光は救いか盲目か   作:美笑女

2 / 2
更新が、遅い……


その教室には女神が居る

 私は、その男の顔を、三度見たことがある。お前はどれだけ太宰が好きなんだと言われるかもしれないが、唯格好がつく気がしたから引用しただけである。私が彼の本を一度読んだきりあの本は本棚の奥底へと大事に保管されている。尤も、大事に保管されているだけで二度と日の目を見る事は無いであろうが。数年後には化石となって私の家から発掘されるかもしれない。

 

 一度目は女神との邂逅の時であった。私はあの後無様な事にカルチャーショックを受けて(若しくはコミュ障を発揮し)唯その場で立ち竦んでいただけであった。

 一方女神様はと言うと余程私の情けなさに堪え兼ねたのか私の顔から目を逸らしていた。私は女神に日日違いの旨を伝え、あわよくばといったのだが時既に遅し。彼女は既に立ち去っていた。

 私はこの時チャンスの女神に後ろ髪は無いという事を身を以て実感し、我が身の愚かさを恨んだ。二度とあのような失態を犯すまいと女神様に誓った。

 あの時私の視界の隅に映っていた彼の笑顔は妙に印象に残っている。

 

 二度目は入学式の道中であった。私はいつもの如く美少女ウォッチングをしていた。女神教に入信しつつもこの有様とはけしからん。張り付けにしてやる。という方はどうか少し待っていただきたい。深呼吸をして糖分を摂取するといい。私はその間に逃げておく。

 我らが女神様はその御心に拠って我々が美少女ウォッチングをする事を宥恕して下さるのだ。具体的には我々の立ち振舞いは我々自身の良心と広い裁量、相互懲戒に委ねられているのだ。君臨すれども統治せずというやつだ。

 私にも良心の欠片くらいはある為この事に関しては何の問題も無いだろう。

 

 閑話休題。ふと前方を見ると一際女子の多い所があった。私にも野次馬根性はあった為その女子達の視線の先を見ると昨日の茶髪の男が歩いていた。

 彼はその甘ったるいマスクに正にこれからの青春への期待に満ち溢れているとでも言わんばかりのおめでたい顔をしていた。

 しかし残念ながら彼を待っているのは私の様な阿呆とクラストップに纏わり付くミーハー共である。彼等彼女等が学校で身につけるのは試験後一週間程度の知識と世渡りをする上で必要不可欠な保身術である。

 彼の顔の形状を見ると私の経験に基づくに彼の頭蓋には皺の少ない阿呆の脳味噌が詰まっていると見える。碌な経験じゃないだろうとか言わないで欲しい。

 彼はその程度の人間に囲まれる青春で満足なのだろう。

 そしてその近くには彼の顔を見て百面相する不審な男が居たとか居なかったとか。

 

 そして三度目は、

 

「じゃあ次は僕だね。小林晴人、中学ではサッカーしてました。好きなことは友達と遊びに行くこととカラオケかな。この学校、うちの中学から来てる人少ないから友達たくさん作りたいなって思ってます。RAINとか大歓迎だから、よろしくね」

「はるとくーん、私と交換しよー」「えー私もー」「今度サッカー部見に行こうぜ!」

 

 学校の校舎へと到着した私は自分の名前を探し始める。ええい喧しい。何が同じクラスだ。私は何時までも喜んでいるおめでたい奴等を掻き分けて自分のクラスの自分の席へと着く。

 これまでどれだけの阿呆共がこの机で睡眠学習をしてきたのかという事を考えると歴史を感じ、感慨深くなりつつ半ば誘惑的に私はその阿呆共の内の一人と化す。

 

 目が覚めるとあの茶髪が先程のように自己紹介をしていた為私は必然的に彼の顔を直視する事となる。彼はその甘いマスクを緩め、手を振っている。周りから女子の喚声が聞こえる。羨ましいなんて事はな、無いのだ。何と馬鹿馬鹿しい。私の場合態々微塵も興味の無い話をセンスの無い冗句と共に聞いてまでそんな物は必要としないのだ。

 

 因みに私の自己紹介の番は丁度教師の位置から隠れていて気付かなかったのか私が寝ていて起こすのが面倒だったのか飛ばされていた。おのれあの草臥れたデモシカ顔の教師め。私の存在に気付きもしないとは。だが私は持ち前の山より高く海より深い慈悲の心で許してやった。

 いや、巷で話題の百面相を気遣ってそっとして置いてくれているのかもしれない。きっとそうに違いない。そう考えた方が精神衛生上良い。いやー人気者は辛いね。これでクラス内で空気と化す事が確定したが元より嘲笑と下心しかない私にとっては自己紹介を考える手間が省けた事の方が大きい。

 そして脳内で彼の自己紹介を自分の声で再生するととても気味が悪かった。南無三。

 

 ふと周りを見渡す。すると茶髪の前に時空が歪んだかのような様な錯覚を起こす気配を感じた為私は思わずそちらを向く。すると女神が陰鬱な顔で頭を抱えて小刻みに震えていた。一体全体何があったというのだ。そして女神と同じクラスになれるとは、何たる栄光。

 自分は明日にでも死んでしまうのではないか。私は言いようのない不安に襲われた。私は女神と同じクラスになれた。本望じゃ。この人生一片の悔い無しといった事は考えない。矢張り命は惜しいのだ。そして何よりも同じクラスになる事の利点は長い時間を共に過ごす事が出来る点にある。死んでしまっては元も子もない。

 詰まる所は折角女神と同じクラスになれたのでまだ死にたくないという事である。怪談や都市伝説でも同じだがそれまで知らなかったらどうも思わないのに話を聞いた途端にいつも見てきた物が怖く見えるのだから不思議なものである。

 

 また周りを見渡していると女神が陰鬱な顔をしていた事を思い出す。今の女神は小動物の様にも見える。黒い小動物……ミッ○ーマウスではないか。あの夢の国の鼠は果たして小動物と言えるのだろうか。鼠と言えば日本に於いては古来から家財や農作物を喰い荒らしてきた害獣である。その為鼠返しが作られ、現在でも船舶や電柱に見られる。国外ではペストの流行の原因となり、人々の生活に甚大な被害を齎した。あの可愛らしい見た目とは裏腹にとても恐ろしい奴らなのだ。あの夢の国ではそんな恐ろしい動物を神として崇め立てている。矢張りあそこでは特殊電波が発信されているのかもしれない。そう結論付けると私は女神が悩んでいる事について思いを馳せてみる。

 

『高校の勉強についていけるかな』

 何とも現実的な女神である。

 

『ああ、今月の生活費はどうしよう……』

 女神のアルバイト先があれば何度でも貢ぎに行くのに。

 

『あの小林という男は学園ハーレムでも築こうとしているのか。何と恐ろしい』

 全くもって同感である。

 

 矢張り女神は人智を超えた存在であったようで我々には女神の考えている事を推し量る事は出来ないらしい。それにしても女神は暗い表情をしていても女神で、また違った感じの美術品の様にも見える。そして一部の加虐趣味のある人間を唆るであろう。いや、女神に対して邪な感情を抱くとは万死に値する。私は正気に戻った。

 

 そして教師が話をし、教科書類が配られて解散である。すると恐れ多い事に小林某は軽い感じで女神に声をかける。

 

「あ、黒音さんだったよね。この後みんなでカラオケでも行こうかって話してるんだけど良かったらどうかな?」

 

 何とけしからん奴だ。私も混ぜろ。

 

「え、あ、その」

「ああ、もしかしてこのあと用事でもあったのかな。引き止めちゃったりしてごめんね」

「いや、大丈夫です……」

 

 あ、やっぱりいいわ。

 

 ○

 

 学校で生活していると必ず人間関係という物に苛まれる。多くの場合ではカーストトップ、勝ち組等といった発言力の強い集団と、陰キャラと呼ばれる趣味に没頭した人間、若しくは意思疎通をする事が得意で無い上層部に憧れる人間がいる。

 その陰キャラと呼ばれる人間達は時として集団を形成する。両方に共通しているのは多くの場合それらの集団が馬鹿から成り、他方の集団を忌避するという事だろう。そしてその何方に入ったとしても一緒にいて楽しい人間でない限り時間を取られるだけでなく勉強が出来ず、少し離れると付き合いが悪いと言われ不毛な戦いが始まるのだ。正に「歴史は繰り返す」だろう。

 そして今の時代ではSNSが発達し、離れていても簡単に連絡を取る事が出来る。何が言いたいかはお分かりだろう。尤も、勉強をしたところで勉強をさせられていると考え、それを何かと結びつけられずテストでしか生かせない限り、生涯何の役にも立たずに揃って「数学何て出来なくても困った事は無かった」等と見当違いな事を吐かすだけなのだが。

 

 某悪徳弁護士は中学時代の友人や人間関係は役に立たないどころか下らない友情で縛りつけるだけだと述べていた。成る程、確かに中学時代の友人が役に立つ訳が無い。寧ろ頼られて迷惑を被る事もあるだろう。それどころか隣の花は赤いと言う様に嫉妬の種になる。

 オスカー・ワイルドに依ると「結婚はまさしく相互の誤解にもとづくものである」との事である。友人も相手の事をよく知らずに気が合うと思い込んでいつつも何処かで意見が異なる事があるだろう。故に私は友人とは冗談が通じる程度で表面上の入れ込み過ぎない関係が最善だと考えている。十訓抄にも朋友を選ぶ事と書いてある。

 詰まる所は人間関係が面倒だという事だ。何故このような事を考えているかというと、

 

「まさかこの後あんな事が起こる事になろうとは」

「この時の僕達は思いもしなかった。いや、気付きたくなかっただけなのかもしれない」

 

 他でもない、クラスメイト(仮)に話しかけられたからである。

 

 誰だよお前。メロスは困惑した。メロスには人付き合いが分からぬ。私が呆然としていると†謎の男†が続ける。

 

「いやー流石ですね。明日生きてここに在るという事が保証されている訳でも無いのにこの平穏が続くと信じて疑わない平和呆けした連中とは違う様だ」

「まさか貴様、アレを使ったのか!」

「そんな事にすら気付かないとは、貴君もまた同様に阿呆だった様だ」

「ここは敵陣の中だ。貴様はもう逃げられないぞ」

「逃げる必要等なかろう」

「捨身の攻撃だとでも言うのか」

「そうだ」

「そこまでして多くの人命を奪おうとは、何が目的だ!」

「別に人命を奪う何て一言も言っていないのだが」

「な、」

 

 いかん、こいつと居るとこいつのペースに飲まれる。そう考えた私は厳正なる審判の末考えついた作戦を実行へと移す。一葉落ちて天下の秋を知るとは私の事だ。手際の良い私はなんとここまで所要時間5秒。カップラーメンが出来るより圧倒的に速い。硬麺派も驚きの速さである。

 私は光る石盤(スマートフォン)を自分の耳元に翳し、よいこの味方防犯ブザーを掲げ、こう言った。

 

「もしもしポリスメン?」

 

 すると私はどこでもドアで南極に飛ばされた様な錯覚を起こした。最近の高校生は目から冷凍ビームが出せるのか。周りの驚く程冷たい視線に冷静になった私はそんなどうでもいい事を考えつつ、

 

「出る杭は打たれる〜」

 

 逃げ出した。




オスカー・ワイルド「ほとんどの人々は他の人々である。彼らの思考は誰かの意見、彼らの人生は模倣、そして彼らの情熱は引用である」
主人公「話の起点とする為に例示しただけだ」
オスカー・ワイルド「結局の所その思考は私の言った事に起因する物だ。馬鹿の一つ覚えの様に私の名言を囀るのはやめてくれたまえ」
主人公「使える物を使って何が悪い。人間なんてその時の気分で物を言っているんだ。学生の言う事なんて特に中身が無い。お前の思考も全て自分が考えた物ではないだろ」
オスカー・ワイルド「人々が私に賛成するときはいつも、私は自分が間違っているに違いないと感じる」
主人公「ぐぬぬ」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。