一通り案内された後、最後に社内にあるスタジオを見に行った。流石は界隈最大手2社の片割れ。設備が十二分に整っている。
「あっ、そうだ。今日ここで配信する人もう来てるはずですから、挨拶しておきましょ……あー…やっぱやめとこっかな…」
「え?何でですか?早い方がいいのでは?」
「そうなんですけど…あの人はなぁ…」
浅城さんはずっと渋っている。そんなヤバい人なの?いくらクセ強めのきらぼしとはいえ、流石にそこまではいないんじゃ…。
「男女見境なく襲いかかるからな…」
あ、いたわ。あの人か。今のでわかったわ。てことは、素でアレなの?いやまさか。
「でも流石にあれ程ではないんじゃ…?多少はキャラ作ってやってるものじゃないんですか?」
「いえ、うちでは素の自分で配信して頂くよう皆さんにお願いしています。なので素のままで面白い人を採用してるんです。品村さんも言われませんでしたか?」
そういえばそんなこと言われたな。
「あら、浅城くんじゃない」
二人で話していると、スタイルの良い女の人が話しかけてきた。
「げっ」
「げっ、とは何よ失礼ね。隣の子は?」
「例の新人ですよ、谷村さん」
「ってことは、彼が詩音ちゃんの先輩ね。谷村桃子よ。いや、名前ならこっちの方がいいかしら…私はルミス・ユーリ。あなたの同期よ」
やっぱりそうだったか。あからさまにヤバい人となれば、この人しかいないからな。
ルミス・ユーリ。俺と同じ3期生の、ピンク担当だ。一言で言えばド変態って感じで、BLだろうがGLだろうがオールオッケー。スイッチが入れば、相手男女問わず猥談を繰り広げる。そして、詩音と一番仲がいいのがこの人。あいつ下ネタとか得意じゃないはずなのに、どうやってこの人と仲良くなったのだろうか。これが一番の疑問だ。
挨拶されたので、こちらも軽く自己紹介をしておく。今のところは別に全然変な感じしないんだけど。なんというかこう、落ち着きがあって、大人の女性って感じ。
「やっぱりこの人そこまでおかしくないのでは?どっちかというと見た目清楚な感じなんですけど」
「最初は皆そう言うんです…」
「そうだ。品村くん、これから私の配信に出ない?」
「え?俺がですか?」
「ええ。浅城くんもどう?」
「…どうします?」
「俺はいいですけど…」
「なら私も出ましょう。見張りが必要だ」
「まったくもう。失礼しちゃう」
うーん。おかしい所はないんだけど。
「あと1分で配信始まりまーす!」
おっと、俺も話してないで準備しなきゃ。何度か配信したけど、やっぱり始める前の緊張はまだ取れないな。
「開始でーす!」
そうして本番が始まる。
本当にこんな人が下ネタかますんだろうか。むしろ恥じらいそうな感じがする。
そう思っていた。
「皆さまごきげんよう。ボッキンガム宮殿にようこそ!城主のルミス・ユーリですわ」
「⁉︎」
「くっ…w」
開始早々ぶちかましやがった‼︎少しは恥じらいというものがあるかと思ったが、まったくもって本人ノリノリじやねぇか‼︎
それと浅城さん!あんたは何笑ってんだよ‼︎
「今日はね、私一人じゃなくて、二人飛び入り参加のゲストがいるの。さ、二人とも、挨拶して」
「ども…瀧雲タクミです……暮賀さん?」
「あ…どうも…ふふっ…暮賀倫也…です。ぼっ…きん…あっははははははははは‼︎」
「ちょ…大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。元々この子こういうのに弱いゲラだから。放っておいたらいつか治るわ」
:草
:草
:最初からクライマックスやな
:お?初心者か?こんなん平常運転やぞ
:マジか怖っ
:大丈夫?笑い死ぬんじゃない?
:どういう繋がりで二人来たの?
「さっきタクミくんが暮賀くんに会社案内されてる時に会ってね。折角だからどう?って聞いたらいいよ、って言うから」
「まぁ…大体その通りですね」
と、かいつまんだ説明の後、谷村さんがこちらを向く。どうしたんだろ?笑ってるのに怖いぞ?あの人。浅城さんも何やら苦い顔してるし。
「ねぇ、あなたはどういうのが好きなの?」
「どう、とは?」
「決まってるじゃない。性癖の話よ」
「へ?」
「始まったかぁ…」
いきなり何だ?この人は何を言っている?せいへき…せいへき……性癖⁉︎
「はぁ⁉︎」
「あら、どうしたのよ?急に叫んで」
「初手で性癖かまされりゃこうなるでしょうよ…」
少しはブレーキ効くかと思ったけどそんな事なかったなぁ!目ぇ血走って息荒いもんな!
「何だって言っていいのよ?私はなんでもOKだから。ロリ?ショタ?それとも大人な方がいい?胸はどうかしら?やっぱり大きい方に惹かれるものなの?あ、シチュエーションはどんなのがいい?ハ○撮り?NTR?教えてちょうだい?あ、そういえば暮賀くんにもはぐらかされて聞けなかったのよね。この際だから聞いておこうかしら。あなたはどんなのが好みなの?」
「勘弁してください…」
「何で俺まで…」
早口で捲し立てる谷村さんに反論する気力も湧かず、ただただげんなりしていたのだった…。
暴走を止めつつなんとか配信を終え、二人でぐったりしていると、一人ピンピンしている谷村さんがこっちに来た。
「お疲れ様。喋りっぱなしで喉乾いたでしょ?はい、お茶」
「どうも…」
「浅城くんにも。ブラックのコーヒー」
「ありがとうございます…」
「いっつもそれだけど、たまには微糖飲もうとか思わないの?」
「微糖は甘すぎて無理です」
「そこまでじゃないと思うけどなぁ」
「そういえばですけど、どうして詩音と仲良くなったんですか?」
「それ俺も気になってた。どういう繋がりなんです?二人って」
二人揃って気になっていた事を聞く。
「そこまで大したことじゃないわよ。少しスキンシップの加減を教えただけ」
「へぇ」
「あの子、先輩によくくっついてるんだけど、やったらあんまりいい顔されないからって。加減を教えてほしいって言われてね」
「もしかしてその先輩って…」
「そう。品村くんよ」
「入りたての頃は確かに、私から見てもやり過ぎだなー、っていうのもあったけどね。今だとかなり大人しくなってるの。あれでもあの子、頑張ってるのよ。あなたも、あんまり拒まないであげてね」
こう言っちゃ何だけど、底抜けに明るく、考えなし。これが大多数の、詩音に対する印象だった。
けど、ほんとはそんな奴じゃない。
前に言ってた話に歯止めが効かないこととか、今のことだって、出来ないなりに頑張ってる。他人のことも考えられる。しょっちゅうあいつの側にいたから、そんな事はよくわかってる。
この人は、そこをちゃんとわかってる。いちいちぶっ飛んでるけど、この人はいい人なんだ。
そういえば、今日もついて行くって言われて、拒否しちゃったっけ。
…来週もここに来る用事あるし、たまにはこっちから誘ってみるか。
存外真面目に話す谷村さんを見ながら、そんな事を思うのだっ…
「それとね、私もあの子と仲良くなりたいって思ってたのよ」
ん?
「そりゃまたどうして」
「だってすっごく可愛いじゃない?あの子。だからね、近づいて食べちゃおうかな、ってね」
「…」
「どうせそんなことだろうと思いましたよ…」
さっきの配信と同じ、怖い笑みを浮かべる谷村さん。
やっぱり、ただのヤバい人なのかもな…。
感想、お気に入りなど誠にありがとうございます。
これからもこの作品をよろしくお願いします。