「エーテルを2つ使い、デモンズウォールを召喚! ”守護者”の効果により、クァールとグゥーブーの守備力は1アップ……からの、クァール、グゥーブー2体でアタック!」
小柄のララフェル族の女の声が、酒場に響いた。ララフェル族はテーブルに乗り出して、そこに置かれたカードを直角に傾ける。テーブルには他にもいくつものカードが並んでいる。
テーブルの向かいに座っているのはミコッテ族の女だ。2人とも真剣な目でカードを見つめていた。
ミコッテ族の方が笑みを浮かべる。
「それを……待ってたよ! ”暁の血盟”の効果発動! ”暁の血盟:双剣士”を生贄に……”暁の血盟:神秘的な幻術士”を召喚!」
そのミコッテは手に持ったカードの中から一枚をテーブルにパシッと置き、勝ち誇るように言った。
そのカードを見たララフェルが、驚いた声を上げる。
「なに!? あ、相打ち狙い!?」
「フッ、違うよ。”暁の血盟:双剣士”の効果によって生まれたトークン、”ナッツイーター”が、私のライフを”1”に固定する!」
「し、しまった──ッ!」
「食らいなさい──”エンシェント・テレポ”!」
「ぐわあああああ!!
……あーあ、負けちゃったぁ」
「勝ったぁ! でも……やっぱり、1ターンに貯まるエーテルが1って、少なすぎないかな?」
2人は大騒ぎをしたと思えば、あっさりとした顔で手に持ったカードを置くと和気あいあいと話し始めた。
「うーん。弱いカードも活躍させたいしなー。出したカードもエーテルに還元できるようにすれば……」
「それなら、属性も分けないとゲーム性が……」
もう我慢ならなかった。
「やめろやめろッ!! なんだそりゃ!?
”トリプルトライアド”舐めてんのか!!」
俺は謎のカードゲームを捏造する2人が座るテーブルに近寄り、問答無用でカードをかき集めた。
「あ! なにすんだよ、フロスト!」
「ちょっと! 貸してくれるって言ったでしょ!」
口々に不満を叫ぶのを無視して、俺はカードを束ねて揃える。
「見せてって言うから貸したんだ。遊ぶんなら返しやがれ」
俺は2人を見下ろして言う。当然、こいつらは赤の他人ってわけじゃない。
ララフェル族の方は仲間のココル、ミコッテ族はいま依頼を受けている相手のルッカだ。
ここは皇都イシュガルドにある、”忘れられた騎士亭”という酒場だ。
隣のテーブルには他の仲間、ルガディン族のトールと、アウラ族のジンが座っている。2人とも大柄な男だ。今はのんきな顔でホットワインの入った杯を傾けているが、依頼の話をしたときは随分とはしゃいでいた。
ルッカから受けた依頼は、大陸の北に広がるアバラシア山脈、そこに浮かぶ”雲海”の島々を冒険するものだ。人族の手の届かない、危険な未開の地だ。
だが、依頼を受けてからしばらくたってなお、俺たちは皇都イシュガルドにいた。
アバラシア雲海は遠い。ルッカが用意していた船は、前回の戦いで随分と傷んでいた。長旅に合わせた改造も必要だった。
俺たちは修理に必要な素材集めや、物資を買うための資金集めにいそしんでいた。
とにかく、仲間と依頼人が打ち解けるのは良いことだ。だが、俺のカードをおもちゃにするのは話が違う。
俺がカードを取り上げると、ルッカが口を尖らせて言う。
「遊ぶならって……
「トリプルトライアドは遊びじゃねぇんだよ。欲しけりゃ自分で集めな。あぁ暁の幻術士ちゃん、かわいいぃい、ぺろぺろぺろ」
「うっわ……」
「ひぃっ……」
ココルは半眼で顔をゆがめ、ルッカは毛をざわざわと逆立てた。
ルッカとは、一瞬イイ雰囲気になった気がするが、とんとそんな気配はなくなった。解せぬ。
俺が2人のテーブルを後にしながらカードに付いたよだれを拭っていると、酒瓶が並ぶカウンターに立つ男に手招きをされた。
カウンターに近寄り、俺を呼んだエレゼン族の男に軽い調子で声をかける。
「よぉ、ジブリオンさん。俺にもワイン入れてくれよ」
ジブリオンさんはこの酒場の店主だ。
よそ者も迎えてくれる気のいい酒場だ。俺たちは大体この酒場を拠点にしていた。
ジブリオンさんは温めたワインを陶器の器に入れて、スパイスをたっぷり混ぜる。
そして湯気の上がるワインを俺に突き出しながら、皮肉がかった口調で言う。
「元気なのは何よりだがな、悪目立ちはおすすめしないぜ……最近は、良くない雰囲気が流れてる」
挽きたてのスパイスの香りが実に良い。俺は器に口を寄せながら答える。
「分かってる。日に日に不景気そうな面が増えてるな……なんでだ?」
「……当代の”蒼の竜騎士”が皇都を出てるって話は聞いたか? 噂が出て暫く経つが……蒼の竜騎士が姿を見せないせいで、真実味が強まってきたってモンだ」
「ああ……その噂ね」
蒼の竜騎士とは、ここイシュガルドの”英雄”的な存在だ。曰く、たったひとりでドラゴン族と渡り合うほどの力を持つらしい。その呼び名はイシュガルドが竜と戦い始めた、1000年前から続く称号で、この地では特別な信頼を得ているようだ。
言わば国防の要だ。
その蒼の竜騎士が、しばらく前に、何人かを伴ってイシュガルドを旅立ったという噂が流れていた。ドラゴン族の首魁と言われる、”邪竜”ニーズヘッグを暗殺しに行ったと、まことしやかに囁かれていた。
ジブリオンさんは軽く息を吐いて、肩をすくめる。
「景気が良いヤツらがいるのは、店としちゃ助かるがな。いらないやっかみに気をつけな」
「実際はカツカツだけどな……」と、俺は返した。
俺の仲間はみな、宵越しを考えない連中だ。金など毎夜すっからかんさ。
俺はそのままカウンターに居直り、ジブリオンさんと世間話を続けていた。
ふとカラカラと頭上で扉が鈴を鳴らし、続けて硬いブーツの音が階段をきしませた。店は吹き抜けになっていて、上に入り口がある。
「いらっしゃいでっす!」
鈴の音に答えて給仕さんが声を上げた。とことこと俺の足元を駆けて、階段を方へ向かう。
このララフェル族の給仕さん、俺たちがイシュガルドに流れてきたころに雇われていたのだが、すっかり板に付いた様子だ。
少しのんびりしすぎている、時間の経過を感じてそんなことを思った。
「あわわ、またでっすか!?」
そんな慌てた声がしたと思ったら、また足元をタタタっと給仕さんが駆け抜けた。
俺は走り去った給仕さんの後ろ姿を見届け、そのまま首を階段の方に向ける。
「……げぇ、またかよ」
階段を降りたところに立った鎧を着た一団に、俺は顔をしかめてみせる。
「貴様がよそ者の、冒険者という輩か。フン、あまり我がもの顔で出歩くものではない」
一団の先頭に立つ、見るからに頭の固そうなエレゼン族の男がそう言った。
その鎧は、”神殿騎士団”のものだった。この国の軍人といえる集団だ。
こういう格式高い連中とは相性が悪い。俺は内心うんざりしながら答える。
「別に悪いことはしてない……はずだぜ。何だよ、ジャンヌの件はお咎めなしだろ?」
俺たちは、少し前にジャンヌという神殿騎士と揉め事を起こした。
その神殿騎士は異端者のスパイで、その陰謀に巻き込まれたのだ。
ちょっと牢屋を抜け出したりしたが、神殿騎士団の不手際という形だった。ココルの父親の根回しもあり、不問となっていた。その時、不測の事態で失われたソウルクリスタルについては、ネチネチと追求されたけどな。
騎士は一瞬苦々しげな表情をしたが、すぐに真面目づらをして言う。
「……その件は関係ない。
「あぁ?」
「分かったら、大人しくしていろ」
そう言い放って、騎士は酒場の中央に足を踏み出し、大声を上げた。
「酔客ども、良く聞け! ここに雲霧街で工房を営む、ルカ・マカラッカという女はいるかッ?
酒場は静まり返り、客たちは口を開けたまま騎士を眺め、そのまま一斉にひとりの女に視線を向けた。
「…………えっ、わ、私?」
沈黙を破ったのは、先ほどまでカードゲームに興じていた依頼人、ルッカだった。
ルカ・マカラッカとは、ルッカの本名だ。本来その名は、ミコッテ族独自の音で発せられるらしい。そのためこいつは、呼びやすさ重視でルッカという通称を使っていた。
客たちの視線と、その動揺した声を認め、騎士は体ごとルッカに向けて口を開く。
「その方が被告人だな。書面が届いていたはずだ。着いてきてもらおう。断ればその瞬間を持って、その方は告訴を全面的に承認することになり、やはり、拘束させてもらう」
「えっ、ごめんなさ……しょ、書面? ひ、被告人!?」
一方的にしゃべる騎士の言葉に、ルッカは頭頂部から伸びる耳をぐりぐりと回しながら、混乱していた。
騎士は仏頂面のまま、ルッカの方に踏み出そうとする。
「待てよ」
俺はその足先に立ちはだかった。
「
騎士は俺を見下ろし、表情を崩さずに答える。
「……その必要は無い。そのための
「てめぇの
「公務の邪魔立てをするというなら、腕に物を言わせてみせよう」
「…………うぐ」
上手いこと返されてしまった。
「なに言い負かされてんだ。てめえは!!」
「う、うるせぇ!!」
俺は座ったまま
騎士の目を睨みつけながら、心のなかで舌打ちをした。
被告人、公務、裁判だと……クソッタレめ。これは、
書面が届いてたかどうかは分からない。
俺たちはしょっちゅう素材集めに出歩いていた上に、工房はがらくたでゴミの山だ。そのへんに封筒があっても気づきはしない。
そして、訴えの心当たりだが……これは十分にある。このルッカというヤツは大変な物作りマニアで、武器やら爆弾やら……明らかに危険物を工房に抱えていた。
ジャンヌの奴も、ルッカには異端者疑惑がかかっていると言っていたのだ。これは対処しておくべき問題だった。
俺の内心の冷や汗を見破ってか、騎士は余裕を崩さずに言う。
「そこの女は曲がりなりにもイシュガルドの民だ。裁判に応じる義務がある。よそ者に出る幕はない。だが……」
騎士は一度ことばを区切り、一瞬ためらった様子を見せた。
「……神は、有象無象の区別をしない。言い分は、戦神”ハルオーネ”の御前で示せ」
「…………」
なにが言いたいかは分からない。
だが、ここまでのやりとりから察するに、この騎士はそれなり公平な人間らしい。
どちらにせよ、選択肢は無かった。
「……分かった。俺たちも同行させてもらう」
こうして、俺たちは戦の女神の下に真実を明らかにするため、神聖裁判所に足を踏み入れることになった。
ただ真実ってのが、俺たちにとって分が悪い。
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建物の内部は華美ではないが、調和の取れた作りで、薄暗くも荘厳な雰囲気だった。天井は高く、奥には盾と槍を持つ女神、ハルオーネの像が燭台で照らされている。
この神聖裁判所というところは、その名の通り、信仰を表現していた。
ハルオーネの足元には裁判官が並んで座っている。見るからに豪華な椅子だ。中央に鎮座してるのが裁判長で、テーブルに両肘を付いて座るその男は、疲れた顔をしたエレゼン族の老人だった。
裁判官たちの前には、一段低いところに広いスペースがあり、被告と原告が左右に別れている。被告側にはルッカがひとり、原告側には数人の貴族らしい姿の男たちが立っていた。
「其の方の工房に、届け出がなされていない武具が多くあることは確認されている」
「そ、それは商品として扱っているものではありません。あくまで個人的な研究のためで……異端者に売ったり、渡したりなんてしてません!」
「確かに、その事実は認められていない。次に、研究と言及したことについて、その理由を……」
今は裁判官たちが、次々にルッカへ詰問している最中だ。そうしながら裁判官たちは双方の言い分を聞き、その証拠を求める。徹底的に認識の
良くは知らないが、裁判とはそういうものなのだろう。
「フン……裁判ってのは初めて見るが。見世物みてえだな」
「あぁ。くく……見ろよ、トール。ルッカのやつ緊張してるぜ」
辺りを見回しながらつぶやいたトールに、俺は目の前の
俺と仲間たちは傍聴人席……要は見物席だ……に4人並んで立っていた。
傍聴人席は入り口に近く、法廷を見下ろす位置にあった。傍聴人席は人でごった返している。俺たちの他に、貴族や、普通の市民の姿もあった。
もともと裁判は公開しているものらしい。そのおかげで、裁判所にはすんなり入れた。裁判の公平を示すという点では、たしかにいい方法だ。
「きょろきょろするなよ……恥ずかしいなぁ」
小声でそう言ったのはココルだ。
ココルは帽子を引き下げて顔を隠し、居心地が悪そうにしている。
「なにコソコソしてんだよ?」
「しーっ! 原告のヤツラ、お父様を目の敵にしてるやつだ」
「原告……この訴えを持ってきた奴らか」
法廷の原告側、俺たちから見て左手の方を盗み見る。意地の悪そうな貴族が、顔を寄せてささやきあっていた。
ココルの父親は貴族だが、そのわりには破天荒な人柄だ。封建的な貴族社会のイシュガルドでは、敵も多いようだ。
……そういうことか。クソッ。
このタイミングで、ルッカの
「そう。あのクソッタレの権威主義の????ども……これはお父様への嫌がらせだ! ルッカは関係ないだろッ!」
ココルは、ひどく汚い言葉を使いながら、悔しがった。
俺はぎりぎりと歯ぎしりを鳴らすココルの帽子を、手で押さえつけながら言う。
「貴族ってやつはしょうがねぇな……だが、異端者なんて証拠はない。問題ないだろ?」
ルッカは異端者ではない。それは確かだ。
そもそも俺とトールが、のほほんと裁判を眺めていたのは、想像よりずっと
てっきりニセの証拠を出してくるとも思ったが、その様子はなく拍子抜けだった。
つまり、このままいけば証拠不十分で終わる。そのはずだ。
だが、ココルは渋い顔をしたまま口を開く。
「異端者じゃないっていう証拠も、ないんだ」
「……フン。そんなもん。出来るわけねえだろう」
答えたのはトールだ。
トールの言うとおりだと、俺は思った。
あるものが、存在しないことを証明するにはどうすればいい? 見つからなかったでは、証明にはならない。
「そんなんで罪に問われてたら、訴えたもん勝ちじゃねぇか」
俺の言葉に、ココルは裁判を見つめながら、歯の隙間から絞り出すように答えた。
「そうだ。だから、
「ハァ? ……じゃあ誰が」
「”ハルオーネ”様だ」
カンッ。と法廷に乾いた音が響いた。
どうやら裁判長が、手に持った槌で机を叩いた音のようだ。裁判長は、厳かな雰囲気を出して言う。
「原告及び被告。双方の主張、それを証明するに足らない。また、依然として双方の主張は、互いに承服しかねるものなった」
裁判長は、続けて、高らかに宣言する。
「これより、この審判は神のみぞ知るものとする! よって、ハルオーネの御下において
──
────────────────────
「決闘!? バカ言え! ルッカのエーテルは3歳児並だぞ!」
3歳児は言い過ぎたかな。
だがルッカはエーテル量に優れていないのは確かだ。
もちろん、エーテルの総量がそのまま人の強さではない。それ以前に、ルッカは武器は作れても、使えるわけではないのだ。
「フロスト、静かに! いま追い出されたら終わりなんだってば!!」
ココルが小声で叫ぶ。周囲の人間が迷惑そうな顔で俺たちを見ていた。
俺の焦りをよそに、裁判長はゆっくりと口を開く。
「被告人よ。決闘を行うのは其の方か。戦う術を持たぬ者には、代理闘士の選出も認められる」
代理闘士……そういうことか!
ルッカはぎこちなく頭を振り、俺たちの方を見た。俺は、すぐにうなずいてみせた。
唇をわななかせながら、ルッカは宣言した。
「だだだ、代理闘士を求めます!」
「よろしい。被告人を擁護し、決闘場に立つ者は名乗り出よ!」
裁判長の声とほとんど同時に、俺は柵に飛び乗り、そのまま立ち上がった。
「……その猫を殺すは好奇心か、はたまた権力の犬か……よそ者、田舎のドブネズミの俺だが、窮猫のために鼠が牙をむくもまた一興!
──冒険者は義によらねぇ! 興に乗って助太刀いたす! 俺が! 代理闘士だ!!」
そう叫んだ俺を、裁判官や傍聴席のやつらは、あ然とした顔で眺めた。
後ろで、不満そうに鼻を鳴らす音がした。
「なんだと? おい。ずりいぞ」
「そう言うな、トール。ちょうど、”新しい武器”の慣らしが、したかったところだ」
俺はルッカに作ってもらった、二振りの短剣に手を触れながら答えた。
反りの少ない、直線的な片刃の短剣だ。畳み込むように鍛えられた剣身は、濡れるように輝き、その刃は紙が触れれば裂けるほどに研がれている。
ジンが持つ東方の剣、”刀”によく似ていた。いわば、”短刀”といったところだろう。
俺はやっぱり、双剣が性に合っている。
武器の慣らしの他に、もうひとつ理由があった。
ここのところ、どうにも敵にボロボロにされがちだった。ここらで良いとこを見せておかないと、リーダーとしての沽券に関わる。
俺は柵から飛び降り、原告と被告の間、広く取られた場所に立った。なるほど、よく見ればこの空間は、決闘場の形をしている。
裁判長は俺を胡散臭そうに見つめ、それから言った。
「汝、居所、及び姓名を述べよ」
「住所と……名前だァ?」
俺は困惑した。
そもそも、住所不定だ。それに指名手配されているのだから、名前など名乗りたくない。
うーん……適当な名前を名乗るか? だが、たまたま同姓同名のヤツがいたら、迷惑がかかってしまう。俺にも良心はある。
「早く述べよ。名乗りを上げぬ者は、ハルオーネの御前には出せぬ」
「……ゾラン。俺の名前は、ゾラン・オルフェンズ。住所は砂都ウルダハ、パールレーンだ」
俺はとりあえず、迷惑をかけても良い、旧知の悪徳商人の名前を名乗ることにした。
仲間の冷たい視線を背中で感じたが、気にしない。
「……異邦人、ゾラン。汝、被告に代わり、身を以て証を立てると誓うか」
「ああ、誓う誓う……あ、ひとついいか?」
俺の言葉に、裁判長は眉をひそめた。無視して続ける。
「決闘裁判だぁ? おめでたい連中だぜ。”勝ったものが正義”だなんて言うなら、ドラゴン族に千年勝てないお前らに、正義なんてねぇな」
「…………」
ざわざわと、抑えるような声で法廷が騒賑やいだ。
ちょっと挑発し過ぎたかな。
貴族も市民も、俺に悪態を付いているのが聞こえていた。
「無駄な供述はやめよ……ルカ・マカラッカに対する原告、前へ」
裁判長がそう言うと、フルプレートの鎧を身に付けた男が中央に出てきた。
剣を履き、盾を持ったヒューラン族が、俺を睨みつける。
いかにも使命感に溢れた、騎士然とした男だ。
立ち姿を見るに、そこそこは出来るようだ。だが、竜の血なんてインチキさえなければ、なんの問題はない。
……挑発も効いている。頭に血が上ったヤツほどいなしやすいものはない。
俺が首を回しながらヒューラン族を眺めていると、裁判長の声がする。
「申し立てられていた別の訴えについて、合わせて裁判を行うものとする」
「…………うん?」
なんて言った? 別の訴え? 合わせて??
俺の混乱をよそに、裁判長は続けて言う。
「冒険者を名乗る異邦人に、ソウルクリスタルを窃盗されたという訴えについて。原告は決闘裁判を求めるか」
「…………は? いや、それは──」
「求めます! 我々は神殿騎士団にソウルクリスタルを供出した家のもの! そこの冒険者なる不逞のものが! 騒ぎに乗じてクリスタルをせしめたと確信しております!」
ズカズカと、声のでかいエレゼン族が中央に出てきた。片刃の斧を背負った男だ。
そのまま、先に立っていた騎士の横に並ぶ。
ふたり並んで、俺を睨む。2対1なんて聞いてない。
「お、おい! そりゃ済んだ話じゃ……」
裁判長は、俺の言葉を無視して続けて言う。
「法廷侮辱罪。もうひとり追加」
「ふざけんなッ!!」
俺の叫びは当然のように無視された。
カツカツと靴音を鳴らして、奥から長柄の槍を持った男が現れた。こいつもエレゼン族だ。
3人目の男が、俺の前に並ぶ。
くそったれ、そんなことは想定してない!
あまりの横暴さに仲間たちも怒声を上げる。
「なんでテメエは! 余計なことを言うんだ!」
「このおバカ! なにしてんだぁ!! ルッカの命がかかってんだぞ!」
「えっ、私、し、死刑なの!? ちょっと! 真面目にお願い!!」
俺に向かってだ。
「俺悪くねぇだろ! これ俺悪くねぇだろ!!」
クソッタレ!! これは仕組まれたことだ! 最初から、俺たちも標的にされていたんだ。
だが、それよりも……しくじった!!
裁判は公平なもののはずだ。こんな不平等は、ふつう許されない。
だが、傍聴人たちもざまあみろというように笑っている。
挑発が裏目に出た。おおかた、連戦でもさせるつもりだったのだろう。法廷の雰囲気が俺の敵に回ったことで、予定を変えたに違いない。
3人の男が、一斉に武器を構える。
裁判長はあくまで無表情で、言った。
「始めよ。これより、全てはハルオーネの裁量とする」
慌てて、俺は裁判長に手を上げた。
「な、なぁ、1つ聞き忘れたんだが──」
裁判長は眉をひそめて、俺を見る。
裁判長の動きと同時に、俺は下肢のエーテルを爆発的に膨張させた。
石の床が足裏を弾き、俺の体は前方に吹っ飛ぶ。
3人の真ん中に立つ、声のでかい斧を持った男。男は俺につられて裁判官に顔を向けていた。
その顔面に、思い切り、膝を叩き込んだ。
男の双眸は、俺の膝が顎のあたりに食い込む同時に、バラバラに動いてから、白目をむいた。
男が床に吸い込まれるように倒れるのと同時に、俺は元の位置まで飛び下がった。
1テンポ遅れて、俺がいた空間に騎士風の男の剣が通り過ぎた。
間に合わないと分かってるのに、ごまかすような振り方で、俺は笑ってしまいそうになった。
法廷は、しんと静まり返っていた。
俺は、言葉の続きを言う。
「──うっかり殺しちまっても……罪には数えねぇんだろうな? これ以上"追加"されるのは、ごめんだぜ」
数瞬のあと、静寂は破れた。
法廷にふさわしくない、罵声で溢れかえった。