FF14 異聞冒険録   作:こにふぁ

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5−2

「この卑怯者め!!」

「ハルオーネ様の風上にも置けぬわ!」

「とっととくたばれ! 裁判の冒涜者め!!」

「やれぇ! フロスト! ぶっ殺──むぐっ」

「ココル。てめえは目立つんじゃねえ……!」

「野郎を切り刻んで、雲霧街に晒してやれ!!」

 

 神聖裁判所には、俺をこき下ろす声が響き続けていた。

 俺は罵声を無視して、目の前の敵に意識を集中する。戦いをはじめる鐘はすでに鳴っている。

 俺の前に立つ2人は、そのへんの兵士とは強さのレベルが違っていた。

 

 ひとりは金属の鎧で固めている。盾と片手剣を持つ騎士然としたヒューラン族の男だ。

 もう一方は背の高いエレゼン族の男で、手に持つのは槍。こちらはやや軽装で、体の要所を金属で保護した、質素な革作りの鎧をまとっている。

 イシュガルドには、対ドラゴンとして特化した”竜騎士団”という集団がいると聞く。だが鎧の質を見る限り、こいつは違うだろう。

 防御を固めた盾持ちに、長柄の槍持ち。バランスの取れた、嫌な組み合わせを残してしまった。

 

 盾持ちが俺をにらみながら前に出て、突っ込んできた。槍持ちは斜め後ろに立ち、矢のような視線を俺に向ける。

 

 さて、どう戦うか。

 結論は出ないまま、敵はもう眼前にいた。

 

「ハアァッ!」

 

 盾持ちが気合の声を上げながら、逆袈裟に剣を振り下ろす。

 くぐるようにして躱す。これは誘導だ。避けた先に槍が飛んでくる。分かっているので問題なく、体をずらして避ける。

 盾持ちが盾をぴくりと動かしたのを見た。

 俺は踏み込み、突進される前に体を盾にぶつけ、その技の()()()を潰す。

 そのまま同時に盾持ちを”盾”にして、槍持ちを牽制する。

 

「ぐッ……クソッ!?」

 

 悪態をついたのは盾持ちだ。こいつは感情的のようだ。槍持ちは寡黙のまま、眈々(たんたん)と隙をうかがっている。

 盾持ちは、盾ごしに俺を剣で突き刺そうとする。その前に俺は盾を突き放し、距離を取る。盾持ちが苛立った目で俺を見た。

 槍持ちは冷静な眼差しを(たも)っている。

 

 今の攻防で、俺は戦い方を決めた。

 小細工はいらない。正面からねじ伏せる。

 

 槍が、俺の胴体めがけて飛んでくる。

 さっきとは違うテンポだ。あえて変えてきたのだろう。

 問題ない。地を蹴り、槍の届かない距離まで引く。遠間だ。剣の追撃はない。

 盾持ちは代わり映え無く、突っ込んでくる。感情的なわりに、基本に忠実なタイプのようだ。

 俺はほとんど動かず、()()()()でその剣を躱す。

 槍持ちが顔をしかめるのが見えた。さっきと同じ距離で避けるのが、槍持ちの狙いだっただろう。

 槍持ちは、軌道を変えて薙ぎ払うように槍をぶつけてくる。身を落として、体を逸らす。俺の顔面のすぐ上を槍が通り過ぎる。

 体を起こすと同時に踏み込む。盾持ちが振り払った剣が宙を斬る。

 また槍を躱す。槍を掴む素振りを見せる。慌てるように引っ込められた槍に合わせて、踏み込む。すぐに引く。

 踏み込む。足の位置で丸わかりだ。剣の振り下ろし。足を引く、かがむ、槍、引く、フェイント。

 なぎ払い、踏み込む、突き、視線を、踏み込む引く踏み込むフェイント避ける槍、足を剣で短刀を避ける踏み込むフェイント視線をかがむ目が足避けるかわす避ける。笑顔は忘れない。余裕を見せる。

 

「な、なんだ……この!?」

 

 かわす踏み込む盾持ちは焦る躱す避ける槍避ける。とにかく笑顔。なぜか湧き出る唾液を飲み込む。

 

「な、舐めるなァッ!」

 

 まったく、舐めてなんかいない。こっちだって必死なんだ。

 再度、飛ぶように向かってきた槍を、強引に短刀ですり上げて軌道をずらす。

 同時に左足を下げる。

 無理な体勢だ。俺の左半身が、無防備になる。笑みを消して、焦りを顔に出す。

 

「そこだァアッ!!」

 

 盾持ちが踏み込む。巻くように、しかし鋭く剣を振り上げる。

 

 そう、そこだよ。

 

 踏み込まれた盾持ちの足が、地面に着く直前に合わせ、俺はエーテルを込めた足で足を払う(レッグスイープ)

 盾持ちが驚愕の表情を浮かべて、膝を突く。

 盾持ち(そいつ)は捨て置き、俺は槍のほうに跳ぶ。

 槍持ちは動じずに、すさまじい圧力を発しながら、真っ直ぐに──()を切った。

 

 "残影"。敵を誤認させる、双剣士ギルドで教わる技だ。

 

 俺は槍のふところに到達すると同時に、急制動する。俺の体重を吸うように生じた慣性を、両手の短刀に乗せて、肘から先だけを振り上げる。

 

 槍が、石の床に落ちて音を立てる。

 

「……ッ!?」

 

 槍持ちははじめて、動揺した顔を見せた。

 なにも驚くことはない。両腕の健を斬り裂かれて、槍を持ち続けるなんてできない。

 

 

 ああ、ところで、双剣士の技についてだ。

 

 "双剣"士なんて言っている割には、実のところ、斬撃を起点にする技は多くない。

 見せびらかすように持つ二振りの剣に、およそ効率的とはいえない、逆手の構え。

 それらはむしろ、視線を誘導し、距離を誤認させるという目的をもつ。

 双剣士にとって技は、()()こそ肝要となる。エーテルを込めたその蹴りは、頑丈な魔物にさえダメージを与える。

 言うなれば、四刀流だ。

 

 俺はそんなどうでもいいことを考えながら、目の前に立つ槍持ちの足と足のあいだ──ようは股間だ──を()()()()()()()()()

 

 薄い金属の股当てが、クシャリと潰れた感触が伝わる。

 

「───────────ッッッ!!!?」

 

 槍持ちは顔だけで絶叫し、不自然に体をひねりながら地面に落下する。

 その体が地面に落ちきる前に、俺は盾持ちの方へ頭を振る。

 起き上がりかけている盾持ちと、目が合う。

 盾持ちの視線は、俺と槍持ちの間を泳ぎ、ほんの少しその体が、重心が、後ろに下がったのが見えた。

 

 …………ひるんだな!!

 

 俺は、なりふり構わず体を投げ出して、盾持ちに飛びついた。

 技もへったくれもない。組み打ちだ。

 

「あああああッ!! 離れろぉ!!」

 

 盾持ちは、でまかせに暴れまわる。

 金属の小手が俺の顔面に当たり、血が吹き出るが、問題ない。

 背を地面につけた状態じゃ、大したダメージはない。こちらは体重もフルに使える。

 

 俺は膝でそいつの片手を押さえ込み、短刀をむき出しの首に向ける。覆い被さる俺の下で、盾持ちは片手を前に出して抵抗を続けている。

 俺は短刀の柄に、自分の肩を当てるようにしながら、徐々に押し込む。

 

「あっ、やめ、やめ、ろ! ……ま、まいっ……」

 

 もう少し。もう少しだ。

 短刀が、そいつの首に触れる。

 

 

 全身に、強い衝撃を感じ、景色が吹っ飛んだ。

 がっがっ、と石の床が体にぶち当たって、ようやく自分が転がされたと気付く。

 

 混乱した頭で、いったい誰だと考える。

 最初に不意打ちした男。違う。ありえない。3日は起きれないようにしたつもりだ。槍持ちの男。無理だ。あれですぐ起き上がるなら、男として尊敬する。

 

 転がるスピードが落ちたところで、身を返して体を起こす。

 

 

「や、止めよというのが! 聞こえないのか!」

 

 そう言って盾持ちに駆けよったのは、見た覚えのない神殿騎士だ。いや、そういえば裁判官の前あたりに立っていた気もする。少なくとも決闘の場にはいなかった。

 

 やけに、周囲が騒がしいのに気付いた。少し盾持ちの男に、夢中になりすぎていたようだ。

 目を、左右に振る。

 裁判官も、聴衆も、決闘を見もせずにざわざわとしている。

 

 俺が判断できずにいると、裁判長が声を張り上げた。

 

「静粛に! 静粛に!! 緊急の事態により、裁判は、一時閉廷とする!!」

 

 

────────────────────

 

 

「……なんだと?」

 

 俺は耳を疑った。

 裁判長は周りの人間になにやら指図をし、それから俺に向き直って言う。

 

「代理闘士よ、今言ったとおりだ。追って日時を通告する。下がりたまえ……被告は──」

「ふっ……!」

 

 頭に、脳に、湯でも流したように熱く血が昇る。

 

「ふざけるんじゃねぇッ!!」

「……誰ぞ。そいつを下がらせ──」

「負けそうになったら中断だと? 認めるわけねぇだろ!!」

 

 怒りに任せながら声を上げる。

 どんなに理不尽だろうと、みっともない始まり方でも、これは決闘だった。

 勝手にまわりが良いように止めるなんて、あっちゃいけない。やっていいことと、悪いことがある。

 いや、そんなことは関係ない。ただ良いところを邪魔されたのが、()()()()()()。 

 

 下っ端の裁判官どもは目を泳がし、中央の裁判長はじっと俺を見つめている。

 裁判長が口を開く。

 

「……今の暴言については、見逃そう。だが、国の危機だ。控えろ!」

「なに分けのわからねぇことを……! 舐めやがって。これが貴族のやり方ってなら……」

 

 言いながら短刀を握り直したところで、肩をぐいと引かれた。

 振り向くと赤く焼けたような肌をした、凶暴そうな顔面が目に入る。

 

「フロスト……落ち着け。マジで様子がおかしい」

 

 肩を引いたのはトールだった。

 トールは、さらに続けて言う。

 

()()()だ。街になだれ込んでるんだとよ。火の手も上がってやがる……出来上がった船が壊されたら、たまんねえぞ……どうする?」

 

 異端者だと? そんなことで騒いでるのか。

 そんなことで。

 

「チッ……知ったことかよ。この国の連中はクソばっかりだ。なんなら、クソ掃除を手伝ってやる」

 

 俺は頭に血が昇ったまま、近くの貴族を睨みつける。

 そそくさと離れるそいつを見て、その背中に、短刀を投げつけたい衝動に駆られた。

 

 肩を、もう一度、強く引かれた。

 トールが、その凶悪(づら)を俺に近づけて、淡々と言う。

 

「てめえがそれで良いなら。俺もそれで良い。良いんだな?」

「…………ッ」

 

 なんて物騒な男だ。まるで、早いとこ貴族の首をむしり取ってやりたいぜ……って顔をしている。

 神殿騎士は職務怠慢だ。真っ先にコイツを不審尋問するべきだろう。

 

「フロスト! ど、どうしよう、街が……!」

 

 そう声を震わせて言ったのは、ココルだった。

 気付けば、他の仲間もそばにいた。

 ココルは不安そうな顔で俺を見上げ、ジンは出口のほうを睨み付けている。

 

 どうする? じゃない。勝手にすれば良いものを。本当に、仕方ないやつらだ。

 俺は息をひとつ、長く吐いた。

 

「ココル、親父さんに連絡は取れるか?」

 

 俺は、短刀を鞘に収めながらそう言った。

 

「助けはいるか……あと今の状況を聞いてくれ」

「わ、わかった。すぐ聞いてみる」

 

 ココルはごそごそと、リンクパールを探し始めた。いくつか持っているようだ。

 それを待ちながら、俺は行動の方針を考える。

 

 異端者は、イシュガルドの敵対勢力だ。ハルオーネの信仰を捨てて、ドラゴン族に与するもの。俺たちがイシュガルドに入る前も、大規模な戦闘があったことは知っていた。

 最近はおとなしくしていたようだが、この襲撃の準備でもしていたのだろうか。

 

 もう一度、周囲を見る。裁判所はひどく混乱していた。神殿騎士が駆け回り、市民はおびえて出口から遠ざかり固まっている。

 貴族どもは顔を寄せてひそひそ話し合い、道ゆく騎士を呼び止めては迷惑そうな顔を向けられていた。

 

「フロスト! お父様は心配いらないって言ってる。それより、下層に被害が広がってるみたい……暴動になってるって……!」

「わかった…………よし。邪魔者を叩きながら、ルッカの工房を目指すぞ。ココル、かーくんに道案内させてくれ。あとは……いつも通りだ。ココルは真ん中、ジン、お前は後ろ」

 

 ココルには口で、ジンには手振りで指示を出す。ふたりはうなずく。

 俺は隣に立つデカブツを、拳で叩いて言う。

 

「悪ぃな、トール。前は任せるぞ」

「……ハッ。誰が相手かなんて、構わねえさ。ようやく暴れられるぜ」

 

 まったく、乱暴な相棒だ。

 俺は首を回して仲間の後ろに立つルッカを見る。ルッカは一歩引いたところで、おろおろしていた。

 こいつにも言わないといけないことがある。

 

「ルッカ。俺たちは──」

「ま、待て! なにを話している!」 

 

 俺の言葉を中断させたのは、裁判官のひとりだった。一段高い、法壇の上から俺たちを指さして声を上げる。

 

「どこへ行こうというのだ! 異邦人らよ、お主らはすでに告発されているのだ! ルッカなる被告人共々、拘束させてもらう!」

「……あぁ?」

 

 クソッタレめ。

 また苛立ちが湧き上がるが、なんとか抑える。言っていることはもっともだ。

 

 俺は裁判官を無視してルッカに言う。

 

「ルッカ。俺たちは、この国を出る」

「…………え」

 

 ルッカは傷ついた顔を見せる。置いていかれると思ったのだろう。

 俺は、少し緊張しながら、言葉を続けた。

 

「聞け、ルッカ……冒険者に、なる気はあるか?」

「…………っ!」

「聞いてくれ。もうこの国には、戻れないかもしれねぇ……出たところで、どっかで野垂れ死ぬかもしれねぇ……いや、きっとそうなる」

 

 冒険者なんて、まともな職業とは言えない。保証なんてひとつもない。そもそも食い詰めたやつか、夢やスリルに取り憑かれたやつがなるもんだ。

 

「だが、それでも良いっていうなら、俺たちと来い。戦えないなんて関係ねぇ。冒険者は、もっと自由だ。だから──」

「なる……! お願い──私を、仲間に入れて! 私を……冒険者に!!」

 

 ルッカは、胸に手を当てて言った。丸く大きな瞳には、強い意志が浮かんでいた。

 その決意を確かめ、俺は強くうなずいて見せた。

 

「…………なんだ。まだ言ってなかったのか」

「恥ずかしがるとこおかしいんだよね。コイツ」

 

 俺の後ろで仲間がぶつぶつと呟いているが、当然、無視する。

 さて、新しい仲間の歓迎パーティ……といきたいところだが、そういうわけにもいかなそうだ。

 

「まさか、被告人を連れ去ろうと言うのか!? そのものはイシュガルドの市民だ、勝手はさせんぞ……だ、だれぞ! そいつらを取り押さえろ!」

 

 さっきの裁判官が、またさわぎ始めた。

 話が聞こえたわけじゃないだろうが、どうやらなにやら察したようだ。

 

 俺は息を吐いて、考えを巡らす。

 しかたない、打てる手は打っておこう。

 

 俺はおもむろにルッカの腕をつかみ、引き寄せた。わっとルッカが小さく叫んだ。

 そうしてから俺は、裁判官たちに見得(みえ)を切りながら、声を上げる。

 

「ほぉう、そんなにこの女が大事か! ……ならばこの女、預かっていこう!」

 

 裁判官は、ぽかんと口を開けた。

 こちらを盗み見ていた周囲の市民たちも、目を見開いている。

 

「……なんで、急に悪役っぽいセリフ?」と胡乱げに呟いたのはココルだ。

 

 心外だ。どちらかといえばお前用の小芝居だ。

 俺は続けて、周囲の連中に強調するように声を張る。

 

「ついでに!! そこのコルベール卿なるものの娘、こいつも預かっておく! 返してほしけりゃ、身代金を用意しな。金額は……とにかく、たくさんだ!」

 

 裁判官のひとりが、はっとした顔を見せたあと、苦々しげに口元を歪めた。市民はざわざわとしている。

 少し遅れて、ココルが小さく声を上げた。

 

「…………あっ。そういう。ふふ、ありがとね。コホン……きゃーーー! さらわれるーーー! お父様ーーー!!」

 

 ココルがわざとらしく騒ぎ立てた。トールがため息をついて、ばたばたと暴れるココルを、引っつかんで脇に抱えた。

 

 もう帰れない、なんてルッカにも言ったが、帰る場所があるに越したことはない。

 つまり、こういうことだ。

 ココルの父、コルベール卿はこの場にいない。それは貴族や裁判官たちは、ココルとコルベール卿の繋がりは隠したまま裁判を起こしたということに間違いない。コルベール卿との直接対決を嫌ったのかしらないが、こそこそ動いたのを裏目にしてやろう。

 こうして形だけでもこうして記録に残しておけば、役に立つはずだ。コルベール卿は娘をさらわれた被害者、という(てい)がたつだろう。ルッカもこれで、異邦人に脅されたとでもなんでも言い訳は立つ。

 悪党になるのは、俺だけで十分だ。トールとジンはもともと悪党面なので問題はない。

 さて、もうここに用はない。

 裁判所の出口へと足を向けたところで、神殿騎士が立ちはだかった。

 今度は見覚えがあった。

 その騎士は、忘れられた騎士亭にルッカを召喚しに来た男だった。

 睨みつけてくる騎士の目を見返しながら、言う。

 

「今度こそ、()にもの言わせてくれるのか?」

「……私の役目は、民を守ることだ。人質に取られては……()()()()出ない」

 

 そう言い、体を横にずらして道を開けた。

 俺は一瞬あっけにとられ、それから裁判での苛立ちが消し飛ぶのを感じた。

 

「…………ふっ、ぶはは! クソばっかりってのは、訂正するぜ……あばよ!」

 

 俺は騎士の横を駆け抜けながら、そう叫んだ。騎士も貴族も、いろんなヤツがいたってことだ。

 

 

────────────────────

 

 

 神聖裁判所を出た俺たちは、下層にまで駆け下りた。日は沈んでいる。だが、上がっている火の手の光を降り落ちる雪が反射し、周囲を見渡すには困らない。

 

「…………? トール、止まれ」

 

 俺はトールに声をかける。他の仲間にも声を潜めるように手振りをする。

 足を止めたのは、下層の広場だ。

 鎧から湯気を上げながら、トールがうなる。ここに来るまでに、数人の異端者を打ち倒していた。

 

「ああ……? ……なんだ。急に静かになったな」

 

 振り向いたトールは獲物を探すように首を回しながら言う。

 そう、静かすぎる。ひときわ声が高く上がっていた方角から、音が消えた。異端者の本隊がそっちにいると思っていたが、何があったのか。 

 

「トール、肩かせ」

 

 返事は待たずに、俺はトールの肩に手をかけて飛び乗り、そのまま両肩に両足を乗せて、立ち上がる。トールは沈黙し、動かずにいる。まるで巨岩に乗っているような安定感だ。うんと遠くまで見渡せる。

 

 そのまま、遠くへ目を凝らす。

 うごめく集団が見えた。俺たちが通ったのとは別、上層に上がる門の前、2つの集団が対峙している。

 さらに耳を澄ませた。とぎれとぎれ、夜の冷たい大気に声が響く。

 

『我々──負けた──のですか!』

『そうでは──のだ同志よ! もし──それは──勝ち得た者──』

 

 手前の集団、異端者らしき痛んだ鎧を身につけた男が叫んでいる。異端者たちに対峙し、訴えかけているのは、長い銀髪のエレゼン族の女のようだ。女のすぐ後ろには、恐ろしく見事な紅い鎧を着けた、背の高い男が立っている。そして、その横には──

 

「フロスト。なんだ。なにが見えてやがる」

 

 足下で、トールが焦れるように言った。

 

「いいや、何も」

 

 そう答えて、トールの肩から飛び降りる。

 

「行こう。もう、()()()だ」

 

 俺は口を閉じていた仲間たちにそう言い、さらに下の雲霧街へと足を向けた。

 

 

────────────────────

 

 

「これから俺たちは! 未開の地アバラシア雲海へと立つ! 準備はいいかてめぇらァ!」

「いぇーー!!」「まちきれねえぞぉお!!」「帆にやぶれなし、推進装置よし……忘れものないよね? まさか夜に出発するなんて……」

 

 俺は改造したマナ・カッターの座席に立ち上がり、仲間たちに声をかけた。

 仲間たちは体を揺らして俺の声に応える。

 最下層にたどり着いた俺たちは、ルッカの工房の近く、人気のない崩れた城壁の近くで船を出す準備を終えた。

 

 船は長旅に耐えられるように大型化させ、頑丈にし、ある程度自走できるようエーテルやクリスタルを用いた機構も取り付けた。

 ここまで作るのは大変だった。ルッカは製図や難易度の高い製作を行い、俺たちは素材集めや簡単な材料作りを行った。

 帆は大小ひとつずつを前後に取り付け、座席を増やし後部に荷物を大量に積めるようにした。

 小型ながら、もう立派な帆船と言える。

 俺たちはこの船に、海賊船を牽引したという伝説の海竜の名を借りて、”シルドラ号”と名付けた。いい名前だ。沈む気がしないね。

 

 座席は2列に取り付け、スペースを考えて前に俺とルッカ、後ろにトールとココルが定位置だ。ジンは後部の荷物置きで膝をかかえている。ジンが長旅になることを理解しておらず、乗船を拒否して暴れるというひと悶着があったが、俺とトールで強引に押し込んだ。

 

 俺はさらに、興奮した仲間たちをあおる。

 

「これは今までにない、大きな冒険になるだろう! その危険や困難は計り知れねぇ……だが俺は! この旅の成功を確信している! なぜなら俺たちには、"万能クラフター"、"機械仕掛けの女王"──ルッカ様がついてるからだー!!」

「ひゅーー!!」「よっ! 女王様ァ!」

 

 テンションがバカになってるココルとトールが騒ぎ立て、しんとした街はずれに声が反響する。

 俺は緊張した顔で、機器を確かめまくってるルッカの肩を叩く。

 

「ルッカ。忘れもんはもういいから、なんか言ってみろ」

「大丈夫……このあたりの風脈は理解してる──えっ! わ、わたし?」

 

 はっと顔を上げたルッカが、たどたどしくも言葉を紡ぐ。

 

「う、うん、えっと……わ、私は戦ったりでは役に立てない……迷惑もかけると思う。

 で、でも、いえ、だから! 修理や製作はなんでも任せてほしい! 私がいる限り! あなたたちの冒険は万全であると保証します! だから、その……"よろしくお願いします!!"」

「「「"よろしくお願いします!!"」」」

 

 俺たちはルッカの宣言に大声で答える。ジンもひかえめに拳をあげていた。

 同時に、俺は視界のはしで、神殿騎士がこちらを指さして声を上げるのを確認した。流石に騒ぎすぎたか、それか異端者騒ぎが一段落して追ってきたのだろう。

 とにかく、おふざけはここまでのようだ。

 

 俺はどすんと座席に腰をおろし、前方を指差す。一寸先の闇は雪降る夜の崖だ。俺たちには似合いの船出だ。

 

「野郎ども、出航だ!! 錨を上げろォ! 帆を張れェ!!」

「「「ようそろォ!!」」」

「──シルドラ号、発進ッ!!」

 

 俺の声に合わせて、ルッカがレバーを引く。同時に帆が大きく張り、風属性のエーテルをつかむ。船はゆっくりと、しかし確かな力強さで船を前に進み、イシュガルドの外へと飛び立った。

 

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