今回はガチでモチベが保てなくて、本当に気合のみで書きました。
キツイ……書こうと思っている話同士の間を埋める話書くのキツすぎる……。
俺のホスト生活は順調に順調を極めていた。
しかしいくら順調といっても、まさか鬼も来店してくるとは思わなかった。
事前に炭治郎君に教えておいたサインによって分かったのだが、俺の目にはただの可愛い女の子にしか見えなかったので、驚きである。
というか今でもにわかに信じがたいのだが、あの嗅覚という範囲を超越したヤバイ識別能力を持ってる炭治郎君がそういうのなら間違いないだろう。
その時の炭治郎君は平静を装って普通に接客していたが、表情に焦燥がにじみ出ていたことに俺は気づいていた。つまりそれなりに危険な鬼だったようである。
しかし、当のその鬼『堕姫ちゃん』はどう見ても、普通に俺に好意を寄せてくれる女の子にしか見えなかった。
こういうことに関して俺は炭治郎君の嗅覚なみの自信がある。
なので俺は、もっと仲良くなったら鬼舞辻無惨の情報とかくれるんじゃね? と思った。炭治郎君に言ってみたら流石に無理でしょうと言われた。
しかし何事もやってみなくては分からない。
お館様への報告はちょっと待ってくれと炭治郎君に言い含めておき、堕姫ちゃんがウチに通い始めて一か月後くらいの時点で突っ込んでみた。
「堕姫ちゃんって鬼だよね?」と。
堕姫ちゃんは大層動揺していたようだったが、すぐに殺されるようなことはなかった。
というか顔を青ざめてなんかめちゃくちゃ怖がっていた。
いつものように慰めながら話を聞くと、どうやら鬼であるとばれたことで俺に嫌われたんじゃないかと怯えていたらしい。
あ、これいけるやん。と、俺はその時に確信した。
頭を撫で甘い言葉をささやきながら、君のボスの鬼舞辻無惨ってやつの情報が欲しいんだみたいなことを言ってみたところ、堕姫ちゃんはそれはもうペラペラと喋ってくれた。
躊躇した時のために、「俺と無惨、どっちが大事なの?」という技を残していたというのに実に拍子抜けである。
聞くと、どうやら堕姫ちゃんは俺と出会ってから無惨の呪いというか枷が外れたらしい。
無惨に行動を縛られることもないし、名前を呼んだだけで死ぬこともない。
ということで本当に色々なことを話してくれた。
上弦の鬼の名前や容姿、そして能力、無限城という無惨の拠点のこと、無惨が今は耳飾りを付けた鬼殺隊の少年を殺せと命令しているということ。
耳飾りを付けた鬼殺隊の少年って……と、そこで俺は炭治郎君とお互いの顔を見合わせた。
どうやら、なんか知らんけど炭治郎君は無惨に狙われているらしい。
その中で俺を探したりはしていないのかと聞いてみたが、そういう話は聞かなかったと言われた。
もう堕姫ちゃんは無惨の配下から外れているので確かめようはないが、やはり俺を探しているというのはなんかの間違いなんじゃなかろうか。
いくらちょっと顔が良いとはいっても俺は普通の人間だ。俺を捕まえたりしたってどうしようもないだろう。
まあそれこそ上弦の陸だったらしいめちゃ強い堕姫ちゃんみたいな鬼を使えば無理やりにでも捕獲することはできたはずで、それをしない理由もない。
つい最近までは一人でふらふら町を出歩いてたわけだし。
そして、一応そろそろ話が一段落した感じのところで、俺は堕姫ちゃんに「これからは人を食べないようにね」と言っておいた。
ずっと隠しておくわけにもいかないし、堕姫ちゃんがこっちの味方をしてくれるとしてもお館様にいずれは報告しなくちゃいけないだろう。
その時今もまだ人を喰ってるとなれば流石のお館様でも協力者としては認めない気がする。
逆を言えば、これまでたくさんの人を喰らっていようとも、もう人を食べることをやめていて、なおかつ元上弦の陸という立場にいた鬼ということであれば、お館様は受け入れるんじゃないかと俺は思っている。
この前の柱合裁判で感じた鬼舞辻無惨への執念は相当なもののはずだ。
最低限の筋を通していれば、有用なものは使うんじゃないかと思われる。
結果的に、堕姫ちゃんは少なくとも生きている人間を食べはしないということで納得した。
炭治郎君は少し複雑そうだったが、まあそれも仕方ない。
しかし俺はまだ鬼の被害を受けたこともないので、復讐心とかそういうものがないのだ。許してくれ。
そんなこんなでまたそれから一か月ほど経ったが、今も普通に堕姫ちゃんは店に通ってきている。
人を食べていないという約束もちゃんと守っているようだし(炭治郎君調べ)、もう少ししたらお館様に報告でもあげとくかーなんて俺は思い始めていた。
「……久遠さん、また賭場でお金使いまくってたけど大丈夫なんですか?」
とある日の事。
いつものように昼間町で遊んできたその足で店に入ると、炭治郎君が心配そうに問いかけてくる。
俺は気持ち胸をはりながら明るい顔で答えた。
「だいじょーぶだいじょーぶ! この程度の負け、今の俺の懐具合を考えれば痛くもかゆくもないからね!」
「いや、そうではなくて……しのぶさんに怒られるんじゃ……」
「……まあ言わなきゃばれないでしょ。というか金もかなりたまってきたし、別に無理して蝶屋敷に帰る必要もないからね」
「そ、それは駄目ですよ! しのぶさんだってアオイさんだってカナヲだって! みんな久遠さんを大切に思ってるんですよ! そんなことしたらみんな悲しみます……!」
「むぅ……とはいえ俺も自分の食い扶持を賄えるようになったわけだし、いつまでも居候を続けるのもねぇ。まあこれに関してはもうちょい考えるよ」
炭治郎君の異様な圧に押されてしまったが、ぶっちゃけ俺は蝶屋敷に住むこと自体にこだわりがあるわけじゃないし、むしろ今の生活スタイルを考えると町のどっかに住むのがいいんじゃないかと思ってる。
しのぶちゃんとか蝶屋敷の面々は嫌いじゃないけど、俺の気が向いた時に会いに行く感じのほうが気楽で良いのだ。
まあ確かにしのぶちゃんなんかは、今俺が出てったらメンヘラ一直線になりそうな気もするし、様子見はしなくちゃいけないだろうなぁ。
そんなことを考えていたら不意にお店の扉が開く音がした。
まだ開店時間には少し早い。常連の子ならそれくらい知ってるし、そもそも店前にはまだCLOSEDの看板があるわけだし、一体誰だろうか。
そう思って視線を向けると、そこにいたのは俺が見たことのある人だった。
「あ、久遠さんいた! こんにちはー!」
「あれ、君は確か……そうだ、蜜璃ちゃん」
扉の前で嬉しそうな笑顔を浮かべている桜色の髪をした女の子は、以前柱合裁判の時に会った甘露寺蜜璃ちゃんだった。
こんなに可愛い子なのに鬼殺隊の中でもめちゃくちゃ強い柱なんだから不思議である。
まあそれはしのぶちゃんも同じなんだけど。
「どうしたの? まだお店は開いてないんだけど……」
「あ、えーっと、その……久遠さんに会いたかったの。ここに来れば会えるのは分かってたけど、あれから私ずっとお仕事が忙しくて。ようやく時間が取れたから遊びに来ちゃったんだけど……迷惑だったかしら?」
「ううん、全然迷惑じゃないよ。俺も君とは一度ちゃんとお話したかったからね。お客の子が来るまででよければ、お相手するよ」
「わっ、やった!」
蜜璃ちゃんはパッと明るい太陽のような笑顔を浮かべ、こちらへ駆け寄ってきた。
「せっかくだから何かお菓子でも食べながらゆっくりお話ししようか。炭治郎君、なんか茶菓子ってあったかな?」
「えーっと、多分あると思いますよ」
「あ、大丈夫! 私、ちゃんとお土産にお菓子とお紅茶を買ってきたの! 炭治郎君、厨房ってどこかしら。お茶は私が淹れるから」
ややあって、テーブルには紅茶の入ったティーカップが3つとクッキーの入った皿が並べられた。
俺と蜜璃ちゃんはソファに隣同士で、炭治郎君は少し離れたところに座った。
「で、蜜璃ちゃんはわざわざ俺に会いにきたんだよね。嬉しいんだけど、どうしてかな?」
「だって久遠さん、すっっっっっっっごくカッコいいんだもん! こんなにカッコいい人、私今まで見たことない!」
「あはは、俺の顔を気に入ってくれたんだ」
「ううん、それだけじゃないよ。あの後しのぶちゃんから色々お話も聞いたの。しのぶちゃんがお姉さんを失った悲しみから抜け出すことができた時の話とか。それを聞いて、久遠さんって優しい人なんだなー、もう一回会ってお話したいなーってずっと思ってたの」
あの時はとりあえず場を収めるために適当言っただけだし、俺が優しいというのは普通に間違いである。まあ人非人ではないと思ってはいるけども。
「あ、そうだ。俺からちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なになに? なんでも聞いて! うちの家族のこととか猫ちゃんたちのこととか何でも話しちゃう!」
「蜜璃ちゃんのその髪って地毛? それとも染めたの? 前見た時に、すごく綺麗な桜色だなーって思ってさ」
そう聞くと、さっきまで元気一杯だった蜜璃ちゃんが途端に元気をなくして言いづらそうにしている。
え、なに。俺はそんなにヤバイ地雷を踏んだのか?
確かに女性の身体に対する質問は基本NGかもしれんが、髪くらいはいいんじゃないのか。
「え、えっと、あのね? 笑わないで聞いてほしんだけど……」
「大丈夫、笑わないよ」
「う、うん。その……私、桜餅が大好物で……」
「うん」
「さ、桜餅を食べすぎてたらいつの間にかこうなってたの……」
うん?
桜餅を食べすぎて髪が桜色になった?
そんな馬鹿な。
蜜璃ちゃんなりのジョークなのかと思ったが、彼女の顔や反応を見るに別に冗談で言っているわけじゃないらしい。
確かに、よく見る全体的に桜色な髪の毛先は薄緑色をしていて、桜餅のようにも見える。
つまり、桜餅を食べすぎると人は髪の毛が桜餅色になる……?
「それはまた……すごい可愛らしい理由なんだね」
「……笑わないの?」
「笑うっていうか、まあ驚きはしたけど……。その髪色は蜜璃ちゃんにめちゃくちゃ似合ってると思うし、いいんじゃないかな。少なくとも俺は好きだよ、蜜璃ちゃんの髪」
俺がそう言うと、蜜璃ちゃんは真っ赤になった顔を伏せ、隠すように手で覆う。
「う、嬉しいよぉ……男の人にそんなこと言われたこと、ほとんどないし……。久遠さんに言われると、なんかすっごく嬉しくて、ドキドキして、恥ずかしくなっちゃう……」
もじもじと身体をくねらせる蜜璃ちゃん。
なんか……こういう風に自分の感情を全部素直に表現する子は初めてだから新鮮だな。
いや、しのぶちゃんとかもはっちゃけると凄いんだけどね。
でも蜜璃ちゃんは本当に純粋で素直な女の子なんだなーと思う。
「蜜璃ちゃんはすごく可愛い女の子だよ。今まで蜜璃ちゃんを褒めなかった男は本当に見る目がない」
「う、うぅ……そんなカッコいい顔で甘い言葉を囁かないでぇ……。恥ずかしくて顔見れなくなっちゃう……」
「それに、見た目はそんなに可憐な女の子なのに、鬼殺隊で柱として頑張ってるのもすごいと思う。俺なんか男のくせに貧弱だからさ、そうやって誰かを守るための強い力がある蜜璃ちゃんが羨ましいよ」
さりげなく蜜璃ちゃんの肩を寄せ、頭を撫でながら耳元でささやく。
俺の必勝法であり、常勝法である。
まあ蜜璃ちゃんに力があることを羨ましいとは思っていないが、多分この子は人からの評価を結構気にするタイプのようなので、強い=女の子らしくない、ということを俺が考えていないんだよと伝えるための言葉である。
すると蜜璃ちゃんは予想通りパッと顔を上げて俺を見た。
「わ、私……男の人より強いけど、それでもちゃんと女の子らしいかな?」
「勿論、蜜璃ちゃんが女の子らしくなかったらこの世のほとんどの女子は女の子らしくないよ」
「……私、小さいころからすっごく力が強かったの。普通の人間じゃありえないくらい。それでも、ちゃんと可愛い女の子でいれてるかな?」
「当然。蜜璃ちゃんが強いことと、蜜璃ちゃんが可愛い女の子であることは別の話だしね。むしろ可愛いのに強いってことはその辺の女の子よりもすごいよ」
「私……すっごい大食いなの。女の子どころか男の人よりもずっと。初めて見た人はびっくりするくらいに大食いなの」
「俺はご飯をいっぱい食べる子、好きだよ。今度一緒にどこかに食べに行きたいな」
俺が言い終わるや否や、蜜璃ちゃんは俺にギュッと抱きついてきた。
「……久遠さん、優しい。そんな言葉をかけてもらったの、お館様に会った時以来だもん」
「そう? でも鬼殺隊の人たちとは結構仲良くしてるってしのぶから聞いたけど」
「仲良くしてると、私は思ってるんだけど……。
私、自分からすごく話しかけちゃう方だから、人からみたら仲が良さそうに見えてももしかしたら空回りしてるだけかもしれないなあって。柱の男性陣って宇髄さん以外はみんな口数少ないし、伊黒さんなんかよく私と一緒にご飯食べたりするけど、いつもホントは引かれたりしてないかなってちょっと不安だったの」
伊黒さん?
それが誰のことだかはよく分からんが、蜜璃ちゃんに好意を持っている男としてはあの小柄な蛇男が思い浮かぶ。
あの柱合裁判の時、明らかに俺に嫉妬の念を送って来てたからだ。
もし奴が伊黒さんなのだとしたら、それは普通に蜜璃ちゃんが好きで一緒にいるんだと思うし、今更蜜璃ちゃんの悩んでいることなんて気にしていないのは間違いない。
まあしかし、こういうのは言葉でちゃんと伝えないと届かないってところもあるからな。
積極的にアピールせずとも想っていればいつか伝わるはずなんてのは、漫画や小説だけの話だ。
実際はうじうじダラダラとしている間に、とにかくアピールをしていた者が意中の女の子をかっさらっていく。それがリアルな恋愛の常である。
だから……すまん、伊黒君。
別に君の恋愛を邪魔しようとする気は更々ないんだけど、今回は君の内心のフォローとかはしないでおきます。
「他の人がどう思っているかは分からないけど、少なくとも俺はどんな蜜璃ちゃんでも受け入れるし、好きになれるよ」
「久遠さん……」
そして俺は顔を赤くした蜜璃ちゃんと見つめ合う。
自然と互いの手を握り締めて指を絡ませ、どこのベタな恋愛シーンだよという感じの構図である。
近くで炭治郎君が気まずそうにしているがスルーだ。
蜜璃ちゃんは完全に恋愛世界に入り込んでるし、俺は別に人目があっても気にしない。
さあ、ここから俺の女の子堕としテクニックにおける必勝コンボを――
「す、すいませーん……」
突然ガチャリと扉が開く音と共に誰かの声。
俺と蜜璃ちゃんはその驚きで飛び跳ねるようにパッと距離を離した。
え、誰……? もう開店時間だったっけ?
そう思って時計を見ると、まだ30分ほど時間はあった。
つまり常連の子じゃない。とすると、マジで誰なんだ。
逆光でよく見えないそのシルエットに俺は目を凝らす。
「あ、久遠。こんなとこでお店やってるって聞いて、私急いで来ちゃったよ」
「その声……零余子ちゃん?」
「そ、久しぶり。久遠」
扉が閉じ、逆光が消えるとその人物の姿がよく見える。
本日突然の来訪者二人目は、町でちょくちょく会っている零余子ちゃんだった。
「いや、本当に久しぶりだね。どうしたの最近? ここ二か月くらい会えなかったけど」
「あー……仕事してたのよ、結構忙しくて大変な仕事。それがようやく安定してきて、時間もできたから久遠に会いに来たわけ」
「へー、どんな仕事?」
「それは――って、二か月も会えてなかったのに久遠、全然嬉しそうじゃないし! しかもなんか隣にはまた違う女いるし! 私がどんな思いで……って、え…………」
零余子ちゃんが突然言葉を切って、顔をサッと青ざめさせる。
視線の先にいるのは蜜璃ちゃんだ。
蜜璃ちゃんの方はといえば、こっちも大分険しい顔で零余子ちゃんを見ていた。
……これはどうも痴情云々って感じではなさそうだ。
蜜璃ちゃん側の視線はさておいても、零余子ちゃんが蜜璃ちゃんを見て『怯え』を顔に出すのはおかしい。
じゃあ一体何が……と思っていると、俺の前に出た炭治郎君が背中に手をまわしてサインを作った。
事前に取り決めておいたそのサインの意味するところは、『鬼舞辻ではない鬼』。
…………ふむ。
「え、零余子ちゃんって鬼だったの?」
「っ!」
「ちょっ、久遠さん!? 何のためのサインですか!」
あ、やべ。
つい口に出してしまった。
いやでもなぁ……。いくらなんでも数か月くらいの付き合いになるというのに、今更零余子ちゃんが鬼と言われても中々信じられない。
だって本来鬼は人を喰うもののはずだ。
零余子ちゃんが鬼だったとしたら普通に喰われるだろう場面は何十回もあった。
それでも俺はこうして生きているし、零余子ちゃんとも仲良くしていると思っている。
で、当の零余子ちゃんはというと、より一層顔を青くし、俯いたまま身体を震わせていた。
「炭治郎君、間違いないの?」
「はい、間違いなくその女性は鬼です」
「しかもそれなりに力を持ってる鬼ね。恐らく下弦の鬼くらいあるはずだわ」
炭治郎君の言葉に蜜璃ちゃんが補足する。
なるほど、強者は強者の気配が分かる的なアレか。
しかし、下弦の鬼かあ……。
最近よく会う堕姫ちゃんがそれより上の元上弦で、下弦の何かもちょっと前にしのぶが討伐してきたらしいし、正直あまり怖さが実感できない。
いやそこら辺の鬼より強いんだろうけどさ。
そもそも、俺はこの世界に親兄弟も誰もいなければ、鬼に誰か大切な人を殺されたという経験もない。
だから鬼への復讐心とか憎悪とかそういうものがまずないのだ。
零余子ちゃんが鬼だったと聞かされても、別に俺が被害を被ったわけでもないし「へーそうなんだ」で終らせてしまえることである。
とはいえ、ここに鬼殺隊の隊士がいる以上、そういう訳にもいかないのだろう。
「……あー、お二人さん。ここは俺に任せてもらっていいかな?」
「ダメ! 危険だよ! 様子を見るに知り合いだったんだろうけど、頭のいい鬼は目的の為ならそれぐらいするの! 鬼だと分かった以上、鬼殺隊として民間人を近づけるわけにはいきません!」
ついさっきまでのぽやんとした雰囲気は全くなく、毅然とした顔つきで蜜璃ちゃんは俺に向かって諭す。
言っていることはまあ正しい。
正しいんだけど……ここで蜜璃ちゃんの言うとおりにしたら零余子ちゃんはきっと碌な目に合わないだろうし、堕姫ちゃんという前例がある中、零余子ちゃんだけを見捨てたらなんだか目覚めも悪くなる。
どうしたものかと考えていると、炭治郎君が難しそうな顔をしたままポツリと言葉を漏した。
「……俺は、久遠さんに任せます。この人からは敵意とかそういう攻撃的な感情がないんです。ただ、とても怖がっていて、悲しんでいます。話ぐらいはしてもいいんじゃないかなと思うし、もし話をするなら久遠さん以外に適任はいないんじゃないかなって」
ここで炭治郎君からの心強い援護である。
匂いで他者の感情なども分かる炭治郎君が、零余子ちゃんの害意のなさに言及してくれたのは大きい。
「ありがとう、炭治郎君。……そういう訳だからさ、蜜璃ちゃん」
「う、うぅ……でも、万が一久遠さんの身に何かあったら本当に大変なことになっちゃうんだよ……?」
「分かってる。でも、この場の誰も悲しまないような結果に持って行けるのは俺しかいないしね。俺がやらないと」
そして、俺は二人の前に出ていき、零余子ちゃんの正面に立つ。
「零余子ちゃん」
声をかけると肩をビクッと揺らし、恐る恐るといった感じで俺の顔を覗き込んだ。
「……ごめんなさい。騙すつもりじゃなかったの。でも、私が鬼だって知ったらきっと嫌われちゃうって思ってずっと言えなかった。初めて会ったあの時から、久遠を食べようとなんて思ってなかったし、ただ時々一緒にお話しできればよかったの。本当に、それだけで……」
「いや、俺は全然気にしてないよ」
「……へ?」
俺のいかにも軽い調子の答えに、零余子ちゃんは間の抜けた声を上げた。
「気にしてない……?」
「うん、びっくりはしたけど。俺は、鬼は怖いなあと思うくらいで特に思うところがあるわけじゃないし、零余子ちゃんがどういう子なのかはもうちゃんと知ってるしね。そうなったら鬼も人も関係ないよ」
「…………久遠っっっっっ!」
言い終わると同時に零余子ちゃんが俺の胸に飛び込んできた。
そのまま胸に顔をうずめて声を殺して泣いている。
俺はそれを慰めるように優しく、丁寧に、頭を撫でてあげた。
……ミッションコンプリート。
ふっ、いやあイージーゲームですね。
零余子ちゃんは普段からちょっと褒めるとデレデレになるチョロツンデレみたいな子なので、こうやって一言不安を解消する言葉を言ってあげればいいのだ。
で、慰めもそこそこに、とりあえず零余子ちゃんから色々と詳しい話を聞くことにする。
すると分かったこととして、
①俺にスムーズに会えるように、アオイちゃんの力を借りていた。(どうやらアオイちゃんは零余子ちゃんが鬼であるということ知っていたうえで助力したらしい)
②俺と会ってからは人間を殺して食べていないらしい。たまに死体を食べることはあるが、基本的にはまず食べていないとのこと。(これが、アオイちゃんが力を貸す上での条件だったようだ)
③鬼舞辻無惨の枷はいつの間にか外れていた。堕姫ちゃんと同じように名前を口にしても問題ないし、もう支配下にもないんだとか。
④零余子ちゃんは下弦の肆。
⑤最近は鬼の体力をいかして、個人で配達サービスのようなことをしている。
こんな感じだった。
アオイちゃんが力を貸しているというのは知っていたが、まさか鬼だと分かったうえでの行動だとは思わなかった。
まあ賢い子だからその時色々考えてのことなんだろうけど。
で、人を食べていないというのは非常に良い情報だ。
炭治郎君に確認したところ嘘もついてなかったようだし、その計算なら堕姫ちゃんよりもずっと長い間人食いをしていないことになる。これはお館様に向かってアピールする点としてはかなり高ポイントだと思う。
さらには無惨の枷が外れている鬼で、なおかつ下弦という十二鬼月であるというのも、有用性はばっちりなんじゃないだろうか。
あと、さっき言ってた仕事っていうのがこの運び屋みたいなものらしい。
鬼の脚力なので速さは折り紙つき、しかし個人でやっているので結構危ないモノを運ばされることもあって、評判がついてきて仕事が安定するまで時間がかかったのだとか。
でも、人間の仕事をして、社会に溶け込んで暮らしていこうというその姿勢もまた良いのではないかと思われる。
ていうか零余子ちゃん、鬼がどうとかというよりも、なんか俺よりもまっとうに働いている社会人な気が……。
「仕事で色んな人と触れ合うの。老若男女、本当に色んな人と。
そうやって自分が『人』として人と関わってると、鬼としての自分の今までをすごく突きつけられるんだ。
今まで殺して、食べてきた人はたくさんいるし、もう覚えてもない。でも今になって、これまで何にも感じなかったそれが、すごく重いことに感じられるようになったの。それは自分の心が少しでも『鬼』じゃなくなったのかなあって……最近は思うんだよね」
そう語る零余子ちゃんを、蜜璃ちゃんは複雑そうな顔で、しかしどこか眩しそうに目を細めて見ていた。
蜜璃ちゃんの説得は多分、大丈夫そうだ。俺はそう思った。
当初はこの後無惨様視点を入れようと思ってたんですが、流石に話がごちゃごちゃしすぎてるのと、零余子が出て以降を書くのが苦行過ぎて(零余子ちゃんが嫌いなわけではないです)、体力が残ってませんでした。
あと1万字超えそうだったからってのもあります。
しのぶさんもそろそろ出したいけど、まずは次、無惨様からですかね……。
というかここからはしのぶさん出てもそんなに平穏な空気じゃないと思われます……。