これまでの俺の人生、思い返せばいろんな驚きがあった。放課後の教室で男子に告白されたり、好きだった俳優が薬物で捕まったり、好きな歌手が薬物で捕まったりとか。いや薬絡み多いなオイ。
でも今、そんな事の比じゃないくらいの衝撃を受けている。
だって!
推しが!
リアルの知人で!
なんなら俺の後輩だったんやぞ‼︎
「そんなことあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼︎」
「うわっ⁉︎どうしたの⁉︎」
どうしたもこうしたもあるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ‼︎
:うるさっ
:何?どしたの?
:鼓膜取り替えるから10秒待ってクレメンス
:10秒もかかるの?ワイは3秒でいけるで
:↑バケモンがよぉ
:先輩⁉︎まずいですよ!
:ホモは帰って、どうぞ
というか俺呼んでOKなの?誰も知らない部外者の一般人やぞ?いろんなとこ騒ぐぞ?
案の定コメ欄も大騒ぎしとる。…あれ?思ってた騒ぎ方じゃない。
とりあえず、詩音に聞いてみる。
「え、ほ、ほんとに?本当にお前があの、綾瀬スズネなの?」
「そうだよ!私が、綾瀬スズネですっ!」
本当だった。
えっどうしよ。じゃあこれまで、俺本人の前で綾瀬スズネトークしてたの?自分の推しって言っちゃってたぞオイ‼︎めっちゃ恥ずかしいやつじゃんかよ…。なぁ詩音、その事言わないよな?言わないよな⁉︎
「これまで先輩ねー、何回も私が推しだって言っててね。すっごくいろいろ話してくれたんだー!」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!言いやがったなお前‼︎」
言いやがった!言いやがったアイツ!
そういうフリじゃねぇつってんだろうが‼︎言ってなかったわ‼︎
ちょっと待ってむっちゃ恥ずかしいんですけど…。
:草
:音量注意(激遅)
:音量ニキもうちょい早く仕事して
:草
:先輩面白いじゃん
:先輩何言ってたの?
「えっとねー、いつも元気いっぱいで何してても楽しそうなのほんとすきだって言ってたよ。あとね、リゼちゃんと一緒のときとかに甘えてるのがかわいいって言ってたなぁ」
もうその辺にして…もう俺のライフは0超えてマイナスいってるよ。
:本人に言ってたのか…
:キツすぎて草
:わかる
:あれかわいいよね
:確かにかわいい
「それにしても、かわいいかぁ…かわいい…かわいい…えへへっ」
…ん?どした?詩音の様子がおかしいんだけど。もしかして俺、なんかしちゃいました?
「おーい、どしたー?」
「かわいい…かわいいって…」
「おーい‼︎」
「わわっ!えっ!な、なにかな?」
さっきからどうしたのよコイツは。
「もういいか?俺の話は」
「あ、う、うん」
幾らか落ち着いたようなので、ここで、一番聞きたかった事を聞いてみる。
「てかさ、なんで俺呼んだの?何の説明もなしに」
「だって話したら来ようとしないでしょ?」
「そりゃね」
こんな大勢の前で面白くなにかやれる自信ないぞ。
「というか俺じゃなくても全然よかったろ。お前と話したい奴なんか探せばごまんといるだろうに」
「そんなことないよ!私は先輩と一緒にお話したかったの!」
「なんでそんな俺に拘るんだよ」
「先輩が、初めて私の話をちゃんと聞いてくれたからだよ」
俺が?
「私ね、話し過ぎちゃうんだ。自分でもわかってるけど、話したいことがたくさんあって止まらないの。今でこそ皆聞いてくれてるけど、それまでは最後まで話せたことなかったんだ」
「まぁ、話長いからなお前は」
でも、別に耐えれない程じゃないでしょ。
「その中で先輩だけが、私の話をずっと聞いててくれた。とっても嬉しかったんだよ。いつ何度話しても、ずっと聞き続けてくれたのがね」
「しかも、ただ聞いてくれるだけじゃなくて、相槌とかツッコミもずっとしてくれてた。それで、大好きになったんだ。先輩とお話するの」
…あいつそんな事思ってたんか。
「そんな先輩の事をみんなに知ってほしいなって思ったんだ。私の大好きな先輩はこんなに面白くて素敵なんだぞー、ってさ。でも、出てくれるタイプじゃないから、こうするしかなくて…」
「…」
まったく、コイツは…
「このバカヤローがぁ」
とりあえずデコピンした。
「痛っ!何するのさ⁉︎」
「最初からそう言ってくれれば、なんも躊躇わずに配信出たよ俺は」
「え?でもさっき、来ようとしないよねって言ったらそりゃねって…」
「そういうことなら、俺は全然幾らでもやるよ。それは、お前が綾瀬スズネだろうが違おうが変わんない。俺だって、お前と話すの…結構、その…す、好きだしさ」
これは本心だ。なんだかんだで、あいつといるのは楽しい。時折疲れるけど。それはそれとして恥ずかしいなこういうこと言うの。
「先輩…」
「ん?」
「ありがとー‼︎私もね、先輩といるの、大好きだよ‼︎」
「うわっ!ちょ、くっつくなって!」
物凄い勢いで抱きついてきた。早く離れろ!むっちゃ恥ずかしい!
てか力強っ…痛い痛い痛い‼︎
「離れろって!」
「やーだよー♪」
「やだじゃねぇ‼︎」
待って本気で痛いんだけど!誰か!コメ欄!止めて!助けて!
:てぇてぇ
:尊い…良い…
:イチャつきやがって…もっとやれ
:てぇてぇ
:てぇてぇ
:これはいいリア充
お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
てぇてぇじゃねぇんだよ!俺は本気で辛いの!
おいコラそこ!無言で赤スパチャ5万投げるなぁぁぁぁぁッ‼︎
…とまぁ、そんなこんなで配信が終わった。
後にこのくだりが大量に切り抜かれ、すっごくバズることになる。俺のVtuber化を望む声が日に日に増え、とうとう詩音の所属する企業「きらぼし」から自社の所属Vtuberになってくれ、と頼まれてしまった。やる気はなかったけど、まぁ、詩音とか、他の奴と話すのも楽しそうだし…引き受けることにした。それから立ち絵とかデビューとか、その他諸々の話もとんとん拍子に物事が進み、今に至るというわけだ。
「ねぇってば!」
「うわっ!どうした?」
「先輩急に返事しなくなるんだもん。どうしたの?」
「いや…ここまでの流れ思い出してた」
「流れ?Vtuberなるまでの?」
「うん。それ」
ほんと波乱だったなぁ。人生って、こんな急に変わるもんなんだな。
「で、どうだった?Vtuberになってみて」
「そうだな…一生聞き手で十分だと思ってたけど、案外楽しいもんだな。きっかけくれたお前に感謝だわ」
「えへへ…」
こいつ心底嬉しそうだな。…いろいろ面倒事もあったけど、喜んでるこいつ見てたらなんかどうでもよくなってきたわ。
「ま、何はともあれ、これからよろしくね、先輩!」
「おう、こちらこそな!」
嬉しそうな詩音に、こちらも笑って応える。
ここまで来たからには、いけるとこまでやってやろうじゃないの。
さあ、俺の配信生活の始まりだ。
次回から航の配信生活が始まり、新キャラも続々登場します。どうぞお楽しみに。