雪美Pは元ユグドラシル   作:瑠和

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今回は鎧武要素は少なめなPドルのお話に見えますが今後の話に繋げるための大切な伏線になります。次回はクリスマスに投稿します。


ヒント:クリスマスドール


灰ノ章

どす黒い感情が渦巻く。何もかも壊したい衝動に駆られる。憎い、憎い、憎い。アーマードライダーが、葛葉紘汰が憎い。すべてを破壊したい。人類を滅ぼし……………たい?

 

あれ?

 

そもそも…………誰?

 

葛葉紘汰って…………だれ?アーマードライダーって…………………なに?

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「ん…………」

 

暗い部屋の中で目覚める。どうやら夜中に目を覚ましたようだ。たまに変な夢を見るようになったのはいつからだろうか。睡眠すら満足にできないことに落ち込み、気分が暗い。

 

自分一人では何もできなくて、流されて、仕事も、人生だってつまづく。

 

あと2時間少々で出社時間だ。寝る気にもなれないので灯りをつけて出社の準備をした。ケータイを開くと、今を輝くアイドルのニュースが出ていた。

 

自分よりも小さな女の子が輝いている。変わりたい。そう思いながらアイドルを眺める。少しだけでも変わってみたい………。

 

 

 

-346プロ-

 

 

 

「さぁ雪美殿のプロデューサー殿!もう一週行きますよ!」

 

「お、おぉ……………」

 

竜也はインベスに襲われた日から、暇なときに様々なアイドルの個人的なトレーニングに混ぜてもらっていた。今は大和亜季と共に346プロ内のグラウンドで走っていた。その様子を雪美と芳乃はペロと一緒に遊びながら眺め、乙倉は一緒に走っていた。

 

若者の体力に置いて行かれがちだが、なんとか頑張っていた。

 

そして翌休日には中野有香の道場で中野有香と空手。

 

「始め!」

 

「チェストー!!」

 

「はぁぁぁぁ!」

 

結果は中野有香の圧勝。

 

「まだまだですよ!雪美ちゃんのプロデューサー!」

 

黒帯相手に無茶なと思いつつも竜也は有香にボコボコにされながらも可能な限り立ち向かった。

 

あの日以来雪美は頑張っていた。弱音を吐かず、レッスンに励み、初めて写真撮影も知らない人に合う握手会も、頑張って乗り越えた。竜也もプロデューサーとしてやれるだけやっていたが、それと同時にまたあんなことがあったときの為に鍛えていた。

 

「雪美が頑張ってんだ…………俺だって……」

 

ある日、やり慣れないトレーニングを続けていた影響か竜也は夜の事務所で眠くなっていた。退勤時間は少し過ぎているが、まだ作らねばならない資料があった。

 

「眠………少し寝るか………」

 

そこまで急ぎの仕事ではないために竜也は少し寝ることにした。

 

 

 

-数十分後-

 

 

 

少しの仮眠で竜也は自然と目を覚ます。寝る前と今で少し変わったことがあるのに竜也は気付く。

 

「………?」

 

頭が暖かい。そして、少しいい香りがする。

 

「…………………起きた?」

 

上から雪美の声がした。驚いて頭を動かすと、竜也を雪美が見下ろしていた。いつの間にか雪美に膝枕をされていたようだ。

 

「雪美!なんで………」

 

その状況にまず驚き、こんな時間まで雪美がいることにさらに驚いた。

 

「レッスン………終わった…………………竜也…………送ってくれるって…」

 

「あ……あぁ………!ごめん雪美!忘れてた!すぐに準備する!」

 

今日はというか普段から雪美を送り迎えをしていた。日々の忙しさから、滅多にやらないミスをしてしまったことに気付き、竜也は猛省しながら準備に移る。

 

「うん………でも…まだ……………このままでも……」

 

「そういうわけにはいかないって!ちょっと待っててな!」

 

竜也はすぐに起き上がり、椅子に掛けてある上着を取った。その時、雪美はちょっぴり残念そうな顔をしていたが竜也は気付かなかった。

 

雪美とペロを車に乗せ、竜也は雪美宅に向かって走り始める。

 

「雪美、今日お母さんとお父さんは…」

 

「今日………お仕事……………帰り…………遅い」

 

「そうか……夕飯は?」

 

「今日………お母さん………………ごはん…………作れないって………だから……………好きな物……出前…」

 

雪美は猫型のお財布からお母さんに渡されたであろう一万円札を取り出した。

 

「じゃあ時間も時間だし、何か食べて帰ろうか。おごるよ」

 

「…………本当?」

 

「ああ。今日もレッスン頑張ったし、最近がんばってるからな。ご褒美だ」

 

「………嬉しい♪」

 

雪美が嬉しいのはおごってもらえることではない。竜也と一緒に食事をできることだ。帰り道の途中にあったレストランで食事を済まし、車に戻ろうとした時だった。

 

「竜也………」

 

雪美が竜也の袖を引っ張った。

 

「どうした?」

 

「……あれ…」

 

雪美が指さす先には女性がうずくまっていた。

 

「…………」

 

雪美の言いたいことは何となくわかった。竜也と雪美はうずくまっている女性の元へ行き、その女性に竜也が手を差し伸べた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「…………大丈夫?」

 

「いたた………え?いえ、その……大丈夫です」

 

「どうかなされましたか?」

 

「………………ヒールが………折れてしまって。………買ったばかりの靴だったのに…散々です。本当に」

 

「………そうでしたか」

 

「慣れない靴を履いて、背伸びしたくらいでは、人は変われなくて……。靴を変えたことだって、誰からも気づかれない………そんなこと……分かってるくらい大人なつもりだったのに。私知らない方にこんなことを話して……すみません。もう構わないでいただけますか。大丈夫ですから」

 

竜也は再び手を差し伸べるが、女性は断った。

 

「……大丈夫です、1人で立てますから。これくらい……きゃっ」

 

何とか立ち上がろうとしたが、女性はバランスを崩す。竜也はトレーニングしている間に自然と身に付いた反射神経で倒れ掛かった女性の手を掴み、引き寄せた。

 

「あっ………すみません。お恥ずかしいです………1人で立てないなんて。………いつも、そうなんです。自分一人では何もできなくて、流されて……。仕事も、人生だって、つまづいてしまって。…………すみません、また、こんな話をして」

 

「………私、346プロダクションに所属しております。アイドルプロデューサーの月寒竜也と申します」

 

竜也は懐から名刺を取り出し、女性に渡した。

 

「え?はぁ……」

 

「失礼」

 

「アイドルに、なりませんか?」

 

唐突な誘いに対し、当然女性は戸惑う。

 

「…………アイドル?人前にでて歌ったり、踊ったりするあの………?無理ですよこんな、26歳のOLが………」

 

「失礼」

 

竜也はバッグの中から強力な瞬間接着剤を取り出してヒールの修理を始めた。たまたま持っていたわけではない。ライブなどで衣装や小道具が破損することは結構ある。常に持ち歩いておけと先輩から言われていた。

 

「現場では衣装や小道具の破損は日常茶飯事なんですよ。だからいつも持ち歩いているんです」

 

「はぁ………」

 

修復完了したヒールを女性に履かせ、竜也はその腕を握って肩を支えながら立たせる。

 

「さぁ立って。貴方はそう簡単に人は変われないって言いました………。確かにそうです。俺も変わりたくても変われなかった。でも変わろうと思えば人は変われます。変わろうと、思うことが大切なんです」

 

「変わろうと………」

 

「…………私も………がんばってる」

 

戸惑う女性に雪美が自らを指さして言った。女性は雪美をみて少し驚く。

 

「あなた………」

 

「………?」

 

「い、いえ……何でも」

 

「決めるのは貴方です。もし、少しでもやる気があれば………そこの電話番号に」

 

それだけ伝え、竜也は雪美を連れてその場を去ろうとした。

 

「ま、待ってください!どうして………私なんですか?」

 

「…………私はまだ、346プロに努めて2年程度の新人です。ですが、今まで多くのアイドルと、オーディションに来た女の子を見てきました。スカウトも何度かしてきました。貴方には、人々を魅了する力があると思います。さっきそこでうずくまっていた時の儚げな表情、長い手足は身体を良く見せるダンスもできるでしょう。貴方には素質がある。そう判断したまでです。それでは」

 

「………」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

-二ヶ月後-

 

竜也たちが出会った女性は、三船美憂という名前だった。美憂はアイドルになれるかどうか不安になりながらも事務所を訪れ、そしてアイドルになった。

 

そんな彼女が事務所に来るようになってから二ヶ月が経った。最初は緊張しっぱなしだった美優も最近ようやく慣れてきた。

 

「お疲れ様です!」

 

「おお。お疲れ様」

 

事務所に元気よく訪れたのは乙倉悠貴だ。

 

「プロデューサーさん!!あの!これ……」

 

悠貴は少し照れながらかわいらしい個包装に包まれたどら焼きを差し出した。しかもサンドしている生地はハート型だ。

 

「おお。どら焼き。どうしたんだ?」

 

「今日……調理実習で………作ったんです。あの、プロデューサーさんに食べてもらいたくて…」

 

「そうか………ありがとうな。大事にいただくよ」

 

竜也はにっこり笑ってお礼を言った。その対応に、悠貴は少し顔を赤らめて「いえ……」と控えめに言った。その時、竜也の仕事用携帯に電話がかかってきた。

 

「おっと。スマン。はいもしもし……ああ、はい、すぐに準備します」

 

何か用事ができたらしく、竜也は電話をしながら部屋を出て行った。

 

「…………あの…」

 

「!?」

 

悠貴の背後から声がした。慌てて振り返るとそこには美憂がいた。

 

「あっ………………美憂さん…」

 

悠貴は部屋に入る前、芳乃が雪美と一緒にレッスンをしていたのを見て完全に誰もいないと思って竜也にどら焼きを渡していたのだ。今のワンシーンを見れていたことに気付き、顔を赤くした。

 

「………悠貴ちゃん、その……すごくデリカシーのないことを聞いてもいい?」

 

「え………は、はい」

 

「違ってたら申し訳ないんですけど………悠貴ちゃんはその………プロデューサーさんのこと…」

 

「…………その、す………好……き…です」

 

悠貴は顔を真っ赤にして詰まり気味に言った。

 

「プロデューサーさんは、私がやりたいって言った可愛い仕事ばっかり持ってきてくれるんです。私の背の高さとかを活かせば、もっと簡単に仕事取れるのに、私の為に必死で………」

 

「…」

 

「叶わない恋かもしれないっていうのはわかってるんですけど…っ!でも、私………」

 

「…………………そんなことはないですよ。………とっても素敵なことだと思います…」

 

美優は悠貴に応援する姿勢を見せた。

 

「あ、あはは…………あの、私、レッスンがあるのでそろそろ!」

 

悠貴は恥ずかしさのあまりか逃げ出すように部屋を出た。そのとき、床においてあった竜也の鞄に足を引っかけて転びかけたがさすがは陸上部。そんなことでは止まらずに走り抜けた。

 

「………羨ましいな」

 

悠貴が去ったあと、美優はそう呟きながら悠貴が倒してしまった竜也の鞄を元に戻そうとした。そのとき、美優は鞄が倒れた際に中から飛び出した資料と共に転がり落ちた戦極ドライバーを見つける。

 

「…これは」

 

戦極ドライバーを拾い上げて見つめる。

 

(なんだろう………初めて見るはずなのに…なんだか嫌な気分になる…)

 

「本当にこのままでいいの?」

 

誰もいないはずの部屋の中で声がした。

 

「え……誰!?」

 

振り返り、部屋全体を見るが誰もいない。

 

「こっちよ」

 

声がする方向を見る。しゃべっていたのは、ガラスに写った三船美優だった。いったいなにが起きているのか、わからないながらも美優はガラスに近づく。

 

「私…?」

 

「そう。私はあなた自身………いいえ?あなたが無意識にしまいこんでいるあなたの欲望とでも言おうかしら」

 

ガラスの中で話している美優は普段の美優と全く違った。美優は夢でも見ているのかと思ったがそんなことはなかった。

 

「欲望……」

 

「あなたは本当にこのままでいいの?」

 

「…それってどういう」

 

「好きなんでしょう?竜也さんが」

 

「…」

 

図星、なような気がした。美優は正直なところまだよくわからないと思っていた。しかし、もしここにいるのか本当に自分の本心、無意識に見るのを避けている本当の気持ちなら?

 

「確かに悠貴ちゃんはまだ13歳で相手にされる可能性は低い。だけど、だからって可能性がゼロなわけじゃない。もし、竜也さんが本気で悠貴ちゃんと付き合ったら?」

 

「それは…」

 

「変わるんでしょう?だったら求めなさい。欲しいものを求めて、奪いなさい!」

 

それからしばらくして、用事を終えた竜也が戻ってきた。部屋のなかには美優しかいなかった。

 

「ふー。あれ、悠貴は?」

 

「レッスンに行くって言っていましたよ?」

 

「そうか…」

 

悠貴の行方を聞いた竜也は再び仕事に戻ろうとする。

 

「竜也さん。少しこちらに来て休憩いたしませんか?コーヒー入れたので」

 

「え…?あーそうだなじゃあお言葉に甘えて」

 

せっかくの誘いを断ると悪いと思い、竜也はその提案に乗った。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

美優の入れたコーヒーをもらい、竜也は少し休憩に入る。

 

「竜也さんって……ご出身どちらなんですか?」

 

「ああ、俺は……沢芽市だよ。開発都市だった」

 

若干出身地を言うのを憚られたが、ヘルヘイム事件はもう二年も前のことだ。隠すのもどうかと思い、竜也は正直に言った。

 

「そうだったんですか。私、昔行ったことありますよ、沢芽市。友達と旅行で」

 

「………それって、いつごろの話…?」

 

竜也はもしかしたら、自身が黒影トルーパー隊だったことがばれてなにか文句でも言われるのではないかと思った。

 

「一年くらい前でしょうか?」

 

詳しく聞くと、美優が沢芽市に行ったのはヘルヘイム事件が完全に収束し、沢芽市が再興を始めたころだという。どうやら入れ違いだったようだ。

 

「そうか…」

 

「あ、そうそう聞いてくださいよ竜也さん。私旅行に行ったとき一人で勝手にフラフラと移動して、道端で気絶してたのを親切な人たちに助けられたらしいんですよ。うふふ、笑っちゃいますよね?何をやっているんだか……」

 

「そうなのか………」

 

面白い話だ。だがしかし、それ以上に気になることはある。美優の様子が少しおかしいことだ。事務所に来るようになってから何をするにもおっかなびっくりな感じの美優とは少し違い、今はなんというか、妙に強気だ。

 

「美優…………どうしたんだ?今日……」

 

「え?」

 

「なんだか、いつもより元気っていうか………自信を持ってるような……」

 

「…………竜也さんは、どんな女性が好みですか?」

 

竜也が思いきって聞いてみると、美優は急に顔を寄せてきて尋ねた。

 

「え?」

 

「もう、自信を持てなくてうじうじした私は嫌なんです」

 

手を竜也の頬に添え、さらに竜也に近付く。

 

「竜也さんには感謝しています。変われないと思っていた私に、アイドルという新しい道を、人は変われるということを教えてくれた。だから私は、貴方が望む人になりたい。貴方が求める女になりたいんです」

 

「美優………」

 

「こんな風な私は、嫌いですか?」

 

迫ってきた美優に、竜也はどう対応すればいいか分からずに動けなかった。そうこうしているうちに美優は竜也の膝の上に跨り、顔を近づけた。

 

「ま………待ってくれ!」

 

竜也は美優の肩を掴み、軽く押し戻した。

 

「俺は美優が自信を持ってくれたのは嬉しいし、変わろうとしてくれてるのは本当にありがたい。でも…………それはあくまでもアイドルとしてだ」

 

「私には、魅力足りませんか?それとも好きな方…お付き合いされている方がいらっしゃるのですか?」

 

「そういうわけじゃない………ただ……急すぎるっていうか、心の準備が…」

 

「じゃあ………順序を大切に………」

 

美優はそっと竜也に口づけをした。

 

「!!」

 

ソフトキスを終えた瞬間、部屋の入り口で何かが落ちる音がした。部屋の入り口に視線を向けると、そこにはレッスンを終えた芳乃が立っていた。

 

「あ……芳乃…」

 

「……お邪魔しましてー」

 

「芳乃………どうかした?」

 

芳乃の後ろに雪美がいたらしいが芳乃が邪魔になって部屋の中の状況は見えてなかったらしい。

 

「雪美さん。わたくしとカフェに行きましょうぞー」

 

「え?」

 

「いまプロデューサーと美優さんがお取込み中でして―。終わるまでお茶を致しましょうー」

 

「……うん」

 

色々と察した。芳乃は雪美を連れて346プロ内にあるカフェへと向かった。

 

「あぁ………」

 

「見られてしまいましたね………。どうでしょう?恋人から始めませんか?弁解するのも……難しいでしょうし」

 

美優の提案に竜也は少し悩んだ。美優は確かに魅力的な女性だ。だが、担当アイドルに手を出すことに対しての理性、今期や結婚などに悩みのある年齢、そして雪美との約束。

 

「すいません………少し、考えさせてください」

 

竜也は一旦部屋から出て行った。一人部屋に残された美優は、怪しげに笑った。

 

「…………もうすこしだったのにな」

 

 

続く




今回の話がよく分からないという人向けヒント:ジャム
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