日曜の午後に動画見てたら幼女になって配信する件について 作:二三一〇
「あ”ーッ! もうやってられんっ!」
静謐な空間だった漆黒の聖堂に、男の怒号が木霊する。
「魔王さま。当たり散らすのは確認済みの書類だけにして下さいませ」
「分かっておるわっ!」
聖堂の一室。おそらく執務をする為の部屋に居るのは、年若い男とフードを被ったローブ姿の人影。おそらく女性であろうその人物は、散らばった書類を集めて決済印を確認する。
「たしかに。本日の分はこれで終了です」
トントンと書類の束を整えると、フードがそう言った。男の方は面白くなさそうに鼻を鳴らす。
「我は最も強き魔族として先代より魔王を拝命したのだぞ? それが来る日も来る日も書類書類書類書類……こんな作業に強さは必要ないだろっ!」
「魔王様の印璽が無ければ魔神様に提出出来ません。何度もご説明申し上げたかと思いますが?」
「この印璽押すだけでも魔力使うんだぞ? こんな枚数押してたら、カラッ欠になっちまうよ」
そう言って彼は自らの右の手の平を見せてくる。そこには禍々しい紋様が描かれてはいるが、フード姿は特に気にもせずにべもない。
「書類が届かねばコストの配分は来ません。方方で戦い、陣地を攻略したり、人間たちを殺したりした部下たちに報いる事ができません。損耗した魔物の召喚や治癒に必要なコストは、どう捻出されるのですか?」
ねちねちと正論を展開するフード姿の人物。男は頭を抱えて耳を塞ぐ。
「分かってるよぉっ! でもさぁ、なんかオレ、スゴく扱い酷くない?」
「先代様も仰られたではございませんか。『我々は魔神様の手足となる為の存在。辛いかもしれぬが、お前なら立派にやり遂げられる』と」
「う、ぐぅ……」
悔しさに歯噛みする男。言葉の端々にこの男が魔王であると示されてはいるが、いかんせん威厳がまるで無い。激務に耐えかねてふて寝をかます一歩手前のただの人間にしか見えない。
「そもそも。ここ数年の劣勢は魔王様が魔神様の不興を買ったせいではありませんか」
「うぐっ!」
痛い所を突かれたらしく、男は胸を押さえる。
「『コスト6000程度の魔族を召喚して、アークステインのハーゼルツァット侯爵の屋敷を襲え。そこの子供を殺せばコスト8000の報酬。』」
フード姿が語るのはその時に伝えられた指令の内容。
「なんでこの案件で10000も払ってスピリットイーターなんて上級魔族を送ったんですか?」
「……アークステインのハーゼルツァット侯爵と言えば最重要人物の一人だ。そこを殲滅出来ればコスト12000は硬いと踏んだ。だから万全を期してアイツに任せたんだ」
「それで? 結果はどうでした?」
「……スピリットイーターが撃退されて依頼は失敗」
「魔神様から下知がありましたよね。『あんな強い魔物を寄越せとは言っていない。言うことを聞かないならコスト配分は見直す』と」
バァンッ
左の拳を机に叩きつける男。机の天板は大理石のような光沢を放っていたのだが、今は無惨にひび割れてしまっている。
「それもコストがかかってるんですよ? 備品は大事に扱って下さいませ」
「分かってるっ!」
「ちなみに。領地として確保してコストを得る事は出来ますが。その際に運営に支障が出るとマイナス査定になる事もご存知ですよね?」
魔王軍が領地として接収した土地は、十全と活かせる事が条件になっている。つまり、焦土と化したり、人間を皆殺しや不当な苦役によって経済活動が阻害されるような状態での接収では意味がない。
多大なコストを用いて上級魔族を召喚するより、多くの低級魔族を使う方が正しいとされるのは魔王軍の行う最も基本的な行動規範にされているのは、こういう側面があるからだ。
「フォーセロットを落とせばアークステインの産業に打撃を与えられる。あそこは国内の経済の約18%を動かしているからな。こちらの前線への支援物資の多くもあの辺りからの援助が大きいとの報告もある。潰しておけばこちらも楽になると考えたのだ」
「欲をかいて魔神様の心象を悪くするとか、魔王様はひょっとしてお知恵が足りませんか?」
「くぅうう……」
「仰ることはもっともですが、我々は魔神様の命令により人間界を統治するという一大事業を任されているのです」
フード姿のいう事はすべて正しく、魔神の命により人間の世を掌握するのが彼らの任務である。
「こんな中間管理職のような事をするために、我は力を磨いたのではないっ!」
「そうですね。ではたまには運動でもなさってきては如何ですか? 幾つかの地区の魔物の反発が強まっているとの報告がありますので」
「ようしっ! 行ってくるッ!」
言うが早いか、男はマントを翻して飛び跳ねながら部屋を出ていった。
「ふう……」
後に残されたフード姿のため息が響く。
「飛んでいく魔力は残してるじゃないですか……」
それまでの感情のない言葉と違い、そのセリフにはこころが籠もっているように聞こえた。
「魔神様は、何がいたしたいのか。下賤なわたくしには図り知ることも出来ません。ですが、どうかあの方に辛いことはなさりませんよう願うばかりです……」
漆黒の聖堂に響くその言葉は……祈りにしか聴こえなかった。
「あー、スッキリした」
男は清々しい顔をして流した汗を拭っている。その後ろには、死屍累々の様子のオーガー、オークなどが転がっている。すでに死んでいるのだが、気にした様子はない。
街の人間に乱暴を働いたり、食い殺したりするような奴らなので手加減などはしないのである。
「魔王様、お疲れ様でした!」
「ああ、気にするなラミロ。こっちもムシャクシャしてたから丁度いい」
鎧姿の部下が近寄って頭を下げる。
朗らかに笑いそう答える男には、魔王と呼ばれる荒々しさは感じられない。むしろ、好青年と呼べるほど爽やかだ。
「魔物は戦力としては必要だが……魔人以外には従わないからな。領民には済まないと思っている。手厚い保護をしてやってくれ」
「アリアドナ様のご指示のどうりにしております」
ゴブリンに陵辱された婦女子には早急な処置を。家族をオーガーやオークに食われた家族にも法に則った方法で救済するようにと指示した筈だ。
魔物達は労働などはしない。
戦力としては使えるのだが、生産性のある事は全く覚えないのだ。
魔王の国の本来の国民というのは、魔人達だけである。魔物というものは国民ではなく、ただの戦力。統治した後に必要な人間とはその価値は比べ物にならない。
その人間に害をなした魔物にかける情けは無い。そうした魔物の粛清も魔人達の責務であり、義務。やるべき事をやらないのは、統治者として失格なのである。
魔王は軽い運動と言ってこなしたが、オーガー六匹、オーク八匹、ゴブリン三十匹というのはかなりの戦力である。普通の魔人兵なら分隊位は必要だ。
それを片手間に片付けたのだから、流石に我らが魔王様と傅くラミロであった。
先程のフード姿、アリアドナが文官の長なら、ラミロは軍務を司る長である。
「ラミロ、久々に手合わせでもするか?」
「いえいえ、滅相もない。もう魔力も残っていない魔王様の権威を失墜させるなんてできませんよ」
「おう? それは挑戦と見た! 魔術無しでの立ち合いならばまだ出来るぞ?」
「では、お相手致しましょう。日がな一日、書類責めの魔王様がこの私に勝てますかな?」
剣を構えて二人の男が対峙するのを見て、周りの魔人たちも声援をあげる。自らの国のトップと軍を束ねる将軍との立ち合いなんて、めったに見れるものではないからだ。
「どぅりゃあっ!」
「つぇぇあっ!」
「魔王様、そろそろ身を固める決心はつきましたかな?」
ところ変わって、酒の席。
男の前には年を食った老人がいる。
酌をする乙女を侍らすわけもなく、手酌をする男は鼻息を荒くして笑う。
「そんな気はないな?」
「それは、いけませんな。王国を支えるのは王の血統であります。それを絶やすなど、国が滅びますぞ?」
そう語る老人に、男はかんらと笑う。
「我は孤児であるし、親の情というのも知らん」
「そ、そうなのですか?」
「人の王であった貴様には分かるまいが、魔王国では王は血筋で選ばれない。もっとも強いものを先代の王が選定し、魔神様の加護を受けた者が魔王としての座を得るのだ」
「な……」
愕然とするかつての王に、男が語るように聞かせる。
「ちなみに王が倒れても、魔神様が直接魔王を選定するので、我が跡継ぎを選ばなくても構わんのだ」
「それでは……」
「お前の娘や孫を我に差し出して、内より魔王国を治めるなど不可能ごとよ。下らぬ奸計をするより人間たちの統治にこそ尽力するべきだよ、ダヴィド国王陛下」
ニヤリと笑い、酒をあおる男。ダヴィドと呼ばれた老人は、少し気色ばんだ様子で語りかけてきた。
「それでも……。世継ぎは残すべきだとは思いますぞ」
「ほう……なにゆえに?」
「魔王陛下のお心に潤いをもたらすため……とでもいいましょうか」
「うるおい?」
怪訝な顔をする男に、老人は目をそらさず続ける。
「妻を持ち、子を成す。それが王として継がなくても、あなたの存在を後世に残すために必要になります」
「そうして次の魔王と争えと? 内部分裂を望むとはなかなかに陰湿で汚らしいやり口だな?」
威圧を込めた視線に、老人の額に汗がにじむ。しかし、彼は言葉を止めず言い続ける。
「お気に触ったのであれば、どうぞ処断下さいませ。国を捨て、王の地位を開け渡したわたくしには、すでに捨てるものはこの命以外はありませぬ」
「……そこまでの覚悟で何を言うのだ?」
「わたくしも人に説教出来るような人間ではありませんでした。奸計を用い、策略をもって人を殺め、遠ざけていた人非人でございます。それによって得られるものがなんであるか、その素晴らしさを説く事など許されません」
自らのしてきた事を悔いるような事をつらつらと述べる老人。それは懺悔をする罪人のような風情だった。
男は酒の笏を振り、老人の前に突きつける。
「俺をお前たちの神父と勘違いするなよ? お前たちの国を滅ぼした魔王だぞ?」
「……左様でございますな。老人の戯言とお笑い下さいませ」
頭を垂れる老人に、男は酒の龜に笏を戻して外を向く。
「もし、結婚するとしても……俺は自分の気に入った奴以外はイヤだ」
「わたくしの娘や孫とは申しません。もちろん魔人の方のほうが宜しかろうと存じます」
そう答えた老人は、ひと仕事終えたような顔をしていた。男はくっくっと笑う。
「なんでそんなに俺のこと気にすんだよ? 侵略した魔王なのに」
その言葉に老人は。
にこりと笑って答えた。
「国に尽力するのは、家臣の務めでありましょう?」
その言葉に毒気の抜かれた男は、大きく笑った。それから、少し考えてみることにした。
自らの伴侶、というものを。
敵方のお話でした。なんか魔王軍、意外とマトモ?
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