FF14 異聞冒険録   作:こにふぁ

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「クソッタレがあ! 八つ裂きにしてやる!!」

 

 トールが地面に両足を食い込ませながら、半人半竜の異形に変貌したジャンヌに吠えた。

 ジャンヌは余裕たっぷりにトールを見下ろしている。

 刀を抜いたジンが、横に張り付くように間合いをとった。

 

「ルッカ……ルッカ!」

 

 俺は、立ちすくむルッカに小さく叫んだ。

 

 「ココルのところに行け。ポーションをぶっかけろ、ありったけだ。今すぐ──わかるな!」

「あ、わ……わか」

 

 ルッカは声を震わせてうなずいた。

 本当に理解しているか、確認する時間はない。

 

「頼む。大丈夫だ……トールを信じろ! 今だ!」

 

 俺は乱暴にルッカの背を押した。

 足をもつれさせながら、ルッカがココルに向かって走り出す。

 同時に俺は、ルッカとジャンヌの直線上に乗るように前に出た。

 たとえジャンヌがさっきの攻撃を繰り返しても、俺が体を張ってでも受ける。

 

 距離を縮めながら、俺はジャンヌの大きさに肝を冷やした。でかい。ルガディン族の中でも巨漢であるトールが、まるで子どものようだ。

 ジャンヌが俺を認めて、口元をゆがめた。笑っている。 

 

 死角から、ジンが刀を鞘で加速させた強烈な一撃を放った。その斬撃にジャンヌは顔を歪めて体をずらす。

 生まれた(すき)に合わせて、俺はエーテルを込めた蹴りをジャンヌの胴体に叩き込んだ。

 

『フフッ』

 

 俺が全力を込めて振るった足は、ジャンヌの分厚い鱗に簡単に弾かれた。

 地面でも蹴りつけたような感触だ。ダメージを与えている気がまるでしない。

 ジャンヌが俺を見下ろして、邪悪に口を開いた。

 

『フフフ。フロスト……お前が1番、()()()()

 

 俺はその言葉を無視して、殴りつけるように短刀をぶつけた。

 そんなことは俺が1番わかっている。

 鳥形の魔物を倒したときに感じた懸念が、まさしくソレだ。

 

 双剣士の技はリムサ・ロミンサの、裏世界の法の番人として育った背景がある。

 つまり、人間相手以上を想定した技なんてない!

 クソッタレ!! ダメージを与えられない”攻め手”に、なんの価値があるって言うんだ! パーティで1番、俺が足を引っ張っている!

 

『フハハハハッ! 弱い……弱い!! いや違う、ワタシが強いのね! これが竜の力だッ!!』

 

 ジャンヌが大声を上げながらトールをめった打ちにする。割り込むことすらできない。

 俺の非力を差し引いても、ジャンヌの強さは俺たちを圧倒していた。

 

「がッ! がああああ!! くそがああ!!」

 

 それでもトールは、一歩も引かずにその攻撃を受けきっていた。

 

『ハハ!! 驚いたわ……ずいぶん頑丈ね!』血を流しながら鬼の形相をみせるトールに、ジャンヌが感心するようにうなった。

 

 だか、もうトールが限界を超えているのが俺にはわかった。

 それなのに、なにも思いつかない。だめだ……おわる!

 俺の脳内に全滅の風景が浮かんだ。

 

「──客人ッゥ!! 逃げろッォ!!」

「サヌワ、サヌワよ! 我らの友を守れ!」

 

 突然、いくつもの大きな影が突風のように視界をさえぎり、すぐに本当の旋風が体を突き押した。

 

『うぅ……!? なによ、この!?』

 

 それらはジャンヌのまわりを、バサバサと羽ばたき音を鳴らしながら飛んでいる。

 蛇を太く短くしたような胴体に、膨れた頭部から左右に広がる羽。バヌバヌ族の使役する飛獣、”サヌワ”だ。

 

「ヅンド族……! 来てくれたのか!」

 

 巣の中のひなを守る親鳥のように、サヌワたちがけたたましい鳴き声を上げながらジャンヌにまとわりついていた。

 ジャンヌが苛立った声を上げて大きく両腕を振り回すと、サヌワが離れた。

 同時に、俺は駆けだして声を上げる。

 

「トール!!」

 

 トールは舌打ちして、体を少し落とした。

 俺はその肩に手をかけるようにして、その背を駆けて飛び上がる。このチャンスを逃せば、もう後はない。

 目の前にあらわれた、ジャンヌの凶暴な面と顔を突き合わせた。

 

『馬鹿め!! わざわざ食われに来たか!!』

 

 ジャンヌがその裂けた口を大きく開けて、頭を突き出してくる。真っ赤な口腔がぬらぬらと光り、凶悪に並んだ牙が俺に向いた。

 その口が閉じられたら俺は、あっという間にいくつかの肉塊に分断されるだろう。

 俺が雑に調理されることを、()()()が望んでいないほうに俺は賭けた。

 

「"ミアズマ──バースト"ッ!!」

 

 突然、ジャンヌの体から瘴気となった魔力が吹き出した。

 

『ぐッ!!?』

 

 体の内側から貫かれて、ジャンヌの体が一瞬硬直する。

 俺は視界の端で、ココルが地面に転がりながら”魔本”を構えているのをとらえていた。

 

『あのチビめ……ッ!』

「チビは禁句だ」

 

 刀身の全てを、()()に置いてくるイメージ。

 俺は短刀をジャンヌの右目に、そっと触れさせる。全力の速度で水平に短刀を引いた。

 

『ガアッアアァァアアッッ!!?』

 

 ジャンヌが絶叫し、目を押さえて体を丸めた。

 

「今だ! 全員かかれ!!」俺は大声を上げた。

『!? このッ!!』

 

 ジャンヌは頭をかばい、急所を遠ざけるように体をねじる。

 声を上げると同時に、俺はジャンヌとは()()()に走り出していた。バカ正直にジャンヌに突っ込もうとするトールを引っ張るのも忘れていない。

 

 シルドラ号に振り向くと、ルッカが帆を張っていた。緊急時にそなえてロープ一本で張れるようにしておいて良かった。

 ココルの倒れていたほうに目を動かすと、ちょうどジンが駆けたままココルを拾い上げるのが見えた。

 

 ほとんど同時に、俺たちとジンはシルドラ号にたどり着いた。そのまま後部座席に重なるようになだれ込んだ。

 

「出せ!」言うやいなや船が大きく揺れた。

 

 重力と釣り合った船は滑るように崖っぷちから飛び出した。ほとんど落下するようにして、急加速する。

 

『アアァァ!! 下種どもめ!! ………フフ……フハハハハ!!! 絶対に逃がしはしない!! 行き先はわかってる、貴様らは必ず殺す! 食ってやるぞ!! フハハハハ!!!』

 

 狂気じみた叫びを背に、俺はトップスピードに乗った船の縁にしがみついていた。

 振り向くと、さっきまでいた浮島はあっという間に小さくなった。

 逃げ切った。まったくぎりぎりだった。

 

「おい! ココル!」船が水平に安定したところで、トールが声を上げた。

「……ひひ……だ、大丈夫だよ」

 

 座席に横になったココルは弱々しくだが、笑って見せた。

 俺はココルに覆いかぶさるようにしているトールを、少し押しのけて様子を見た。

 ココルは、あちこち焦げちゃいるが、死ぬような怪我じゃなさそうだ。ちょうどカーバンクルが、ココルの背中からもぞもぞと這い出してきていた。

 

「馬鹿言え! まともに食らったじゃねえか!」

 

なおも大声を出すトールの肩を、俺は手のひらで叩いた。

 

「トール、落ち着け。ココル、おまえ魔法の障壁を張ってたな。そうだろ?」

「うん。あ、あんなに、あっさり割れちゃうと、思わなかったけどね……」

 

 ココルがジャンヌの炎に弾き飛ばされたとき、俺はぎりぎりで目にしていた。カーバンクルが出した"守りの光"が展開されていたことを。術士の身を守る、障壁の魔法だ。

 それでも障壁が砕けるのを見て、焦ったのは本当だ。ただ俺は、術士の魔力で作られているカーバンクルが消えずにいるのを見ていた。それでなんとか無事なことに確信を持っていた。

 

「いきなり攻撃しやがって……二度とするんじゃねぇ! クソッ…………よくやった。船がやられてたら、終わってた」俺がそう言うと、ココルはへらへらと笑った。

「へ、へへ、ココがいないと、てんでダメだな……おまえら」

 

 減らず口を言うココルに、俺はため息をついた。「そうだな。いいから治癒に専念してろ」

 

「ひひ……”フィジク”、フィジクフィジク……」

「おい。その術、効き目悪くねえか?」

「うっさいトール……フィジクフィジク迅速魔フィジク」

「次。頼むぜ」

 

 ココルとトールの会話は放っておき、俺は背もたれをまたいで前の座席に腰を下ろした。

 

「ルッカ、速度を落としてくれ。もう大丈夫だ」

 

 シルドラ号は最高速度を維持していた。それは船にも乗組員にも負担がかかる。

 ルッカは(かじ)を手が白くなるほど握りしめて、まっすぐ前を見つめ続けていた。

 それでも俺の声が届いたのか、かくかくとうなずいた。少しづつ船の速度は落ちて、風切り音が止む。

 

 その静けさでようやく、自分のなかの緊張が解けるのがわかった。

 本当に危ないところだった。

 

「おいフロスト。どういうことだ。なんでアイツがここにいる」トールが言った。

 

 アイツとは当然、ジャンヌのことだろう。

 そんなこと俺が知るものか。

 そう言いたいところだが、それでも何かしらの答えを出さないといけない。

 俺は目をつむり、少し考えてから口を開いた。

 

「……ジャンヌがクルザスの西部高地で自爆したとき、あいつはルッカの地図を持ったままだった。きっとそれを見てここまで来たんだ」それにジャンヌは、俺たちの行き先を知っていると言っていた。

 

「う、うそ」ルッカが声を震わせた。「あれは簡単には読み取れないはず……星見の知識や、計算術が使えないと……」

「分かってる……手引きしたやつがいるんだ。ジャンヌを助けたやつだろう。それに俺は、ジャンヌが姿を現したときに、それらしいやつを見た」

 

 トールがふいごのように息を突くと、うんざりした様子で言った。

 

「ようするにだ。宝を狙うかぎり、()()とまたかち合うってことか」

「そうだ……そう思っていた方がいい」俺は言った。

 

「むりだよ……そ、そんなの」

「ま、まいったね。あれは勝てないよ……」

 

 ルッカとココルが力なくそうつぶやいた。

 

「……フン。どうするつもりだ?」

 

 トールが眉根を寄せたまま俺を見た。

 俺が答えようとしたところを、バサバサという羽音に中断させられた。

 

「おぉいッィ! 無事だろうなッァ!?」

 

 サヌワの背に乗ったひとりのバヌバヌ族が、手綱を繰りながら風に負けないように声を張っていた。

 

「その喋り方……ゾルバリか!」俺は座席に立ち上がり、同じように声を張って答えた。

「ぁあッァ?! 見りゃわかんだろんがッァ!」

「女神かと思ったぜ! 本当に助かった! 他のヅンドたちは無事か!?」

「ヅンドの民はそこまでヤワじゃねぇよッォ!」

 

 ゾルバリはあきれたように肩をすくめると、続けて言う。

 

「サヌワたちが妙に騒ぐモンでよォ……様子を見に来たんだがァ……なんなんだッァ!? あの化け物はッァ!」

「あれは……あれは俺たちを狙ってる」

「ムッゥ……」

 

 ゾルバリは少し迷った素振りを見せて、それから(くちばし)を開いた。

 

「客人……本当にすまない……ッ! あんな化け物に狙われているものを、一族と一緒にはおいておけねぇッェ! どうか、どうか雲海を離れてくれッ!」

 

 ゾルバリが、俺たちを(あん)じてくれているのがよく分かった。

 仲間たちからも、あきらめの様子が見て取れた。

 

 だが、冗談じゃない。ここまで来るのに散々チップを積んだんだ。ちょっと強い手をチラつかせられたと言って、そう簡単に引き下がるわけにはいかない。

 

「ゾルバリ! 依頼全部果たせたわけじゃないが、今すぐ風脈を教えてくれないか!?」

「そりゃ構わないぜッェ! 雲海を出るんだなッァ!」

「いや、宝の場所に向かう。すぐにだ!」

「なにッィ!? あの化け物はどうする気だッァ!?」

 

 俺の言葉に、ゾルバリが驚いた声を上げる。

 

「ちょ、ちょっとフロスト!?」「さすがに無茶だよ……」

 

 ルッカとココルも、焦ったように言う。

 トールがのっそりと体を起こして、俺を睨んだ。

 

「フロスト。なにか策が、あるんだろうな」

「……ある。乗るか降りるかは、全員一致したらで構わない」

「フン。言ってみろ」

 

 俺は仲間をぐるりと見回してから、()()を指さした。

 

「簡単だ。()()()()()()()()()()()。それで(しま)いだ」

 

 この雲海はアバラシア山脈のはるか上空だ。

 あいつがどんなに強くても関係ない。翼を生やさなかったのが運の尽きだ。

 

 

────────────────────

 

 

「なぁココル、おまえあれ使えないのか? 魔物を吹き飛ばす魔法。あったろ」

 

「もしかして"アクアオーラ"のこと? あれは幻術士の術だし、もう使ってるやつなんていないよ。そうだトール! あれあるじゃん! 鎖みたいなエーテルで敵を引っ張る技!」

 

「"ホルムギャング"をそういう使い方をしてたのは、ずっと前の話だ……それより、シルドラ号で体当たりするのはどうだ? 全員乗っかってたら重さは十分だろ。どうだ(ネェ)ちゃんよ」

 

「船首を改造すれば……ダメ、そんな時間ないよ。ねぇフロスト、ホントに大丈夫……? さっきから囮だとか自爆だとか、ろくなアイデアがないと思うんだけど」

 

「しょうがねぇ出たとこ勝負だ。ルッカ。おまえももう冒険者なんだ。覚悟を決めろ」

 

「はいるパーティ間違えたかな……」

 

 

────────────────────

 

 

「……ホントにここか?」

「なんにもないね」

 

 俺は周囲を見回しながら言った。

 俺たちがシルドラ号から降り立ったのは、小さな浮島だ。

 ココルのもらした感想の通り、なにもない。

 雲海の空中にぽかんと浮かぶその島の上部は、切り取ったように平面になっていた。膝下ぐらいに草がぼうぼうと伸び、縁に向かうにつれて背が高くなって木が生えている。

 円くひらけたその場所は、ウルダハのコロシアムを思い出させた。

 

「……ううん、間違いない」ルッカ数字が書き込まれた紙と小型の羅針盤のようなものを見比べながら言った。「時間も、方角も一致してる……ここが、目的の場所」

 

 この浮島は、周囲の大きな島の影響を受けてゆっくりとアバラシア雲海全域を巡っているらしい。

 よく見たって何の変哲もない小島だ。なにも知らなければ見かけたって無視されるだろうし、地図が解読できなければたどり着けもしない。

 宝を隠すにはうってつけの場所ということだ。

 だが、俺はもっと遺跡のようなものを想像していた。少し拍子抜けさせられた気持ちになっていた。

 

 俺はルッカにうなずいてみせ、草木でシルドラ号を覆い隠す作業をする仲間に声をかける。

 

「時間がない。とにかく、探してみるぞ。罠もあるかもしれない、妙なものがあったら俺に言うんだ」

 

 俺たちはぐるぐると渦を描くように周囲から探索し、それを見つけたのは島の真ん中だった。

 

「クソッ、まさか真ん中にあるとは思わねぇよ」

「大抵は端っこで見つかるんだがな……まあいい。どんな様子だ」

 

 あったのは薄汚れた箱だ。

 無機質な材質のそれは、半分土に埋もれて草に覆われていた。あると思って探さなければ気付くことはないだろう。

 

「ちょっと離れててくれ。爆弾でも仕掛けられてたら厄介だ」俺は仲間に手振りをしながら言った。

 

 俺は箱に慎重に近寄り、よく観察する。目に見えるような魔力はない。耳を寄せて、箱に触れる。そっと蓋を動かす。蝶番がきしむ以外に、仕掛けがあるような音も感触も感じられない。

 わずかに開いた隙間から、かび臭い空気がもれた。火薬や毒のような匂いもなし。罠はない。たぶん。

 

 俺は思い切って、そっと蓋を開けた。

 

「…………そ、そんなバカな」

 

 俺は箱の中身にがく然とした。

 どんなに目をこらしても、箱は()()()だった。

 

「なにしてる……フロスト」

 

 うしろでトールが声を上げた。

 箱の中は俺が壁になっていて見えないのだろう。

 俺は歯を食いしばって、かび臭い空の箱をにらみ続けていた。

 ありえない話じゃない。宝の地図なんてある時点で、すでに荒らされていることは十分考えられる。

 

 いや、諦めるには早い。きっと見逃したにちがいない。

 もう一度、周囲をくまなく探すんだ。

 

「聞こえねえのかフロストォッ!! こっちに来いってんだ!!」

「ぉおッ!?」俺はトールの怒号に飛び上がりそうになった。

 

 俺はすぐに顔を上げて、()()を見た。

 

「これは、ま、まさか……!」今度こそ、俺は目を見開いた。

 

 俺は以前ルッカが言っていた言葉を思い出していた。地図に書かれているのは鍵のありかだと。

 

「ま……ま……」

 

 ココルの震えた声が聞こえた。それがなにか知っているんだろう。

 俺とココルはほとんど同時に叫んだ。

 

「「”魔紋”きたぁーーー!!」」

 

 宝箱の真上の空間に、渦を巻いてねじれる()が開いていた。

 

 

────────────────────

 

 

 正確には”転送魔紋”。そう呼ばれている。

 古ぼけた地図を解読し、その場所にたどり着いたときに現れるという。冒険者のあいだでは有名な噂だ。

 転送された先で得た宝ひとつで、屋敷が建ったなんて話もざらに聞いた。

 ただし、実際に遭遇したなんてやつは見たこともなかった。眉唾な話だと、そう思っていた。

 

「まっもぉぉおおん!! うおぉぉおん!!」

「ふぉぉーーーー!! ふぁぁーーー!!!」

 

 そんな事情を知っている俺とココルは、テンションマックスだ。

 

「や、やっぱり宝物殿アクアポリスかな! ひょっとしてウズネアカナル!? 早く早く!」

「よし入ろう、早く入ろう、俺から入る!」

 

 俺は駆け出したが、後ろを掴まれて前に進まない。足が空回りした。

 横で空中にぶら下がったココルが、同じように手足を振り回している。

 

「良いぞ。ジン。そのままその馬鹿共を放すなよ」トールが斧を肩に担ぎなおしながら続けた。「おい、(ネェ)ちゃん。どう思う。これは平気なやつか?」

 

 ルッカはおそるおそる魔紋に近づき、それから足下の箱の方をのぞき込んだ。

 

「待ってね。箱のほうに術式が刻んであるみたい…………なるほど……これは、大丈夫。そんなに複雑なものじゃない」

「どういう代物だ」

「肉体をエーテル体に変換して、目的地に運んで肉体を元に戻す。それだけの記述」

 

 ルッカはわくわくした顔で、箱と魔紋を交互に眺めた。

 

「体を、エーテルに変換だと? おい。物騒に聞こえるぜ。大丈夫なのか」

 

 トールが眉をひそめて魔紋を睨んだ。ルッカは大丈夫、と言って箱に刻まれた模様を指でなぞっている。

 

「冒険者ならテレポは知ってるよね? それと原理は一緒。むしろ地脈で経路が枝分かれしてない分、安全だよ。私でも問題なさそう。それにしても、すごい精度……!」

「……石の中に放り込まれたりしねえだろうな」

 

 テレポはそれなりにエーテル量や熟練が必要な魔術だ。俺のような手練れの冒険者でもそうぽんぽん使えるものではない。俺たちはよほどのことがないと限り、足や乗り物を使って移動していた。

 

「でも動かしたりはできないみたい。一度開いてしまったら閉じれないし、誰でも使えちゃう……」ルッカは心配そうに言った。

「つまり。ジャンヌどもに追い付かれるかもしれねえ……か」

 

 トールはぎょろぎょろと目を動かして、俺たちの顔を順番に眺めて、それから口を開いた。

 

「……まあいい。入らねえって選択肢は無さそうだな。俺から入るぞ」

「な、トール! 俺の宝を横取りするつもりかぁ!? そうはさせねぇぞ!!」俺は言った。

「あわわ、伝説の宝物庫が見れるなんて……! も、もう我慢できない! 早く入れてよ!!」ココルもわめいた。

 

 慌てて走り出そうとしたが、足は空回りする。

 ココルも空中で手足をバタバタさせた。

 

「……俺は”守り手”だぞ。仕事をさせろ」

 

 そう言ってトールが転送魔紋に手をかざす。トールの体は光に包まれ、それから一瞬で姿を消した。なるほど、テレポと同じような現象だ。

 

「急いで続くぞ」俺は言った。「アイツ宝を隠す気にちがいない」

「そんなことないと思うけど……」

 

 ルッカが後ろでそんなことを言ったが、トールがうずうずしていたのは俺にはわかった。

 俺は転送魔紋に近寄り、手を伸ばした。

 

 

────────────────────

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………ちがう。アクアポリスじゃない……」

 

 全員が絶句するなか、ココルのつぶやきが響いた。俺たちが転送された場所は、広いエントランスのようになっている。

 

「アクアポリスでもウズネアカナルでもない……」

 

 ココルの言う遺跡の名前は知らないが、ここがそれらじゃないことは俺にもわかった。

 見覚えのある意匠だ。エオルゼアの冒険者なら一度は目にしたことがある。

 おまけに天井からすり切れた音声で、同じ文言を繰り返しているのが聞こえていた。

 

『……保管んん庫でおおお働きのみみみなさま。本日も気温うう、湿度ともにせせせ正常範囲です。んんーーそれではは三箇条をご唱和願いいます。

 ()()()()()()()!!

 ()()()()()()()!!

 ()()()()()()()!!

 それでは今日もうごごご安全ににに』

 

 仲間たちは口をぽかんと開け、音の鳴る頭上に目を向けていた。

 俺も同じように白目をむきながら、ひとり悪態をついた。

 

「……クソッタレめ。ろくなことにならねぇぞ」

 

 

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