日曜の午後に動画見てたら幼女になって配信する件について 作:二三一〇
「わたくし、今日はお母さまのお話しを聞きに参りましたの」
「お話し……?」
「はい。今日はわたくし、お父さまに手ずから魔法のご指導を頂きまして。その折に色々とお話ができました。そして思ったのです。お母さまとはあまり話していないということに」
私によく似た娘が、わたしを非難がましくそう宣う。しかし、それは当然の主張だった。
産まれたばかりの頃は、可愛くてかわいくて。片時も手を離したくなかった程だ。
愛らしい顔も、小さな手も、ふわふわの産毛のような髪も。すべてが愛おしい。
産まれたばかりのこの子を、あの人が落としそうになった時は世界が終わるかと思ったほどだ。
その時のように、イルセはリーセロットを抱きかかえている。落ちそうになったリーセロットを我が身を顧みずに抱きかかえ、自身はベッドに頭をぶつけて血を流したにもかかわらず守り通した彼女。
私よりも若く、忠誠心に溢れたこの女を。
私は、恐れていた。
私は可愛げのない女である。
見た目はかなり良いと評判だったが、実際に会話をしてみると殆どの男性がそう言ったそうだ。
私はそうあろうとしていたのだから、それは至極当たり前な話だった。他の貴族の娘のように、きらびやかに着飾り育てた花や刺した刺繍の出来に一喜一憂する事はなかった。
それは私の生い立ちに起因していた。辺境の男爵領など、平民の並の商家よりも困窮する事が多い。
当然、着飾るドレスや装飾品に回すお金など有りはしない。私はそうした事から無縁の存在であったのだ。
だから、初めはアデルベルトの事も嫌いだった。というより、憎んでいた。
侯爵家という高い身分の出で、高い魔力を持っている。さらに言えば、端正な顔立ちも響くその声も、全てが妬ましかったのだ。
「自分に似合ったご令嬢に言い寄りなさいなっ!」
そう言った事があったが、『だから君なんだよ』と笑って答えるだけ。
それでも、ついて回ってくるのなら情が湧くというのものだ。いつしか、彼のことを信じてみようと思い、彼と添い遂げるつもりで結婚に承諾した。
思えばそれは、やはり間違いだった。
婚姻を済ませた頃にお家騒動が起こり、なんと正室の息子が姿を隠す事になった。
先代の正室も放逐されて、先代は責任をとって隠居して……なんとアデルベルトが侯爵家当主となってしまったのだ。
こんなはずではなかった。
男爵家という家格も釣り合わない私が侯爵家の正室なんて無理だ。そもそも、礼儀作法なんて落第しなければいいと思い適当にこなしてきた私だ。
社交界には理由を付けて出ないにしても、彼の妻という肩書から魔術師協会の副理事という役職まで与えられてしまい逃げ出す事は不可能になった。
そうしたストレスのせいか、私が望んだせいかは知らないが、子供が出来るのに5年以上かかってしまった。
そうして産んだ娘はというと、目に入れても痛くないという言葉通りに可愛い娘であった。
しかし、その娘は私以上の魔力を、赤子のうちに秘めていた。
幼い頃の私は大して強くない魔力しかなかった。
総じて家柄というのは魔力の強さを表すバロメータとも言われているのだが、たしかに私は男爵家の人間にふさわしかった。
家柄というものを実感してしまうと、途端に我が子への愛情まで薄れてしまった。
そしてそれを助長したのが、若く美しく私よりも身分の高い出身のメイドの存在だった。
イルセは優秀であり、かつ美しかった。
母である私よりも包容力に富み、リーセロットはいつも彼女やメイドに懐いていた。
これ幸いと育児を乳母やイルセ達に任せ、仕事に精を出すようになり……いつの間にか娘との溝は埋められない程に広がっていた。
そんな娘が、イルセを伴い、夜分に部屋にやって来た。
日頃の不満をぶつけに来たのか、母としての仕事の放棄を詰りに来たのか。
身構えていると、娘は笑顔でこう言った。
「お母さまのお仕事の話を聞きたくて、参りました」
「……え?」
「お外で何をなさっているのか、聞きたいのです。わたくし、まだ子供ですので表には自由に出られませんから。せめてお話を聞きたくて」
興味深そうに、瞳をきらきらさせて。
こちらに不満があるような素振りも見せずにそう言ったのだ。
「面白い話なんか無いわよ?」
「そうですか? 知らないことを知るというだけで、わたくしは楽しいのですが?」
いつの間にかイルセの手から降りて、私の近くに来ていた娘は。
「よっと」
椅子に座る私の上によじ登ってきて、こちらを仰ぎ見るように顔を上げた。
「な……」
「淑女としては行儀悪いですが、母娘ですもの。いいでしょう?」
その仕草に、私は自分の子供の頃を思い出した。
──男爵家なんて、貴族とは名ばかり。
平民のような暮らしの私の家は、乳母なんていなかったし育てるのも母が付きっきりで世話をしていた。そんな昔の事を思い出しながら、かつての母のように私も娘に語りかける。
「……仕方のない子。つまらないわよ?」
「どんとこいですわ」
その口ぶりが、貴族らしくなさ過ぎて面白かった。
私と同じ身分の低い人間の感性があると分かり、私はなぜか嬉しくなった。
「今回の会議はね……」
気付けば。
娘に対して抱いていたわだかまりも、いつの間にか感じなくなっていた。
私のつまらない話にも、適当にではなく相槌を打ちながら聞いている娘。
分からないだろうに、さも知ってましてよ、といった体裁を整える姿は微笑ましい。
私も単純だなぁと感じる一方、難しい話についてくる我が子の素養に驚嘆を感じた。
リーセロットはまだ五歳であり、話したとしてもそれは至極幼稚なものだったはずだ。
しかし、いつの間にか彼女は一端の淑女のような話し方をしている。メイド達との関わりの中で学んだとしたら、これはとんでもない話である。
自分がこの年の頃は野山をかけていた。
育ちの差というのは既に決まっていたのだなぁ、と今更ながらに理解した。
そんな普通ではない娘も、夜も遅くなれば眠くなり、船を漕ぎ始めた。
「今日はもう眠りなさい」
「むう……しかた、ありませ、ん……」
答えきる前に、眠りに落ちるリーセロット。
その姿は高い魔力も、子供とは思えない知性の高さも感じ取れない……普通の子供だ。
「奥様、今日はご一緒にお休み致しますか?」
「……やめておくわ」
「畏まりました」
来たときと同じようにリーセロットを抱きかかえて、イルセが部屋を出るとき。
私は聞きたかった事を聞いてみた。
「あなた。夫から声をかけられた事は無いの?」
意味は、分かるはずだ。
イルセもそれは理解したようで……笑顔を崩さずに答えてきた。
「旦那さまの心には奥様しかありません。また、わたくしがこの家に勤めていられるのも、それゆえでございます」
……一切、そういうことはない。
そう断言した。
「ご不快ならば職を辞させて頂きますが……リーセロット様の傍を離れるのは少し寂しいです」
そう言いながら、リーセロットを見つめるイルセ。
彼女にとって、娘はとても大事な存在になっていたらしい。それはとても好ましい事なはずだ。
「リーセロットが哀しむ事を強要するつもりはないわ。これからもお願いね」
「畏まりました、奥様」
──彼女たちが部屋から居なくなってから。
この部屋は、こんなに寒かったのかと気が付いた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
翌日。早く目が覚めたので昨夜の母親との話を振り返ってみる。
話の内容は、本当に仕事の事であった。
五歳児にガチな業務報告めいた事を言い、役員への愚痴や文句を言うところを見るに……リーサンネという女性は家庭に収まるタイプの女性とは思えなかった。
そりゃあ子供のこと、かなり放置するよな。
面倒みるメイドとか居るんだし。
こういう人は家庭に縛り付けても良いことはないからやりたいようにやらせた方がいい。仕事が気分転換になるという人もいたりするんだ、この世の中には。
幸いにして今のリーセロットは俺であり、子供らしく扱えと駄々をこねたりはしない。
お互いのいい距離を図っていくことにしよう。
方針を定めてからコメントをonにする。
ずっと出てると気が滅入るし、寝てる最中見られてるのも嫌なのでカメラも切ることにしている。
やっぱプライバシーは大事でしょ(ドヤ顔)
いや、良かったな。イルセたん
そうだよな、あれだけの才媛が嫁にもいかずにメイドとか疑うもんなw
いつの間にか浮気疑われてたとかワロス
けどなんでお嫁いかんの? イルセたん
二十歳過ぎにたんはちょっと……まあいいか
イルセたん草
働き甲斐ってのもあるけど大概リーセロットのせいw
イルセたん、お人形好きで部屋にはいっぱい集めてるよ
趣味の人だったか……まあ、理想的な職場だな(笑)
完璧で抱けるお人形だからな、今んとこw
リーセロットたん、最近カメラ切っちゃうから寝姿見れなくてツライ
馬鹿め(弁慶感)ワイ既にプリントしてあるw
ちょっw
い、い、いくら?
言い値で買うぞっ(男気)
食い付き良すぎて草
後でうちのクラウド上げるんで、気に入ったの落として
お前、太っ腹だなぁっ!
ワイ、太って……ないよ、たぶん(汗)
あ、スマソ
いなくても盛り上がってて草。
しかし気になる単語があるな。
浮気を疑われる? 父親のアデルベルトの事だよな? この文脈の中ではイルセくらいしか当てはまらない……もしかして、やらかしたかっ? の、わりには和やかな雰囲気だし……なんやねんw
とりま、寝顔の画像に関しては追及するとして。まずはそっちの方を聞いてみよう。
『皆様、おはようございます。浮気がどうのと言われておりますが、どういうことでしょうか?』
はっ、お、おはようリーセロットたん!
きょ、今日もカワイイね♪
(+_+) オロオロ
ぼ、ぼくは浮気なんてしてないよ?
動揺しすぎ草
いや、お前が誰に浮気しようが知らんし。そうではなく、イルセが疑われてたってどういうこと?
どうもリーサンネは、イルセと旦那の間を疑ってたらしい……
未婚で奇麗な年の若いメイドだから、誤解しても無理はないと思うよ
側室の話からそう連想したという事だって
あー、そーいうのか……まあ、イルセさん可愛いし優しいからなぁ。それで余計に壁作ってたのか。で、仕事にかまけるようになった、と。
それで? まさかケンカとかしてないよな? 俺が寝てる間にとんでもない事になってないよな?
そしたら俺らもっと焦ってると思うw
家庭崩壊だもんな
和解、とまではいってないけどイルセの事は疑わなくなったかな
君のこともちゃんと撫でていたし、リーサンネさんも柔らかくなってたよ
正直、なんでそうなったかはウチらも分からんw
俺も分からんから気にすんなw
お話して、どんな人なのか、どうすりゃいいか対策を考えようと思ってたのに。
あれか? 天使のような微笑みが……いや、んなわけないか。それならとっくに関係修復してるだろ。
天使なのは認める(確信)
ウチの天使たちって、使徒みたいな奴らなんだが……
Σ(゚Д゚) コワッ
旧? 新? まあどっちでもクリーチャーやんw
いっそ、リーセロットたんの形にするか……
それ見たいっ!
出来たら見せて
……俺はマトリエルが好き♡
多脚戦車みたいで。
俺氏、それはちょっと……
でもデザードガンナーかっけぇよな!
……そう?(クリッ)
蜘蛛、手に載せられるヒロインいたな
なんだ? また、○J部の話か?
そういや、名字も天使だなw
小生意気な方かと思った草
俺は紫音さんかなぁ……
推しキャラの話とかしてんなよ(笑) ちな、GJ○なら俺は姉の真央が好き。
ちみっ子かわいい♪
幼女が幼女好きで幸せ♪
世界は平和だなぁ……
平和なのは、お前らの頭ン中だろ?
食堂でアデルベルトとリーサンネが話しながら食事していたのを見て、本当に解決してたと分かった。
ま、まあ。
深いことは気にしないでいこう。
産まれてくる妹に、ちゃんと義理が果たせたわけだし。