この間ガチャ引いたら限定千夜と凪同時に来た。(奇跡か)
「う………」
ぼんやりとした意識の中で目を覚ます。目の前に広がるのは茶色の机。昔懐かしいと言ったら少し失礼になるかもしれないが学校の机だ。それも黒板の前に置いてある先生用の。
「あ、起きた?もう、教室で居眠りなんてしてるのバレたら減給ものだよ?」
目を覚ますと同時に目の前に銀髪の少女が映り込む。よく知っている顔だ。彼女は久川颯、俺の………………だ。
「………颯?あれ?俺なんで学校なんかに…」
「もう、まだ寝ぼけてるの?学校にはいつも来てるでしょ?」
「だって俺は……学生でも先生でもなくて……アイドル…プロ……」
そこまで言いかけて言葉が止まる。なにを言いかけてたのかそれがわからなくなる。
「本当に何言ってるの?今日は部屋で一緒にお茶会しようって約束したでしょ?早く行こ!」
そう言って颯は俺の手を引っ張った。ああ、そうだった。今日は一緒にお茶会をする約束をしていたんだ。「彼女」の颯と一緒に。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
―数日前―
「はーちゃん?」
この日は久川姉妹が二人で出るバラエティの撮影日だった。撮影を終えた二人はそのまま帰ろうとしたが、凪がトイレに行きたいと言い、颯はトイレの外の机と椅子だけの簡易休憩所で待っていた。
凪がトイレから出るとそこには颯のバッグとスマホだけが机の上においてあり、颯自身の姿はどこにもなかった。
「…」
最初は少し席を外しているだけかと思ったが10分ほど経っても姿が現れなかった。さすがに何かあったのではと思った凪は辺りを探し、スタジオに戻り、近くの人間に姿を見ていないかを聞いたが誰一人として見ていない。
「………はーちゃん!!!!!」
時間が経つにつれ、事態が深刻なことが浮き彫りになっていき、終いには警察が出てくる事態になった。警察からの連絡を受けて竜也も現場にやってきた。
「凪!」
竜也が現場に到着すると同時に凪は竜也に抱き着いた。その手は強く、強く竜也の身体を抱きしめていた。
「凪………すまない。俺がいれば…」
「いえ………Pのせいではありません………P……はーちゃんは…………」
「無事だ。大丈夫だ。絶対」
竜也は嫌な想像を口にされる前に凪を抱きしめて励ました。
だが、行方不明というのはいささか妙なことだった。ここは警備もしっかりしているテレビ局だ。テレビ局というのはそもそもテロリストなんかに乗っ取られない様に施設の作りそのものがややこしく作ってあるので早々不審者なども入れてもすぐ見つかるのがオチだ。
内部の犯行だったとしてもそこそこタッパのある颯を連れて誰にも怪しまれずに局の外に出ることなど不可能だ。
(そもそもスマホも鞄も置きっぱなしなんて……誘拐にしてもあまりに雑だ…いったい何が起きた?)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「はいっ!どうぞ」
目の前にクッキーが差し出された。
「颯………」
クッキーを持っているのは颯だ。颯はクッキーを竜也の目の前に差し出し、口を開けるように促す。竜也は口を開けてクッキーを頬張った。
「あ……」
「おいしい?これ、今日調理実習ではーが作ったんだよ!」
「ああ……うまい。最高だよ。調理実習といえば悠貴が以前」
「悠貴って誰?」
食い気味に颯が悠貴のことについて聞く。その瞬間、竜也の頭にもまるでもやがかかったように悠貴のことが思い出せなくなる。
(あれ?悠貴って………だれだ?そんな奴クラスにいたっけ………)
「この学校の子?」
「いや………すまん、何でもないよ」
「まぁりゅーくんも先生だからね、いろんな生徒との思い出がごっちゃになっちゃうのはしょうがないよ」
「…………そう………だよな」
竜也はなにか思い出そうとしつつもそのたびになにかに阻害されるような感覚に陥る。それが不快で仕方なかった。
「ほら、ローズティー淹れたから、これ飲んで」
「……ごめん颯、俺体調悪くて、また明日でいいか?」
「えー!?せっかく淹れたのに……」
「ごめんな……」
「じゃあ、ベッドで横になりなよ、ほら」
颯が指さす先には大きめのベッドが置いてある。竜也は目を疑う。
ベッドの近くには自分の仕事用であろう机とスーツまで下がっている。しかもベッドを挟んだ反対側には颯の生活スペースであろう勉強机と学生服が置いてある。ベッドに枕が二つあるところを見るとそこに二人で寝ているのは明らかだ。
「なんだこれ…」
「なにって……はーたちの部屋でしょ?はーたちは婚約者だから一緒の部屋にいること許可してもらったんじゃん!」
「颯と…」
(………約束…)
その瞬間、頭の中に誰かの声が聞こえた気がした。それは竜也にとってとても大切な人の声な気がした。しかしそれが思い出せない。思い出そうとすると頭がガンガンと痛くなる。
「う…頭が………痛い」
「大丈夫!?ほら、早く横になって…」
竜也はベッドに横になり、颯もその隣で横になる。
「ほら、はーの胸貸してあげる。少し寝てリフレッシュしよう?」
「……ああ…」
竜也は颯に促されることに疑問も抱かずに颯の胸に顔をうずめる。すると急に瞼が重くなっていき、いつしか静かに寝息を立て始める。
子供のように眠る竜也を見守りながら颯はやさしく竜也の頭をなでた。
「大丈夫だよ………怖いことなんて何にもない。怖いこと、辛いこと、悲しいこと、はーが全部なくしてあげる……」
◆◆◆◆◆◆
ー颯行方不明から1日経過ー
颯が行方不明になってから1日が経った。捜査に進展はなく、わかるのはただ颯がいないというだけだった。
「颯…」
竜也も夜通し探し回ったが颯の姿は見えなかった。今は朝の3時。今日は休みなので事務所に戻ってきた竜也は仕事道具をもってもう帰ろうとした。しかしそのとき、誰かが部屋の前を通った気がした。
「…?」
なんとなく気配に違和感を感じた竜也は部屋から出て廊下を見る。廊下の先の曲がり角を誰かが曲がっていくのが見えた。
「朝の3時だぞ……いったい誰が…」
竜也はあとを追いかける。曲がり角を曲がった先は長い一直線だ。姿が確認できると思い足を急がせる。
曲がり角を曲がると、廊下の奥に月明かりに照らされる美しい銀髪の少女がいた。間違いない、颯だ。
最初は凪かと思われたが凪は颯の事で体調をくずしたことと、混乱した状態で下手な行動に写させないように同じく寮に住む他のアイドルに任せてある。凪が事務所にこれるわけがない。
「颯……颯!!」
探し続けた颯の姿に竜也は泣きそうになりながら駆け寄ろうとする。
「颯!?」
しかし颯は廊下の奥へ向かってしまう。
「颯!!颯!待ってくれ!颯!」
ただ歩いているだけに颯はかなりの速度で逃げてしまう。竜也は見失わないよう必死に追いかけ、最後に颯が入っていったのはとある会議室だった。
そこは、かつて颯がオーディションを受けた部屋。竜也との出会いの部屋だった。
竜也が会議室の扉を開けると、たった今入ったはずの颯はいない。その代わり、机の上にロックシードがポツンとおかれていた。
「ロックシード……なんでこんなところに」
見たことがない赤いロックシードだった。ナンバリングに数字はなく、その代わり『L.S-SECRET』と書かれている。
「なんだこれ……こんなロックシード…いままで見たこと…」
そのロックシードはなぜか妙に魅力というか、目を離せない不思議ななにかがあった。そう、ヘルへイムの果実を見たときのように。
このロックシードを解錠してしまうと、取り返しがつかない事になる。
そんな予感めいたものすらあるのに、解錠のボタンに指が近づいていく。一日中颯を探し続けて体はヘトヘトでろくな休眠もとっていないせいか竜也は判断能力が下がっていた。それも相まって、竜也はロックシードを解錠してしまった。
『ロォズヒップ』
その後、部屋に荷物のみ置き去りにされた状態で発見され、状態に違和感を感じたちひろが竜也宅まで尋ねたが自宅には存在が確認されず、携帯も置き去りなことからその日のうちに竜也は行方不明扱いになった。荷物のみ残した状態は颯の時とまるで同じで、同様の事件に見えたため二人は同じ事件に巻き込まれたものとされた。
相次ぐ奇妙な行方不明事件に警察も頭を悩ませるばかりだった。颯だけの行方不明ならばまだしも、竜也もいなくなったとなればなにかしら関係があるように見えるが、加害者がいるのかすらもわからない状態だ。そして、ここまで事が大きくなれば千夜たちも事件に関与を始めざるをえなかった。
「この事件を起こしている犯人の狙いはいったい何なのでしょう」
「さぁ………でも、魔法使いさんと颯ちゃんが狙われたってことは少なくともいたずら目的じゃないと思う。怨恨………だったとしても、最初に颯ちゃんを狙う理由がわからない…それになんで二人とも荷物がそのままなのか………」
「謎は多いですがそれはこれから探していきましょう。ともかく当面の問題は……」
千夜はちらりと横を見る。そこには泣きつかれて千夜に寄りかかりながら眠っている雪美がいた。雪美はまだ幼い。故に悲しみを我慢できずにいるように見えるが他の竜也が担当するアイドルもかなりメンタルをやられている。表に出さないだけだ。
「あいつを失って悲しむ人たちのケア…ですかね」
「ん……」
雪美が目を覚ます。
「あ、起こしてしまいましたか…」
「ううん………トイレ…」
雪美は立ち上がり、部屋を出ようとした。寝起きだからか、喪失感からか、その足取りはふらふらとしている。
「大丈夫ですか?一緒に行きましょうか?」
「大丈夫………」
心配そうな千夜に見送られ、雪美はトイレに向かった。用を足し、トイレから出ると廊下の先を見覚えのある影が通り過ぎた。
「……竜也…?」
雪美は走り出す。
「竜也!」
雪美が竜也の名前を叫びながらさっき千夜たちといた部屋の前を通り過ぎる。
「雪美さん!?」
千夜とちとせも雪美を追いかけて部屋を飛び出す。雪美は竜也らしき影を追って走り続ける。そしてその日のレッスンを終え、自販機の前で何を買おうか迷っている悠貴と美優の背後を駆け抜けていく。
「雪美ちゃん!?」
美優が雪美の普段見ない全力疾走に驚いているとさらに千夜とちとせが二人の後ろを駆け抜けていく。
「千夜さん!?ちとせさん!?」
二人は顔を見合わせ、何かがあったのだと察し、追いかける。
「はぁ………はぁ………」
雪美がたどり着いたのはただの休憩室。しかし竜也の姿はなく、机の上に『L.S-SECRET』と刻印された赤いロックシードが置いてあるだけだった。
雪美はそのロックシードに魅せられた気分になり、自然とそれに手を伸ばしてしまう。しかし、その手を掴んで止めた人間がいた。
「なりませんよ」
芳乃だった。
「芳乃…」
「これからは、よからぬ気配を感じるのでしてー」
「ああ、その通りだ。いい感してるな嬢ちゃん」
背後から男の声が聞こえた。二人が振り返ると、そこには民族衣装のような服を来た男が立っていた。
「誰…?」
「俺か?俺は…」
「雪美さん!!」
男が自己紹介をしようとしたタイミングで休憩室に飛び込んできた千夜は、間髪入れず男に上段蹴りを繰り出した。見慣れない服装の男に怯える雪美を見て警戒度はMAXになり、今回の事件の犯人ではないかと思いながら蹴りに行ったのだ。だが男は一瞬で消え、千夜の蹴りは空を切る。
「!?」
「おいおい、いきなり暴力はやめてくれよ」
男は休憩室の奥にいた。千夜はすぐさま雪美たちの前に立って戦闘態勢を取る。
「俺はお前たちの手助けをしに来てやったんだぜ?」
「……」
「あー!DJサガラさんだ!」
さらに部屋にたどり着いた悠貴が男を指さして声を上げた。少し遅れて途中でバテたちとせを背負った美優が部屋に入る。
「お、俺の顔を覚えててくれる奴がいたか。うれしいねぇ」
「DJサガラ?」
聞きなれない名前に眉をひそめつつちとせはサガラと呼ばれた男を見る。とてもDJというようには見えない格好にまだ警戒は解けない。すると雪美が千夜の袖を引っ張る。千夜がちらりと雪美の方を見ると、雪美のスマホの画面に何やら騒いでいる男の姿が写っていた。
『ハッロォォォウ!沢芽シティ!!DJサガラの生配信へ!ようこそ!』
「沢芽…」
「俺はかつてこの世界でDJサガラと名乗った存在だ。だが、本来は人ではない。そう、ヘルヘイムとでも名乗ろうか」
「ヘルヘイム………?ヘルヘイムの森そのものとでもいうのか?」
「ああ。我々は種族の進化を願い、様々な星を渡ってきた。本来、一度干渉した世界に「俺」から再び干渉することはめったにないんだが、少々事情があってね」
「なんだそれは…」
「この世界には、都市伝説や怪談といった人ならざる物の存在があるだろう?そういったものは実在すると言ったら、お前たちは信じるか?」
急な質問に驚きつつ皆が顔を合わせる。
「全部が全部真実とは思わない………だが、少なからず存在すると私は思っています」
一番前にいる千夜が代表して意見を言った。他のみんなも頷く。実際、芳乃の不思議な力をはじめ、この事務所にもそういったことに干渉しているアイドルは何人かいる。
「なら話ははやい。今回起きている事件はそういうものの絡みだ」
「神隠し…とでもいうのか?」
「そんなところだ………かつて、ある場所に男と女がいた。二人は互いを愛し合っていた。しかし、とあることをきっかけにすれ違い、ある日の別れを境にそのまま再開することなく生涯を終えてしまう。二人の魂は再開を願いながらこの世界をさ迷った…。再開を果たすための依り代を探してな……そしてその魂は…」
サガラはロックシードを見る。
「ヘルへイムの果実と混じりあった」
「そんな………まさか…」
皆ロックシードを信じられないような顔で見つめる。
「怪異が混ざった果実はユグドラシルによってロックシードに変化させられ、未知の力によってユグドラシルから逃げ出した………そして、いままで多くの人間を犠牲にしてきた」
「まさか……あいつも…颯さんも…」
「ああ、その通り。お前たちの仲間のアイドルも、プロデューサーも、このロックシードが作り出した世界の中に囚われている」
「そんな!」
「なにか、助け出す方法はないんですか!?」
「囚われてしまったら最期、魂に身体を乗っ取られ死ぬまでその世界から出られない……。だが希望はある」
サガラは悠貴の腕輪を指さす。
「通常このロックシードの世界に入ってしまえば、その世界が当たり前と思ってしまう。だがその腕輪の力と俺が力を貸せば、その世界に自我を保ったまま入れる。その世界で二人を呪縛から解き放てれば、生きて帰ってこれる」
「……できなければ…?」
「死ぬだけだ」
休憩室の全体の空気が冷えた。一か八かの作戦。失敗すれば死。このまま颯と竜也だけを犠牲にすれば自分たちは平和な世界にいれる。
(もしこれから怖いことがあっても、それがきっと守ってくれるよ。大丈夫。必ず守るから。どこにいても、必ず君の手を取りに行くから…)
いままで竜也はアイドルたちのために幾度となく危険に踏み込んでいった。元々ユグドラシルでかなり酷い目にあった過去がある竜也は態々アイドルのために命を張る必要なんかない。誰かに任せて平和な世界にいる選択だってできたはずだった。
しかし竜也はそうしなかった。いつだって命がけで自分のアイドルを救ってきた。
「私たちのために………頑張ってくれる竜也のために……今度は…………私たち頑張りたい…っ!」
雪美が一番に言った。その言葉に周りは驚いていたが、すぐに同意の意思を頷いて示した。
「そうか、お前たちの覚悟はわかった。ならば…」
「ちょっと待て。ひとつだけ聞きたい。なぜ私たちに力を貸す?いままでだってそのロックシードが起こしてきた事件はあったのだろう?なぜ今なんだ?」
「俺は待ってたんだ。力と、信頼のある仲間がいる人間が囚われるのを。このロックシードを止めるには内側から破壊するしかないからな。我らが望むのは種の進化。滅びではない。このロックシードの力はいずれ世界を取り込む。その前にどうにかしたかったのさ」
「…わかった」
「ああ、そうだ。俺の力でもこの世界に入れられるのは四人が限界だ。腕輪の君は確定として、あと三人選んでもらえるか」
話し合いの結果竜也と縁深い雪美、千夜、悠貴、芳乃の四人が入る事になった。雪美がロックシードを掴み、そこに他の三人が手を重ねていく。
「では、武運を祈る」
サガラは光の玉を作り出し、それを悠貴の腕輪に放った。腕輪に光の玉が吸収されると四人の身体が光り始める。それと同時に雪美がロックシードを解錠すると、四人は光となってロックシードに吸収されていった。
続く