FF14 異聞冒険録   作:こにふぁ

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2話続けて投稿しています。こちら後編です。
 
 


3−2:パールレーンでつかまえて②

 

 しばらく言葉もなく、足を進めた俺たちは、路地の行き当たりまでやって来た。

 見えるのは大きな石造りの建物だ。不明瞭に文字のかすれた看板があり、そのそばに入口がある。入口には見張りだろうか。若い男が、所在なさげに立っていた。

 ここにゾランが事務所として使っている部屋がある。入り口は裏口のようにも見えるが、この辺りは土地を節約する工夫がされている。要は、複数の建物が石壁を共有して、それぞれの部屋は独立している。

 そのせいで見た目には巨大に見えるが、実際にゾランが使っているのは1、2部屋だろう。

 

「やっと着いたか。ジン、お前はここで待っててくれ」

「ぜぅ」

 

 別にコイツを連れて入ってもいいが、何か聞かれてもおっくうだ。この事務所の近くで、面倒事を起こすやつもいないだろう。

 俺は入口への道を、塞ぐように立っている見張りをしている男を見る。声をかけようとして、そいつに見覚えがあることに気付いた。細目の、ミッドランダーの男。ジンとは違った、人を小馬鹿にするような笑みを浮かべている。

 

「……あれ? あんた、ゾランのとこの奴だったのか?」

 

 そいつは以前、ゾランから無茶な運びの依頼を受けた時に、ゾランの近くに立っていた男だ。荷物を受け取った際にも、こいつがいた。

 てっきり、ゾランの商売相手から送られた、お目付け役だと思っていた。

 そいつは俺に向き直ると、爽やかとは言えない笑みを、少し大きくして口を開く。

 

「……その件では、どうも。いえ、お察しの通りですよ。雇先が、どなたかのせいで無くなってしまい、途方に暮れているところを、ゾラン氏に拾って頂きました」

「へえ、そりゃ大変だったな。同情するぜ」

 

 俺は優しい言葉をかける。そいつの頬が少し、引きつるように動いた気がした。

 そいつは気を取り直したように、咳払いをして、言葉を続ける。

 

「ロドウィックと申します。お見知りおきを。……ゾラン氏にご面会ですか? そういった約束はお聞きしておりませんが」

 

 ロドウィックと名乗ったそいつは、糸のような目を少し開いて、胡散臭げにこちらを伺う。約束だって? するはずもない、面倒くさい。

 

「俺たちの仲だ、そんなものは要らないさ。通るぜ、あいつひとり?」

「……まあ、良いでしょう。あなた方のことは、彼もそれなりに信用しているようなので。ああ、扉はどうぞ、ご自分で開いて下さい。……こちらの方は?」

「……いい性格してるな、あんた。そいつは放って置いてくれ、噛み付きはしない」

 

 ロドウィックは、どうでも良いと言外に発して、入口への道を空ける。

 ちなみに俺とゾランの仲というのは、お互いの気にいるように行動するはずが無い間柄って意味だ。ゾランの信用ってのは、俺がゾランの期待に沿うはずがない、ってことを確信しているだけのことだろう。

 

 俺は重い金属の扉を押し開いて、中に入る。

 玄関や廊下などは無く、いきなり大部屋になっている。床は石だ。壁とつながっている。無骨に、敷物なんてものは無い。手前に、応接用の長椅子たちと、低いテーブル。奥に仕事用か、大きな机がこちらに向いている。机の背後には棚に物や本が、雑多に入れられている。

 目的のゾランは、奥の机に向かっていた。机の上には、筆記具や、書類の山なんかが置かれている。

 ゾランは羽根ペンを動かしながら、ちらとこちらを見て、机に目を戻す。

 

「……フロストか。貴様に付き合っている時間は、無い」

 

 ゾランは低い声で、唸るように言う。大型のネコ科の生物を思わせる姿をした、このロスガル族の男は、きっちりとした仕立ての良さそうなジャケットを身に着けている。

 背筋を伸ばして書類仕事をするその姿には、ちぐはぐな印象を受けた。

 俺は適当に、長椅子に腰を降ろして、ゾランに声をかける。

 

「忙しそうだな、()()()も借りたいってところか? ふはっ」

 

 俺は気を紛らわせてやろうと、冗談を言う。ゾランはくすりともせず、もう一度こちらを一瞥(いちべつ)して、机に置かれた別の紙に手を伸ばす。

 ……生ゴミでも見るような目だった。

 ちょっと話の入り方を間違えたようだ。俺は無視を続けるゾランに、話しかける。

 

 「……じ、冗談はさておき。なあ、今日中に報酬の出る依頼はないか? 手助けになるかもしれないぜ」 

「無い。用はそれだけか? 帰れ。……いや、待て」

 

 にべもなく断られて、諦めて立ち上がろうとしたところを、止められる。

 

「貴様。霊災直後だ、ウルダハに流れてきた男に、心当たりは無いか? 工具や、細工道具を持った、白髪(はくはつ)の若い男だ」

 

 何だよ、その情報。そんなので特定できるわけ無いだろ。

 霊災の後なんて、どこもゴタゴタしていた。ウルダハだって暴動が広がる寸前だったじゃねぇか。

 人の出入りがどれだけあったかも分からない。どんだけ該当者がいると思ってんだ。そんな情報で人探しなんてしてるのか?

 

「マルケズのことか?」

「知らないなら、良い。この情報は…………何だと?」

 

 ゾランは、ここに来て初めて顔を上げ、こちらをしっかりと見る。金色の瞳が、いつもより少し大きく開かれていた。

 その様子に、俺はちょっと気分を良くする。

 俺は記憶を掘り起こしながら、言葉を続ける。

 

「名前は、違ったかな。記憶が無いとか言って、神父が付けたんだったか……」

 

 俺が駆け出しの冒険者だった頃だ。東ザナラーンで、遺跡探索の仕事をしていた。ドライボーンの近くに寺院には、よく世話になった。あそこには冒険者が入れる、共同墓地があるんだ。

 その寺院に、そういうヤツがいた。壊れた装備を、直してもらったこともある。愛想はないが、親切な男だった。どこか悲痛な顔をしていたのを、よく覚えている。

 

 俺がそれを伝えると、ゾランは軽く顔をしかめてペンを置いた。フサフサのたてがみをワシワシと掻きながら、言う。

 

「記憶が無いだと? ……クソッ。おい。その男に、何か特徴は無かったか。……身体的な特徴だ」

「特徴? どうだったかな……」

 

 ゾランの声には、確実に唸り声が混じっていた。

 俺はマルケズの顔を、詳細に思い浮かべようとした。白い髪、白い髭。そのせいで少し年がいって見えた。でも実際には結構、若かったな。特徴的なゴーグルをしていた。一度だけ、そのゴーグルを外したところ見た。

 

「…………ああ、そういや。あいつの額の、このあたりにゃ──」

「ロドウィック!」

 

 ゾランは、俺の言葉を最後まで聞かず、外にいる見張りの男の名前を呼んだ。

 すぐに扉が開かれて、細目の男が顔を覗かせる。 

 

「お呼びでしょうか?」

「ルヴェユール家の小僧に連絡を取れ。……見当が付いたと」

「はあ、かしこまりました。お早い発見で、ご令息殿もお喜びになるでしょう」

 

 俺はあっけに取られて、2人のやり取りを眺めていた。

 ロドウィックは最後に、不気味なものでも見るように俺を眺めて、扉の向こうへ消えた。

 ゾランは机の上に積まれた書類の束を、手でまとめた。そして机の横に置かれた、くず入れにドサドサと放り込む。色々書き込んでいたみたいだけど、良いのか? 紙がもったいないぜ。

 ゾランは片付いた机の上に、片ひじを付き、疲れたように口を開いた。

 

「フロスト、大したことじゃない。気にするな。帰れ」

「おいゾラン、何を企んでやがる。マルケズは、犯罪者って風には見えなかったぜ」

「悪いようにはしない。……人探しだ、ただのな」

 

 悪いようにしないってのは、嘘じゃなさそうだ。だが、()()()って訳でもないだろう。……チッ。失敗したな。ゾランの反応が面白くて、つい全部喋ってしまった。

 今からでも、間に合うだろうか。俺は少しごねてみることにする。

 

「タダって訳にはいかないぜ。この情報、必要だったんだろ? んん? 情報屋のワイモンド辺りが、買ってくれたりするのかなぁぁあ?」

 

 長椅子にふんぞり返り交渉する俺を、ゾランは再び生ゴミを眺める目で見下ろす。本当に失礼な野郎だ。

 

「……ナル大門を出た橋の辺りだ。モンスターが沸いている。不滅隊が出払っていて、手が足りん。色を付けてやるから、退治してもらおう」

「……なんか、ずるくないか? ……まあいいか、分かったよ。前金は?」

 

 俺は長椅子から、立ち上がる。

 ゾランは既に机に目を戻し、新しい書類を手元に引き寄せていた。声だけを俺に投げかける。

 

「貴様に、前金だと? フッ、笑わせるな。行け」

 

 ゾランは鼻で鳴らす。俺は肩をすくめて、部屋を後にする。騙されている気もするが、良しとしよう。ちょうど、モンスターを狩りたい気分だったしな。

 マルケズに、良き出会いのあらんことを祈る。悪い出会いだったら、ごめん。

 

 

────────────────────

 

 

 ようやく、街の外へ出た。ここはナル大門から出て、街道沿いにしばらく歩いたところだ。後ろを見ると、遠くにだが、ウルダハの城壁や、貧民たちの天幕が見える。俺は両腕を持ち上げて、体を伸ばす。歩いているうちに、二日酔いは大分良くなっていた。冒険者の体ってのは丈夫なもんだ。

 

「おい、フロスト。あれが標的で良いんだよな」

 

 俺が体のあちこちを動かして、調子を確かめていると、トールが問いかけてくる。斧を肩に担いだトールが指差しているのは、全長2メートルほどの生物だ。

 黒い甲殻、頭部には鋭く曲がった顎と触角。大きく膨らんだ腹との間の胸部からは4本の足が生えている。アントリングと呼ばれるモンスターだ。皆、大抵はアリって呼んでいる。

 

「ああ、間違いない。こいつら、普段ここまでは来ないはずだ。……それに、この数だ」

 

 目に入るのは7匹ほどだ。大したこと無いと思うかもしれないが、巣からは離れているこの場所に、このサイズの生物が7匹もいるのは妙だ。

 それにこの辺りは隆起が大きく、切り立った崖が近くにあって、見通しも良くない。見えないところに、何匹いるか分かったもんじゃない。

 どこかで大量発生をしているのか、もしくは何かを追って、ここまで来たのか。

 

「うえ〜。ココ、あいつら苦手だ。あの足の動き……。早く終わらしちゃおうぜっ」

「……舐め過ぎだぜ。さらわれても知らねぇぞ」

 

 軽い調子で言うココルの言葉で、俺はランデベルトの言っていたことを思い出す。俺たちにはなんてこともない相手だが、武器を持たない一般人には為す術もないだろう。

 俺たちだって、油断はならない。多くのエーテル量を持っていても、身体の構造や構成物が変わるわけじゃない。

 

 話が変わるが、本当のところ、人が人を殺すのは難しくない。それが、子ども()冒険者であってもだ。俺たちはエーテルにより身体能力を強化するが、それは全て一時的なものだ。隙さえ取れれば、小さなナイフだって刺さる。

 だけど、()モンスターとなると勝手が違う。やつらはそもそも身体が丈夫だ。おまけにエーテルと血肉が混じり合って、常に身体強化をしている状態になっている。

 巨大になるほど、それは顕著だ。まるで、物理法則を無視するような動きをするようになる。

 これを人間が、それも少人数で殺すには、エーテルによる強化が不可欠だ。それをしないと、そもそも刃が通らない。俺たちは常に、身に余る威力を持って戦っている。

 つまり、冒険者のリスクはどんな時も一定にある。当たりどころであっさりと死ぬのだ。

 強大なモンスターを倒すことが出来るヤツが、武術を修めた()()に、ひどく苦戦することが、稀に良くある。

 

「ココル、お前は術士なんだから、特に気を付けろよ。トール、いつも通りに……ん?」

 

 黙って俺たちの後ろを着いてきていた、ジンが前に出る。そして緊張感のない笑顔をこちらに向けて、他とは少し離れたところにいる1匹のアリと、自身を交互に指差す。

 それを見たトールが、愉快そうな声を上げる。

 

「へえ。ジン。お前がやるってのか。フン、面白そうだ。フロスト」

「おい俺は、舐めるなって話を……。まあ、確かに腕は見といた方が、良いか。ジン、やってみろ」

「ぜぅ」

 

 ジンはにこやかに頷き、アリの方へ足を進める。

 実のところ、俺は全く心配していない。今日しばらくだが一緒に歩いたことで、コイツが一定以上の強さを持つことが分かっている。

 位置取り、視線、重心。どれも凄腕の気配がした。持っている細身の刀剣と良い、対人特化だろうか。

 いずれにしても、ヤバそうなら手を出せば間に合うだろう。俺たちは3人並んで、見物モードだ。

 

 ジンはスタスタと、無防備にも見える足取りでアリに近づく。

 アリは既に、鎌首をもたげるように、頭をジンの方に向けている。逃げようとはしていない。モンスターにとって、大半の人間はただの餌だ。ひとりの人間から逃げる訳もない。

 アリから5,6歩のあたりで、ジンが武器を、”刀”を抜いた。刀身が鞘を滑る音が、こちらまで聞こえた気がする。それほど、その刃には存在感があった。

 

「ありゃ、飾りたくなるのも、分かるな」

「だろ? ココも、ジンのを見るまで武器だって、頭から抜けてたよ」

 

 アリは警戒心を露にしている。ジンはアリから2歩の距離で、刀を頭上に構える。持ち手は、両手だ。そして、そのまま1歩を踏み込み、アリの頭部に刀を振り下ろした。

 

『ギィイイ!』

 

 アリが耳障りな鳴き声を上げる。体液が飛び散るのが、ここからでも見えた。

 どうしてアリが、避ける素振りすら見せなかったのか、俺には分かった。

 ジンはアリに到達するまで、全く速度を変えなかった。どんな生物も一緒だ、一定の刺激には感覚が麻痺してしまう。アリはジンとの距離を見誤ったのだ。

 あのローブ、ココルが言うには、”着物”という裾の長い服は、足運びを隠す意味もあるのだろう。

 つーか、コイツ、マジか。想像以上に、強い。モモディさんには、俺が鍛えたってことにしないと。

 

 ジンは振り下ろした刀の、返す刃でアリの足を切り裂いた。アリは再び悲鳴を上げ、のけぞるように後ろへ下がる。

 所詮はアリだな。そんな風に下がれば、踏み込んでくれと言わんばかりだ。

 当然、ジンはその隙を見逃さない。大きく飛ぶように踏み込み、斜めに刀を打ち下ろす。そして、勢いを殺さず体を回転させると、アリの頭へ刀を突き込んだ。刀はあっさりと頭部を貫通する。

 アリは二度三度、体を大きく痙攣させる。前足を掻くように振るが、すでに前足は切断されていた。ジンが頭部から刀を抜くと、アリはそのまま地面に崩れ落ちて、動かない。

 体液が、水溜りをゆっくりと作る。

 ジンは一度、地面を抱くアリに向かって、構えをとる。不意の反撃への警戒だろう。そして一歩下がると、刀を鞘へと仕舞った。

 

「ひぇ〜、やるじゃん」

「ああ。驚いたな。……おい、あいつ。見えてないのか?」

 

 ココルとトールが、感心したような声を上げる。

 ジンの使った技は、俺たちがエオルゼアの戦闘ギルドで学ぶ、”連撃”の動作と似たようなものだろう。

 エーテルの流れを殺さず、力を上乗せ出来るように工夫されているようだ。だけど、妙な感じだ。エネルギーを使い切れていないような、そんな雰囲気だ。

 

 ……いや、そんなことより、トールの言うとおりだ。あいつ、刀を仕舞ったのか? もう1匹来てるぞ? クソッ、何だコイツ。ド素人なのか凄腕なのか、どっちなんだ?

 離れた所で見ていたから、という訳ではない。アリ同士の距離を見れば、どいつがリンクしているかは分かる。

 ジンが1匹目のアリに切りかかった時点で、少し離れた所にいたアリが反応していた。普段チームワークをしていなくても、同族が戦っていれば、集まってくるのがモンスターだ。

 

 2匹目のアリはすでに、ジンの右手の方向、数歩の距離にいる。ジンの刀は鞘に納まったままだ。まさか、本当に気付いてないのか?

 俺は腰の短剣に触れ──、そこで手を止めた。

 ジンが、足幅を広く取り、左腰の刀を抱くように体を曲げた。右足をアリに向け、右肩を大きく下げる。左手は、腰の刀に添えているようだ。

 あれじゃほとんど、敵に背中を見せつけているような状態だ。俯いたジンの表情は、ここからは見えない。あれは、”構え”なのか?

 

『ギィアア!』

 

 同族の血に、興奮しているのだろうか。頭を高く上げ、顎をガチガチと鳴らしながら、真っ直ぐにジンに向かって突進する。もう何歩も無い。

 

「シィィッ!」

 

 大気を裂くような、鋭い声が耳に届く。ジンの声か。

 同時に、ジンの体が強く揺れるように動いた。

 アリは、壁に激突したかのように、ジンの目前で歩みを止める。そして、アリの体から突如として、細く、体液が吹き出た。

 それも1箇所じゃない。全身からだ。無数に吹き出した体液は、花が咲いたようにも見えた。

 ジンは体液を避けるように、軽くステップを踏み後ろへ2歩,3歩と下がった。刀は、鞘に納まっている。

 アリはまだ倒れていない。がたがたと体を揺らしながら、ジンに近づこうとしている。体液は最初の勢いこそ無いが、流れ出続けている。

 

 結局アリは、ジンに到達することも出来ず、地に伏した。あれだけ体液を失えば当然だろう。

 アリが動かないことを確認したジンは、そこでようやく俺たちに顔を向けた。無邪気な、どこか得意げな顔だ。くっ……アリぐらいじゃ、認めないぜ。

 

「はあー、今の見えた? 何したの?」

「さっぱり分からん。フロスト。どうだ?」

「……剣の軌跡ぐらいが、何とかな。鞘から抜いて、斬って、また戻したみたいだ」

 

 仲間たちがひたすら感心するのを見て、ちょっとムキになって、解説してしまう。

 トールは、ジンの方に向いたまま、ぽかんと口を開けている。

 

「……ふうん。何だそりゃ」

「さあな。ありゃきっと、速さ重視の技だ。断ち切るっつぅよりも、傷をたくさん与える。血やエーテルを流させて、体力を削ぐのが目的の技だ、と思う」

 

 アリはすぐに死んだが、力量差の現れだろう。実際には長期戦に向いている技と見た。だが、目的は分かるが、原理が分からん。何だあの速さ。

 そばまでやって来たジンは、トールとココルにちやほやされている。言葉が分からなくても雰囲気で分かるのだろう、頭に手をやってはにかむように笑っている。

 

 これなら、心配はなさそうだ。

 とっとと目につくアリを、倒して終わりだ。気が向いたら、潜んでいるだろうアリも探して、コンビネーションの動きも評価してやろう。

 場合によっちゃ、ゾランに紹介してやっても良い。適度にこき使ってくれるだろう。稼いだギルの10%が俺の取り分かな。それとも──

 

「……ッ? お喋りは終わりだ──構えろッ」

 

 俺の声に、トールとココルは、すぐに武器を構える。ジンも、俺の声色で分かるのだろう。刀は鞘に納めたままだが、腰を落とし、笑みを消す。

 

 

「……何だ。1匹じゃねえか」

 

 そう言って、トールが1歩前に出る。

 アリが1匹、真っ直ぐこちらに向かってくる。

 ……いや、真っ直ぐじゃない。アリの向かう針路は、僅かだが、俺たちから逸れている。俺は他のアリに目を向ける。他のアリが、バラバラの方に走っている。

 違和感が、俺に最大限の警鐘を鳴らしている。違う。アリじゃない。

 

「……ッ、下がれ、()からだ!」

 

 俺が、そう声をあげるのと同時だった。視界の上側から落ちてきた、巨大な青い影がアリを下敷きにした。地響きがする。

 その鮮やかな青の塊は、アリよりも2回りは、いやそれ以上にデカい。

 アリが影の下で、ギィギィと悲鳴を上げている。青い影には、1対の足が生えている。その片足が、アリの頭を掴む。そして軽い動作で、その頭をもぎ取った。

 アリは当然、沈黙する。

 

「……何だ。こいつは」

 

 トールが、かすれた声で唸る。

 そいつは生物だ。頭がある。太く長い首が、大蛇を思わせる。首の先の頭には、特徴的なに尖る突起がある。その頭はアリの胴体に食らいついて、ついばんでいる。

 正直言って、俺はドラゴンが飛来してきたとすら思った。違う、コイツは崖の上から跳んで来たんだ。少し距離があるが、間違いない。

 この鳥型のモンスターには、翼はない。

 

「……は、ハンマービーク……。いや、まさか」

 

 俺は、ジズ属と呼ばれる、大きな鳥型のモンスターの1種の名を言う。

 せり上がり、硬化したくちばしに、長い首。翼や腕は退化したのか知らないが、無い。代わりに、胴体の殆どを占めるほどに、脚部が発達している。

 ハンマービークは体高が2メートルぐらいで、尻尾を入れて全長が3,4メートルほどの、そこそこ危ないモンスターだ。

 今、俺たちの目の前にいるモンスターは、そのハンマービークにそっくりだ。

 

 そいつの、大きさを除いて。

 

 まず、体の高さが、ルガディン族のトールの2倍はある。4,5メートルか。頭をアリの胴体に下ろした状態でだ。俺たちに正面を向けているせいで、全長は見て取れない。

 俺は、小さく叫ぶ。

 

「……気を付けろ。こいつ、……モブだ!」

「モブ……? クソッ。『二つ名持ち』かッ」

 

  モブと呼ばれる、懸賞金付きのモンスターがいる。異常な成長をした個体、人の居ない奥地から彷徨いでた個体。とにかく、人間に著しい被害をもたらした、もしくはその可能性がある、悪名高き(ノトーリアス)モンスターだ。

 コイツに、実際に名前が付いているかどうかは、知ったこっちゃない。とにかく異常なサイズなことだけが、明らかだ。

 そして生態系から逸脱して、なお生き残っている生物というのは、例外無く()()

 

 その巨鳥が、ふいに頭を上げて、こちらを見た。

 やけに瞳の小さい、不気味な目だ。くちばしの端から、千切れたアリの内臓がはみ出している。

 体の上側は、殆どが青色の鱗で覆われている。とこどころに、橙色の羽毛が生えているが、これがまた硬そうな羽根だ。

 長い首に、布をかけるように、厚く弛んだ皮膚が下がっている。首の下側を守るためだろうか。つまり、弱点、か。

 

「フロスト。……どうすんだッ!」

 

 まあ待てよ、今決める。

 緊張が思考を加速させる。でかい、アリを一撃。かなり強いな。こちらを警戒している。警戒するってことは、恐らくレベルはそう変わらない。同時にそれなりの知能も持っている。鋭いくちばし、爪、足の力が強そうだ。力量の読み切れないジンを勘定に入れて、ギリギリか。

 リスクが大きい。アリはコイツに譲って、下がれば追ってこないだろう。唸り声。威嚇だ。時間は無い。後ろ、退却。ウルダハの門まで、そう遠くない。門の方に無数の天幕が見える。薄く煙が上がっている。飯の準備だろうか。

 このトリ野郎は、アリ数匹で満たされるだろうか。

 

 ふと気づくと、ジンがこちらをじっと見ている。何となく腹が立つ目だ。

 俺を量っているつもりか?

 舐めるんじゃねぇ。()が、()()を、量るんだよッ!

 

「──()るぞ! トール、蹴りを正面で受けるな! ココル、位置に気を付けろ、絶対に近寄るなッ!」

「はっ、そうこなくっちゃなあッ! オラァ来いやァ鳥目野郎!!」

「まかせろ! いくぜぇ! 『まばゆき光彩を刃となして──』」

 

 待ちわびていたように、巨鳥に突っ込んでいく2人。

 俺も短剣を構え、位置取りを探す。ジンに叫ぶ。

 

「ジンッ! 腕を見せろ! さっきのが全力だなんて言わせねぇぞ!!」

「……ぜァアっ!」

 

 ジンは俺の声に応え、声を上げる。好戦的な笑みを浮かべて、刀を抜いた。

 俺は突っ込むトールの背を使って、トリの視線を切る。ジンは左へ抜けるつもりのようだ。

 すぐに、トールが接敵する。腰に構えた斧を、トリの下がった頭に向かって斬り上げる。

 

「ッオオらぁ! ──ッチ!」

『──グルルァアアッッ!』

 

 頭を狙った1撃は外れ、胴体へ届く。浅い。トリが勢いよく体を起こし、頭部を高く上げた。トールの背中越しに、凶悪に発達した、石斧のようなくちばしが見えた。

 トールはそのまま体ごと、トリにぶち当たる。そこまで寄ってしまえば、トリも蹴りに体重は乗せられない。

 トリが苛立つように唸りを上げた。俺はジンに目を移す。ジンがこちらを見る。

 

『ッグャァアア!』

 

 トリは頭を振りかぶり、くちばしをトールに叩きつけようとする。

 そうすると思っていたぜ。

 俺はトールの右をすれすれに抜けて、地を蹴る。

 振り下ろさせる頭部にカウンターで、すくい上げるように短剣を叩きつける。

 同時に、ジンが左から飛び上がって刀を振り下ろした。言葉なんかよりも、よっぽどスムーズに意思疎通できた。

 

「喰らえッ!」

「ッザァア!」

『ギィイイイッ』

 

 トリは甲高い不快な悲鳴を上げて、頭を再び高く持ち上げる。致命的なダメージを与えたわけでは無さそうだ。しかし、これで迂闊にはそのくちばしは使えまい。

 嫌がらせは、まだ終わってないぜ。

 

「サンッダぁあー!!」

『ギイ、イイィッ!』

 

 詠唱を終えたココルが、呪文を放つ。雷属性のエーテルがまとわり付き、トリの皮膚を焼き続ける。トリは目を白黒させて、体を引きつらせる。呪文を食らうのは初めてか? たっぷり堪能してくれよ。

 俺はトリが体を硬直させた隙に、右側をトリの斜め後ろまで駆ける。ジンは左だ。

 そして、とにかく、斬る。鱗の隙間、脚の腱、柔らかそうなところ全部だ。

 ジンも刀を素早く振るい、連撃の型をもって斬り続ける。斬りつけるたびにジンの体に、エーテルが、いや、エーテルを媒介としたエネルギーが、強まっていく。

 あれは……エネルギーを、溜めているのか? いや、そんな観察をしている場合じゃないな。

 トリは俺たちの攻撃を嫌がり、体をこちらに向けようとするが、トールがそれを許さない。

 トールは体をトリの胴体へ押し付け、トリの重心をずらし、自由にさせない。案外に器用なヤツだ。

 それでもトリは、強引に体を動かそうと──っげぇ!

 

「ぶわぁあ!? 危ねぇ!」

 

 トリは強引に体を動かし、後ろ蹴りに、俺に向かって足をぶつけようとしてきた。

 俺はとっさに体の力を抜き、地面に寝るように伏せる。

 俺の胴体程はある足首が、俺がさっきまで居た空間を薙ぎ払う。爪は、俺の腿ぐらいはあった。死ぬかと思った。

 

 実際、危ないところだった。トリは賭けに出たのだろう。そしてその賭けには負けたんだ。

 賭けの代償は、払ってもらう。

 

「ザッァッアア!!」

「オラああ!!」

「『──集いて赤き炎となれ!』ファイアッ!」

 

 3人が、大きく体勢を崩したトリに、嬉々として攻撃を叩き込む。

 ……いや、誰か、俺の心配とかしても良いんじゃねぇ?

 

『ギィァアッ──』

 

 片足を後ろに下げたところに猛勢を受け、トリが地面に倒れる。地響き。狙うのは首だ。俺はすでに体を起こして、首の下側に狙いを澄ませる。

 他の奴らも群がるように、トリに近づく。分かるよな、モンスターが倒れた瞬間ってテンション上がっちまう。

 だけど、止めは俺がもらうぜ! トリは俺の居る側に向かって倒れた。頭部はすぐそこだ。駆け寄る。

 首から下がる、分厚い皮膚が邪魔だ。貫通は、無理そうだ。ただの皮膚じゃない、骨が通っている。

 これは、広げる前の、傘の骨に似ている。

 ぞわっと、背筋に悪寒が走った。似ているじゃない。こいつは、広げる前の、傘そのものだ──クソッ!

 気付くのが遅かった。傘が勢いよく、想像以上の力で広がる。

 

「──うっぐァ!?」

 

 とっさに後ろに跳んだが、開いた棘状の骨の先に、体のあちこちを裂かれる。

 傘、その皮膚は、首と平行に丸く大きく広がった。

 トリが体を大きく振るいながら、立ち上がる。その巨体が、さらに大きくなったように見えた。

 

「フロストッ! ──ッぐわ!?」 

『ギィイイィイィイアアアァァアアァァアァアア────!!!』

 

 トリが、凄まじい音量で叫ぶ。とっさに手で耳を覆う。大気がビリビリと揺れ、地面の砂が跳ねているのが見えた。あの傘が、音を増幅しているのか!?

 俺たちは全員その場に、立ちすくんだ。

 

『ァアァアアッッ──グッグッルルルァァ……』

 

 トリが叫ぶのを止めて、喉を鳴らす。トリが体をえずくように揺らす。

 クソッたれ、最悪だ。

 トリの叫声が終わると同時に、体が動く。だが、クソッ、反応が遅れた!

 

「ブレスだッ! 避けろォッ!」

『──ルァァアアッ!!』

 

「なっ!? ラ、”ランパート”ォッ!!」

 

 トリ野郎は口から、砂塵の様な、濃い霧状のものを吐き散らかした。

 正面に居たトールが、もろに食らう。トールはとっさにエーテルを展開して、自身を保護する。

 かなりまずい。このブレス、狩りをする生き物がよく使う。

 それは神経の伝達を阻害する、

 

「な、ぁッ? 体が。動かッ……」

 

 得物の動きを止めるための、麻痺の息だ。

 

「トール!? ──げっ、ま、まずい! フロストォ!」

 

 トールは片膝で地を突き、斧を支えに何とか体を支えている状態だ。

 トールがそんな状態でだ。トリの視線が、近寄りすぎたココルに向かって、跳ねるように動いた。

 

「ココルッ──!」

 

 まずい。本当にまずい。ココルは殆ど最初の位置にいた。トールの後ろだ。俺とトールとジンで三角形を書き、その中心にトリがいた。俺とジンは、叫声の際に距離を取られた。トリが、ココルに近い。

 かばいようが無い。間に合わない。

 

 俺は、必死で、思考を巡らせる。トリの意識をこっちに、向けさせるしかない。

 トリは重心を前に、ココルに向かって体を傾け始めている。爪が地面へ食い込んでいる。地面を蹴ろうとしているのか。

 何とかして、強力な一撃を。遠い。俺に、そんな技は無い。俺には。

 

 トリの胴体の下、足の隙間から、ジンが目に入る。

 ジンはこちらに、背中を向けている。いや、あれは、構えだ。

 刀が腰の鞘に納まり、左手はそれに添えられている。右肩を大きく落とし、俯いている。右目が鋭く光るのが見えた。 

 あの構えは。そうか、やっと分かった。その姿を正面から捉えて、ようやくエーテルの流れを見て取れた。

 コイツは、”連撃”によって得たエーテルの勢いを、体内に循環させて維持してやがった。

 そして、おおよそ戦いには無意味に感じられた、刀を鞘に納める、その構え。

 そうか、その鞘は、そうして膨れ上がったエネルギーを撃ち出す────発射台だ!

 

「シィィィイイイッ!!」

 

 ジンの鋭い声と同時に、鞘へ圧縮されたエーテルが、刀を高速で鞘の外へと押し出した。

 凄まじい速さで、刀が空を斬り裂く。

 刀を追うように、高密度のエーテルの刃が、扇状に、トリへ襲いかかる。 

 4条の斬撃が軌跡を示し、その全てがトリの全身へ直撃した。

 

『ギィイィャァァアアッ!』

  

 トリが悲鳴を上げ、体を大きく傾けさせる。弾けた鱗がばらばらと空中を舞った。

 トリはそのまま、倒れない。

 足を地に突き下ろし、踏みとどまった。

 だけど、それで十分だ。

 時間稼ぎ、ご苦労。……頼りなるやつだよ、お前は。

 

 俺はすでに跳躍している。短剣も使い、頭部へと一気に駆け上がる。

 トリが狂ったように頭を振るい、俺を叩き落とそうとする。

 ──”アームレングス”──。

 既に、手足に込めたエーテルが、俺を接した相手に縫い付けている。

 エーテルの込められた足を、首から開いた傘に引っ掛けるように、固定する。傘から飛びてた棘が、足に食い込むが、関係ない。

 この、羽無しのッ、威嚇ぐらいしか芸の無い、クルミ程度の脳みそのクソッたれトリ野郎の分際でッッ。(あせ)らせやがってッ!!

 俺は短剣を持った両腕を、トリの首に抱くよう交差させた。

 2つの短剣を、首の裏側の鱗のない部分深く食い込ませる。

 交差させた両腕に、さらに、全力でエーテルを込める。

 

「これで──終いだッ!!」

 

 俺は両腕を大きく開き、その首をめいいっぱいに引き裂いた。

 

『ギッ──────』

 

 悲鳴が上がり、すぐに途切れる。切り開いた傷口から、血と、肺から押し出されただろう空気が吹き出した。

 俺は血を避けて、地面に飛び降りる。

 トリの首からは、さらに、おびただしい量の血液が流れ出続けている。

 瞳の小さい、不気味な目が、ぐるりと上を向いた。

 そして、ようやく、

 

「ハッ、他愛もねぇ、ぜ」

 

 トリが、地面に音を立てて崩れ落ちる。二度三度揺れる。すぐに動くのを止めた。

 楽勝だぜ。

 俺は死骸の横、その場に腰を下ろす。長く、息をついた。

 

 

─────

 

 

 肉の焼ける匂いがする。

 あちこちで笑い声が上がり、バタバタと子どもが走り回る。

 そこかしこに、鉄板や鍋が並べられ、油が落ちる音、食器が当たる音で騒がしい。

 とうに日は落ちたが、煙や湯気に火の光が、反射して明るく照らされる。

 

 ことの顛末はこうだ。

 

 *

 

『このトリどうするの? モブだっけ?』

『不滅隊に持っていきゃ、何かしらの報酬が出るはずだ。ただな……』

『ただ?』

『俺は、不滅隊には近寄れない。ちょっと、気まずくてな』

『……またかよ。てめえは。じゃあ、どうするんだ。このままか?』

『そうだな、アリに食わせてもシャクだし。……バーベキューといこうぜ』

『食うのか。これを? ……まあ、血抜きは良い感じだな』

『さんせー。ココ、ちょうど腹減った』

 

 *

 

 不滅隊は出払っているそうだからな。待たされても面倒だ。

 俺たちは、貧民たちに調理器具を借りて、代わりに肉を差し出すことにした。幸い巨大な図体だ。肉はいくらでもある。

 肉をやると言ったら、彼らは嬉々として、運搬と解体を買って出てくれた。フハハ、働け、民共よ。我、冒険者様ぞ!

 バーベキューをするのに、酒が無いと始まらない。俺は準備をしている間に、ゾランのところまで行って、報酬の半分を酒にしてもらうように交渉した。

 ゾランは、呆れたような顔をして、「樽ごと、幾つか持って行かせる。これで人探しの件は、貸し借りなしだ」なんて言った。珍しく気前の良い。

 

 いつの間にか、うじゃうじゃと人が集まって、お祭り騒ぎになってしまった。皆少しづつ、食べ物や酒を持ち寄っているようだ。踊りだしている奴らもいる。ここに居る殆どのヤツは、意味も分からず集まっているだろう。

 ココルたちも、適当にどっか行ってしまった。どこかで肉や踊りを楽しんでいるだろう。

 俺はひとり、土器のような椀に入ったエールを片手に、ぼうっとしていた。腹はとっくにいっぱいだ。

 ぼんやり眺めていた踊り子が、華麗にターンを決めたところで、声をかけられた。

 

「フロストくん、こんばんは」

「フロスト、てめェがこの騒ぎの原因か」

 

 俺は声の方に顔を向ける。小さな影と、大きな影だ。

 

「モモディさん、それにランデベルト。意外な組み合わせだな」

 

 冒険者ギルドのマスターと、貧民街の顔役が並んで立っている。

 

「フフフ、ちょっとそこでね。ジン君はどうだった? さっき会ったけれど、嬉しそうにしていたわよ?」

 

 モモディさんは、機嫌よく話しかけてくる。俺はこういう顔を向けられるのが苦手だ。背中が痒くなる。

 ジンのことだったな。アイツ、言葉も分からないのに、よくうろちょろ出来るな。

 俺はジンの講評を述べてやる。

 

「あいつは、強いよ。とびきりだぜ。勘も良い、誰と組んだって上手くいくさ。……ああ、ひとつ、大事なのが。あいつは術士じゃない、刀を使う、剣士だ」

 

 俺がそう言うと、モモディさんは目を丸くする。そして、俺の苦手な微笑み方をしながら、言う。

 

「フフ、そうなの。刀を使うことは、知っていたわ。ごめんなさい、言ってなかったわね」

 

 おい、マジかよ。そういうことは最初に言ってくれ。

 俺が不平を伝える言葉を探していると、モモディさんが言葉を続ける。

 

「でも、誰と組んでもっていうのは、どうかしらね、フフ。……もう行かないと。じゃあね、ふたりとも」

 

 モモディさんは、もっともなことを言うと、優雅に会釈をして、去っていった。

 颯爽と歩いてくモモディさんの背を、俺とランデベルトで眺めていた。

 ランデベルトが目をそちらに向けたまま、口を開く。

 

「フロスト、やってくれたな」

「……? 何がだよ?」

 

 俺は首をかしげて、言葉足らずの男に問いかける。男は軽くため息をついて、応える。

 

「また、冒険者になりたいなんて、抜かすガキが増えちまう。勝手なことを」

「……ハッ、肉欲しさにか? あんなヤツそうそういねぇよ。……悪いな。そのへんは、お前に任せるよ」

 

 俺の言葉に答えて、ランデベルトは、大きく鼻を鳴らす。

 しょうがねぇだろ? 俺は所詮、流れ者だ。何の責任も取れねぇ。取る資格がねぇ。

 自由ってのは不自由なもんだな。その言葉に囚われるほど、意味を無くしていく。

 ランデベルトは、ぎゃあぎゃあと騒ぐ連中を、愛しげに眺めながら言う。

 

「またな。死ぬなよ。お前は……弱いからな」

「なんだと? かかってこいよ。冒険者がどれだけ強いか、教えてやる。もちろん有料だぜ!」

 

 息を巻く俺に向かって、ランデベルトは短く息を吐く。

 ランデベルトは、そのまま歩みだした。片手を軽く上げて、振り向きもせずに行く。

 詰まんねェヤツだぜ。俺は落ちていた木材に腰を下ろし、エールの入った器を口に寄せる。

 

 俺が再び手持ち無沙汰になると、それを見計らったように、声が俺の意識に割り込んだ。

 

「フロスト」

「ゾラン。何だ、来てたのか」

 

 声の方を見上げると、場違いな格好をした獣面の男、ゾランが立っていた。

 

「何だこのバカ騒ぎは。フン、これだけ元気なら、使いようがあるな。……フロスト、依頼がある」

 

 ゾランは前置きはそこそこに、本題だろう内容を伝えてくる。

 

「依頼ぃ? 何だよ。聞くだけ聞くさ」

「……クルザスへ行け。探し物の依頼だ。ほんの少しは、貴様に向いているだろう」

「クルザスだって? あんなところに、何を失くしたってんだ」

 

 クルザスというのは、ここエオルゼアと呼ばれる地域の北側にあたる。第七霊災前は、草原が広がる豊かな土地だった。

 

「飛空艇だそうだ。細かいことは明日話す。……貴様の残りの借金を、チャラにしてやってもいい」

 

 借金だなんて。まだそんなこと言っているのか。俺とお前の仲じゃないか。

 ゾランは風に乗ってくる煙に、顔をしかめて、立ち去る。返事を聞きもしない。明日になったら、何とかって秘書みたいのが迎えに来そうだな。

 

「おい。フロスト」

 

 おいおい、千客万来だな。俺はもともとソロ派なんだよ。そんなに構わなくて良いって、照れちゃうだろ。

 俺が声の方向に目をやると、見飽きた顔がそこにあった。

 

「よぅトール、可愛い子はいたか?」

「ああ。この辺はでかい女が多いな。あのオッサン、何しに来た?」

 

 俺とトールの趣味が、合ってるかは知らないが、確かにでかいのは良いことだ。

 トールは肉の付いた骨を片手に、口の周りを油で汚している。

 俺は、木材から立ち上がり、尻を払う。

 

「さあな。それより、ここを立つぞ」

「……何、今からか? 行くあては?」

 

 そうだ、今だよ。

 やだよ、クルザスなんて。クソ寒い。あそこは霊災のあと、気候が変動して雪だらけだ。寒いのは嫌いなんだよ。それに、ウルダハも結構、長居したしな。

 ぼやぼやしていると、ゾランにあれこれ押し付けられちまう。

 俺は、綺麗に白くなった骨を、地面に吹き捨てる粗暴者に返事をする。

 

「モードゥナのレヴナンツトールなんてどうだ? あそこの酒は、”財宝”なんて呼ばれているらしいぜ」

「そうか。決まりだな。ココルを探してくる。クイックサンドに集合で良いな」

 

 トールはそれだけ言うと、振り向いて人混みの方へ歩みだす。俺も行くか。

 もう俺のことを気にしているやつはいない。そう思い、ウルダハの街内に入る門へ向かう。

 

「ざぁ、ぜあずぅらぁ」

 

 まったく何度目だ、呼び止められるのは。

 背の高い、角付きののん気な面をしたヤツが立っている。

 

「ジン、世話になったな。後のことは、モモディさんに任せるよ。おさらばだ」

 

 俺はそう言い放って、右手をジンに向かって差し出す。

 ジンが俺の右手を握り、首を横に振る。ジンは暖かな笑みを携えながら、口を開く。

 

「ぃな。がぁるでぃ、うぃずざぁ」

「……そうか。しょうがねぇな、来いよ。こき使ってやるぜ」

 

 さっぱり何言っているか分からねぇ。ただ何となく、着いて来たがっている気がした。

 まあいいや。パーティーってのは4人いないと締まらないしな。

 俺はこの異邦人を連れて、喧騒を後に、静まり返った街中へと向かう。

 

 

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