FF14 異聞冒険録   作:こにふぁ

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6−1

 

「おう、(ねぇ)ちゃん。こんなもんか?」

 

 トールはシルドラ号の真ん中に立ち上がり、帆から伸びるロープにかかる張力を調整しながら言った。

 俺たちの乗る船、ガーロンド・アイアンワークス式帆装(はんそう)型小型飛空艇”シルドラ号”は、蒼い空の下、()()()を駆っていた。

 

 (かじ)を持つルッカが、その手に伝わる振動を確かめるように目をつむった。

 

「ええっと……うん! ありがと、トールくん。ところで……姉ちゃんはやめてってば」

「……フン」

 

 トールがルッカを”姉ちゃん”呼んでいるのは、まったく大した理由じゃない。トールが俺たちの中で最年少と知ったとき、ルッカがおおげさに驚いたのが原因だ。その当てつけに、トールはときおりルッカのことをそう呼んでいた。

 

 ルッカの不満を無視して、トールが備え付けられた座席に腰を下ろす。

 もとは一人乗りの”マナカッター”はおおいに改造された。だが、それでも必要最低限の大きさだった。

 船の横幅はルガディン族であるトールが横に寝れば足りてしまうだろう。船首から船尾までは、トール3、4人分ってところだ。

 船の中心には、その全長と同じぐらいの高さの(マスト)が立てられている。柱から前後に伸びる、膨らんだ帆が風属性のエーテルをつかむことでその船体を宙に支えている。

 水や食料などかさばるものは座席の下つまり船底へ仕舞っている。クリスタルも、十分な風属性がない場所で船を動かすために必要だった。

 収納には色々と工夫しているが、それでも船は広々とは言えない。

 後部には旅に必要な荷物のうち、すぐに取り出したい武器や工具、ジンなんかを積んでロープでくくってある。ときおり船が大きく揺れると、ジンの角が船の壁に当たる音が聞こえた。

 

 慌てて出航したせいで最初はてんやわんやだったが、役割なんかも落ち着くところに着いたといったところだ。

 前方に俺とルッカが座り、舵取りや気圧なんかのための計器の読み取りを担当し、中央に並ぶトールとココルがマストや帆の調整を行っている。

 だいたいは体のでかいトールがそれをやった。

 

 

「ひゃー、雲ばっかだね。今ってどのあたり?」

 

 船のヘリに小さい手をかけ、白と青に二分された景色を眺めていたココルが言った。

 

「うーん……アバラシア山脈の高層には来てるね……時計、時計はっと……」

 

 ルッカは気圧計に視線を向けながら、片手でごそごそと(ふところ)を漁る。体の動きに合わせて、頭頂部から伸びる耳がぴくっと動いた。

 

 俺たちの足元には流れる雲海が広がり、それ以外には何も見えない。

 自分の居場所を知るためには高度は気圧で、位置は時間や速さから推し量ることしかできない。

 

 取り出した懐中時計を手にルッカは頭で計算するように顔をしかめてから、風の音に負けないように声を上げる。

 

「この調子なら、日が沈む前には浮島の群島が見えるはずだよ! ……なに、フロスト? これ?」

 

 ルッカはそう言って、手に持った時計を顔まで上げた。古くて小さな傷だらけだが、きちんと磨かれている。秒針はキビキビした動きで時を刻んでいた。

 ルッカは得意げな顔で口を開く。

 

「ずっと前に、お父さんからもらったんだ。彫金師の技術の練習にって。いっつもいじってるからボロボロになっちゃった……あ、でも精度は心配いらないから。誤差1秒以内を保証するよ!」

「……いや、疑っちゃいねぇよ。いい時計だな」

 

 俺はそう答えて、前を向いた。

 ルッカも少し照れた様子で、舵を両手に持って前を向く。

 ……時計を眺めていたわけじゃないことは、バレていないようだ。ゴホッ……さて、今いる場所について思い返すとしよう。

 

 俺たちが目指しているのは、アバラシア山脈の雲海にあるという浮遊する島々だ。

 

 そもそもエオルゼアと呼ばれる地域がある、このアルデナード小大陸は4分割に切り取ったピザのような形をしている。

 尖った方を下に向け、()があるほうが北だ。

 ちなみにピザの尖った先端の方に砂都ウルダハがある。左下側でちぎれて浮いてるのが海都リムサ・ロミンサがあるバイルブランド島。右側には、今は帝国の支配下になっている国、アラミゴがある。

 真ん中あたりに森都グリダニアがある黒衣森と、俺たちが最近までいたイシュガルドが鎮座するクルザス地方が、それぞれ東西に並んでいる。

 

 アバラシア山脈は、そのピザの上側を左右に走る大山脈だ。エオルゼアの”背骨”なんて呼ばれることもある。

 さらに、北側の海洋から運ばれた豊富な水属性と風属性のエーテルが、その山脈にせき止められ、せり上がるようにして立ち上っている。そうして山脈の上層に、エーテルで構成された大雲海が広がっているって話だ。

 その雲海には、エーテルの作用によって浮かぶ島群があるというから驚きだ。イシュガルドの人間が駐屯基地を築いているというが、それもほんの一部であとは未開の地となっているらしい。

 

 世界は広い。今考えていた国々も、結局は人間に住み心地のいい一部分でしかないのだ。星の大きさに比べたら、人間なんて床の溝に生じるカビみたいなもんだ。

 

 イシュガルドを飛び出した俺たちは、いったんピザの左上にあるドラヴァニア地方を迂回し、北の海から立ち上るエーテルを捕まえてアバラシア山脈の上層までやってきた。

 あとはルッカの言う通り、浮遊島群まで雲の潮流に沿って進むだけだ。

 

「ルッカー! 下の雲のほうがはやいけど、あれに突っ込んだらスピードあがるんじゃない?」

 

 そう声を上げたのは、ココルだ。こいつは浮遊島が楽しみで仕方がないのか、ソワソワしっぱなしだ。

 ココルの言う通り、船底の少し下に広がる雲海は、船よりずっと速く俺たちが進む方に流れていた。ふとすると自分たちが後ろに進んでいるような錯覚を感じる。

 ルッカは一度雲に目を落とすと、声を上げる。

 

「だめー! ただの雲じゃないの! ようはエーテルが目に見える密度になってるってことだから、船がもたないよ!」

「そっかー……ま、ゆっくりでいいよね」

 

 ココルは足をぱたぱた揺らしながら、再び雲を見つめはじめた。

 雲海はフワフワとして、乗れば気持ちが良さそうだ。

 当然、密度があるといっても人が乗れはしない。船から落ちれば雲海の底まで真っ逆さまだ。

 しかし幸い、雲海の底の方は深海のようにエーテルが超高密度になっていて、生命がまともに生きられる場所じゃないらしい。

 つまり底に着く前に死ぬ。恐怖にさらされる時間が短くてすむ。

 

 

 ふと沈黙が続き、時間がゆっくりと流れる。

 

 俺は湿り気を帯びた風を吸い込み、吐く。

 鼻腔の熱を奪いながら、混じりけのない澄んだ空気が肺を清浄する。

 

「いーい風だなぁ」

 

 俺は何ともなしにそう呟いた。

 絵画や物語、吟遊詩人の歌のように、情景を映す媒体は数あれど、嗅覚に訴えるものは多くないだろう。

 こればかりはその場に立ってみないと感じられない。

 頬に当たる風の感触も、肌をちりちりとさせる陽の光なんかも、アラグの超技術だって伝えきれないはずだ。冒険者が冒険をするのも、きっとそういうものを感じるためでもある。

 

 

「……お。見ろよ……魚がいるぜ」

 

 俺の小粋な思考を中断させたのは、トールのバカげた言葉だ。

 なに言ってんだ。いるわけねぇだろそんなもん。

 

「ハハ……トールはものをしらないなぁ……ありゃ……クジラってやつだよ」

 

 トールの言葉に、ココルが応えて言った。

 

 まったく、あきれたもんだ。2人揃って白昼夢でも見ているらしい。

 変わらない景色に脳をやられたのだろう。

 

 俺は背もたれに手をかけるようにして、2人へと振り向いた。

 

 2人は左舷の方を凝視して、なぜか引きつった顔をしている。

 俺は心地のよい気だるさを崩さないよう、ゆっくりと言う。

 

「なに、バカなこと言ってんだ。クジラだって? やれやれ、いいかお前ら──」

『ヴォォオオオオオオオオォオオオオオオォォォオオオオオオオオオォオオオオオオォォォ────ォ──ン!!!!!!』

 

「……………………」

「………………」

「…………………………」

「…………あ…………ク……」

 

 静けさをぶち破ったのは、音というにはあまりにも物理的な振動だった。

 

 ()()は、左舷。そっちのほうだ。数十メートルほど離れた位置から雲海を割って飛び出した。

 その巨体が発しただろう声が、俺の臓腑を揺らした。比喩なんかじゃない。張った帆布さえもビリビリと音を立てた。

 

 高く飛び上がって全身を空中にさらしたそれは、白銀の羽毛を生やした体に金属質な甲殻をまとっている。確かに海洋にすむ巨大な哺乳動物によく似ていた。形も、サイズもだ。いや、もっとでかい。

 

 島のようなサイズのそれが空を横切るのを、仲間たちは絶句して眺めていた。

 俺は、なんとか声を絞り出した。

 

「……あ、あれは、ク、クジラなんかじゃ、ない──なんだァッありゃあ!?」

 

 それは音の余韻を残しながら、体の左右に生やした翼をひるがえすと、再び雲のなかへと潜っていった。

 高密度のエーテルをかき分けて生じた突風が、遅れて顔面に届く。否応なしに幻覚でないことを知らされた。

 

「ま、まさか──”ビスマルク”!? そんな、実在するなんて!」

「ル、ルッカ! しってるのか!?」

「神話の生き物! アバラシア雲海にすむ、原住民たちの神話! すごく……大きい!!」

 

 興奮気味に叫ぶルッカの声を聞き、俺は血の気の引く音も聞いた。感心してる場合じゃない。

 原住民、神話、あり得ぬ神の実在? クソッタレ! 1つしか無いだろ!!

 

「なんてこった! ば、”蛮神”だッ!」

「なにィッ!?」

「んな、なんでこんなところに!」

 

 ”蛮神”というのはその名の通り、エオルゼアで蛮族と呼ばれる種族が召喚した()のことだ。

 細かい理屈は知らないが、クリスタルを糧に召喚されたそれは、呼んだ種族に伝わる神の姿と権能をもって祈りに答えるらしい。ほとんどの祈りは、自分たちの種族を守ってくれ、敵を打倒せ、ってところだろう。

 

「俺の、お、斧はどこだ……ジン、斧を出せ……」

「ま、まずいよテンパードにされちゃうって……」

 

 背後で浮足立った仲間が、右往左往に体をねじっている。

 俺はビスマルクが潜った方に目を向けながら、仲間たちを抑えるように手のひらを動かす。

 

「お、おち、おちつけ、刺激するな。目をそらさずに、ゆっくりと、遠ざかるんだ」

「そんな、や、野生動物みたいな対処法でいいの?」

 

 そういいながら、冷静さを取り戻したルッカはゆっくりと舵を切る。

 とにかく、戦うなんて考えちゃいけない。体当りでもされたらこの船はひとたまりもない。

 それに蛮神の恐ろしい特性のひとつに、”テンパード”化というものがある。なんでも蛮神に近づきすぎると頭がぐるぐるになり、盲目的な信者”テンパード”になってしまうらしい。

 

 とにかく俺は、蛮神が敵を退けるように召喚されたのなら、敵対意思を見せないようにするのは、有効的だと考えた。

 

「そーっとだ、ルッカ。そぉーーーっと……」

「……お、おい……こっちに、向かってきてるぞ」

 

 トールが、首を左舷にねじり切りながら言う。

 俺が左舷を向くと、ビスマルクの背中のヒレだか羽だかが、雲を割るように突き出していた。

 俺たちを追い越すように流れる雲海がそのヒレにあたり、飛沫(しぶき)をあげている。

 

 ヒレはゆっくりだが、確かに俺たちの船に向かってきていた。

 

「ど、どうすんだよ。フロスト!!」

「知るか! な、なんで、こっちに来るんだ! まさか俺たちを食おうってのか!?」

 

 神様のくせに腹が減るとでもいうのか。

 

「…………あ、も、もしかして……クリスタルねらい、とか?」

「……ああ、なるほどな。エーテルの補充か」

 

 ココルの言葉に、俺は手のひらを拳で叩く。

 蛮神はエーテルを対価に呼び出される。あれだけの巨体なら、必要なエーテルはとんでもないだろう。

 それにあの姿だ。ひょっとしたら”貪欲さ”そのものが、神としてのイメージ組み込まれているのかもしれない。

 

 しかし、まいったな。

 クリスタルは船底に積んである。航空中に取り出せるような場所じゃない。

 

 ビスマルクは明らかに加速して、こっちに突っ込んできていた。

 ……くすんだ金色の外殻が、よく見えた。

 

「…………おッ! 斧ぉぉおお!! 俺の斧はどこだぁああ!!」

「アアアアーゼマ様ニメーヤ様サリャク様ビエルゴ様メネフィナ様ぁ! とにかく神様お助けぇ!」

「トール、ココル、落ち着けぇッ!!」

 

 わたわたとのたうちまわるなかまに、おれはあくまでれいせいにいう。

 

「ルッカ、左舷全砲門を展開! 雷属性エーテル加速──"エーテルオーガー砲"ッ放てぇッ!!」

「そんなのないッ!! 落ち着きなさい!!」

 

 そうこうしてるうちに、ビスマルクはすぐそこにいた。

 ずあっと雲からせり出して、大口を開ける。

 ちょっとした島なら飲み込めそうなサイズだ。物騒に鋭く並んだ牙が目に入る。

 俺は、たまらず短刀を抜いた。わかってる、爪楊枝にもならない。他にどうしようもない!!

 

「く、クソッタレ! お前ら! 武器を──」

「み、みんな!! 捕まって! ()ッ!!」

「なに!? ──ッぉお!」

 

 がくんと船が下がり、体が浮いた。とっさに足を座席に引っ掛ける。目の端でルッカが舵を思い切り下げたのが見えた。

 

 視界が真っ白になり、浮き上がった体が急激に後ろに引っ張られる。足に力を入れて、強引に座席まで体を引き戻した。

 そこでようやく、ルッカが船を雲海の流れに突っ込ませたのがわかった。

 呼吸はできる。勢いよく流れ込む湿った空気が喉を濡らした。

 船は凄まじい勢いで振動している。

 厚い霧に包まれたように、周囲の景色は見えない。だが、船がどんどん加速しているのがわかる。

 帆が見たことのないぐらいに膨れ上がり、繋いでいるロープがばりばりと嫌な音を立てた。

 

「ぐっお、ス、スピードを落とせぇえ!! 船がバラバラになるぞ!!」

「わっわっはやーーーく!!」

 

 背後から叫び声を聞き、俺は仲間たちが振り落とされていない事に安堵した。ジンの姿は見えないがロープでくくってあるから多分大丈夫だ。

 帆の嫌な音は加速して大きくなり、船体は座席から尻が浮き上がるほど振動していた。

 

「ルッカ! もういい!! 船を上げろ!!」 

「じ、上昇します!! みんなつかまっ──」

『ヴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』

「スピード上げろぉぉぉおおあああ!!!」

「はやくぅううううわぁぁああ!!」

「ルッカァァア!! 加速ゥゥうう!!!」

「いやあああああ!!!!」

 

 

 

 どれだけ、どれだけ雲の中を走っただろう。ほとんど永遠にすら感じた。

 風と船の悲鳴を聞きながら、(きし)む船べりにしがみついて、ひたすら祈っていた。

 ビスマルクの声がとっくに聞こえなくなっても、誰も船を上げろとは言い出さなかった。

 

 

 終わりは突然だ。真っ白な景色がいきなり裂けて、強い光に俺はとっさに目をつむる。

 雨の後に感じるような強い匂いが鼻を抜ける。

 まぶたを焼く陽の光を感じながら、ゆっくりと目を開けた。

 

 

 俺は、呆然としてその景色を見つめていた。

 蒼天と白い雲海を背景に、生命力に満ちた緑の森が、力強い赤銅色の大地が、網膜に焼き付く。

 

 アバラシア雲海に浮かぶ、見渡す限りに続く巨大な島々がそこにあった。

 

「………………」

「………………」

「………………」

「…………すごいや」

 

 そうぼそりと呟いたのは、ココルの声だ。

 

 雲海の中から飛び出した船は、放り投げた紙風船のように中空をゆっくりと流れている。

 

 それなりに、長く冒険者をやっていたつもりだった。それでも、非現実的な──しかし、確かにあるその圧倒的な質量には、言葉も出なかった。

 

「…………フッ……ハ……フハッ!」

 

 後ろから、でたらめに踏んだふいごのような音が聞こえる。トールだ。

 

「ハハハ! ガハハハッ!! ──ッふぉおおぉぉぉおおおおッッ!!!」

 

 トールはその場に立ち上がると、拳をにぎった両手を広げて、おたけびを上げた。

 ビスマルクの声にも負けない強い振動が、俺の腹の奥のあたりをびりびりと揺らした。

 

「は、はは! ひゃああぁぁぁああああ!!!」

 

 続けてココルが、高らかに叫んだ。2人の声が共鳴して脳に響き渡る。

 

 俺とルッカは目を合わせて、笑った。

 バカな奴らだ。

 風情(ふぜい)もなにもあったもんじゃない。

 

「ぃぃぃいいっやっほぉぉぉぉおおおッ!!!」

「ぅぅにゃぁあああぁぁああああああッ!!!」

 

 同じバカなら叫ばにゃ損だ。

 風情なんざ知ったことではない。

 

「ふぉぉぉおおおおおおおお!!!!」

「ひゃぁぁあああああああ!!!」

「うわぁぁぁぁああああああ!!!」

「んにゃぁぁぁぁああああああああ!!!」

 

 

「…………ふぁふぁふぁ……ぅぷ」

 

 俺たちが狂ったように大声を上げる中、荷台のロープの隙間からジンも小さく拳をあげていたのを、俺は見ていた。

 

 

────────────────────

 

 

「ふおおおおおおお!! ほおおおおぉぉぁぁああああ!!」

「びゃあああああああ!! ほわあああああああああ!!!」

 

 トールはココルを片手に持ち上げて、背の低い草を踏みしめて駆け回っている。

 ココルも叫びっぱなしだ。

 手近な大きめの島に着陸した俺たちは、船の係留もそこそこに転がるように船から飛び出し、久々の大地を駆け回った。

 

 ジンはその全身で地面を舐めている。

 広くなっている草原の真ん中で、よほど味がいいのか、べったりと地面に顔をつけて角をこすりつけていた。

 

「ぎゃーはははは!! ゲホッゲホッ! ヒャーーハッーハハハハ!!!」

「に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛ん゛ん゛!!!」

 

 俺たちはジンを中心にドタドタと駆け回る。

 まるで恒星の重力に捕らわれた惑星だ。手と手を取り合って回る俺とルッカは、さながら双子星だ。

 景色がぶんぶんと流れるように周った。

 蒼天に散らばる雲が、下界とは少し異なる植生の太い木々が、ふとっちょの鳥人たちが、視界を彩っている。

 

 

 

 

 ………………ん?

 

 

「んニ゛ャッ!?」

 

 ルッカが後ろにもんどりうって倒れた。俺が手を離したからだ。

 俺はたたらを踏みながらも、体勢を立て直す。

 短刀に触れながら声を上げる。

 

「ぜ、全員警戒ッ! 武器をとッ……いや、まて! クソッ……両手をあげろ、抵抗するな!」

 

 遅かった。

 すでに、()()()()()()

 

「な、なんだコイツら……! ジン、起きろ!!」

「も、もふもふ! もっふもふ! もふもふのおっさんとは違う感じのもふもふ!」

 

 仲間は悪態をつきながらも、両手を上げてジンを中心に寄った。

 

 俺たちに槍や杖を向けているのは、分厚い羽毛をまとった獣人たちだ。

 羽毛で膨らんでいることを見込んでも、かなりの巨体だ。頭を飾る大きな耳と、鋭い(くちばし)が夜行性の猛禽(もうきん)を思わせる。

 

 囲んでいるのは10人ほどだ。焼いた魚のような白い目が、俺たちを見つめている。

 なにを考えているか……全くわからない。

 俺はその目に対して、どう動くべきか計りかねていた。

 

「いたた……ちょっと! 急に手を離さないで……えっ、わっ!」

 

 そう大きな声を上げたのはルッカだ。

 立ち上がったルッカは、耳を立てて興奮した様子で叫ぶ。

 

「も、もしかして! バヌバヌ族っ……さんですか? すごい! ホントにいたんだ!」

 

 本当に、全く、感心している場合じゃない。

 

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