! ”守護者”の効果により、クァールとグゥーブーの守備力は1アップ……からの、クァール、グゥーブー2体でアタック!」

 

 小柄のララフェル族の女の声が、酒場に響いた。ララフェル族はテーブルに乗り出して、そこに置かれたカードを直角に傾ける。テーブルには他にもいくつものカードが並んでいる。

 テーブルの向かいに座っているのはミコッテ族の女だ。2人とも真剣な目でカードを見つめていた。

 ミコッテ族の方が笑みを浮かべる。

 

「それを……待ってたよ! ”暁の血盟”の効果発動! ”暁の血盟:双剣士”を生贄に……”暁の血盟:神秘的な幻術士”を召喚!」

 

 そのミコッテは手に持ったカードの中から一枚をテーブルにパシッと置き、勝ち誇るように言った。()しくも、カードに描かれているのも、ミコッテ族だった。

 そのカードを見たララフェルが、驚いた声を上げる。

 

「なに!? あ、相打ち狙い!?」

「フッ、違うよ。”暁の血盟:双剣士”の効果によって生まれたトークン、”ナッツイーター”が、私のライフを”1”に固定する!」

「し、しまった──ッ!」

「食らいなさい──”エンシェント・テレポ”!」

「ぐわあああああ!!

 ……あーあ、負けちゃったぁ」

「勝ったぁ! でも……やっぱり、1ターンに貯まるエーテルが1って、少なすぎないかな?」

 

 2人は大騒ぎをしたと思えば、あっさりとした顔で手に持ったカードを置くと和気あいあいと話し始めた。

 

「うーん。弱いカードも活躍させたいしなー。出したカードもエーテルに還元できるようにすれば……」

「それなら、属性も分けないとゲーム性が……」

 

 

 もう我慢ならなかった。

 

 

「やめろやめろッ!! なんだそりゃ!?

 ”トリプルトライアド”舐めてんのか!!」

 

 俺は謎のカードゲームを捏造する2人が座るテーブルに近寄り、問答無用でカードをかき集めた。

 

「あ! なにすんだよ、フロスト!」

「ちょっと! 貸してくれるって言ったでしょ!」

 

 口々に不満を叫ぶのを無視して、俺はカードを束ねて揃える。

 

「見せてって言うから貸したんだ。遊ぶんなら返しやがれ」

 

 俺は2人を見下ろして言う。当然、こいつらは赤の他人ってわけじゃない。

 ララフェル族の方は仲間のココル、ミコッテ族はいま依頼を受けている相手のルッカだ。

 

 ここは皇都イシュガルドにある、”忘れられた騎士亭”という酒場だ。

 

 隣のテーブルには他の仲間、ルガディン族のトールと、アウラ族のジンが座っている。2人とも大柄な男だ。今はのんきな顔でホットワインの入った杯を傾けているが、依頼の話をしたときは随分とはしゃいでいた。

 

 ルッカから受けた依頼は、大陸の北に広がるアバラシア山脈、そこに浮かぶ”雲海”の島々を冒険するものだ。人族の手の届かない、危険な未開の地だ。

 だが、依頼を受けてからしばらくたってなお、俺たちは皇都イシュガルドにいた。

 アバラシア雲海は遠い。ルッカが用意していた船は、前回の戦いで随分と傷んでいた。長旅に合わせた改造も必要だった。

 俺たちは修理に必要な素材集めや、物資を買うための資金集めにいそしんでいた。

 

 とにかく、仲間と依頼人が打ち解けるのは良いことだ。だが、俺のカードをおもちゃにするのは話が違う。

 

 俺がカードを取り上げると、ルッカが口を尖らせて言う。

 

「遊ぶならって……()()()()()()でしょ?」

「トリプルトライアドは遊びじゃねぇんだよ。欲しけりゃ自分で集めな。あぁ暁の幻術士ちゃん、かわいいぃい、ぺろぺろぺろ」

「うっわ……」

「ひぃっ……」

 

 ココルは半眼で顔をゆがめ、ルッカは毛をざわざわと逆立てた。

 ルッカとは、一瞬イイ雰囲気になった気がするが、とんとそんな気配はなくなった。解せぬ。

 

 俺が2人のテーブルを後にしながらカードに付いたよだれを拭っていると、酒瓶が並ぶカウンターに立つ男に手招きをされた。

 カウンターに近寄り、俺を呼んだエレゼン族の男に軽い調子で声をかける。

 

「よぉ、ジブリオンさん。俺にもワイン入れてくれよ」

 

 ジブリオンさんはこの酒場の店主だ。

 よそ者も迎えてくれる気のいい酒場だ。俺たちは大体この酒場を拠点にしていた。

 ジブリオンさんは温めたワインを陶器の器に入れて、スパイスをたっぷり混ぜる。

 そして湯気の上がるワインを俺に突き出しながら、皮肉がかった口調で言う。

 

「元気なのは何よりだがな、悪目立ちはおすすめしないぜ……最近は、良くない雰囲気が流れてる」

 

 挽きたてのスパイスの香りが実に良い。俺は器に口を寄せながら答える。

 

「分かってる。日に日に不景気そうな面が増えてるな……なんでだ?」

「……当代の”蒼の竜騎士”が皇都を出てるって話は聞いたか? 噂が出て暫く経つが……蒼の竜騎士が姿を見せないせいで、真実味が強まってきたってモンだ」

「ああ……その噂ね」

 

 蒼の竜騎士とは、ここイシュガルドの”英雄”的な存在だ。曰く、たったひとりでドラゴン族と渡り合うほどの力を持つらしい。その呼び名はイシュガルドが竜と戦い始めた、1000年前から続く称号で、この地では特別な信頼を得ているようだ。

 言わば国防の要だ。

 その蒼の竜騎士が、しばらく前に、何人かを伴ってイシュガルドを旅立ったという噂が流れていた。ドラゴン族の首魁と言われる、”邪竜”ニーズヘッグを暗殺しに行ったと、まことしやかに囁かれていた。

 

 ジブリオンさんは軽く息を吐いて、肩をすくめる。

 

「景気が良いヤツらがいるのは、店としちゃ助かるがな。いらないやっかみに気をつけな」

「実際はカツカツだけどな……」と、俺は返した。

 

 俺の仲間はみな、宵越しを考えない連中だ。金など毎夜すっからかんさ。

 

 俺はそのままカウンターに居直り、ジブリオンさんと世間話を続けていた。

 ふとカラカラと頭上で扉が鈴を鳴らし、続けて硬いブーツの音が階段をきしませた。店は吹き抜けになっていて、上に入り口がある。

 

「いらっしゃいでっす!」

 

 鈴の音に答えて給仕さんが声を上げた。とことこと俺の足元を駆けて、階段を方へ向かう。

 このララフェル族の給仕さん、俺たちがイシュガルドに流れてきたころに雇われていたのだが、すっかり板に付いた様子だ。

 少しのんびりしすぎている、時間の経過を感じてそんなことを思った。 

 

 

「あわわ、またでっすか!?」

 

 そんな慌てた声がしたと思ったら、また足元をタタタっと給仕さんが駆け抜けた。

 俺は走り去った給仕さんの後ろ姿を見届け、そのまま首を階段の方に向ける。

 

「……げぇ、またかよ」

 

 階段を降りたところに立った鎧を着た一団に、俺は顔をしかめてみせる。

 

「貴様がよそ者の、冒険者という輩か。フン、あまり我がもの顔で出歩くものではない」

 

 一団の先頭に立つ、見るからに頭の固そうなエレゼン族の男がそう言った。

 

 その鎧は、”神殿騎士団”のものだった。この国の軍人といえる集団だ。

 こういう格式高い連中とは相性が悪い。俺は内心うんざりしながら答える。

 

「別に悪いことはしてない……はずだぜ。何だよ、ジャンヌの件はお咎めなしだろ?」

 

 俺たちは、少し前にジャンヌという神殿騎士と揉め事を起こした。

 その神殿騎士は異端者のスパイで、その陰謀に巻き込まれたのだ。

 ちょっと牢屋を抜け出したりしたが、神殿騎士団の不手際という形だった。ココルの父親の根回しもあり、不問となっていた。その時、不測の事態で失われたソウルクリスタルについては、ネチネチと追求されたけどな。

 

 騎士は一瞬苦々しげな表情をしたが、すぐに真面目づらをして言う。

 

「……その件は関係ない。()()で来た」

「あぁ?」

「分かったら、大人しくしていろ」

 

 そう言い放って、騎士は酒場の中央に足を踏み出し、大声を上げた。

 

「酔客ども、良く聞け! ここに雲霧街で工房を営む、ルカ・マカラッカという女はいるかッ? ()()()()()より送られた呼出状、ふてぶてしくもその刻限に現れないその者を、勾引(こういん)しに参ったッ!!」

 

 酒場は静まり返り、客たちは口を開けたまま騎士を眺め、そのまま一斉にひとりの女に視線を向けた。

 

 

「…………えっ、わ、私?」

 

 

 沈黙を破ったのは、先ほどまでカードゲームに興じていた依頼人、ルッカだった。

 

 ルカ・マカラッカとは、ルッカの本名だ。本来その名は、ミコッテ族独自の音で発せられるらしい。そのためこいつは、呼びやすさ重視でルッカという通称を使っていた。

 客たちの視線と、その動揺した声を認め、騎士は体ごとルッカに向けて口を開く。

 

「その方が被告人だな。書面が届いていたはずだ。着いてきてもらおう。断ればその瞬間を持って、その方は告訴を全面的に承認することになり、やはり、拘束させてもらう」

「えっ、ごめんなさ……しょ、書面? ひ、被告人!?」

 

 一方的にしゃべる騎士の言葉に、ルッカは頭頂部から伸びる耳をぐりぐりと回しながら、混乱していた。

 騎士は仏頂面のまま、ルッカの方に踏み出そうとする。

 

「待てよ」

 

 俺はその足先に立ちはだかった。

 

()()()は何にも知らねぇって面だぜ? 理由(ワケ)ぐらい言ってみろ」

 

 騎士は俺を見下ろし、表情を崩さずに答える。

 

「……その必要は無い。そのための()()だ」

「てめぇの()は、そんなつまんねぇことを言うために付いてんのか」

「公務の邪魔立てをするというなら、腕に物を言わせてみせよう」

「…………うぐ」

 

 上手いこと返されてしまった。

 

「なに言い負かされてんだ。てめえは!!」

「う、うるせぇ!!」

 

 俺は座ったまま野次(やじ)を飛ばしてくるトールに怒鳴り返す。

 

 騎士の目を睨みつけながら、心のなかで舌打ちをした。

 被告人、公務、裁判だと……クソッタレめ。これは、()が悪いぞ。

 

 書面が届いてたかどうかは分からない。

 俺たちはしょっちゅう素材集めに出歩いていた上に、工房はがらくたでゴミの山だ。そのへんに封筒があっても気づきはしない。

 そして、訴えの心当たりだが……これは十分にある。このルッカというヤツは大変な物作りマニアで、武器やら爆弾やら……明らかに危険物を工房に抱えていた。

 ジャンヌの奴も、ルッカには異端者疑惑がかかっていると言っていたのだ。これは対処しておくべき問題だった。

 

 俺の内心の冷や汗を見破ってか、騎士は余裕を崩さずに言う。

 

「そこの女は曲がりなりにもイシュガルドの民だ。裁判に応じる義務がある。よそ者に出る幕はない。だが……」

 

 騎士は一度ことばを区切り、一瞬ためらった様子を見せた。

 

「……神は、有象無象の区別をしない。言い分は、戦神”ハルオーネ”の御前で示せ」

「…………」

 

 なにが言いたいかは分からない。

 だが、ここまでのやりとりから察するに、この騎士はそれなり公平な人間らしい。

 どちらにせよ、選択肢は無かった。

 

「……分かった。俺たちも同行させてもらう」

 

 こうして、俺たちは戦の女神の下に真実を明らかにするため、神聖裁判所に足を踏み入れることになった。

 ただ真実ってのが、俺たちにとって分が悪い。

 

 

────────────────────

 

 

 建物の内部は華美ではないが、調和の取れた作りで、薄暗くも荘厳な雰囲気だった。天井は高く、奥には盾と槍を持つ女神、ハルオーネの像が燭台で照らされている。

 この神聖裁判所というところは、その名の通り、信仰を表現していた。

 

 ハルオーネの足元には裁判官が並んで座っている。見るからに豪華な椅子だ。中央に鎮座してるのが裁判長で、テーブルに両肘を付いて座るその男は、疲れた顔をしたエレゼン族の老人だった。

 裁判官たちの前には、一段低いところに広いスペースがあり、被告と原告が左右に別れている。被告側にはルッカがひとり、原告側には数人の貴族らしい姿の男たちが立っていた。

 

「其の方の工房に、届け出がなされていない武具が多くあることは確認されている」

「そ、それは商品として扱っているものではありません。あくまで個人的な研究のためで……異端者に売ったり、渡したりなんてしてません!」

「確かに、その事実は認められていない。次に、研究と言及したことについて、その理由を……」

 

 今は裁判官たちが、次々にルッカへ詰問している最中だ。そうしながら裁判官たちは双方の言い分を聞き、その証拠を求める。徹底的に認識の()()を削る作業とも言える。

 良くは知らないが、裁判とはそういうものなのだろう。

 

「フン……裁判ってのは初めて見るが。見世物みてえだな」

「あぁ。くく……見ろよ、トール。ルッカのやつ緊張してるぜ」

 

 辺りを見回しながらつぶやいたトールに、俺は目の前の()に寄りかかりながら答えた。

 俺と仲間たちは傍聴人席……要は見物席だ……に4人並んで立っていた。

 傍聴人席は入り口に近く、法廷を見下ろす位置にあった。傍聴人席は人でごった返している。俺たちの他に、貴族や、普通の市民の姿もあった。

 もともと裁判は公開しているものらしい。そのおかげで、裁判所にはすんなり入れた。裁判の公平を示すという点では、たしかにいい方法だ。

 

「きょろきょろするなよ……恥ずかしいなぁ」

 

 小声でそう言ったのはココルだ。

 ココルは帽子を引き下げて顔を隠し、居心地が悪そうにしている。

 

「なにコソコソしてんだよ?」

「しーっ! 原告のヤツラ、お父様を目の敵にしてるやつだ」

「原告……この訴えを持ってきた奴らか」

 

 法廷の原告側、俺たちから見て左手の方を盗み見る。意地の悪そうな貴族が、顔を寄せてささやきあっていた。

 ココルの父親は貴族だが、そのわりには破天荒な人柄だ。封建的な貴族社会のイシュガルドでは、敵も多いようだ。

 

 ……そういうことか。クソッ。

 このタイミングで、ルッカの()()が追求された理由が分かった。

 

「そう。あのクソッタレの権威主義の????ども……これはお父様への嫌がらせだ! ルッカは関係ないだろッ!」

 

 ココルは、ひどく汚い言葉を使いながら、悔しがった。

 俺はぎりぎりと歯ぎしりを鳴らすココルの帽子を、手で押さえつけながら言う。

 

「貴族ってやつはしょうがねぇな……だが、異端者なんて証拠はない。問題ないだろ?」

 

 ルッカは異端者ではない。それは確かだ。

 

 そもそも俺とトールが、のほほんと裁判を眺めていたのは、想像よりずっと()()なものだったからだ。訴えのもとになった事柄の、ひとつひとつを数えて証明を求めている。

 てっきりニセの証拠を出してくるとも思ったが、その様子はなく拍子抜けだった。

 

 つまり、このままいけば証拠不十分で終わる。そのはずだ。

 

 だが、ココルは渋い顔をしたまま口を開く。

 

「異端者じゃないっていう証拠も、ないんだ」

「……フン。そんなもん。出来るわけねえだろう」

 

 答えたのはトールだ。

 トールの言うとおりだと、俺は思った。

 ()()()()が存在することを証明するのは、簡単だ。その()()()()を見つければ良い。

 あるものが、存在しないことを証明するにはどうすればいい? 見つからなかったでは、証明にはならない。()()()()()()()()のだから。

 

「そんなんで罪に問われてたら、訴えたもん勝ちじゃねぇか」

 

 俺の言葉に、ココルは裁判を見つめながら、歯の隙間から絞り出すように答えた。

 

「そうだ。だから、()()が裁くんじゃない」

「ハァ? ……じゃあ誰が」

「”ハルオーネ”様だ」

 

 カンッ。と法廷に乾いた音が響いた。

 どうやら裁判長が、手に持った槌で机を叩いた音のようだ。裁判長は、厳かな雰囲気を出して言う。

 

「原告及び被告。双方の主張、それを証明するに足らない。また、依然として双方の主張は、互いに承服しかねるものなった」

 

 裁判長は、続けて、高らかに宣言する。

 

「これより、この審判は神のみぞ知るものとする! よって、ハルオーネの御下において

 ──()()()()を執り行う!」

 

 

────────────────────

 

 

「決闘!? バカ言え! ルッカのエーテルは3歳児並だぞ!」

 

 3歳児は言い過ぎたかな。

 だがルッカはエーテル量に優れていないのは確かだ。

 もちろん、エーテルの総量がそのまま人の強さではない。それ以前に、ルッカは武器は作れても、使えるわけではないのだ。

 

「フロスト、静かに! いま追い出されたら終わりなんだってば!!」

 

 ココルが小声で叫ぶ。周囲の人間が迷惑そうな顔で俺たちを見ていた。

 俺の焦りをよそに、裁判長はゆっくりと口を開く。

 

「被告人よ。決闘を行うのは其の方か。戦う術を持たぬ者には、代理闘士の選出も認められる」

 

 代理闘士……そういうことか!

 ルッカはぎこちなく頭を振り、俺たちの方を見た。俺は、すぐにうなずいてみせた。

 唇をわななかせながら、ルッカは宣言した。

 

「だだだ、代理闘士を求めます!」

「よろしい。被告人を擁護し、決闘場に立つ者は名乗り出よ!」

 

 裁判長の声とほとんど同時に、俺は柵に飛び乗り、そのまま立ち上がった。

 

「……その猫を殺すは好奇心か、はたまた権力の犬か……よそ者、田舎のドブネズミの俺だが、窮猫のために鼠が牙をむくもまた一興!

  ──冒険者は義によらねぇ! 興に乗って助太刀いたす! 俺が! 代理闘士だ!!」

 

 そう叫んだ俺を、裁判官や傍聴席のやつらは、あ然とした顔で眺めた。

 後ろで、不満そうに鼻を鳴らす音がした。

 

「なんだと? おい。ずりいぞ」

「そう言うな、トール。ちょうど、”新しい武器”の慣らしが、したかったところだ」

 

 俺はルッカに作ってもらった、二振りの短剣に手を触れながら答えた。

 

 反りの少ない、直線的な片刃の短剣だ。畳み込むように鍛えられた剣身は、濡れるように輝き、その刃は紙が触れれば裂けるほどに研がれている。

 ジンが持つ東方の剣、”刀”によく似ていた。いわば、”短刀”といったところだろう。

 

 俺はやっぱり、双剣が性に合っている。

 武器の慣らしの他に、もうひとつ理由があった。

 ここのところ、どうにも敵にボロボロにされがちだった。ここらで良いとこを見せておかないと、リーダーとしての沽券に関わる。

 

 俺は柵から飛び降り、原告と被告の間、広く取られた場所に立った。なるほど、よく見ればこの空間は、決闘場の形をしている。

 裁判長は俺を胡散臭そうに見つめ、それから言った。

 

「汝、居所、及び姓名を述べよ」

「住所と……名前だァ?」

 

 俺は困惑した。

 そもそも、住所不定だ。それに指名手配されているのだから、名前など名乗りたくない。

 うーん……適当な名前を名乗るか? だが、たまたま同姓同名のヤツがいたら、迷惑がかかってしまう。俺にも良心はある。

 

「早く述べよ。名乗りを上げぬ者は、ハルオーネの御前には出せぬ」

「……ゾラン。俺の名前は、ゾラン・オルフェンズ。住所は砂都ウルダハ、パールレーンだ」

 

 俺はとりあえず、迷惑をかけても良い、旧知の悪徳商人の名前を名乗ることにした。

 仲間の冷たい視線を背中で感じたが、気にしない。

 

「……異邦人、ゾラン。汝、被告に代わり、身を以て証を立てると誓うか」

「ああ、誓う誓う……あ、ひとついいか?」

 

 俺の言葉に、裁判長は眉をひそめた。無視して続ける。

 

「決闘裁判だぁ? おめでたい連中だぜ。”勝ったものが正義”だなんて言うなら、ドラゴン族に千年勝てないお前らに、正義なんてねぇな」

「…………」

 

 ざわざわと、抑えるような声で法廷が騒賑やいだ。

 ちょっと挑発し過ぎたかな。

 貴族も市民も、俺に悪態を付いているのが聞こえていた。

 

「無駄な供述はやめよ……ルカ・マカラッカに対する原告、前へ」

 

 裁判長がそう言うと、フルプレートの鎧を身に付けた男が中央に出てきた。

 剣を履き、盾を持ったヒューラン族が、俺を睨みつける。

 いかにも使命感に溢れた、騎士然とした男だ。

 立ち姿を見るに、そこそこは出来るようだ。だが、竜の血なんてインチキさえなければ、なんの問題はない。

 

 ……挑発も効いている。頭に血が上ったヤツほどいなしやすいものはない。

 

 俺が首を回しながらヒューラン族を眺めていると、裁判長の声がする。

 

「申し立てられていた別の訴えについて、合わせて裁判を行うものとする」

「…………うん?」

 

 なんて言った? 別の訴え? 合わせて??

 俺の混乱をよそに、裁判長は続けて言う。

 

「冒険者を名乗る異邦人に、ソウルクリスタルを窃盗されたという訴えについて。原告は決闘裁判を求めるか」

「…………は? いや、それは──」

「求めます! 我々は神殿騎士団にソウルクリスタルを供出した家のもの! そこの冒険者なる不逞のものが! 騒ぎに乗じてクリスタルをせしめたと確信しております!」

 

 ズカズカと、声のでかいエレゼン族が中央に出てきた。片刃の斧を背負った男だ。

 そのまま、先に立っていた騎士の横に並ぶ。

 ふたり並んで、俺を睨む。2対1なんて聞いてない。

 

「お、おい! そりゃ済んだ話じゃ……」

 

 裁判長は、俺の言葉を無視して続けて言う。

 

「法廷侮辱罪。もうひとり追加」

「ふざけんなッ!!」

 

 俺の叫びは当然のように無視された。

 カツカツと靴音を鳴らして、奥から長柄の槍を持った男が現れた。こいつもエレゼン族だ。

 

 3人目の男が、俺の前に並ぶ。

 くそったれ、そんなことは想定してない!

 

 あまりの横暴さに仲間たちも怒声を上げる。

 

「なんでテメエは! 余計なことを言うんだ!」

「このおバカ! なにしてんだぁ!! ルッカの命がかかってんだぞ!」

「えっ、私、し、死刑なの!? ちょっと! 真面目にお願い!!」

 

 俺に向かってだ。

 

「俺悪くねぇだろ! これ俺悪くねぇだろ!!」

 

 クソッタレ!! これは仕組まれたことだ! 最初から、俺たちも標的にされていたんだ。

 だが、それよりも……しくじった!! 

 裁判は公平なもののはずだ。こんな不平等は、ふつう許されない。

 だが、傍聴人たちもざまあみろというように笑っている。

 挑発が裏目に出た。おおかた、連戦でもさせるつもりだったのだろう。法廷の雰囲気が俺の敵に回ったことで、予定を変えたに違いない。

 

 3人の男が、一斉に武器を構える。

 裁判長はあくまで無表情で、言った。

 

「始めよ。これより、全てはハルオーネの裁量とする」

 

 慌てて、俺は裁判長に手を上げた。

 

「な、なぁ、1つ聞き忘れたんだが──」

 

 裁判長は眉をひそめて、俺を見る。

 

 

 裁判長の動きと同時に、俺は下肢のエーテルを爆発的に膨張させた。

 

 石の床が足裏を弾き、俺の体は前方に吹っ飛ぶ。

 3人の真ん中に立つ、声のでかい斧を持った男。男は俺につられて裁判官に顔を向けていた。

 その顔面に、思い切り、膝を叩き込んだ。

 

 男の双眸は、俺の膝が顎のあたりに食い込む同時に、バラバラに動いてから、白目をむいた。

 

 男が床に吸い込まれるように倒れるのと同時に、俺は元の位置まで飛び下がった。

 1テンポ遅れて、俺がいた空間に騎士風の男の剣が通り過ぎた。

 間に合わないと分かってるのに、ごまかすような振り方で、俺は笑ってしまいそうになった。

 

 法廷は、しんと静まり返っていた。

 俺は、言葉の続きを言う。

 

「──うっかり殺しちまっても……罪には数えねぇんだろうな? これ以上"追加"されるのは、ごめんだぜ」

 

 数瞬のあと、静寂は破れた。

 法廷にふさわしくない、罵声で溢れかえった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。