東雲がソロキャンプでカルボナーラを食べている頃、押切は押切で土曜日の午前中を楽しんでいた。
「……ぷはー!あー!朝から飲むビールが美味しい!!」
東雲に比べ、だいぶ不健全な形でだが。
朝食のベーコンエッグを肴に、既に缶ビール(350ml)を3本空けている上に、手には半分飲んだ缶ビールがあるのが、更に不健全さに拍車をかけている。
テレビでは録画しておいたプロデュエリストの、次なる試合映像に変わっている。
「ふふふ……この後は圭史くんの作ったお昼を食べながら、“二代目ゴブリンマスク”『
まるでプロレスを見るおじさんの様になりながら残りを飲み干し、5本目の缶ビールに手を伸ばそうとする押切。
が、その手が止まらなくてはいけない理由が、突如できてしまった。
プルルルルッ!
という着信音が、押切のデュエルディスクから鳴り出す。
もしや職場からの連絡か?という嫌な予感と共に、勇気を出して発信者を確認すると、そこに表示される名前に一息つく。
「やあ、
「
通話の相手は、女子高時代の2年下の後輩だった『
高校を卒業して8年は経つが、今でも交流のある可愛い後輩だ。
「突然なのですけれども、お渡ししたい物ができましたのでこの後お会いできますか?」
「あー……」
時間を確認すれば、現在11時。
周りを確認すれば、空き缶の数。
つまりは、今はやばい。
「……お昼ご飯食べてからにしようか!」
「では、そのようにお願いしますね」
通話を切り、まずは残ったビールを飲み切る。
そのまま台所へ向かい水をがぶ飲みして、血中アルコール度数を下げながらブレスケアも飲む。
もっともらしい理由で時間は稼いだとはいえ、残された時間は少なく、無駄にはできない。
可愛い後輩を、幻滅させる事は彼女にはできないのだ。
ちなみに、東雲が用意しておいた昼食のサンドイッチは美味しく食べた。
「あ、お姉様!こっちです!」
約束の場所である駅前のカフェで落ち合うと、天乃宮が手を振って押切を呼ぶ。
その声に応えて、手を軽く振りながら近付いていくと、そこで気付いた。
一抱えくらいの妙に大きな、発泡スチロールがテーブルにある。
もしや渡したい物とは、その大きな発泡スチロールの中身なのか後輩よ。
「ま、真理亜。こんにちは、久しぶりだね。えっと……もしかして
「はい、お姉様!今朝、父の知り合いの方から送られてきたのですけれど、実はもう一箱ありまして。それで一箱はお姉様にお裾分けを、と」
「中身は何かな?」
お洒落なカフェに不釣り合いな、明らかに生ものが入っていますという発泡スチロールを指さしながら訊ねる押切。
天乃宮は良いところのお嬢様だが、良いところの縁者とは時に珍味と称して突拍子もない物を贈ってきたりすることもあるので、確認しなくてはいけなかった。
これでもしもゲテモノであれば、確認せずに持ち帰ると東雲に怒られること間違いない。
「鮭ですわ」
「よし!今すぐ圭史くんの家に戻ろう!」
「……あ、お姉様が作るわけではないんですのね」
「料理は圭史くんの方が上手いからね」
「……あの、学生時代にイベントの時に配っていたクッキーは、実は東雲さんが作っていたとかそういうのはないですわよね……?」
「…………………………」
「黙られましたわ!?」
黙って目を逸らす押切を、こいつマジか!?という目で見つめる天乃宮。
「さて、お裾分けのお礼に(圭史くんが料理をして)ご馳走するけど、真理亜は鮭をどうやって食べたいかな?」
「露骨に話題を逸らされていますが、あえて乗るならわたくしはムニエルですわね」
「そうか。僕はホイル焼きかな」
「わたくしに聞いた意味は!?」
「一応聞いておかないとって……」
おかしい。女子高時代にはこんなポンコツではなかったはずなのに。むしろ学園中の女子生徒たちが『私立
それがなぜこんなポンコツになったというのだろうか。
そこそこ長い付き合いになる天乃宮だが、そんなことを考えながら首を捻るしかなかった。
天乃宮よ、だいたい東雲のせいだ。
「ふむ、よし。思い付いたよ真理亜。ここはメニューはデュエルで決めよう」
「お姉様とわたくしとでデュエルですか?良いですわよ?」
「いや、それも良いんだけど、実は僕は真理亜から電話が来た時に、プロデュエリストの試合の録画を見るところだったんだ。まだ見てないから、どっちが勝つか予想して、当てた方のメニューにしよう」
「なるほど。ちなみに、試合の組み合わせはなんでしょう?」
「“二代目ゴブリンマスク”『佐々木 龍馬』VS“サムライストーム”『サイゾー・トーウン』」
「……またなんとも予想のしづらい…………」
“二代目ゴブリンマスク”こと『佐々木 龍馬』は、先代である『
その戦法は主にゴブリンと名の付いたカードを中心に、レベル4のモンスターを特殊召喚して攻めていくのが特徴。
ちなみに、子供たち向けにデュエル教室も開いており、かなりの人気を博している。
対して“サムライストーム”こと『サイゾー・トーウン』は、レベル1のモンスターを多用したデッキを使用するのが特徴のデュエリスト。別に“サムライ”だからと和風系カードにはこだわらないどころか、全く関係のないカードを使っている。
ちなみに重度のラーメン狂信者であり、自身もラーメン屋を経営しており、試合のない日は店でラーメンを作っている。
そしてこの2人の実力だが、何度かプロリーグや交流戦などで戦っているのだが、ほぼ五分と五分。
故に天乃宮は「なんとも予想のしづらい」と評したのだった。
「まあ、気楽に決めてよ」
「では……“二代目ゴブリンマスク”にしますわ」
「分かった。それじゃあ、一緒に東雲くんの家で観ようか」
「家主の許可は……?」
「後で一緒に怒られてね」
「お姉様ァッ!?」
ドームに作られた試合会場。
スポットライトに照らされたそこは、今まさに2人のデュエリストを待っていた。
既に数試合が終わり、これから本日最後の試合となる。
実況者が高らかにリングコールを行い、彼らを呼び寄せるこの瞬間。会場のボルテージは最高潮に高まっていた。
「さーあ!プロ交流戦本日のスペシャルマッチの時間だぁ!!それでは選手入場!まずは赤コーナー!御伽噺から現れる、恐るべき怪物たちの一角!今夜も我々に、その群れの力を見せてくれ!!『フォークロア・モンスターズ』所属!“二代目ゴブリンマスク”!ささきぃぃぃ……りょぉぉぉまぁぁぁっっ!!!」
「オオォォォッッ!!!」
「「「「「「「「ゴーブーリン!!ゴーブーリン!!ゴーブーリン!!ゴーブーリン!!」」」」」」」」
リングコールの直後にサポーターキッズたちと共に登場し、手足を打ち鳴らす戦意高揚の踊り『ハカ』を舞い観客を沸かせる“二代目ゴブリンマスク”こと『佐々木 龍馬』。
その名の通り緑色のモンスター、ゴブリンのマスクで顔の上半分を隠しているが、瞳はこれから対峙する相手が現れる通路の闇を見据えて燃えているのが、ハッキリと分かる。
「ッ!」
不意に通路の奥から真っ直ぐに勢い付いて投げられた《突風の扇》を、バックラー型のデュエルディスクで弾く佐々木。
床に落ちたそれはソリッド・ヴィジョンだったのか、すぐに消滅してしまう。
こんなものを投げ付ける男など、佐々木の対戦相手であるあの男しかいない。
「これは挑戦的だ!青コーナー!刀をデッキに変え、海外で嵐の様に暴れ回ったこの男!遂に遂に付いた名前が“
「「「「「「「「トーウン!!トーウン!!トーウン!!トーウン!!」」」」」」」」
そのコールの直後、和装に身を包みポニーテールが特徴の男――――『サイゾー・トーウン』が、入場口から花道を駆け出し佐々木へと向かう。
その手には、《魂喰らいの魔刀》が握られており、それを認めた佐々木がデュエルディスクに魔法カードを叩き付ける。
そしてその手に現れるのは、《愚鈍の斧》。
トーウンが接近した勢いそのままに回転するかの様に刀を振ると、それに佐々木が斧を叩き合わせて止める。
ガキィンッ!!という金属同士がぶつかり合う音と共に、周囲に撒き散らされる衝撃波が観客席を襲うも、彼らは気にも留めない。
拮抗した鍔迫り合いの姿勢から、不意に刀が引かれ、力と勢いを殺せずに振り下ろされて地面に突き刺さる斧を踏みつけ、更に深く埋めて使い物にならなくしてしまう。
そしてできた絶好の隙を、彼は逃さない。逆手に持ち替えた刀を目一杯に引き、佐々木を突き刺そうとする。
だが、その一撃は果たせなくなる。使い物にならない斧から手を放した佐々木の、回し受けによって弾かれて遠くに転がっていったから。
この瞬間、攻守は逆転する。
片足で斧を踏み付けているという不安定な姿勢のトーウンを、佐々木の拳による連撃が襲う。
左ジャブで顔面を狙って牽制し、腹部への右フックから踏み込み繋げてのエルボー。
トーウンはその尽くを左ジャブは上体のスウェーで紙一重で躱し、右フックとエルボーはわざと後ろに倒れることで回避する。倒れた時には受け身を取り、衝撃を逃がしつつも次の動作に移っている。
だが、それでも戦いの最中において、相手より下の位置になるというのは大きな隙となる。
それを佐々木は確実に狙う。トーウンが受け身を取った直後にジャンプし、その真上を位置取り体重を乗せた跳び足刀蹴りを叩き込む。
咄嗟に立ち上がるのをやめて横に転がり回避するトーウンだが、着地直後すぐに佐々木は次の攻撃へと移行している。
高く挙げられた左足。それがそのまま振り下ろされ、強烈な踵落としとなる。
この瞬間を、トーウンは待っていた。
地に付いている佐々木の右足を足趾で掴んで払い、その体を宙に浮かせる。
足で行う、変則的な投げ技。柔道の禁じ手である『山嵐』に構想を発した、現状トーウンしか使う者のいない技だ。
この隙にトーウンは立ち上がって距離を取り、佐々木は余裕をもって受け身を取ってから立ち上がる。
そして2人ともやや息を早くしながらも、スタッフからマイクを受け取る。
「やあやあ、久しぶりでござるな。ゴブリンマスク殿。息災だったでようでござるな?」
「ああ、こちらは問題ない。そちらも問題ないようだな」
「うむ、拙者も息災でござったよ。しかし良かった……これで体調不良を負けた時の理由にされずに済む」
「それはこちらの台詞だな」
対峙する2人が同様に浮かべる、凶暴な笑み。
そう。笑顔とは、古来より戦意を示す威嚇として使われる事もある。
「「デュエル!!」」
“二代目ゴブリンマスク”佐々木 龍馬
ライフポイント:8000
手札:5枚
フィールド:なし
“サムライストーム”サイゾー・トーウン
ライフポイント:8000
手札:5枚
フィールド:なし
「こちらの先行!まずは《ゴブリンドバーグ》を召喚!」
戦端を開くのは、飛行機に乗ったゴブリン。
だが、彼の飛行機に乗っているのは、1人だけではない。
ゴブリンドバーグ
レベル4 地属性 戦士族
攻撃力:1400
「召喚した《ゴブリンドバーグ》の効果を発動!手札からレベル4以下のモンスターを1体特殊召喚し、その後このモンスターを守備表示にする!《ゴブリンエリート部隊》を特殊召喚!」
《ゴブリンドバーグ》の飛行機から、お前らどこにそれだけ乗ってたの?とばかりに、ワラワラと結構な数の集団《ゴブリンエリート部隊》が降りて来る。
その間、《ゴブリンドバーグ》は休憩に入った様子で、コクピットで寛いでいる。
ゴブリンエリート部隊
レベル4 地属性 獣戦士族
攻撃力:2200
ゴブリンドバーグ
レベル4 地属性 戦士族
守備力:0
「レベル4のモンスター2体で、オーバーレイネットワークを構築!来い!ランク4!《キングレムリン》!」
2体のゴブリンモンスターたちが合わさり、現れるのは爬虫類の
その能力は、後続となる爬虫類モンスターを呼び寄せる事。
キングレムリン
ランク4 地属性 爬虫類族
攻撃力:2300
「《キングレムリン》の効果を発動!エクシーズ素材を1つ取り除き、デッキから爬虫類族モンスター1体を手札に加える。こちらは《カゲトカゲ》を手札に加えよう」
「む、次のターンに繋げる手でござるな?」
「まあな。後は永続魔法《補給部隊》を発動。これでこちらのモンスターが戦闘か効果で破壊される度に、ドローできる。そしてカードを1枚セットしてターンエンドだ」
“二代目ゴブリンマスク”佐々木 龍馬
ライフポイント:8000
手札:2枚(1枚はカゲトカゲ)
フィールド:キングレムリン、補給部隊、伏せカード1枚
“サムライストーム”サイゾー・トーウン
ライフポイント:8000
手札:5枚
フィールド:なし
「拙者のターンでござるな。ドロー!……ふむふむ、それでは《アンノウン・シンクロン》の効果を発動。そちらのフィールドにのみモンスターがいる時、特殊召喚できるでござるよ。まあ、このデュエル中に1度だけしかできぬがな」
フィールドにポツンと出現する、一つ目の球体型モンスター。
デュエル中に1度しか使えない効果とはいえ、極めて便利で有能な効果だ。
アンノウン・シンクロン
レベル1 闇属性 機械族
守備力:0
「続いて《パラサイト・フュージョナー》を召喚するでござる」
次いで現れたのは、奇妙な姿をした寄生虫。
この寄生虫には、ある強力な効果があるが今は使われない。
パラサイト・フュージョナー
レベル1 闇属性 昆虫族
攻撃力:0
「さあさあ、お立ち会い!まずはシンクロ召喚とさせてもらおう!レベル1の《パラサイト・フュージョナー》に、同じくレベル1の《アンノウン・シンクロン》をチューニング!現れよ!レベル2!《
トーウンが手を大きく開いて仰々しく手振りをすると、2つの星が合わさりフィールドに忍者のようなカラスが現れ、防御態勢をとる。
この防御能力が彼の持ち味だ。
レベル2 闇属性 鳥獣族
守備力:100
「守備力100程度のモンスターをわざわざ……?」
「おっと。先に伝えておくが、《
“二代目ゴブリンマスク”佐々木 龍馬
ライフポイント:8000
手札:2枚(1枚はカゲトカゲ)
フィールド:キングレムリン、補給部隊、伏せカード1枚
“サムライストーム”サイゾー・トーウン
ライフポイント:8000
手札:2枚
フィールド:
「こちらのターン、ドロー!……1ターンに2度までは戦闘破壊されないモンスターか。なら、まずは《キングレムリン》の効果を発動!デッキから爬虫類族モンスター《カメンレオン》を手札に加える!そしてそのまま召喚!」
佐々木のフィールドに現れるのは、まさしく仮面を被っているかのような姿のカメレオン。
本来ならばエクストラデッキ以外からの特殊召喚を封じる代わりに、墓地の守備力0のモンスターを特殊召喚する効果があるが、今回は使わない様子だ。
カメンレオン
レベル4 地属性 爬虫類族
攻撃力:1600
「更に手札の《カゲトカゲ》の効果を発動!レベル4のモンスターが召喚に成功した時、特殊召喚できる!」
そして先に現れた《カメンレオン》の影が揺めき、のっぺりと現れる《カゲトカゲ》。
どちらも真っ黒の、まさに影のトカゲといったところ。
カゲトカゲ
レベル4 闇属性 爬虫類族
攻撃力:1100
「さて、そのモンスター……1ターンに2回までは戦闘で破壊されない……だったか?」
「うむ、そうでござるよ。その3体のモンスターたちで攻撃するでござるか?」
「いや、戦闘破壊が手間なら、こちらはこうするまでだ。《カメンレオン》と《カゲトカゲ》でオーバーレイネットワークを構築!来い!ランク4!《鳥銃士カステル》!」
《カメンレオン》の影と《カゲトカゲ》が溶け合い、地面に一塊の影を作る。
その影に《カメンレオン》が沈むと、入れ替わりにどろりと影をローブの様に纏いながら現れ、銃を構える《鳥銃士カステル》。
その瞳と銃口は既に、ターゲットを定めている。
鳥銃士カステル
ランク4 風属性 鳥獣
攻撃力:2000
「ッ!そやつの効果はマズイ!リバースカードオープン!永続罠《リミット・リバース》を発動!墓地の攻撃力1000以下のモンスターを1体特殊召喚するでござる!」
だが、その銃口の先を失わせる力を持つのもまた、デュエリストだ。
「蘇れ!《パラサイト・フュージョナー》!」
墓地から蘇った《パラサイト・フュージョナー》だが、これで彼が力を発揮する条件は整った。
パラサイト・フュージョナー
レベル1 闇属性 昆虫族
攻撃力:0
「《パラサイト・フュージョナー》が特殊召喚に成功した時、効果を発動するでござる!このカードを融合素材の代理として、自分フィールドのモンスターと融合できる!効果モンスターの《
《
そのまま宿主の体を作り替え、
それこそが、《パラサイト・フュージョナー》の真骨頂。
ミレニアム・アイズ・サクリファイス
レベル1 闇属性 魔法使い族
守備力:0
「《ミレニアム・アイズ・サクリファイス》は相手モンスターが効果を使った場合、相手モンスターを装備する効果を持つ。そして装備したモンスターの同名モンスターは戦闘も効果も使えなくなる。……《鳥銃士カステル》の効果は使わせないでござるよ」
「なら、シンプルに攻撃するだけだ。《鳥銃士カステル》で攻撃!」
「クッ!?破壊されるでごさるよ……!」
《鳥銃士カステル》の銃撃が、《ミレニアム・アイズ・サクリファイス》の顔中央の大きな瞳を撃ち抜き貫く。
そのままポリゴンとなって、《ミレニアム・アイズ・サクリファイス》は消滅した。
これにより、トーウンを守る存在はいなくなる。
「続けて《キングレムリン》でダイレクトアタックだ!」
「ぐうぅぅ……!!?」
がら空きとなったトーウンを、《キングレムリン》の爪による鋭い一撃が襲い、ライフポイントを削る。
“サムライストーム”サイゾー・トーウン
ライフポイント:8000→5700
「これでターンエンドだ」
“二代目ゴブリンマスク”佐々木 龍馬
ライフポイント:8000
手札:1枚
フィールド:キングレムリン、鳥銃士カステル、補給部隊、伏せカード1枚
“サムライストーム”サイゾー・トーウン
ライフポイント:5700
手札:2枚
フィールド:リミット・リバース、伏せカード1枚
「手痛い初撃でござるな!然らば、ドロー!」
引いたそのカードを確認すると、口の端をギニィッと歪めて、凶暴な笑顔を見せる。
「
現れたのは、小柄で怪しげなピエロ。
自分フィールドに他の同名モンスターが存在できない制限はあるが、使い勝手は良い。
ジェスター・コンフィ
レベル1 闇属性 魔法使い族
攻撃力:0
「レベル1のモンスターが自分フィールドにいる時、魔法カード《ワンチャン!?》を発動する!デッキからレベル1のモンスターを手札に加え、そのモンスターを召喚できなかったターンのエンドフェイズに、2000ダメージを受けるでござるよ。拙者は《金華猫》を手札に加え、そのまま通常召喚!」
ピエロの次に現れるのは、これまた怪しげな黒猫。
金華猫
レベル1 闇属性 獣族
攻撃力:400
「《金華猫》が召喚された時、墓地のレベル1のモンスターを特殊召喚するでござる!蘇れ!《アンノウン・シンクロン》!」
黒猫が一鳴きすると、その鳴き声に誘われて最初に登場した《アンノウン・シンクロン》が墓地から誘い出される。
アンノウン・シンクロン
レベル1 闇属性 機械族
守備力:0
「続いて、《アンノウン・シンクロン》と《ジェスター・コンフィ》でリンク召喚!召喚条件はチューナーを含むモンスター2体!現れよ!リンク2!《
シンクロ召喚を支える機械の戦士が現れると、更にトーウンのデュエルは加速していく。
まるで、そう。ジェットで加速しているかのように。
リンク2 水属性 機械族
攻撃力:1500
「《
ジェットエンジンのモンスターである《ジェット・シンクロン》が召喚されると、そのまま即座に星へと変わる。
ジェット・シンクロン
レベル1 炎属性 機械族
守備力:0
「そしてレベル1の《金華猫》にレベル1の《ジェット・シンクロン》をチューニング!シンクロ召喚!現れよ、レベル2!《フォーミュラ・シンクロン》!」
そして現れたのは、光速の世界へとデュエルを加速させるモンスター。
エンジンが唸りを上げて、そのやる気を示す。
フォーミュラ・シンクロン
レベル2 光属性 機械族
守備力:1500
「《フォーミュラ・シンクロン》がシンクロ召喚に成功した時、カードを1枚ドローできる!そしてそれにチェーンして、シンクロ素材となった《ジェット・シンクロン》の効果を発動!デッキから『ジャンク』と名の付くモンスターを1体手札に加える!《ジャンクリボー》を手札に加え、そして1枚ドロー!」
「手札が尽きないな……」
「そして今ドローした魔法カード《増援》を発動するでござるよ。デッキからレベル4以下の戦士族モンスターである、《ビッグ・ワン・ウォリアー》を手札に加えるでござる」
「確かそのカードは、特殊召喚できたな?」
「その通りでござるよ。《ビッグ・ワン・ウォリアー》の効果を発動!手札のレベル1のモンスター1体を墓地へ送り、特殊召喚する!拙者は《ジャンクリボー》を墓地へ送り、こやつを特殊召喚するでござるよ!」
ビッグ・ワン・ウォリアー
レベル1 光属性 戦士族
攻撃力:100
「そしてレベル1の《ビッグ・ワン・ウォリアー》に、レベル2の《フォーミュラ・シンクロン》をチューニング!シンクロ召喚!現れよ、レベル3!《
「そのカードは……ッ!?」
暴風を纏って空から舞い降りる、《霞鳥クラウソラス》。
その羽ばたきは風と共に霞を作り、対象を惑わせる。
霞鳥クラウソラス
レベル3 風属性 鳥獣族
守備力:2300
「《霞鳥クラウソラス》の効果を発動!1ターンに1度ターン終了時まで、相手モンスター1体の攻撃力を0にして、更に効果も無効にする!拙者は《鳥銃士カステル》を対象とする!」
「《鳥銃士カステル》が……!」
《霞鳥クラウソラス》の作る霞に惑わされ、銃で狙うべき相手を見失ってしまった《鳥銃士カステル》は、その攻撃力を失ってしまった。
鳥銃士カステル
ランク4 風属性 鳥獣族
攻撃力:2000→0
「それではバトルといくでござるよ。《
「多少の足搔きだけはさせてもらおうか!リバースカード、オープン!罠カード《スキルサクセサー》を発動!こちらのモンスター1体を対象とし、攻撃力を400ポイントアップする!《鳥銃士カステル》の攻撃力を400に!」
鳥銃士カステル
ランク4 風属性 鳥獣族
攻撃力:0→400
「《スキルサクセサー》は墓地でも効果を発揮するカード……。ダメージ削減ついでに、墓地へ送っておく腹積もりでござるか!だが、これで《鳥銃士カステル》は破壊でござる!」
「甘んじて受けよう。しかし、《鳥銃士カステル》が破壊された事で、《補給部隊》の効果で1枚ドローする」
“二代目ゴブリンマスク”佐々木 龍馬
ライフポイント:8000→6900
「さて、拙者はこれでターンエンドとさせてもらおうか」
“二代目ゴブリンマスク”佐々木 龍馬
ライフポイント:6900
手札:2枚
フィールド:キングレムリン、補給部隊
“サムライストーム”サイゾー・トーウン
ライフポイント:5700
手札:1枚
フィールド:
「《鳥銃士カステル》が倒されたのは、些か手痛いが……こちらはゴブリンらしく攻めるだけだ。ドロー!」
これで3枚になった手札。
ここで打つべき手は。そう考えた瞬間、先に動いたのはトーウンだった。
「スタンバイフェイズに発動!永続罠《リビングデッドの呼び声》!自分の墓地からモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する!墓地より蘇れ!《
「クッ!?もう揃えてくるか!!」
墓地から蘇るのは、先ほどよりも忍び装束がボロボロになり、どこかアンデッド族じみた《
別に種族は変わっていないので、安心してほしい。
レベル2 闇属性 鳥獣族
攻撃力:800
「こちらはそのままメインフェイズに入ろう。……こちらには止める手立てはない。《
「では遠慮なく、《
《
その輪を星が潜り抜けると、新たに輝く星の龍となる。
シューティング・ライザー・ドラゴン
レベル7 光属性 ドラゴン族
攻撃力:2100
「来るか……。“サムライストーム”の切り札……!」
「拙者の切り札を見せてやろう。《シューティング・ライザー・ドラゴン》の効果を発動!」
その瞬間、《シューティング・ライザー・ドラゴン》の姿が掻き消えてしまう。
否、掻き消えたのではない。
ただ、見えなくなる程の速度に加速しただけのこと。
そしてこの加速は、切り札の召喚への準備。
「相手のメインフェイズに、このカードを素材としてシンクロ召喚ができる!拙者はレベル2の《
3体のモンスターが集い、星々の集まりである銀河を形成。そしてそこに吹く爆裂的な風の龍となる。
「レベル12!《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》!!」
「そいつをリリースし、《海亀壊獣ガメシエル》をそちらのフィールドに特殊召喚する」
「貴様ァァァァッッ!!!?」
が、登場直後に龍は消滅し、代わりに《海亀壊獣ガメシエル》が現れる。
強力な効果無効能力を持つ《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》だが、召喚コストにリリースをされては効果を使う事などできない。
ノリノリで切り札を出してみれば、中々に手酷い仕打ちに悲しむトーウン。
これもまたデュエルだ。
海亀壊獣ガメシエル
レベル8 水属性 水族
攻撃力:2200
「続いて《ゴブリン突撃部隊》を召喚しよう」
《海亀壊獣ガメシエル》に対峙するように現れたのは、これぞゴブリンとばかりの荒くれ部隊。
だが、その荒くれ部隊の攻撃力は、デメリットこそあれども同レベル帯ではトップクラスであり、攻撃力2200のモンスターを倒すのに必要な数値を持っている。
ゴブリン突撃部隊
レベル4 地属性 戦士族
攻撃力:2300
「さて、バトルフェイズだ。《ゴブリン突撃部隊》で《海亀壊獣ガメシエル》を攻撃!」
「グッ!?」
“サムライストーム”サイゾー・トーウン
ライフポイント:5700→5600
「攻撃後、《ゴブリン突撃部隊》は守備表示に変更される」
ゴブリン突撃部隊
レベル4 地属性 戦士族
守備力:0
「加えて《キングレムリン》でダイレクトアタックだ!」
「それはさせん!手札より《アンクリボー》の効果を発動!このカードを手札から捨て、墓地のモンスターをこのターン限りで蘇生させる!蘇れ、《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》!!」
「{オォォォォォォォッッ!!!!」」
《アンクリボー》が墓地へ行くが、その額の
コズミック・ブレイザー・ドラゴン
レベル12 風属性 ドラゴン族
攻撃力:4000
「チッ!ならば攻撃は中止だ!カードを1枚セットして、ターンエンド!」
「では、ターン終了時に《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》は墓地へ送られるでござるよ」
“二代目ゴブリンマスク”佐々木 龍馬
ライフポイント:6900
手札:なし
フィールド:キングレムリン、ゴブリン突撃部隊、補給部隊、伏せカード1枚
“サムライストーム”サイゾー・トーウン
ライフポイント:5600
手札:なし
フィールド:リミット・リバース、リビングデッドの呼び声
「拙者のターン、ドロー!……よし!良いタイミングでござるな!《マジック・プランター》を発動!拙者の表側表示の永続罠カードを1枚墓地へ送り、2枚ドローできる!拙者は《リビングデッドの呼び声》を墓地へ送り、2枚ドロー!」
「また良いタイミングでこのラーメン侍は……!」
「さて、これで……!ふむ、悪くはないが……いや、やるしかなかろう!《金華猫》を召喚!」
2度目の登場となる、墓地より仲間を呼び戻す黒猫。
そして再び、その鳴き声が墓地へと響く。
金華猫
レベル1 闇属性 獣族
攻撃力:400
「効果は先程説明した通り。拙者は《金華猫》の効果で、《パラサイト・フュージョナー》を特殊召喚!」
《金華猫》の鳴き声に応じて出てきたのは、融合を支える寄生虫《パラサイト・フュージョナー》。
その6本の足がカサカサと動き、そして《金華猫》を捉える。
パラサイト・フュージョナー
レベル1 闇属性 昆虫族
攻撃力:0
「《パラサイト・フュージョナー》が特殊召喚された瞬間、効果を発動!
融合のためにモンスターを混ぜ合わせる渦が発現し、そこに2体のモンスターが混ぜられる。
そしてその渦の先から聞こえるのは、カチコチという時計の針が刻まれる音。
「現れよ!《時の魔導士》!」
時の魔導士
レベル5 光属性 魔法使い族
攻撃力:2000
「《時の魔導士》の効果を発動!フィールドのモンスター全てを破壊し、その攻撃力の合計の半分を我々のどちらかがダメージとして受ける!さて、本来ならばコイントスで決めるが、折角だ。ここは拙者らしく、丁半で決めるとしよう。拙者は丁を選ぶでござるよ」
「賽の目は……」
コインの代わりに現れたサイコロが2個振られ、出た目は――――
「2.6の丁!お主がダメージを受けるでござる!」
「運の良い侍が……!!」
――――トーウンへ利となる丁を示した。
《時の魔導士》の操る時間の力がフィールドを襲い、全てのモンスターたちを破壊しつつその余波が佐々木を襲う。
与えられるダメージは、3300とかなりのもの。
“二代目ゴブリンマスク”佐々木 龍馬
ライフポイント:6900→3600
「だがこちらのモンスターが破壊された事で、《補給部隊》の効果で1枚ドローする!」
「もうお主に次のターンは来ないから無用よ!手札に残された《カクリヨノチザクラ》の効果を発動!拙者とお主の墓地に存在する魔法カードか罠カードを1枚ずつ除外し、特殊召喚する!拙者の墓地の《マジック・プランター》とお主の墓地の《スキルサクセサー》を除外し、現れよ!《カクリヨノチザクラ》!」
「そのカードは……!!?」
墓地の魔法・罠を生贄にしたのは、可憐な少女のようなモンスター。
だが、その手には死神の持つ様な鎌が握られている。
そして死神とは、時に
カクリヨノチザクラ
レベル1 闇属性 悪魔族
守備力:0
「《カクリヨノチザクラ》の効果を発動!このカードをリリースして、拙者かお主の墓地から融合、シンクロ、エクシーズ、リンクモンスターのいずれか1体を除外し、そのモンスターとは種類の異なるモンスターを墓地から特殊召喚する!お主の墓地の《鳥銃士カステル》を除外し――――」
「(こちらのリバースカードは……《マジカルシルクハット》……。防げない……か……)」
「――――三度現れよ!《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》!!」
これで最後とばかりに、その巨翼を目一杯に羽ばたかせ、フィールドに嵐を巻き起こす《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》。
その口内にはいつでも放てるとばかりに、エネルギーが溜められていく。
コズミック・ブレイザー・ドラゴン
レベル12 風属性 ドラゴン族
攻撃力:4000
「バトルフェイズだ!《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》で、ダイレクトアタック!!」
「……次は負けんぞ、サイゾーォォォォッッ!!!」
“二代目ゴブリンマスク”佐々木 龍馬
ライフポイント:3600→0
「……まさかレベル1のモンスターだけで、あそこまで展開するなんて…………」
試合映像を見終わった天乃宮の呟きは、
「それが“サムライストーム”の所以だよ。ただ、今回のデュエルでは“二代目ゴブリンマスク”が負けたけど、仮に彼が先に切り札を出していれば、決着は変わったかもね」
「なるほど……。そういえばお姉様。1つ……いえ、2つほど気になったのですが……」
「おや、何かな?“二代目ゴブリンマスク”の先代は、《キングゴブリン》を切り札とした悪魔族デッキだよ」
「あ、いえ。それは気になったことではなく、サイゾーさんと東雲さんがどこか似ているというか……面影があるというか……」
「ああ、兄弟だよ。サイゾーさんの本名は『
「まさかとは思いましたが……どうりでですわね」
ちなみにだが、ござる口調はキャラ付のためだったのだが、やり過ぎて現在はプライベートでも完全にござる口調になっているとのこと。
「それで、もう1つの気になったことは?」
「試合前の格闘戦はなんだったんですの?」
「試合前に会場を盛り上げるために、たまにやるんだよ。サイゾーさんはサンボと剣術ができるし、ゴブマスさんは空手ができるんだって」
「ああ、なるほど」
「前は打ち合わせをみっちりしてからやってたらしいけど、何度もやったから最近じゃお互いを信用しすぎて打ち合わせなしのぶっつけ本番らしいよ」
「事故が起きてもおかしくないですよ!?」
※鍛えられて、何度も手を合わせた格闘家・デュエリストだから事故が起きていないだけです。真似してはいけません。
「まあ、これで僕の選んだメニューが夕飯だね」
「うう……デュエルの結果ですもの。否はないですわ」
「じゃあ、圭史くんが帰るのを待とうか」
「そうですわね。……いや、ご自分で作って待っててあげるとか、そういうのはないんですの…………?」
「圭史くんの作るご飯、美味しいんだよね」
「あ、ないんですのね」
こうして本日の夕飯は、鮭のホイル焼きに決まった。
なお、ソロキャンプから帰宅した東雲が急に決まった鮭のホイル焼きに、「俺はちゃんちゃん焼きにしたい」と言ったが、デュエルで決まった事だからと押し切られた。
東雲は怒って良い。
とはいえ、メニューが決まれば作るだけ。
エプロンを身につけ、キッチンに立つ。
まずは下拵えとして、鮭の切り身には塩を軽く振って10分ほど置く。この時切り身から水分が出るが、出た水分はキッチンペーパーなどで拭っておく。こうする事で、生臭さが緩和できる。
アルミホイルの上にシメジやエノキ、舞茸を乗せ、さらにそこに鮭の切り身を乗せていく。
顆粒コンソメを適量振り掛け、塩胡椒を少々。
バターを一欠片乗せたらアルミホイルを閉じ、フライパンに入れて弱火でじっくりと蒸し焼きにする。
これで完成だ。
「ほら、できたぞお前ら」
「きたきた!」
「すいません、ありがとうございます。お皿洗いはさせてくださいね」
「客なんだ、構わねえよ。……ただ、その気持ちをそいつに分けてくれ」
「う、うふふ……」
疲れた眼差しで押切を見ながら言う東雲に、曖昧な笑顔で答える天乃宮。
相手は(一応は)尊敬し、敬愛する先輩なので気を遣わなくてはいけない、悲しい後輩がそこにいた。
「まあ、いいか……。そら、食うぞ」
「「「いただきます」」」
アルミホイルの包みを開けば、ふわりと立ち上がる湯気とバターの香り。
それにコンソメと鮭の香りも混ざり、食欲をそそる。
「塩気が足りなかったら、醤油を少し垂らしとけ」
言いつつ、箸で身をほぐせば柔らかくふっくらとしている。
一口食べれば、鮭の脂と身の旨みが溢れ出る。そこに、バターのコクだ。
「我ながら美味えな」
「ホントだね、圭史くん」
「この下にあるキノコたちも、しっかり出汁を吸って美味しいですわ」
暖かく、美味しい鮭でご飯とビールが進む。
2人だけの金曜日の夕飯も美味しいけれど、今日は友人も交えた土曜日のまた少し特別な夕飯。
「今回の最強カードは拙者の切り札《コズミック・ブレイザー・ドラゴン》……と言いたいが、今回は《パラサイト・フュージョナー》でござるよ」
「特殊召喚すれば融合召喚できる、便利なモンスターだな」
「最近では融合素材の条件が緩いカードも多く、極めて使いやすくなったでござるな」
「弱点はあるのか?」
「特殊召喚できなければ効果が使えない点がそうだが、レベル1なので《ワン・フォー・ワン》が対応しているし、低ステータス故に拙者の様に《リミット・リバース》なども使えるから、あまり弱点とは言いがたかろう。強いて言うならば単体では機能しない事と、低ステータス故に万が一の時に壁にするくらいしかできない事でござるかな?」
「それからこちらから付け加えるなら、融合素材の代用となる際にはキチンと素材の名称が決まっている必要がある事くらいか」
「ああ、それもあったでござるな」
「寄生虫といえば、海外修行で知ったが《寄生虫パラサイド》は海外版だと背景の人はいなくなってるんでござるよ」
「……流石に人の顔から寄生虫はダメなのか」
「そりゃダメでござろうよ」