「奏、コーナーまで追い詰められた! だが、まだその不敵な表情は崩さない! 何か、秘策でも隠し持っているのか!?」
互いのイメージカラーでもある青みが混じったカクテルライトに照らされたリングで向かい合う女神。
プロジェクトクローネのエース。「NEXT LEGEND」速水奏。
それを迎え撃つシンデレラガールズ。「ヴィーナス」新田美波。
互いに落ち着いた雰囲気を漂わせるも、その目線に鋭い闘志を帯びている。
美波の属するチーム「シンデレラプロジェクト」と奏の属するチーム、美城常務肝いりで創設された対抗チーム「プロジェクトクローネ」の新進気鋭のチーム同士の団体内抗争もいよいよ大詰め。実力者揃いのクローネの前に押されながらも、ここまでどうにか凌いできたシンデレラにとってはこの大将戦でユニットの将来を賭けたともいえた。
「秘策……そうね……」
ボクサー上りの奏のトレードマークともいえるピーカブースタイルの構えでそう囁いた。
「ワン、ツー……」
「……っ……!」
そう自らカウントを取りながら、すっと美波へと間合いを詰める奏。
奏得意の拳に備えて思わず構える美波であったが、ここで奏が繰り出したのはジャブでもストレートでもなくクリンチであった。
「ここで奏、クリンチに持ちこんだ!!」
……そして。
「……KISS」
美波の口元に真正面から柔らかい感覚が襲った。
「!?!?」
何が起こったかを美波が理解するまでに少し時間がかかった。
ぐっと目の前に近づく奏の顔。そして唇に当たる柔らかい感覚。
そしてのその上下の唇の間から柔らかく生暖かな何かが歯を、そして舌を舐めてきた。
「ん~っ……!」
(こ、これって……まさか……)
「そうよ……、ふふっ」
「こ、ここで……奏のリップロック! これが語っていた『HotelMoonside~ウェルカムサービス~』なのか! ちょっと羨ましい!!」
「意外だと思った? こんな攻めだって出来るのよ」
美波の唇をぐっと奪った奏の唇、そして舌。
思わず顔を赤らめた美波に対し、ふふっといった顔で奏の唾液交じりの舌が美波の口内を舐めるように蹂躙し、互いの唾液を流し込み、絡ませている。
「えぇ、これがHotelMoonside、当館自慢のウェルカムサービスよ」
そう言って、美波に対し囁く奏。
「んっー……!」
「ふふっ♪、打撃技一辺倒のレスラーだと思ったらとんだ見当違いだったわね……。このまま蕩けさせてあげようかしら?」
「んんっ……///」
くちゅ……くちゅ……っ……
「貴女の唇もなかなか柔らかくって素敵だわ」
クリンチで抱き合ったままの姿勢で、互いに目を細めながら舌を絡ませ合わされる両者。
「にしても、パートナーの前でこんな顔を晒しちゃうなんてね」
(そ、そうだ……アーニャちゃん……)
セコンドに座るタッグパートナーの事を思い出し、その前で抱き着き合わされ舌を絡ませている姿を晒している事に思わず動揺させられてしまう。
「それにこっちが弱いのも……」
ドン……ッ!
「ヴッッ……!?」
奏が密着させる体勢を維持しながらも、軽く膝を立て美波の股間を突くと思わず後ろに仰け反ろうとする。それを離しまいとばかりに背中に回された腕が制した。
股間への攻撃は反則ではあるが、勢いのない。しかも、クリンチで密着しているという状況でもあるからか指摘するものはいなかった。
「んっ……、んっ……♡」
膝を美波の股間にあて擦らせ、強引に腕を振りほどこうとする美波に対し翻弄してくる奏。
「弱い……なんて行ったけど、ここはなかなか鍛えようがないものね……ふふっ♪」
そう悪戯っぽく奏が囁くと、逃げられないようにがっちりと包んだまま、筋肉質な美波の肢体とは対照的にぷにっと柔らかさすらある女神の股間の膝を立て、擦り付けられると美波の下半身が思わず震えた。
「んっ……」
「にしても、あなたのここ随分と柔らかいのね……思いっきり蹴られたりなんてしたらどうなるのかしら?」
そう言われると、キュッと股間が強張った。
「ふふっ、想像しちゃったのかしら。 随分とエッチなのね、美波も」
「もう、そんな事……」
「ぷはぁ……♡」
何とか唇から逃れた美波。口元から涎で互いの唇を架ける橋が出来、そして舌へと崩れ、伝い落ちた。
「ごちそうさま。美波の唇、奪っちゃったわ」
茫然となったままの美波にそう言って舌舐めすりをする奏。
クリンチを解かれても少し顔を赤らめたままの美波に対し、ピーカブースタイルで構えながらも拳の向こうで不敵な笑みを浮かべた奏の打撃技が牙を剥いた。
「ぐふっ……!」
美波の程よく鍛えられた腹筋へと突き刺さるボディへのアッパー。
そして、更に間合いを詰めてジャブが飛んだ。
「ふんっ……!」
「うぐっ……!」
更にアッパーカットが顎に食らうと、思わず背後によろけ倒れ込んだ。
「はぁ……はぁ……、‥…んっ!?」
尻もちをついた美波の目の前に奏の臀部が飛び込んできた。
「ここで追撃の奏のヒップアタック!」
相手の顔元へと飛び込む『HotelMoonside~フロントサービス~』、蒼と漆黒のコスに張り付いた奏の形のいい尻が美波の唇に飛び込んだ。
「今度はこっちにキスを頂戴……ふふっ♪」
そう言って尻に敷き潰した美波に臀部を押し付ける奏。
「むぐっ……」
奏の引き締まった臀部を押し付けられた美波。顔をしかめながらなんとか抵抗して見せようとする。
リングの小悪魔の異名通りの笑みを浮かべながら、はしたないくらいに臀部を美波の端正なマスクへと擦り合わせていく。
「これは屈辱的だ! 奏の大胆なスティンクフェイス! この悪戯に耐えられるのか!!」
「KISS・MY・ASS……なんて、ちょっと品がないセリフかしら」
そう言って、艶めかしく美波の腹筋を指でなぞって見せる奏。そして、先ほど拳の当たったところを確かめて見せた。
「ここかしら……」
鍛えているとは言え拳が刺さったところを指の腹で押されると、強張ってしまう。それを面白そうについて見せる。
「くっ……!離れて……くださいっ!」
なんとか体を仰け反らせ、ようやく奏を顔から振り落とす美波。
二度も奪われた唇を思わず手で拭っていた。
「こっちにもしっかりと頂いたわ……しかも、二つともにね」
「はぁ……はぁ……、このっ……!」
奏に対しミドルキックを放つ美波。
これに対し、巧みにかわした奏は無防備となったカウンターのアッパーを放った……。
ドスッ!!
「お゙っ……!?」
奏の拳が、強烈なアッパーが美波の割れた腹筋へとめり込むように叩き込まれていた。
「あ……あ……」
途切れ途切れの悲鳴が漏れ、美波はリングへとどっと崩れ落ちた。
そのまま蹲った美波を見下ろしながら、奏はその背中へと踵を落とす。
「がは……っ……!」
そして、美波の腹筋に跨り馬乗りになると、押さえつけるように左手が美波の胸の双丘をぐっと鷲掴みにする。
「んっ……!」
マウントポジションから美波へと怜悧な拳を振り下ろした。
ボゴ……ッ!!
「うげぇ……っ!!」
マウントポジションからのボクサーの全力パンチが美波の顔面へと炸裂したのだ。
口から涎を吹きだす美波。
涎の飛沫がかかるのも気にせず拳を打ちこんでいった。
ドスッ……!ボゴッ!ボゴッ!ボゴオォ……ッ!!
「きゃっ……!やめ……っ!?ふぐっ……!?おご……っ……!?」
連続で叩きこまれる奏の拳。
利き手である奏の右から繰り出される鋭い連撃の前にサンドバッグと化した美波の頬が腫れ、鼻からは血が漏れた。
「ふふっ、随分良い面構えになってきたわね」
そう言って美波の涎と血で汚れた右拳を舌でぺろりと拭うとさらに振り下ろしていく。
「ひぃ……ひぃ……」
ようやく拳のラッシュが終わり、思わずガニ股を晒したまま横たわる美波。
振り下ろされた拳でその端正な顔には痣が浮き、鼻からは鼻血が零れる。
ひぃひぃと呻きながら、腹筋を押さえたままの美波を尻目にコーナーへと奏は向かった。
「速水、コーナーへと向かう! これで決める気か! 一方の美波は未だ立ち上がれない! 万事休すか!」
「これで……終わりよっ!美波……!」
トップロープによじ登った速水奏が跳ぶ……。
『HotelMoonsid~最上階スイートルーム~』
ここまでの抗争でシンデレラプロジェクトのレスラーを眠りに沈めてきた奏の必殺技。
思わず誰しもが息を呑み、美しいと覚える滞空時間の長いムーンサルトプレスが、リング上へ仰向けにさせられたままの美波に引導を渡し、眠りに沈めるべく降り注いだ。
ドス……ッ!!!
「がは……っ!!」
美波の肢体へと着弾した奏。
「んぁ……あああああああぁ!」
だが、悲鳴を上げたのは奏であった。
着弾の瞬間にとっさに膝を立てて、奏を迎え撃って見せたた美波。さっきとは逆の立場となり、膝に打ち抜かれた腹筋を押さえ、蹲ったままうぅと呻き声を上げ続けている奏の傍らで、美波はゆっくりと立ち上がって見せた。
「ムーンサルトプレス、確かに美しい技でした」
「み、美波……ぃ……!」
「……ですが」
蹲ったままの奏の背後に回り込むと、覆いかぶさる。
「ここまでよくついてこれたわね……。流石はプロジェクトクローネのエースの一角ね」
「あなたの得意の打撃技からのムーンサルトで私のカウンターを潰せると見たのは早計だったわね……! あの技の溜め、滞空時間の長さはこっちにとってはむしろ迎撃するのに好都合だったわ」
「ふふん……読まれていたって事かしら。私もまだまだね」
振りほどこうする奏であるが、そこに美波の腕がスッと腰へと回った。
「ここからクライマックス。転から結。ここで決めさせてもらうわ……っ!」
「あなたがメインヒロインなんて……そう簡単に……っ……!」
強引に美波の回り込んだ腕を振りほどこうと腰を振る奏を意に介さず、美波はそのままその引き締まった腰をガッチリとホールドすると、思い切り背後へ背を反らせた。
「やああああああああああぁっ!」
ドン……ッ!!
「あ……っ!!」
リング上に孤を描き炸裂した美波のジャーマンスープレックス……。後頭部からマットに突き刺さる奏。
思わず沸き立つ観客の前にまんぐり返しを晒す奏の肢体。
これにはさすがの奏も顔を赤らめ思わず脚を閉じようとしたところに、美波のフォールが入った。
「んっ……!」
「股間は鍛えられない……でしたね。奏さん」
「うっ……あぁ……っ……美波ぃ……」
わざわざ、観衆に晒すように股間を開かせたままフォールして見せる美波。
そこにはリングの女神としての姿を取り戻した美波の顔があった。
1……2……!
「んっ……///」
顔を赤らめながらもなんとか美波を払いのけ、カウント2.8で返した奏。
「このっ……!」
そのまま、起ち上がり際にアッパーカットを美波の胴へと放つ。
「んッ……ッ!」
わき腹に拳を食らってしまう美波。
だが、今度はこれに怯むことなく再び奏をリングへと叩き落すようにローキックを叩き込む。
「あっ……!」
バランスを崩し、リングに膝を屈する奏。
「はぁ……はぁ……」
思わず足を押さえる奏に無理やり割り込むように美波が片脚を挟み込んで極める。そして、奏の端正な顔を美波の白く引き締まった腕が抱え込み覆いかぶさった……。
「奏さん……、今度こそ沈めます……!」
そう奏に言い放ち、ぐっと首を極めた。
「こ、これは……美波必殺のSTF(ネオ・サザンクロスロック)決まったーっ!」
「あぐァ……、かッ……くっ……」
苦しげな表情で、逃れようと手をじたばたを動かしもがく奏。それをしっかりと極めて離さない美波。
「ギブアップ……しますか?」
「こ、こんなところで……ノ、ノォー……よ……!」
だが、まだまだ奏にとっては苦手な投げ技と関節技を食らった奏には返す力はなく……。
更に、美波の腕が奏の首に極まる。
「うげぇえええ…………」
徐々に締まっていく首に思わず、口元から涎が滴り落ちながら真っ赤な顔の奏の掌がマットを叩いた。
カンカンカーンッ!!
〇新田美波-×速水奏(ネオ・サザンクロスロック)
「勝者、シンデレラプロジェクト・新田美波!! 速水奏との大将戦を最後は関節技で奏からギブアップを奪って締めました!!」
「ふぅ……」
美波が技を解き立ち上がり勝ち名乗りを上げると、歓声が一層大きく響いた。
「さすがは、シンデレラガールズのエースってところかしら」
「奏さん、あなたの打撃技見させてもらったわ。流石はボクサーって所ね」
そう言って奏が最後に当てたわき腹を擦って見せた。
「お褒めにあずかり、光栄ね。次はこっちが潰してあげるわ……」
「そう、でも上手くいくるかしら? 速水奏の逆襲、帰ってきた速水奏なんてB級臭くてあなたが好きそうなタイトルだけど」
そう思わず毒づいて奏にそう言い返して見せる美波。
普段の美波らしくないセリフだったが、奏とどつき合わせたからこそ生まれたお互いの感情の産物ともいえた。
「そっちこそ、このリングの主演者があなただと思い続けないことね……」
そこまで行ったところで今度は美波から、奏の健闘を称え、そして再戦を誓うように美波の唇がそれを塞ぐように重なった。
「んっ……!」
予想外の展開に呆然となった奏を置いて、髪を思わずかき上げると歓声に応えながらリングを降りていく美波。
汗をしっとりと湿らせた肢体とそれに張り付くコスチュームはさらに女神を色っぽく彩っていた。
「シンデレラの戦女神……。もぅ、柄に無く妬けちゃうわね」
346プロレス、シンデレラプロジェクト対プロジェクトクローネの若手の一大抗争。
死闘ともいえる抗争は、エース対決を美波が制したことで実力派揃いのクローネに対しシンデレラが何とか踏みとどまった形となった……。
だが、この抗争はシンデレラ、クローネの枠組みを超え、そして城ヶ崎美嘉、高垣楓たち2大勢力に加わってこなかった346プロの戦姫たちをも巻き込む戦国時代の幕開けでもあった。