日曜の午後に動画見てたら幼女になって配信する件について 作:二三一〇
今年も宜しくお願い致します。
m(_ _)m
『やあやあ、すまないな。本来ならきちんと命令書なり何なりを書かなきゃならんのだが、アリアドナが面倒くさくてな』
『……けっこうですよ。慣れてますし』
『おう、さすがは諜報部の隠し刀って二つ名は伊達じゃねぇな』
『おだてないでください、陛下』
『おだてなんかじゃねぇよ』
軽口を言うのは陛下の悪い癖だ。
臣下に気安いのは忠誠心を育むにはいいのだが、距離感を誤る輩がいないとも限らない。
さらに臣従させた人間たちにすらそのようなやり様なのだから、直接の家臣である魔人族から見たら気が気ではない。
とはいえ、アリアドナ様の舌鋒に晒されてなおその在り方を変えないのだ。言うだけ無駄、とは正にこの事だ。
「では、通信を切ります」
『ああ、緊急時はいつでもかけてくれ』
俺はさる任務についている潜入調査員である。入り込む所はだいたい人間の国なので魔人族である俺は大概入り込めない。
なのでその証である角を引っこ抜いている。
ちなみに簡単に抜けるモンじゃないので死ぬほど痛い。あと、魔人族での追放刑みたいなモノなので本国に帰ると冷やかな扱いを受けたりもする。そうしないのは諜報部の連中と陛下くらいなモノだ。
俺のようにあえて角を抜いた魔人族はけっこういろんな所にいるらしいが、相互に情報交換する事はあまりない。魔術による念話で報告は事足りるからだ。
角を失っても魔力は変わらずに人よりも多いのだが、もう一つ大事な能力が失われる。妖魔に対する使役権が無くなるのだ。つまり、人間と同じように奴らは俺を喰おうとするわけ。
まあ、遅れは取らないとは思ってはいるが、何があるかは分からない。なので、人間と共同で撃退したり、駆逐したり、殺戮したり。
そういう事をしていくためには冒険者という資格を取っておかねばならない。とはいってもそんな難しいモノでもなく、出身と名前、性別位しか自分で書く所はない。レベルとかスキルとかは勝手に足されていくし、角無しの俺らはご丁寧に『人間』扱いされる。
拍子抜けする程に楽な入国審査を何度も経て、俺はようやくアークステイン王国まで辿り着いた。
俺に下された使命は『調査』である。なんの、とは具体的に示されていなかった。後ほど諜報部の長からの連絡で『とりあえずハーゼルツァット侯爵領を目指せ』と言われた。さらに国内の産業、流通、金融、名産などなど。なるべく事細かに調べろと言われた。
……まあ、分かっちゃいたけどな。
前線より相当離れているこの国で陽動を起こして何になるやらだ。ほぼ全ての情報を欲しているとなると潜入調査員はかなり少ないはず。もしかしたら俺だけかもしれない。
急ぎの仕事でも無さそうだし、適当にこなしていけばいいか。その時はそう楽観していた。
『侯爵領に着いたら、領主を探れ。気取られぬように、深入りはするな。念話も防諜をかけろ』
長からの指令は、かなりの難度と見ていい。やはりそうかとつばきを呑み込む。
この大きな街の外周に巡らされた領域結界は相当な魔力の持ち主でないと維持出来ない代物だ。
それとは別に、城壁には簡易魔力防壁と障壁が一枚ずつ。さらに中の領主公邸は二重の防壁と障壁である。
『偏室的なまでに囲っている……?』
魔力防壁と魔力障壁を兼ね備えた城壁など、魔物程度では絶対に破れない。二重となれば下位龍などに対する防御策である。
少なくともこの国の他の領地の街では、ここまでの防御策を講じた街は存在しなかった。
『この国は……ひょっとするととんでもない魔窟かもしれんな』
ざっと確認出来た事を防諜をかけた念話で伝える。長からの返答は『しばらく調査せよ』だ。長く繋げると感づかれやすくなるのですぐに切り、ほうっと息を吐く。
「ま……逆に考えれば、骨休め出来そうだし」
領域結界によって魔物は弱体化しているし、この街は交易も盛んなようだ。人間の冒険者として生活するなら、食いっぱぐれる事は無さそうだ。
こうして俺は、このファーセロットの街を拠点として活動する事にした。およそ一週間ほど前のことだ。
着実に成果を上げて、町民や従士とも知り合いが多くなり。気になる若い娘も出来たりと、人間の真似事もすっかり板に着いた頃。
俺は雑踏の中で魔法の発動を感じた。
周囲に気取られぬように警戒する。
詠唱はとても小さく、雑等の中だと判別はつかない。
杖を振る者も近くには居ないようだ。
『どういうことだっ?』
そして偶然。
手の平に
『杖が……ない?』
手と手を合わせて、その隙間に展開させていたのだから使っている筈もない。つまり、杖無しで
『む、無茶しやがって!』
そんな事をすれば魔力を暴発させる。
急いで止める為に近づこうとする俺の前にふらっとマントの男が入り込んだ。
「おまっ……」
「下がれ」
呟くような言葉に思わず、動きが止まる。その気配はまるで魔王様のような威厳を感じさせるものだった。
そいつはその子供たちに近寄り、気さくに会話を始めた。もう一人の子供は明らかに警戒していたが、魔術を使った方はまるで気にしていないようだ。そいつの方は兜の面頬を上げもせずに会話している。
どちらも非常識で有り得ない。
子供でも魔術を扱うのは魔人族ではある事だ。だが、杖無しでやらせるなんて絶対にさせない。暴発するのが目に見えているからだ。
また面頬を下げずに会話する事も有り得ない。不審すぎるので警戒されるのが普通だ。
ただ、こちらに関してはよく知った知人とか有名人ならあるかもしれない。事実、子どもたちを両替商へ導き、そこで正規の取引を見守って別れたのだ。
自分が介入する必要が無かった事に安堵はするものの、あの兜の男は気になった。その迫力に只者ではないと感じたからだ。
「ではな、次に会う時は酒でも飲もうか」
「そんときゃゴチになりますぜ、ディードの旦那」
両替商と兜の男が離れてから客を二、三人挟んでから、両替商に声をかける。
「両替を頼む」
「へい、なんでやしょ旦那」
両替商は下卑た笑いを浮かべてこちらを仰ぎ見る。手元から銀貨を二枚出し、大銅貨へ両替を依頼する。手つきから見るにどこか大きな両替商で働いていた様子だ。店を構える資金を貯める段階なのだろう。
「はいよ。大銅貨十八枚。二枚は手数料で頂きますぜ」
「ふむ……少し話を聞きたいが、これでどうだ?」
彼の手元に大銅貨を一枚置く。こちらを見てから彼はニヤリと笑い手元の箱ではなく懐にしまう。
「あっしは情報屋じゃないんで。世間話くらいしか出来ませんぜ?」
「それでいい。先程来た兜の男について聞きたい」
「ん? ファーセロットははじめてかい?」
む……街のものなら誰でも知る人物だったか。これは失敗したかもしれない。
「ディーデリックの旦那は、この街の従士団の総指揮官様だよ。爵位はないが、実家は子爵家だったかな?」
「なっ……そんな人物が、護衛も付けずに街に出ているのか?」
「生半な奴にゃあ、やられやしないよ。剣も魔術も収めた魔法剣士らしいからな」
その言葉に、ようやく合点がいった。
しかし街に出る理由は分からない。聞いてみると至極まともに答えてきた。
「そりゃあ、防犯のためさ。ああして回って街のことを見てんだよ。俺みたいなチンケな両替商が不正をしてないか、お前さんみたいな胡乱な奴がいないかとか、な」
「……勤勉なことだな」
「部下にやらせてもうまくいかない事があるんだろ? そんなわけで、兄さんも下手な真似はしない方がいいぜ? おそらく、何人かはもう張り付いてるだろうからな」
にひひ、と笑い毎度ありと答える両替商。会話は終わりということだ。
そこを離れる際に、確かに尾行がいる事が分かった。とりあえず、今日はおとなしくしておこう。
メインストリートからほど離れた辺りの宿屋に居を構えていた俺は、買いだしてきた食材をテーブルに並べてからベッドに横になった。
この辺りは経済が安定しているのか、ベッドには綿を使った布団が使われていた。この規模の宿でこの環境というのはなかなかに珍しい。大概は藁だからな。
水も、清浄とは言えないまでもそのまま飲めるレベルを維持している。水利にも気を掛けているようだ。
総括してみると、この街は今まで見てきた街では随一と言っても良い。我が魔王国本土にも、属国にも、その他巡った国々にも、ここほど民草にとって住みやすい環境は無いだろう。
なるほど、『アークステイン第二の都』と呼ばれる理由は分かる。領主の事も調べが済んでいた。
この国の魔法省の大臣を務める人物らしい。街の住人達からの支持は半々といったところだ。これはこの国でも他の国でも珍しく高水準、という意味である。
街の施策を見れば、それは当然と言えた。
平民から支持される貴族などおよそ考えられないのだが、かの領主はそれを実現してしまっていた。
もっとも、その原動力はというと博愛精神の賜物とかではない。我が子が住む所をより良くしたいという単純な愛情故のものらしかった。
『えらくかわいいお方でね。月に一度やる侯爵様の姿見の式典でも、最近顔をお見せになるの』
知り合った酒場の娘の言葉だ。その日に公邸のテラス前に行けば、侯爵自身の姿も見れるそうだ。その絵も送ろうと思っている。あと、二週間くらいあるのだが……まあ、その間は怪しまれない様に本業に精を出すか。
ここまで思い浮かべた文字を綴り、念話を繋げた際にこの文書を送るようにしておく。緊急時に送る準備というわけだ。
そこまでやって、ようやくひと息ついた。
この作業はいつも疲労がたまるので長くはしたくない。そのまま眠ることにしよう。
「!?」
眠りに落ちる寸前に、魔力の高まりを感じた。
跳ね起きて窓から方角を見る。
魔術による爆音や悲鳴などは感じないが、この規模は俺自身感じたことの無いモノだった。
「マジか……? あの方でも感じたこと無い規模だぜ?」
人の雑踏の中に、微かに歌声のようなものが聞こえるが……民族的な歌か?
急いで戸締まりをして、宿の主人に出掛けると伝えて路地を不自然じゃない様に早歩き。尾行には気付いているが、撒くほど切迫してる訳でもない。
『攻撃術式でないなら……儀式術式? そう言えば歌と踊りで儀式をする部族がいるとは聞いたことがあるが……』
方向を特定していくと、次第に弱まってきた。
これはマズいかと思ったが、尾行の手前走るわけにはいかない。目的地前には魔力はぷっつり切れてしまった。
『この辺りか?』
それでも来た以上は現場は確認しよう。場所は貧民街と思しき区画の広場だ。こういう所は酒をカッくらって寝てる野郎とか、夜の商売の女とか、そいつらのせいで出来た子供が住んでいるはず。案の定、子供達が何人かいる。
「え、?」
そこで俺は信じられないものを見た。
転移術を行使したのだ。杖も無く、詠唱も無しで。
そいつは……昼間見かけたあの子どもだった。魔力で作り出した虹の輪に飛び込み、一瞬で消え去る。それは俺も見たことのない術式であり、とても綺麗に見えた。
目の前で消えた二人に驚く子供達と違い、俺は呆然としていた。
杖無し詠唱無しで、転移術を容易く扱う。魔王国でも有り得ない事だ。魔王様辺りならやりかねないが。だが、問題はそこではない。おそらく五〜六歳の女の子が行った事こそ、驚くべき所なのだ。ゆるく波打つ金の髪を煌めかせていたのだから、間違いはない。
『何者なんだ……あの少女は……』
このとき俺は失策していた。後ろに立つ兜の男の気配に気付けなかったのだ。
「次に会うのは外の草原辺りだと思っていたのだが」
「!」
そいつは右手に杖を、左手は剣の柄に手を添えていた。
「すこし、話をしようか」
「……い、いそぐん、だがね?」
「なに、すぐに済むさ」
右手で杖を取るフリをして、頭の中で呪文を詠唱……うまくいけ。
「動かないで貰おうか」
「ぐ……」
『む……どうした?』
うまく起動できた。出たのは魔王様。最後の情報をお受け取り下さい。
「! 貴様ッ」
「グアッ」
俺が無詠唱で術を使っている事に気付くと、奴は素早く左の腕を振るう。腹部に強烈な一撃をもらい、急速に視界が暗転する。その代わりに浮かぶのは、俺が念話で送った最後に見た印象画のような記憶。
……ああ。
幻想的で、きれいだな。
そこで、俺は意識を失った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……陛下、何をなさっておりますか?」
アリアドナが朝の出仕をすると、魔王と呼ばれる男は、大きな木の板の前で頭を捻っていた。
「……ああ。潜入調査員から報告を受けてな。そこにあった印象画を再現しようと思っていたのだが……」
「見ても宜しいですか?」
「ん? ああ。まだ素描のような状態だがな」
見てみると、そこには小さな少女が少年の首元を掴んで引きずるような絵が描かれていた。
「……失礼ですが、これは?」
「補足の念話は無かった。以後、長にも呼び出させているが応答はない」
「何でしょう……女の子はとても可愛らしく見えますが、なんの意味があるのでしょうか?」
「そうだな。この娘は可愛いかもしれんが……男の首根っこを捕まえて引きずるというのは、意味が分からん」
ふーむと首を捻る男に、アリアドナはやや呆れたように息をつく。
「では、そちらの解析は他のものに任せて政務を行いましょう。クリスタルに移しておいて下さい」
「え? 俺やっちゃダメ?」
「専門に任せるべきかと。魔王様の決済印は魔王様にしか出来ませんので」
「ええ……」
おもちゃを取り上げられる子供のような顔をする男に、アリアドナは少しだけ微笑む。その顔はフードの中で分かりはしないが。
「ご自分でなさるのなら、政務の後になさいませ」
潜入調査員も少し吟味した方が良いかもしれない。軍事機密や要人ではなく、平民の子供の姿などなぜ送ってくるのか。
今日も今日とて、魔王国は平和であった。
ディーデリック視点にしようかと思いましたが、こちらの方が後腐れなくていいかな、と。
あ、ちなみに今のところ、死んではいません。間者なら何処のやつか、調べないといけませんからね。