FF14 異聞冒険録   作:こにふぁ

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会話ばかりになってしまいました。ギラバニアに行こうってだけで終わってます。
 


1−2

 

「わかった、悪かった。イシュガルドにいた”占星術士”と、そのシャーレアン式の”占星術師”ってのは別物で、占星術師はれっきとした癒し手なんだな」

 

 ぎゃんぎゃんとわめくココルの話を要約するとそういうことらしい。

 ルーツの違うものでも、同じ名前で呼ばれるってのはよくある話なんだろう。”機工士”と”機工師”だって同じことだ。

 

「もっとちゃんとあやまれ! ココは傷ついたぞ!」

「前にも言ったが癒し手ってなら言うことはねぇ。それより、ソウルクリスタルは肌見放さず持っておけよ」

 

 俺はココルの文句を無視して言った。

 大事なことは早く伝えておかないといけない。 

 ソウルクリスタルは一般的には武技や魔法の使い方が込められたクリスタルだ。うっかり忘れて戦場にでたら大変なことになる。

 

「わかってるよ。フロストはどうしてる?」

「ほれ」

 

 俺は新しくあつらえたばかりのガンナーコートの首元をひっぱり、細い鎖を取り付けたクリスタルを引っ張り出してみせた。

 手癖の悪いやつはどこにでもいる。うっかり人に盗られるわけにはいかないから、念には念をいれないとな。

 ココルは目を何度かぱちぱちさせたあと、口を開いた。

 

「それ自分で作ったの?」

「ああ、いいだろ。欲しいか?」

「ううん、そこまでしなくていいや」

 

 そう言ってココルは自分の服の中にもぞもぞと手を突っ込んだ。服の内側にポケットでもあるのだろう。

 俺は肩をすくめてみせたあと、ココルのグラスにワインをどぼどぼと注いだ。

 

「それで”占星術師”ってのは何ができるんだ? ただの占い師じゃないってとこ聞かせてくれ」

「占い占いって……占星術は立派な学問なんだぞ。イシュガルド式の占星術だって寿命の長いドラゴン族の活動周期を星の巡りに合わせて統計的な……」

「”シャーレアン式”のほうから頼む」

「もう、わがままだな」

 

 ココルはやれやれという風に首をふる。ぶっ飛ばすぞコイツ。

 

「ふっふっふ! ココが学んできたシャーレアン式の占星術は、”癒しに特化した魔法体系”だ! そもそも占星術の名の通り、星読みの技術に由来するんだ。見てよこの天球儀!」

「そもそもはいいから、何ができるかを言え」

「古来から人は星の運動に運命を重ねてきた。星が方角や季節を示す絶対的な指標であることがそうさせたんじゃないかな! 海の上の船乗りたちが、麦を育てる農民たちが、星に運命をたくすのは自然な流れだとココは思うね!」

「……そうっすね」

 

 俺は息をひとつ吐いて、手元のグラスになみなみにワインを注いだ。

 ついでにココルの前に置いてあるグラスにもいれてやる。

 

「星読みに加えてもうひとつ、占星術師たらんとしているのが、6つの星座を象徴して描かれたこのカード──”アルカナ”だ! かぁっこいいだろー! きれーだろ!」

「うんうん、きれいきれい」

 

 ワインを光にかざすと鮮やかな赤がゆれた。

 まさしく宝石もかくやといった美しさだ。

 

「基本的には不変である星座とは対照的に、無作為に選ばれるカードは確率に支配されるものだよね。でも人が確率の示す結果に運命をたくすのは……ひひ、言うまでもないよね、このギャンブラーめ!」

「そうそう、確率ね確率」

 

 そうだ、ワインとの出会いは確率に支配されていると言える。銘柄だけではなく、製造年月や保存状態の違い、同じワインは一本だって存在しない。

 そして偶々(たまたま)、このワインが開封される瞬間に立ち会ったのが俺なのだ。

 

「星座とアルカナ、座標と確率。このふたつをかけ合わせることによって、人の運命を正確に知ることができると考えたんじゃないかな。そして実際に星とアルカナは魔力、つまりエーテルとの結びつきが見出されて、より魔術的な分野に発展し──!」

「それそれ、運命だな運命」

 

 まさしくこの出会いは運命と言えるだろう!

 俺は胸をわくわくさせながら、グラスにそっと口をつけた。

 

「星座から己の”門”を開いてアルカナによって運命を引き寄せる! そうすなわち! 大宇宙のパゥワぁー!!」

 

 うっ、美味い……!! これは上等な代物だ!!

 

「でね! でね! ……おい、ちゃんと聞いてんのか?」

「聞いてる聞いてる。パゥワーだなパゥワー」

 

 ワインは力強く、しっかりしたボディだ。そう、例えるなら、王族の出自でありながら女であることも隠して海賊に身をやつしたおかしらのような、たくましくも高貴な雰囲気をこのワインは持っていた。

 

「…………それでね、パルスのファルシのルシがパージでコクーンなんだよ」

「うんうん、パージはやべぇよパージは──ぎゃあッ!?」

 

 痛みによって空想から現実に引っ張り出され、俺は額に刺さったカードをテーブルに叩きつけた。

 カードの絵柄は”(とう)”だった。

 

「なにすんだてめぇッ!!」

「ぜんぜん聞いてねーだろ!! 聞け!!」

 

 俺は掴みかかってきたココルの頬を引っ張って押し離す。

 

「ふざけんな! 好き勝手喋りやがって! 術の効果だけ教えろってんだよ!!」

「かーっ! ロマンのわかんねーやつだな!! それでも冒険者か!」

「知るか! 壁にでも話してろ!!」

「ぶん殴るぞ!!」

「──なにを馬鹿騒ぎしてやがる。みっともねえな」

 

 不意に耳に飛び込んだ野太い声のほうに俺とココルが目を向けると、分厚い”壁”が立っていた。

 

「あ! トール!」「トール。やっと来たか!」

 

 俺たちがトールと呼んだ壁は、ルガディン族の大男だ。

 ワインの透き通った色とは程遠い、錆びた鉄のように赤く灼けた肌で、錆びた針金のようなひげを生やしている。

 トールは背にかけていた大ぶりな戦鎚を外し、頭の方を床に置いた。以前アラグの遺跡で手に入れた逸品だ。トールは”斧術士”だが、戦鎚も両手斧も、使い勝手はいっしょらしい。

 

「フン。遅くなっちまったが、これでそろったみてえだな」

 

 トールはそのまま手近な椅子を引き寄せてどかっと座った。

 

「いや、ジンのやつがまたふらふらと…」

 

 そこまで言って、俺はトールの影に隠れていた、のっぽの存在に気づいた。

 

「ジン。なんだ、トールと会ったのか」

「ああ。市場の辺りにいた」ジンのかわりにトールが答えた。「怪しげな商人に捕まってるのを見かけてな、引っ張ってきた」

「商人?」

「たぶんな。顔は隠してたが、でかい荷物を背負ってるみたいだった。俺と同じぐらいの体格だったが、声をかけたらサッサと逃げていったぜ」

「ふぅん」

 

 顔を隠していると聞いて、俺は黒仮面の男を思い浮かべた。

 だがこのあたりでトールと同じような背格好なら、ルガディン族で間違いないだろう。顔を隠したい人間なんていくらでもいる。気にするまでもないか。

 俺はテーブルに両肘を付けておそるおそる聞いた。

 

「戦鎚をちゃんと持ってるところを見ると……おまえは予定通りリムサ・ロミンサに行ったんだな。そうなんだな?」

「ああ? そう言ってあっただろうが。良い修業になったぜ」

 

 トールはそう言うと、微妙な表情で口をもごつかせた。

 

「”戦士”のクリスタルは、無理だったがな」

「そうか。ま、しかたないだろ」

 

 そんなに簡単に貰えるものとは思っていない。

 そもそも大衆向けのギルドと違い、黒渦団はリムサ・ロミンサの軍隊といえる存在だ。軍属でない人間に簡単に技術を渡さないはずだ。

 逆に占星術師は、広く伝えるためにイシュガルドに現れたらしい。それでクリスタルをもらえたのだろう。

 

 そう言おうと思ったが、トールは不敵な顔で体を揺らしていた。

 俺が怪訝な顔を向けると、

 

「フッ、”戦士”のは、って言っただろう?」

 

 トールはそう言って懐からキラリと光る小石を取り出した。

 

「そ、それは……!?」

「フッフッフ。聞いて驚けよ。こいつは──”()()()()()()”のソウルクリスタルだー!!」

「ヴァ、ヴァイキングだって──!?」俺は驚きの声をあげた。

 

 ココルが目を見開いてトールと俺の顔を何度か見比べたあと、俺に言った。

 

「知ってるの? フロスト」

「いや、知らん」

 

 とりあえず驚いてみただけだ。聞いたこともない。

 俺はボトルのコルクを外してトールと、驚いた顔でトールの持つクリスタルを眺めているジンのためにワインを注いだ。

 

 トールは不敵な顔を崩さず、椅子にふんぞり返った。

 

「フン、お前らが知らねえのも無理はねえ。コイツは”新大陸”の技術だからな」

「新大陸ぅ?」

「ココは知ってるよ!」

 

 ココルがワイングラスを持った手を振り上げ、勝手に喋りだした。

 

「”新大陸”はここからはるか西方にある大陸さ。リムサ・ロミンサの名物提督が、若いころに航路を開拓したんだって」

「ああ、”マムージャ族”の故郷か」

 

 マムージャ族は、ラノシアの方でみかける爬虫類に似た顔の種族だ。その多くが傭兵を生業にしている。

 

「あと伝説の”黄金郷”もそこにあるって」

「ほぅ……詳しく聞かせてもらおう」

「”新大陸見聞録”って本に……んん? このワインすごい美味しいね」

「おい。後にしろよ」

 

 俺が黄金郷について追求しようとしたところを、トールがさえぎった。

 

「悪いな。バイキングだっけ? 続けてくれ」

「フン……”ヴァイキング”はその新大陸の、海の民と言える戦闘集団だ。見ろ。これがそのソウルクリスタルだ。もとは移民らしいそいつらは、過酷な大地や現地の敵性存在に悩まされたらしい」

「へぇ……これが」

 

 俺はトールから受け取ったクリスタルをしげしげと眺めた。

 

「だが! そいつらは勝利に貪欲だった! 体を蝕むはずの強力な大地のエーテルを、敵が操る未知の技を、あえてその身で食らって取り込むことで強引に適応した!」

 

 トールは拳を振り回しながら熱く語っている。

 俺は息を飲み込んで、手に持ったクリスタルをココルに手渡した。

 

「時には荒々しい火の山の熱を、ときに草原の獣の俊敏さを、その身に降ろして戦ったそうだ! まさに、力づくのシャーマニズム! すなわち! 大自然のパワァアアア!!」

「それ好きだな。おまえら」

「ココのほうが規模がおおきいね」

 

 ココルはクリスタルをじろじろと眺めながら、よくわからない張り合いをした。

 熱弁でふうふうと息を切らしながらワインをぐびぐび飲んでいるトールに、俺は言った。

 

「すごいじゃないか。どこで手に入れたんだ? このクリスタル」

「ああ。リムサ・ロミンサのあたりにソウルクリスタルを売り歩いてる術師がいてな」

「うっ、売ってたのか……」

 

 そんなことが周囲に容認されてるとすれば、ソウルクリスタルに対する認識をあらためる必要がある。

 なにか新しい金もうけに使えそうだ。

 

「売ってたのは赤だか青だかそんな魔法のクリスタルだったんだが、俺は前衛向きのクリスタルを持ってないか聞いてみたんだ。最初は無いって断られた」

 

 トールはニヤニヤともったいぶった顔で両手を前に出して言う。

 

「怪しい雰囲気だったからな。少し強めに問い詰めてみたんだ。そしたら、『あなたの熱意には感服した! これは売り物にするつもりはなかったが……持っていきなさい。お代はいらない』なんて言われてな。ぐは、ぐははははッ」

 

 トールはそう言って誇らしげに笑った。

 俺は一度、落ち着いて息を吸って吐いた。

 

「良かったな……それで、どんな技が使えるんだ?」

「それがな、術師が言うにはしばらく持って歩く必要があるそうだ。俺自身とクリスタルと大自然の波長を合わせるのに、時間がかかるらしい」

「っ……なるほどね」

「フハハハ! まあ待ってろ。そのうちすげえ技を見せてやるぜ!」

 

 ガハハハ、とさらにトールは豪快に笑った。

 ココルがジンにクリスタルを手渡すと、難しい顔で俺の服の袖を引いた。

 

「ね、ねぇフロスト」

「ん?」

 

 ココルは俺にだけ聞こえるよう小声でささやいた。

 

「トールの、あれさ」

「あぁ」

 

「ただの”()()()()()()()()()()”だよね……?」

「ッ……あぁッ……」

 

 俺は必死に笑いをこらえながら言った。

 そのとおりだ。なんの変哲もない、ただのウォータークリスタルだ。

 小さめに砕かれた、ただの水属性エーテルの結晶だ。

 もう少し削って磨くなりすれば、ソウルクリスタルっぽく見せかけられるのだが、それすらしていない。

 

 間違いなく、その術師とやらに体よく厄介払いされただけだ。

 というか売り物のソウルクリスタルだって本物かどうか怪しい。

 

「どうする? 教えないの?」

 

 ココルが小声で続けて言った。

 騙されたことを教えるかどうか、か。

 俺は大きく息を吐いて呼吸をととのえた。

 

「おもしれぇから、しばらく黙ってようぜ」

「いひっ……そうだね」

「ガハハハハハハ!! あっ、おいジン。なに仕舞おうとしてんだ。俺んだぞ」

 

 ジンからクリスタルを奪い返したトールはそれを指でつまみ、海で拾ったガラス玉を宝石と思い込んでいる少年のような瞳で眺めていた。

 ()()()もなにも、まるっきりその通りだ。

 

 

────────────────────

 

 

「さて、バカ話はこのへんにして、これからの話をするぞ」俺はテーブルの上の料理が片付いてから、周りに聞かれない程度に声を落として言った。

 

「俺たちの当面の目的……それはルッカを生き返らせることだ。そこはいいな?」

 

 ルッカは俺たちの仲間だ。しかし前回の冒険でその肉体を失っている。

 トールとジンはうなずいていたが、ココルは首を横に振って口を開いた。

 

「ちょっと待って。正確には生き返りじゃない、肉体を再生して、魂を移すことだよ」

「……? 生き返りと何が違う?」

「同じことじゃねえか」

 

 俺とトールは顔を見合わせてからそう答えた。

 ココルはあたりをキョロキョロと見回しながら言った。

 

「魂と記憶が保持されてるっていう大きな違いがあるんだよ。これについては……良い知らせと悪い知らせがある」

 

 ”魂と記憶の保持”。ココルの言う通り、ルッカの魂と記憶は散らずに、クリスタルの中にある。

 俺はその時の光景を思い浮かべ、服の上からそっとクリスタルに触れた。

 

「”良い知らせ”から頼む」俺は言った。

「言っておくけど、良い知らせと悪い知らせはセットだ……まず魂の移動。これには”前例”の噂がいくつかある」

「そりゃあ」

「良い知らせだな」

「……前例のひとつは、”アラグ帝国”にいた魔術師だ。”ノア”って名前は聞いたことあるんじゃないか? その魔術師は自分の魂を魔器に封じて、時代を超えて蘇ったらしい」

「チッ………アラグかぁ」

「悪い知らせとセットってのは、そういうことか」

 

 俺とトールは同時にぼやいた。

 アラグ帝国とはずっと昔に滅んだ国の名前だ。

 非常に高度な文明を持っていたが、倫理観がぶっ飛んでいた。古代の遺構でろくでもないことが起きたときは、だいたいアラグのせいだ。

 ノアという名前も聞き覚えがある。たしかどこかの研究組織の名前にもなっていたはずだ。

 

「そしてもうひとつの例が、天使い”アシエン”」

「アシエン……!」

「あの仮面野郎のことだな」

 

 以前アラグの遺跡であった黒仮面の男だ。

 そもそもアイツが現れなければ、竜に変化した人間に追われることも、ルッカがあんなことになったりもしなかった。

 

「アシエンは、ずっと昔から争いごとや蛮神召喚の影に目撃されていたらしい。複数のアシエンもいたっていう謎の存在なんだけど……その特徴に”不死”であることが知られてる」

「……そんな馬鹿な」トールが小さく毒づいた。

「ただの不死じゃなくて、肉体を取り替えているらしいんだ。まさしく、魂の移し替え。移し換えには近くの死体を使うらしいんだけど、より高位のアシエンは生きている人間も乗っ取れるって」

「なんなんだ、そいつら……」

 

 世の中不思議なことなんていくらでもあるが、これはとびきり奇妙な話だ。

 そこまで異常な存在だとは思っていなかった。

 それに、”高位”のアシエンか。アラグの遺跡で会ったアシエンも、誰かの名前を呼んでいた。ひょっとすると、それが高位のアシエンの名なのだろうか。

 

「それにしても、驚いたぞ。どこでそんな話仕入れてきたんだ?」

「アシエンのことは、グリダニアで”召喚士”のことを聞いてるうちにね。ノアについてはさっき店の外でミコッテ族のおねえさんに聞いたよ」

「ミコッテ族? よし、俺もちょっと聞いてくる」

「もうココが聞いたってば!」

「少しは真面目にしてろ!」

 

 俺は席を立ち上がろうとするも、ココルとトールに押さえつけられた。

 トールは俺から手を離すと、難しい顔で口をひらいた。

 

「アラグにアシエン……なるべく関わり合いになりたくない連中だ。おおっぴらに情報を集めるのも難しそうだぜ」

 

 アラグやアシエンの技法を使いたいだなんて、口にしただけでも牢屋行きになりそうな話だ。

 

 だが、良い知らせであることも確かだ。

 前例があるのとないのでは、天と地ほどの差がある。

 

「とにかく、魂の移し替えはありえるってことなんだけど……問題は肉体が失われていることだよ」

「体は埋めちゃったしなぁ」

「取っておけば良かったぜ」

 

 ひどい会話だ。とても他人に聞かせられない。

 だが事実、ルッカの肉体はひどく傷ついていたし、状態をとどめておく手段もなかった。

 

「そういうわけでココたちは、”肉体の再生”をなんとかしないといけない」

「よくそこまで調べてくれた。肉体の再生については、ひとつあてがある」

 

 俺はそう言ったあと、仲間を一度見回した。

 

「俺はドラヴァニアで調べ物をしていた。シャーレアンの植民地にあった図書館だ。俺は魔術の方はさっぱりだからな、伝承や神話のほうからあたっていた。とくに死者の蘇生に関わる話だ。

 さまざまな種族が信奉する”神”についての本もあってな、その中に再生に関係していそうな神を信奉する種族があった……”()()()()()”だ」

「アナンタ族?」

「ギラバニアに住む半人半蛇の獣人種族だ。かなり変わった人種みたいだ」

 

 "ギラバニア"とはここから東に位置する地域だ。ギラバニアへの国境は長く封鎖されていた。

 トールが目をつむって一度うなった。

 

「なるほど。確かに蛇っていったら強い生命力の象徴だ。頭を潰しても平気で動くからな。だが……それでどうするつもりだ?」

「あぁ、俺はな、その種族のところに行って──ちょっと蛮神を呼んでってお願いして、ささっとルッカの肉体を再生してもらっちゃおうかと思ってる」

 

 トールがずるずると椅子に沈み込んだ。

 

「…………”あて”って、それか? おいココル、どうなんだコレ」

 

 呆れた顔でトールが言った。

 ココルは腕を組んで難しい顔で口を開いた。

 

「うーーん……できないわけじゃない、とは思うよ。魂と肉体のむすび付きは強力だ。前にも話したけど、魂の変異は肉体に影響を及ぼす。逆に言えば、正常な魂があれば、それをもとに正常な肉体を作れる、と思う……」

 

 思ったよりも前向きな意見がでて、俺はトールの背中を叩いた。

 

「どうだ、いけそうじゃねぇか」

「……俺が気にしたのは”お願いしちゃおう”ってとこだ。そんな簡単に余所者のために蛮神を呼ぶとは思えねえぞ」

「そこはほら、"冒険者"らしくいこう。依頼を受けて、信頼を勝ち取ればいい。肉体の再生に関する情報が得られれば、それはそれで良いんだ」

「そんな上手くいくかあ?」

 

 トールはほとんど白目をむくように、目を上に向けてうなった。

 

「それにギラバニアって、”ガレマール帝国”に占領されてるじゃん。危なくない?」

 

 そう言ったのはココルだ。

 軍事主義のガレマール帝国は、他民族への侵略を続けている迷惑な国だ。アラグほどではないようだが、高い魔導技術を持っている。

 ココルの言う通り、ギラバニアを領地とする国家”アラミゴ”は長く帝国の支配下にある。

 

「俺もそこは勘定にいれているさ。というのも……このあたりは、ずいぶん()()()が良くなっちまったからな」

 

 第七霊災という時代の終わりに、”英雄”たちの活躍でガレマール帝国の侵略を退けてから、ここエオルゼアの治安は良くなる一方だ。

 さらにイシュガルドにおける竜詩戦争の終結とともに国交も回復し、それぞれの国は以前より力を取り戻しつつあった。

 

 それはとてもいいことだ。

 理不尽な搾取も減り、勝手な争いに巻き込まれて傷つく人も減った。

 だが、俺たちのような無法な行いをしようとしている人間には、都合が悪い面もある。どんなに勝手な都合と言われても、俺たちにとっては重要なんだ。

 

「この辺の蛮族たちも、だいぶ大人しくなっただろ。動いているのは過激な連中ばかりだ。関わるにはリスクが大きすぎる」

 

 蛮神を呼んでもらってるところに、うっかり”英雄”でも現れたら目も当てられない。

 俺は続けて言う。

 

「そこで封鎖状態だったギラバニアだが……最近、黒衣の森の境目の城壁で、大事があったらしい」

「グリダニアは、その話でもちきりだったよ。なにか……()()()()()()()()()()が戦ってたって」

 

 ココルがそう漏らした。

 でっかいのが何なのかわからないが、その噂は俺も聞いていた。ガレマール帝国が新兵器でも持ち出したのだろう。

 

「あぁ。そのあと、三国とイシュガルドが組んだ連合軍がそこを制圧している。相当な人員と物資を送り込んでいるようだ……冒険者向けの仕事もあるに違いないぜ」

 

 三国とは砂都ウルダハ、森都グリダニア、海都リムサ・ロミンサのことだ。グリダニアは黒衣の森にあり、ギラバニアと隣接している。

 

 ギラバニアは荒涼だが広大な土地と聞く。帝国も、連合軍も目の届かないところがいくらでもある。

 無法地帯というのが、なんとも都合がいい。

 

「もちろん戦争に関わるつもりはない。帝国にいやがらせできる機会があれば、そうするけどな。どうだ──?」

 

 俺は仲間の顔を見回した。新しい土地には目がない冒険心だけは十分な連中の顔だ。

 そして意外に、仲間思いのやつらの顔だ。

 

「……決まりだな。まとめるぞ、俺たちは今日これからグリダニアに飛んで、明日ギラバニアに入る。アナンタ族と接触をはかって、肉体の再生についての情報を得る。あわよくば蛮神召喚してもらって、一発解決だ。戦争には介入しないが、路銀を稼ぐために依頼は受けていく。いいな?」

「うん、うん……うん? 路銀(ろぎん)って言った?」

「おい。なんで路銀が要る。金なら前回稼いだだろう」

 

 ……しまった。口を滑らせた。

 

「アラグの遺跡で得た宝は山分けにしたが、それでも結構なギルだったはずだぜ。しかもおまえはジンの分も持ってただろう」

「ココとトールは修行でお金使っちゃうけど、おまえらは減らさないようにするって話だったよね?」

「うあ、え……おまえら、グラスが空いてるな。ほら」

「お、さんきゅー! これ美味しいねぇ!」

「ううむ……ワインの違いは分からねえな」

「ワインは奥が深いからね! 値段もピンキリで高いワインは家が建つなんて言わ──ッッッ!!?」

 

 ココルは麻痺のブレスでも食らったように、グラスを持ったままびしっと止まった。

 トールは異常を察したようで、グラスとココルを交互に見ながら声を発した。

 

「……ココル。な、何とか言え」

「フ、フ、フロスト。おまえ、このワイン……いくらで……」

 

 俺はふところを探りながら、息を深く吸った。

 

「俺たちの経済状況とかけまして」

「……はあ?」

「なに?」

「未熟な呪術士と()きます」

 

 トールとココルは剣呑な目つきで俺を睨んでいる。

 

「…………」

「…………そのこころは?」

 

 

 俺はぺらぺらになった財布をテーブルの上に出して、衝撃に備えた。 

 

 

「どちらも算段(サンダー)が付いていません」

 

 

 飛んできた拳は甘んじて受け入れた。

 

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