蝶屋敷のヒモ   作:遠坂しぐれ

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ヒモ男と柱合裁判②~閑話

「あなたから鬼舞辻無惨の匂いが微かにするのはどうしてですか?」

 

 炭治郎のその言葉に、場にはしばし沈黙が降りた。

 久遠の頭の中は完全に「こいつ何言ってんだ?」状態である。

 当然だ、久遠自身は鬼舞辻無惨なんて単語は先ほど聞いたばかりであり、会ったことなんてあるはずないと思っているのだから。

 

 しかし周りはそんな事情は知らない。

 その場の誰よりも早く動いた実弥は久遠の首に刀を当て、動けないように牽制する。

 

「……おい、今のはどういうことだてめえ。何か言いたいことがあるならとっとと吐けや、もっとも……内容によってはすぐにこの首が吹き飛ぶけどなあ」

 

 久遠は黙ったままチラリと横目で実弥のことを見る。

 冷や汗一つかかず非常に冷静なようだったが、実際内心はめちゃくちゃ焦っていた。

 

 そしてそんな風に凄む実弥の首に、今度は別の刀が添えられる。しのぶだった。

 

「それを早くどかしてください。久遠に傷一つでもついたら殺しますよ?」

「おい胡蝶……お前も聞こえただろ、こいつから鬼舞辻の匂いがするってよぉ。鬼に与してるなら人間だとしても殺されて当然なはずだろうが」

「あら、さっきまで竈門隊士の言葉なんて信じてなかったくせにこういう時は違うんですね。単に自分に都合がいいからそうしているだけでは?」

「自分の都合で動いてるのはてめえの方だ! こいつが鬼舞辻に通じてたとして、お前どう責任とるつもりなんだ、あァ!?

「久遠が鬼に通じてるなんてありえません。いいから早くそれをどかしなさい、野蛮人」

 

 一触即発どころかいまにも大爆発しそうなその空気を打ち破ったのは、まさにこれを作り出した原因の炭治郎の声だった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 違うんです! その人が鬼舞辻無惨と通じてるなんてことはないです! その人は鬼じゃないし、悪い人の匂いもしません! なのにその、どうして鬼舞辻の匂いがするんだろうって、不思議に思ってつい聞いてしまって……」

 

 額に汗を浮かべながら必死で訴える炭治郎だったが、実弥はそれを一笑に付す。

 

「はっ、こいつが悪人かどうかなんてどうでもいいんだよ。問題は鬼舞辻と接触していたということ、この一点だ。鬼の親玉が人間に会って普通そのまま生きて帰すか? こいつが少なからず鬼殺隊に関わってるってことから考えても鬼舞辻に通じてるって可能性は消えねえな」

「そんな……で、でも……」

 

 炭治郎がはこれ以上返す言葉を持たず、このまま久遠が話すのを待つしかないのか、と諦めていたその時、この場における絶対者の声が響いた。

 

「実弥、刀をしまって。しのぶもね」

「お館様、それはなりません。今からこいつに鬼舞辻についての情報を尋問する必要があります。鬼殺隊にとっての鬼舞辻の重要さはお館様に今更語ることではないと思いますが」

「うん、だから今から私がそれを聞こうと思う。そうやって実弥が威圧していたら、彼も喋りづらいだろう。私も彼が鬼舞辻と通じているとは思っていないんだ、ただ一応何か知っていれば聞かなければならない。尋問ではなく、質問という形でね。実弥、頼むよ」

 

 自身のお館様からこうも言われては実弥も引かないわけにはいかない。

 非常に不服ではあったが、久遠の首から刀を離し、自分の鞘にしまった。

 

 それを見てしのぶもようやく刀をしまう。ただし、未だ冷たい殺気を実弥にぶつけたままではあるが。

 

 ようやく場が落ち着きを取り戻し、耀哉が久遠に問いかける。

 

「久遠、まあ今までの会話で大体分かっているとは思うけれど……君は鬼舞辻無惨に会ったことがあるのかい?」

「いえ、その名前は本当に今日初めて知りました。俺が認識していないような形で会ったという可能性はありますけど、鬼の親玉なんでしょうそいつ? そばにいて分からないもんなんですかね」

「強い鬼の気配というのは、それなりの修練を積んだ人にしか分からないからね。それに鬼舞辻……というより強い力を持つ鬼は自分の姿を変えられるらしい。鬼舞辻のような原初の鬼ともなれば、自分の姿なんて自由自在に変えられるかもね」

「はあ……じゃあどこかで会ってたん、ですかねえ……?」

 

 久遠はというと未だに全くピンときていない。

 鬼のボスに会ったとか言われても、久遠としては何ら変わりない日常を過ごしていたわけなのだから、そこに鬼がいたなどと言われてもどうも信じられないのだ。

 

「あの……久遠さんは嘘を言っていないです。本当に鬼舞辻の名前を今日知ったということで間違いないと思います」

 

 他人が嘘をついたどうかも分かる炭治郎が久遠の援護をする。

 炭治郎は自分たちの危機を救ってもらえたということもあって、なんとか久遠の潔白を証明していたいと思っていた。

 

「……炭治郎君、さっきから匂いがどうとか言ってるけどそういうのが分かるの?」

「あ、はい。俺昔から鼻が良くて、普通の物の匂い以外にもなんとなくこの人は悲しんでるなとか怒ってるなとか、そういうのが分かるんです」

「す、すごいなそれは……」

 

 久遠はこいつの前で絶対下手に嘘はつけないな、と炭治郎のことを恐ろしく思った。

 

「炭治郎、その久遠についている鬼舞辻の匂いはいつぐらいのものか分かるかい?」

「……正確な日にちは分からないですけど、結構最近だと思います。それこそ2、3日前とか」

「ふむ……それじゃあ2、3日前に鬼舞辻が君に何らかの形で接触していたわけだ、それも匂いがつくくらいには。久遠、それぐらいの日に会っていた人を覚えているかな」

 

 そう問われて久遠は考え込む。

 確かにこの3日くらいはしのぶが任務でいないのをいいことに連日町に繰り出していたが……

 

「あーいや……そもそも俺あんまり男と喋らないんですよね。正直関わってる男っていえば、行きつけの茶屋の主人とか、賭場を取り仕切ってるおっさんとかぐらいですよ。まあ賭場にいる人たちとは結構近い距離なんで、そこにいたとしたら……って感じですね」

「いや、久遠。鬼舞辻は姿を変えられるんだ。もしかしたら女にもなっているかもしれない」

「…………女、だとちょっと接してる数多すぎてよく分からないですね……」

 

 その久遠の言葉に反応したのはしのぶだった。

 

「……久遠? 町に出るのはいいけど他の女の子にちょっかい出さないでって私、あんなに言ってましたよね……?」

「い、いや……雑談ぐらいはね、するでしょ?」

「数えきれないくらいの女とですか」

「…………すいません」

 

 実際に女の子に声をかけられれば大体こたえているので、久遠は返す言葉もなくがっくりと肩を落とした。

 

「まあ久遠の女癖の悪さへの対応は家に帰ってからやるとして……お館様、これでは結局結論は出ないのではないですか?」

「いや、元々久遠が鬼舞辻と繋がっているとは思っていないからね。私が懸念しているのは別のことだよ」

「別のこと、ですか」

 

 耀哉が思っていたのは、久遠が鬼舞辻に一方的に目を付けられたのではないかということだった。

 久遠の持つ常識外の美貌は先ほど分析した通り。それを町のどこかで見かけた鬼舞辻が何かに利用できると踏んで接触を持った。これが可能性としては高い。

 

 何に利用できるかといったらそれこそいくらでも使いようがある。

 こと女性に取り入るという点では久遠に勝る人物などおよそこの世に存在しないであろう。実際に鬼殺隊の女性柱のうち1人はもう骨抜き状態だ。そこから鬼殺隊についての情報を抜いたり、内部分裂を図ったりするかもしれない。

 

 これはあまり良くない状況だ、と耀哉は眉をひそめて考える。

 悪の道に使ったら大変なことになると思ったばかりのそれが、まさに鬼舞辻によって利用されてしまうかもしれない。

 

 ――しかし、もし本当に耀哉の予想が当たっているのならそれはまたとない好機でもあった。

 

「久遠、恐らく鬼舞辻は何らかの目的を持って君に接触を図った可能性が高い。姿を人間に変えてね。だから、このままの状態だと君は危険だ」

「なるほど。では、どうしましょうか」

「蝶屋敷にずっといてもらうのがいいだろうね……本来ならば」

「…………お館様?」

 

 しのぶが何かを察したのか、顔色を変えて耀哉の方を見る。

 

「だけどね、私はようやく掴めそうなこの鬼舞辻の尻尾を逃したくないと思っているんだ。だから君には今後も同じように生活をしてもらいたい。鬼舞辻の目的が君であった場合、確実にまた接触を図ってくるはずだ」

 

 その言葉に、しのぶが大声で叫んだ。

 

「ダメです! そんなの絶対ダメです! お館様! なぜそんなことを仰るんですか!? それでもし、久遠が鬼舞辻に殺されたりしたら……!」

「しのぶの心配はもっともだ。勿論、護衛は付けるつもりだよ」

「護衛!? 鬼を統べる鬼である鬼舞辻に何人かの護衛がいたところで意味があるんですか!? そんなのはただ久遠を守ったという形を取ったにすぎません!」

「……胡蝶、お館様への言葉が過ぎるぞ。少し落ち着け」

「冨岡さんは黙っていてください!」

「……」

 

 今までに見たことがないしのぶの剣幕に、声を上げた義勇もすぐに黙らされてしまう。

 

 それは他の柱達も同じようだが、目はちゃんとしのぶの挙動を見ており、このまま万が一耀哉に食って掛かっていくようであれば止める腹積もりだった。

 

「……しのぶ、どうか分かってくれ。鬼舞辻の打倒は鬼殺隊ができてからこれまでずっと続いているたった一つの願いなんだ。それを成すために今までどれだけの人が死んでいったか分からない。私は、彼らの遺志に報いなければならない」

「分かりません! 分かりたくもありません! 私には久遠しかいないんです! ここで彼を失ったらもう……生きていけません……!」

「そんなことはない。彼が君にもたらしたものはもっと大きいはずだよ。それは彼に依存する心などではなく、しのぶが前を向いて歩いて行くための強い心のはずだ」

 

 そこで何を言っても耀哉が自分の意思を曲げないことを悟ったのだろう、しのぶはがっくりと項垂れた。

 

 しかし眼だけはジッと耀哉の方を向いていた。

 それはしのぶが鬼殺隊に入って以来……いや、今までの鬼殺隊士たちも絶対に見せたことのない種類の目だった。

 

 そこに浮かぶのは苛立ち、そして敵意。

 

 それを目ざとく察したのだろう実弥や無一郎がしのぶを取り押さえるために動く、その前に――久遠が言葉を発した。

 

「あの……なんか盛り上がってるようで申し訳ないんですけど、俺鬼殺隊士じゃないのでその要望聞く必要ないですよね? 勝手に話を進められても困るんですけど」

「……その通りだよ。でも、鬼舞辻を殺すことは人々の安寧、ひいては君の平穏な生活に繋がっているといえる。そのために、どうか君の力を貸してはもらえないだろうか」

「平穏な生活も何も、その前に俺が鬼舞辻無惨に殺されたらそこで終わりでは?」

「…………」

 

 耀哉は悩んだ。

 ここで強権を発動するのは簡単である。

 しかし、それをしてしまっては恐らくしのぶとの溝は相当深い物になってしまうだろう。

 もしかしたら鬼殺隊をやめるなんて話にもなりかねない。

 

 また、本人の言うとおり久遠はただの民間人である、というのも確かな事実だ。

 鬼殺隊に所属もしていない彼をこちらの理屈で無理やり動かすというのは、少なくとも普通やっていいことではない。

 鬼舞辻を倒すためなら、というお題目で他の全てが許されるとは当然耀哉も思ってはいなかった。

 しかし――やはり、『しかし』という思いがある。

 

 永い永い間、成しえなかった打倒鬼舞辻が目の前にあると思うと、耀哉としてもすんなり引き下がれるものではなかった。

 

 耀哉がそのように苦々しい思いで思考を巡らせていると、思いがけず久遠が言葉をつづけた。

 

「まあ……とはいえ別に、協力できないこともないですよ。鬼の親玉が死んで、鬼がこの世から消えるなら生きやすくなるのは確かですから。

ただ、そんな危険な生活をしなくちゃいけないわけなんで、俺の方もお願いがあるんですよね」

「私にできる範囲ならなんでも聞こう。それこそお金なら望むだけあげたっていい」

「いえ、お金は…………それももらっとこうかな。まあお願いというより、提案みたいなものです。あのですね――」

 

 

         ◇

 

 

 我妻善逸は暇を持て余していた。

 

 蜘蛛毒で手足が小さくなったのが元に戻るまでもう少しかかり、その間に同期の炭治郎と嘴平伊之助は機能回復訓練なるものへと旅立ってしまったからである。

 

 毎日ひどく疲れた顔で帰ってくる二人を見ていると訓練に行かなくていいのは嬉しいと思ったが、いかんせんこの時間は暇すぎた。

 善逸が現在ご執心の禰豆子も基本的には箱の中で眠っているだけなので、一緒に何かをすることもできない。

 

「あー……暇だなあ……」

「お暇なようでとても羨ましいです。その時間をわけてもらいたいくらいですね」

「わあっ!?」

 

 なんとなしに虚空に呟くと声が返って来たことに大声で驚きを表現する善逸。

 見ると、部屋の扉の前にアオイが立っていた。

 なにかとよく怒られるため苦手としていた女の子に、善逸は恐る恐る質問をする。

 

「あ、あれ……? 今日も機能回復訓練なんじゃ……」

「そうですよ。でも今日はちょっと蝶屋敷全体でかからなきゃいけないお仕事があるから早めに切り上げたんです。ほら、あなたのお友達も来ましたよ」

 

 その言葉と共に、アオイの後ろから炭治郎と伊之助が部屋に入ってきた。

 

「おー炭治郎に伊之助、お帰り。……なんか伊之助はイラついてるみたいだけど、なんで?」

「あはは……多分訓練が厳しくて中々思い通りにいかないからだと思う。俺もずっと負けっぱなしだから悔しいよ」

「それずっと気になってたんだけど一体なにやってんの? 機能回復訓練ってそんなにつらいのか? 俺、今からすごい嫌なんだけど……」

「あ、それは――」

 

 炭治郎が訓練の内容を話そうとした時だった。

 

「アオイー? この材料ってどこに運べばいいんだっけ。しのぶの部屋?」

「あ、久遠さん。えっと……」

 

 アオイの後ろから入ってきた人物は久遠だった。

 手には薬草のような何かが入った箱を持っている。

 

 久遠の姿を見た瞬間、炭治郎は駆け寄って声をかけた。

 

「久遠さん! お久しぶりです!」

「お、炭治郎君か。久しぶりってほどでもないだろ、一週間くらい?」

「いえその、久遠さんは蝶屋敷に住んでるっていうからどこかで顔あわせるかなって思ったのに全く会わなかったので……」

 

 それは久遠がずっと部屋に引きこもっているだけである。

 

 それから、炭治郎は少し声を落として久遠に尋ねた。

 

「……あの、そういえば久遠さん。あの話は進んでるんですか?」

「ん? あーあれね。うん、あれはばっちり進んでるよ。丁度炭治郎君の機能回復訓練が終わる頃くらいには準備できるんじゃないかな。その時はよろしく頼むよ」

「は、はいっ! 任せてください!」

 

 そこで話は終わり、自分の話を途中で遮られてて少々ご立腹だったアオイに気づいた炭治郎は苦笑いしながらベッドへ戻った。

 

 そして改めて久遠がこの荷物の置き場所をアオイに聞こうとしたところで、今度は部屋中に絶叫が響き渡る。

 

「なんだこのイケメンはああああああああぁぁぁぁあぁあぁぁぁああああ!?」

 

 あまりの声量に部屋にいる全員が手で耳をふさぐ。

 

 アオイの視線はもう絶対零度になりつつあったが、それに気づかない善逸は指をプルプルさせたまま久遠を指差してなおも叫んだ。

 

「ちょ、なんなんだこのとんでもないイケメンは! いやおかしい、何かがおかしいよ! こんなのが人間の男として存在していいわけがない! だってこんなのずるい! こんなに顔が良かったらそれだけで女全員かっさらえるじゃないかああああああ!」

「善逸! いきなり初対面の人に指をさすのは失礼だぞ! それに声もうるさいし」

「殴って大人しくさせるか?」

 

 なんかえらいキャラ濃い奴らだなー、と久遠は善逸と伊之助を見ながら思っていた。

 

 とりあえず今はまずアオイの頭に手を置き、ポンポンと軽く撫でることで爆発寸前の怒りを沈静化させるのが久遠の急務である。

 

 アオイを落ち着かせた後、久遠は善逸の方を見て口を開く。

 

「こんにちは、善逸君? だっけ。炭治郎君の同期?」

「こ、声もイケメンだ……じゃなくて、は、はいっ!」

「そこの隣の君も?」

「…………」

「こら、伊之助! すいません、こいつ結構人見知りなんで。嘴平伊之助って言って、俺たちの同期です」

「ふーん、そっか……まあ俺はこの蝶屋敷に住んでるからこれからも会うことあるかもしれないし、よろしくね」

 

 炭治郎からは律儀に返事が返ってきて、遅れて善逸も返す。伊之助は無言だった。

 

 そしてその間も、善逸はずっと思っていた。

 このイケメン、マジでイケメンすぎる……と。

 

 こんな顔してたら常に女の子がわらわら寄ってくる無双状態なんだろうなあ、と半分憧憬半分嫉妬の入り混じった気持ちで、久遠の顔をみていた。

 

 そこでハッと気づく。

 

「炭治郎! この人に禰豆子ちゃんを会わせちゃダメだぞ!」

「え、どうして? というかもう――」

「禰豆子ちゃんは外見だけで人を判断することのない、心の清らかな子だと信じてるけど万が一があるだろ! 顔の良さもあそこまでいくと呪いみたいなもんだし、女の子が吸い込まれるように好きになってもおかしくない! 

 ……え? っていうか蝶屋敷で暮らしてるって言った? こんな女の子だらけの場所で? 毎日?」

「ああ、というかここの主で蟲柱の胡蝶しのぶさんは久遠さんと良い仲みたいだぞ」

「ぐああああああああああああああ! あ、あの天女様のようだったあの女の人も、既にこのイケメンの虜だったなんて……」

 

 うおおおおおおおおお、とベッドの上で頭を抱えてうめく善逸。

 

 久遠はといえば、本当に愉快な奴だなこいつ、くらいの感想を善逸に抱いたものの、それよりも別の言葉が気になった。

 

「ここに禰豆子ちゃんがいるの?」

「あ、はいそこの箱に……」

「よせ、炭治郎! 止まれ!」

「あ、ほんとだ。あの時の箱がある」

「でも今、というかあの日から一日の大半は寝てるみたいで……。昼間なんかまず起きないと思います」

「そのとーーーーり! 禰豆子ちゃんとは夜も深まったころに俺がしっかりと愛を育むの、あなたはどうぞお引き取りください!」

 

 善逸が嬉しそうにそう言い放ったのとほぼ同時に、禰豆子のいる箱からガタンと音が鳴った。

 

「起きた……みたいですね」

「お前の声がうるせえからだよ、アホ」

「いーや違うね! これは俺の声を聞いて俺とお話したくなった禰豆子ちゃんが起きてきたんだ! 間違いない!」

 

 ワイワイ言ってる三人は放っておいて、とりあえず禰豆子が起きてくるならばとアオイと一緒にカーテンを閉め切って部屋を暗くする。

 

 部屋の人間全員の視線が集まる中ガタガタと箱は揺れ続け、やがて上の蓋が開いたかと思えば中から禰豆子がのっそりと眠そうな顔をして起きてきた。

 

 そのまま箱から出てくると、キョロキョロと辺りを見渡し始めた。

 

「禰豆子ちゃーーーーーん! ここだよ! 俺はここにいるよーーーー!」

「……ムームー!」

 

 全力で歓迎の体勢を整えている善逸をガンスルーし、禰豆子は一直線に久遠の所までとてとてと歩いてきて足にしがみついた。そしてそのまま久遠のズボンのすそを引っ張る。

 

「え、抱っこするの?」

「ムー! ムー!」

 

 久遠が微笑みながら抱き上げると、禰豆子は満足げな顔をした。

 

「禰豆子……久遠さんに懐いたみたいですね」

「ぷぷっ……おい、ここにクソだせー奴がいるぞ」

 

 伊之助が指をさして笑う先には、禰豆子を待ち構えた体勢のまま、固まっている善逸。

 そのまましばらく呆然としていたが、やがて段々と状況を理解したのか身体がプルプルと震えていき……

 

 

「…………な、な、な、なんでだああああああああああああああああ! なんで禰豆子ちゃんまであの人の所へ! イケメンは何もかもをかっさらうっていうのか! そんなことが許されていいのかああああああああああああああああああああああ!」

 

 善逸はまたしても心からの大絶叫をぶちかました。

 

 それに対してついに――

 

 

「いい加減にしなさあああああああああああああああああああああい!」

 

 アオイの不発弾が大爆発したのであった。

 




久遠がお館様に何を提案したのかは次回分かります。
蜜璃ちゃんとの絡みを期待してくれていたかたすいません……それも次回か次々回です。多分……。

あと原作のあの部屋にはカーテンついてたか覚えてないし、多分付いてないと思うけど、そこはまあこの世界では付いていたということで一つ宜しくお願いしまむら。
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