日曜の午後に動画見てたら幼女になって配信する件について 作:二三一〇
冬場は風邪を引きやすいのですが、コロナのせいか医者にも行きづらいのでツライっす
今回はイザークくん視点になります。
俺はイザーク。こんなナリだけど一応貴族の息子だ。もっとも、次男で兄貴も健在。ゆくゆくは家にいられなくなる定めの人間だ。
立派な魔術師である父上や兄貴と違い、どうも俺は魔法が苦手らしい。そんなわけで身体を鍛えて騎士への道を進もうかと思っている。
七歳だけど、既に素振りは百回を超えて振れるようになった。剣の師範に言わせるとやり過ぎらしいけど、力なんて強い方がいいに決まっている。だから、こっそり自己練は欠かさない。
そんな時に父上が大事な話があると呼ばれた。なんの事かと思えば、縁談の話だ。
「私の上司に当たる侯爵様に娘さんが居るんだ。君と同じ七つで、大層可愛らしいそうだ」
俺は次男だから家は継げない。
相手にも申し訳ないし。
そう考えて断ろうとしたら先を越された。
「形だけの婚約者、という不憫な立場になってしまうから無理強いはしないよ」
……どういう事なんだろう。
でも、父上がこう言うだけの理由がある気がした。俺はバカだけど、義理を欠いた事だけはしたくないと思っている。だから、話を聞いてみることにした。
話によると。
侯爵様の所は女の子しかいないらしい。
で、婿として家に入るには嫡男以外でないとダメだから、俺みたいな奴にはうってつけらしい。
では、なぜ形だけの婚約者なんてのになるのかというと。珍しい事に自分の意思で決めてほしいと考えているから、らしいのだ。
「……? それなら婚約者なんて立てなくてもいいんじゃないですか? そいつ……いや、侯爵様のお嬢様が好きな相手が出来るまで独り身で居させれば良いと思うのですが」
「それでは押し通せない相手がいるからなのですよ」
「……ええ?」
それからどこどこの某、誰々の息子だのと色んな人の名前が出てきた。正直、憶えてられない。で、そういった人達が侯爵家の権勢を得ようとあの手この手で狙っているらしい。
「なんというか、浅ましい話ですね」
「私もそう思うけど、それだけの価値があると考えているのだろう。ハーゼルツァットは先々代には公爵家であり、王族の傍系でもある。おまけに現当主のアデルベルト氏は魔法省の大臣、お内儀は魔術師協会の副理事だ。王国の中枢に影響力を持つ名家なんだよ」
……なんだかとんでもない話がまぎれてきた。
「無論、断っても構わない。そういった面々を相手にリーセロット様を守り抜くというのは、やはり重責だろうからね」
リーセロット……それがお嬢様とやらの名前なのか。その子自体には興味はないけど、この話には興味が出てきた。
か弱い女の子を守る。
こんな言葉を出されては引くわけにはいかない。俺は騎士志望であり、騎士とは国や貴人を守るための戦う存在だ。
「タチアナみたいに喧しくないですよね?」
「侯爵様からは聡明な子供と聞いているよ」
タチアナというのは僕の二つ下の妹なのだが、事あるごとに構って欲しがる困った奴なのだ。
引き受ける条件は騎士学校への進学するための資金の援助である。婚約者としての体裁を整える必要もあるだろうし、この位はしてもらわないとなぁ。
「今度の週末にお呼ばれしているので、一緒に来なさい」
「! わかりましたっ」
父上と表に出られる機会は意外と少ない。用件はともかくそこだけは楽しみだった。
馬車で二日ばかりかかる所に侯爵様の屋敷があるらしい。道中、何回か魔物と戦う事になって、父上は戦うことを許可してくれた。今まではダメだったのに……認められたと思って張り切っていたら手痛い反撃を受けてしまった。
「慎重なのはいい事だけど、勢いで行動するのも時には重要だよ」
治してもらいながらそう語る父上はさすがだ。魔術師なのに剣も体術も出来る。自分はまだまだだと落ち込んだ。
「まだ七つと考えれば、ゴブリン一匹倒したのは十分な成果だよ」
十匹以上を相手にしていても余裕な父上に、少しだけ羨ましく……焦りを抱いた。自分と同じ頃の父上は、もっとうまく戦えていたのではないか。そう、思えて仕方がなかった。もっと鍛錬しないと。
次の日には侯爵領に入り、村や街を抜けて大きな都市に入った。ここがファーセロット、侯爵領の中心だと聞き驚いた。
「凄い大きい街ですね」
「公爵家より大きいと評判だよ。どことは言わないけど」
「へえー……」
高さ四メートル近くの壁に囲まれた街の中には人が溢れかえっていた。ウチの街も大きいだろうと思っていたけど、比べ物にならない。
街の中心に向かっていくとニメートルくらいの高さの塀に囲まれた所にぶつかった。旧市街なのかな、と思ったらここが侯爵家の屋敷らしい。
「敷地広くないですか?」
「そうだね。本邸、別邸、使用人や、従士たちの宿舎、農園や池も含めて小さな村のようになっているからね」
「街の中に村とか意味分かりません……」
それだけ広い所に家族は夫婦と子供二人らしい。隠居した先代は別の街で暮らしていて、その他の兄弟もやっぱり別の街の代官などをしているそうだ。
「先代は側室を含めて奥方を四人囲っていてね。広い敷地はそのために必要だったらしいよ」
ちなみに、父上にも側室はいない。兄貴のロンバウトと俺、妹のタチアナに一番下の弟ディルクの四人の子供がいるから必要はないのだとか。
中に入る門の前には従士が居た。貴族の馬車だと分かると中へ伝令を送り、ほんのしばらくすると中に入るよう促された。
「侯爵閣下がお出迎えに来られるようなので、今しばらくお待ち下さい」
「分かりました」
そう答えてから独り言のように「義理堅いなぁ」と呟く父上。何がですかと聞く。
「普通は家主は迎えになんか来ないものなんだよ」
「……そう言えばそうですね」
「侯爵になっても、そういう気安い所は有り難いけど……少し困るよなぁ」
「なぜ、困るんですか?」
そう聞くと、父上は困ったようだった。
「私と彼の間柄は部下と上司であり、爵位も伯爵と侯爵なんだ。同列に扱うのも、親しげに扱うのも間違いなんだよ。世間的にはね」
どうも、よく分からないな。
親しい友人同士なら別に問題ないと思えるんだけど。頭を捻っていると、その侯爵閣下が馬を走らせ到着したらしい。表に出て迎える事になった。
……
言葉を失うというのは、こんな感じなんだろう。
侯爵閣下がカッコいいのはともかく。
その前に座って微笑んでいる女の子は……悪いけど妹なんか比べ物にならない美少女だった。
ふわりふわりと揺れる髪は金色に輝き、肌は日焼けなんかしたことないんじゃないかと思うほどに白い。少し丸みを帯びた顔立ちに、興味深そうに翠色の瞳をキラキラと輝かせていた。
「はじめまして。リーセロットと申します」
ドキリとしたのを隠すように、素っ気なく挨拶をする。何か気の利いた事を言わなきゃいけないと思い、そのあとの言葉を繋ぐ。
「父上の顔を立てて婚約者として振る舞ってやるが、俺にはその気はない。そう思ってもらおう」
……失敗した。
思っていた事が口をついてしまった。
兄貴みたいに気の利かない俺にお世辞とか言うのは無理だけど……よりによってこれはないだろう。
ポカンとした顔に耐えられなくて踵を返し馬車へと戻るけど、父上に捕まってしまった。侯爵様に挨拶はするけど、アイツの方を向くことは出来なかった。怒っているに違いないから。
屋敷に連れてこられたけど、日課の練習があると言ったら侯爵様は快く庭を貸してくれた。リーセロットに会うのを躊躇ったわけでないけど、これ幸いと抜け出してきた。
「アイツ……怒らなかったのかな?」
別れ際にちらりと見た時には、にこにこと笑顔を振りまいていたけど。
「可愛かったなぁ……」
ポツリと呟き、キョロキョロと周りを伺う。使用人がいたけど、遠いので聞こえなかっただろう。修練に使う木剣を携え、良さそうな場所を散策する。
少し大きめの欅の側で、剣を振り始める。剣の型は教わったけど、まずは日課の二百回をこなさないと。
ちらちらと脳裏に浮かぶあの子の姿を打ち消すように素振りに精を出す。ようやく雑念が消えた辺りで、また邪魔が入った。
「……何しに来た」
「陣中見舞いでしてよ。この暑いのに精が出ますわね」
先ほどまでのドレス姿ではなく、普段着に着替えていた。裕福な平民の着るような白いワンピースに麦わら帽子という装いだけど、この娘が着るととても上品に見える。素肌の見える範囲も増えたせいか、少し目の毒だ。
「アンゼリカさん、差し入れをお渡しして下さい」
「畏まりました、お嬢様」
そう答えてメイドが水筒を渡してきた。
コイツ、なんでメイドにさんとかつけてるの? もしかしてメイドじゃないのかな? いや、メイドだよなぁ……とりあえず礼を言うと何回振ったかと聞いてきたので回数を答える。
ところが。
リーセロットはいきなり怒り始めたのだ。
なんで怒ったのかはじめは分からなかったが、どうも『貧弱』と言われたのが問題だったようだ。
素早く放ってきた拳をなんとか躱した。三十回の素振りも出来ないようなヤツの拳撃とは思えない鋭さ。それだけで精一杯だった俺には、最後の攻撃に対処出来なかった。
というか、対処が遅れた理由はそのやり方のせいもあった。スカートなのに何故か大きく上に脚を振り上げたのだ。
当然、その中も見えてしまうわけで……ほっそりとした太股と、その奥の白い布が見えてしまい。
俺の意識はそちらへ向けられてしまった。
上に上げられた脚をそのまま落とし、踵が俺の頭の上に当たり、それで俺は気絶した。
気が付いたら、ベッドの上。
頭は痛むけど、たんこぶのようなものもない。リーセロットの側にいたのとは別のメイドがいたので聞いてみる。
「イザーク様のお怪我はアンゼリカが治しました。痛みが少し残る程度かと思われますが」
アニカと名乗ったメイドはそう答えた。
ここはあてがわれた客間であり、リーセロットは父親に説教されている最中らしい。
「済まないが、一人になりたい」
「承知しました。お部屋の前におりますので必要の際はお声をかけて下さいませ」
一礼して下がるメイドを確認してからベッドの上に転がる。気づけば、寝間着姿だった。気絶している間に水浴びさせられたのか、汗の匂いも埃っぽさもない。子供扱いされた事に腹が立つが、実際に子供なんだと思い直してベッドに横になる。
不甲斐なさに打ちのめされた気分だった。
三十も素振りが出来ないあんな女の子に、不意打ちとはいえ完敗したのだ。それも……あんな白いぱ……いや、何思い出してんだよ、おれっ!
頭をかきむしり、雑念を追い出す。
そうだ、あんなものを見せられたせいでやられたんだ。俺は悪くないっ!
でも、思い出すのはその女の子のことばかりだった。
綿のようにふわふわと揺れる金色の髪。大粒の宝石のようにきらきらと輝く
気が付けば、そんな言葉が出てくるほど。
いったい俺はどうしてしまったんだろうか。
そんな時に表にいるメイドが声をかけてきた。あの女の子が見舞いに来たようだ。苦し紛れにほっといてくれと言うと扉から顔を背けてベッドに転がる。
「ふっふっふ……」
そんな笑い声に振り向くと、どうやって入ったのかアイツが手の甲を口元に当てて含み笑いをしていた。なんで居るんだと聞いたら秘密と言われた。何がどうなってるんだ? 内鍵を掛けてあるのだから外鍵だけを開けても駄目なはずなのに。
混乱していた俺は、その後の彼女の行動に完全に思考できなくなった。頭を床に擦りつけて謝ってきたのだ。
「ばっ、ばかっ、やめろ!」
「許して下さいますまで、やめるわけにはいきません」
平民が懇願するようなやり方を平気でやるとは思わなかった。いくら何でもやり過ぎだ。部屋着とはいえドレスが汚れるだろっ
慌てて謝罪を受け入れると、彼女は心底安心したかの様に微笑んだ。
どくん……
思わず咳払いをして距離を離す。取り繕うようにこちらも謝る。貧弱と言って悪かったと。
すると、彼女は少し呆けたようにこちらを見てきた。
こ、これは……謝るなんてしない奴だと思われていたのか? そんな狭い了見の男だと思われていた。
コレはいかんと少しおべっかを使う事にした。さっきの攻撃は凄かったぞとおだてると、今度は頬をバラ色に染めて喜んで……いきなり近寄ると耳元でこう呟いた。
「あれは、魔法を使いましたの♪」
……魔法だって?
俺は修練を始めたばかりなんだけど、彼女は既に実践出来ているらしい。すごいっ!
話を聞いているうちに、彼女の基礎の修練を見せてもらうことになった。右手から左手に魔力を流すのだけど、魔力自体は見えない。だからそれを放出し、受け取るという事を感じる必要があるのだとか。詳しい理屈は知らないけど、俺はこれが一度も成功していない。同い年の彼女が成功しているなら、何か掴めるかもしれない。
ベッドに横座りして、こちらに見えるように実践する彼女。その手の間に手を入れてみると、その重さに驚いた。
他人の魔力に関しての感じ方は人によって様々だそうだ。ともかく、感じることが出来るなら魔法を扱う基礎は出来ている、ということらしい。
「宜しかったら、実践してみては? わたくしが見てますから」
自分より小さな女の子が出来たんだ。なら俺にでも出来るかもしれない。そう思ってやってはみたが……結果はいつもどうりだった。
「わたくしの流れを参考にしてみては?」
そう言うと、いきなり手をつないでくる。目の前にいるだけでもどきどきしてるのに、なんてことするんだ、このオンナっ!?
「? どうかなさいまして?」
「お、おまえ……いや、なんでもねえよ」
こいつ……なんでそんな不思議そうな顔してんだよ、カワイイだろっ!
いや、ちげえ。そうじゃない。オレだけドギマギするのはみっともないので平気の平左でやり過ごすっ!
そうして彼女の魔力の流れを感じてみたが、なんだか変な感じだ。なにかが右手に流れ込んでくる感覚が強い気がする。右手からは放出するモンじゃないかなと思っていたら、彼女もそれに気付いたようだ。
と、思ったら今度はベッドに乗っかって後ろから手を回してきた。てか、これ抱きついてきてるだろっ、バカッ!
「ん? 届きませんわね?」
「お前のほうがちっこいんだから届くわけないだろっ いいから離れろ!」
彼女の手はオレの手の甲に届かないで二の腕の辺りを掴んでいる。外から回すのなら俺より大きくないと無理だと分かるだろっ
てか、ああ。やわらかい、耳元から吐息が、髪の香りがヤバすぎるっ!
離そうとするけど手がガッチリと掴んでいて離れない。こいつ本当に身体強化使ってやがる。
「そうですわ♪」
声を弾ませてそう言うと。
俺の前に虹がかかり、そこに突然彼女が入ってきた。瞬間的な移動って術があると父上に聞いた事があったけど、それをこんな子供が使うなんて。
けど、驚いている暇はなかった。
腕の下から伸ばした手が外側から手の甲を掴む。
「これなら大丈夫ですわね?」
肩越しに振り向いて微笑む彼女。
……っ
かおが、近い。
ぱっちりとした瞳に、俺の顔が写っているのが見えるほどだ。
身体を清めたあとなのか、ほのかな石鹸の香りに、わずかに残る蜜柑なような甘酸っぱい匂い。
その表情には、屈託がない。
ちょっと前に会ったばかりの、他人の子供に。なんでこんな笑顔で接する事が出来るのか。
そんなふうに考えていたら、視線を感じた。
「なにをしているのかね、ふたりとも」
いつの間に入ったのか、侯爵様が杖を構えて立っていたのだ。先ほど会った時のように笑ってはいないけど。その瞳に射竦められてしまう。
「……最近の子供は早熟と聞いたが、流石に許すわけにはいかないな……死ね」
低い声音でそう言われた。
これ以後、俺は侯爵様だけは怒らせないように心に決めた。
別サイドからの視点というのは中だれするのでやり過ぎ注意ですが……内心ドギマギしっぱなしのイザークを書きたかったんだ(断言)