雪美Pは元ユグドラシル   作:瑠和

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自分からのクリスマスプレゼントです。もう少し単調な話にするはずが、思ったより長くなってしまいました。次回更新は未定です。


白ノ章

「違う!こんなの!!私じゃない!!!」

 

ここは三船美優の部屋。普段、静かな暮らしの彼女らしからぬ叫び声が部屋に轟く。

 

「違う?何が違うの?私は貴方の深層心理。貴方の欲望のカタチそのもの」

 

洗面台に移った美優が怪しく笑い、美優に語り掛ける。

 

「違う………私はプロデューサーさんに…………あんなこと…」

 

「ほしいんでしょう?竜也さんが。なら力尽くでも手に入れればいい………そうは思わない?」

 

「だからって………あんなやり方…」

 

「使えるものはすべて使って勝ち取る。戦いはいつも最後の一人、勝者が決まるまで続く。それが常………それがどんな戦いであっても。求めなさい?力を。奪い取るために!」

 

 

 

-12月中旬-

 

 

 

すっかり寒くなり街はイルミネーションに飾られ、クリスマス一色となっているこの季節、346プロの事務所内もクリスマス模様に彩られていた。

 

「世間はすっかりクリスマスか………」

 

「おはようございます」

 

事務所に三船美優が出社してきた。

 

「……………おはようございます」

 

この間の一件があってから、美優との関係はいまいちだ。どう接するべきか分かっていない。あれから度々迫られることもあるが、適当な理由をつけて逃げていた。

 

「竜也さん。私、レッスンに行ってきますけど、今日は少しお話したいことがあるので………仕事終わりに会えませんか?」

 

「え………お話だけなら……」

 

「はい。じゃあ、お仕事終わるまで待ってますね」

 

美優はレッスンに向かっていった。そして美優と入れ替わりで芳乃が事務所に現れた。

 

「あはようございますー」

 

「あ、芳乃………」

 

「…………レッスンに行って来まして―」

 

「あ、あの………ああ。いってらっしゃい」

 

あの日以降、唯一美優との関係性を見られた芳乃とも折り合いが悪い。話しかけても必要最低限の言葉だけで済まされてしまうし、余計に関わろうとして来ないし関わらせてくれない。直接竜也に対して何か言うわけではないが避けられているか、呆れられているのは確実だった。

 

弁解もさせてもらえなかった。

 

「………どうしたもんかな」

 

 

 

-346プロ廊下-

 

 

 

竜也の部屋に荷物だけ置いた芳乃はレッスン室に向かっていた。レッスンの時間はまだ少し先だ。普段ならもう少し竜也の部屋でゆっくりするのだが、最近は346プロ内で適当に時間を潰している。

 

この間の一件以来、竜也と一緒にいると胸がもやもやする。自分でもわからない感情の不良に芳乃は戸惑っていた。

 

「………この気持ちは、なんなのでしてー?」

 

「おや、君は………」

 

カフェ近くで黄昏ていた芳乃の基に、一人の男が現れた。

 

「確か、依田芳乃………だっけ?竜也が担当してる」

 

「ぷろでゅーさーでしてー?」

 

「ああ。俺は宇随佐一郎。竜也は俺の後輩だ」

 

竜也の先輩であり、一人前のプロデューサーになるまで育ててたのがこの男、宇随佐一郎だった。かつては竜也のように様々なアイドルを担当していたが、今は高垣楓の専任プロデューサーだ。

 

「なにか、悩んでいるように見えたけど…俺の気のせいだった?」

 

「…………わたくしにも、わかりませぬゆえー」

 

「さては、竜也がなんかしくったか」

 

「いえー………むしろ、落ち度があるのはきっと…」

 

芳乃が「自分だ」と言いかけた芳乃の言葉を遮るように佐一郎が声を出した。

 

「………………無理に話さなくていい。好きなだけ悩んで悩んで悩み抜け。その結果出した答えが間違いでもそれでもいいのさ」

 

「…?」

 

「若いうちは傷の治りも早い。それに、間違えるのが人間だ。間違えても、それを学びとしてまた進めばいい。それにそんなしかめっ面してちゃ近々来るクリスマスも楽しめなくなっちまう。ホーリーナイトは、楽しまナイト!」

 

その一言を言った瞬間、佐一郎は顔を赤くする。

 

「ご、ごめん。ふざけたつもりはないんだ。うちのアイドルの癖でな…」

 

照れながら弁解する佐一郎を見て芳乃は少し笑った。

 

「いいえー。少し、迷いが晴れた気がします故ー。感謝を示しますー。ありがとうございましてー」

 

「そ、そうか?ならいいんだが…」

 

感謝を伝え、芳乃はその場から駆け出した。芳乃はスマホで時間を確認する。レッスンまでまだ僅かに時間があることを確認した。そして、竜也の部屋に戻ってきた。

 

「そなた…」

 

「芳乃………」

 

「…………先日の詳細は、あえて聞きませぬー…」

 

「………どうしてだ?」

 

「わたくしはまだ、未熟ゆえー勇気がありませぬー………望まぬ答えに打ちひしがれる場合も、ありましてー」

 

芳乃にとっての「望まぬ答え」が何かわからないので竜也はあえて弁解も何もしなかった。今は、芳乃の言葉に耳を傾けていた。

 

「………」

 

「ですがー………そなたは、あの日わたくしが手を携えたそなたと信じてよいのでしてー?」

 

「………………ああ。もちろんだ」

 

確証はない。しかし、竜也は自信たっぷりな態度でそういった。その答えを聞くと、芳乃はどこか安心した表情を見せる。

 

「………なればー、わたくしのやることは変わらないのでしてー」

 

ここのところ、どこか冷たかった芳乃の表情が和らいだ気がした。そして、そのまま芳乃はレッスン室に向かった。

 

 

 

-夜-

 

 

 

それから、その日の仕事を終えたタイミングで美優は竜也の部屋にやってきた。例の話とやらだろう。

 

「美優………」

 

「竜也さん。もう帰るだけですよね?でしたら一緒に帰りましょう。お話はその時に」

 

美優と共に退社し、イルミネーションに飾られた街を二人で歩む。会社を出てからしばらくの間は二人とも何も話さなかったが、イルミネーションで輝く並木道にたどり着いた。

 

「………綺麗ですね…」

 

並木道を歩く中で、沈黙を破ったのは美優の方だった。

 

「………そうだな」

 

「私、夢を見ているみたいです。自分がアイドルになるなんて…。でも、夢ではないんですよね。アイドルがだんだんと私の日常になっていく……。レッスンや、宣材撮影、些細なことで自分が少しずつ変わっていくのがわかるんです」

 

「……」

 

「他人と関わるごとに、自分を知るような感覚で。でも、大人になってそんな気持ちになるのは少し怖くて………。でも、ここで受け流してしまってはいけないと思ったんです。こんな機会、もうないと思いましたから」

 

そこまで言って、美優は立ち止まって竜也の方を振り返った。

 

「恥ずかしいことを言うようですが、貴方に出会えたこと………。神様からの贈り物だと思っているんです」

 

「美優………」

 

そう伝えた美優の表情はどこか儚げで、ここ最近とは違っていた。

 

「…………私もあなたに送り返したい」

 

美優は少しずつ竜也に近付き、ほとんど密着している状態の距離まで来た。そして、美優はそっと自分の手を竜也の胸に当てた。

 

「………イブの夜に会えますか?送りたいものと、伝えたいことがあります…」

 

「………わかりました」

 

なんとなく美優の言いたいことは分かった。しかし、あえて竜也は了承した。もし、美優の伝えたいことが竜也の予想通りだったときは、はっきり伝えようと思ったのだ。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

数日が経ち、あっという間にクリスマス・イブ当日を迎えた。346プロ内はクリスマスのライブで主にシンデレラプロジェクトとそれに関わっているメンバーがあわただしくなっていたが、竜也たちにはあまり関係ない話だった。

 

この日はとときら学園の撮影があり、竜也は雪美に付き添っていた。無事撮影も終わり、雪美と共に控室に戻ろうとした時だった。

 

「竜也……」

 

「どうした?」

 

雪美が声を掛けた。いつも通り竜也は笑顔で対応する。雪美が話そうとしたとき、竜也のスマホに電話がかかってきた。

 

「ごめん雪美、ちょっと待ってな……はい、346プロダクション月寒ですが……ああ、お世話になっております。はい、はい、ええ、はい。そうですか!ありがとうございます…」

 

それから十数分竜也は電話で話し、それから雪美のところに戻ってきた。

 

「なんの……………電話?」

 

「ん?ああ、悠貴がこの間受けたオーディションに受かったんだ。このあと悠貴とあちらさんに行かないと……で、どうしたんだ?」

 

 

「……………………………………何でもない」

 

「?」

 

雪美は何かを伝えようとしたが、やめてしまったようだった。大したことではなかったのかと思い、言及はしなかった。その後、雪美を事務所まで送り、すぐに悠貴を乗せてオーディションを受けた会社へ向かった。

 

悠貴が受けた仕事の説明と日程の合わせ、それらを終わらせる頃にはもう18時になっていた。

 

「お疲れ、悠貴」

 

「はい、プロデューサーさん。すみません、こんなに遅くなって…」

 

「悠貴が悪い訳じゃない。むしろ、悠貴がオーディション受かったお陰でこんなに遅くなるなら本望だよ」

 

「でも、早く帰って雪美ちゃんとパーティーしないとじゃないですか?」

 

悠貴の言葉に、竜也は首を傾げる。

 

「なんの話だ?」

 

「え?だって今日雪美ちゃんが、今日はお母さん達が急な仕事で家に誰もいないから、ブロデューサーさんをパーティーに誘うって…」

 

「…っ!」

 

さっき雪美が撮影終わりに声をかけたこと。それはきっと自分をパーティーに誘いたかったのだと竜也は思った。しかし、竜也の忙しそうな様子を見た雪美がきっと遠慮したのだ。

 

「雪美…………悠貴!すまん!金渡しておくから今日はタクシーで帰れるか!?」

 

今日はこのまま悠貴を家に送り、竜也はそのまま美優と約束した場所に向かおうとしていた。しかし、竜也は悠貴をタクシーで送らせ、竜也は雪美宅へ向かうことにした。

 

「………はい。私は大丈夫です♪」

 

悠貴は少し思うところがあったが、その気持ちを飲み込んで笑った。

 

「すまない………じゃあ、気を付けてな」

 

タクシーを呼び、悠貴を乗せて去り際に別れを告げた。

 

「あ、ちょっと待ってください!」

 

悠貴は背負っていた鞄から、可愛らしく包装されたプレゼントを取り出して竜也に渡した。

 

「これは………クリスマスプレゼントです。私がいつも付けている腕輪と一緒ですよ♪」

 

悠貴は左腕にいつも腕輪を付けている。本人曰くお守りだそうだが、いつ手に入れたかはよく覚えてないという。

 

「そうか、ありがとう………悪いな。俺、なんも準備出来てなくて……」

 

「プロデューサーさんはお仕事頑張ってますから!プロデューサーさんが私たちにくれるお仕事がプレゼントですから!」

 

「ありがとう……」

 

「はい、お疲れさまでした!!」

 

ドアが閉まり、タクシーは出発した。

 

「………腕輪……………そういや悠貴はどこで手に入れたかもわからない腕輪をどうやって?いや、そんなことよりさっさと行かねぇと!」

 

竜也は車に向かって走った………が、その場でいったん止まる。

 

「……そうだ………」

 

竜也はスマホを取り出し、美優に電話を掛ける。

 

「どうも、俺です」

 

[竜也さん。お仕事終わったんですか?]

 

美優との約束はこの後。美優が気に入っているというバーに集合する予定だった。しかし、雪美のことを無視するわけにもいかない。竜也は美優との約束を断ることにした。

 

「…………申し訳ないんだが、そっちには行けなくなった」

 

[…………どうしてですか?]

 

「大切な用事ができちまったんだ………だから………ごめん」

 

[…お仕事ですか?]

 

アイドルの精神的なコンディションを整えるのはプロデューサーの仕事だ。それを言ったら美優との約束もそうだが、優先度は幼い雪美の方が高いし何より、この美優との約束は、プロデューサーとして断るべきだと思っていたのもある。

 

「…………その一環だ」

 

[……………竜也さん、私は………………………貴方が欲しいんです!]

 

「………ごめん」

 

[………………………]

 

返事はなかった。少しの沈黙の後に電話が切れた。

 

「ごめん………美優」

 

 

 

-346プロ-

 

 

 

急いで346プロに戻ったが、事務所には既に雪美はいなかった

 

「雪美…………」

 

普段は雪美を送ることが多いのだが、たまに雪美が一人で帰ることもある。時間も時間だ。今日はもう帰ったのだろう。それかレッスン室で頑張っているか。

 

「そなたー?」

 

「芳乃………」

 

部屋に芳乃が入ってきた。普段ならもう帰っている時間のはずだ。

 

「どうした?こんな時間に」

 

「忘れ物をしまして―。お恥ずかしい―」

 

「雪美は?」

 

「幾刻か前にお帰りになりましてー」

 

「そうか。もう遅いから芳乃も気を付けて帰れよ」

 

急いで車に向かおうとしたとき、芳乃が竜也の袖を引っ張る。

 

「待ちましてー」

 

「?」

 

芳乃は竜也の鞄に手を伸ばし、悠貴がくれたプレゼントを取り出す。

 

「開けてもよろしくてー?」

 

「あ、ああ」

 

包装を解き、中から腕輪を取り出す。

 

「これはー?」

 

「悠貴からのクリスマスプレゼント………らしいんだが」

 

「これは邪を払い、そなたを護る力となるでしょー。身につけておくとよいのでしてー」

 

芳乃は竜也に腕輪を付けた。

 

「そういうもんか………ありがとうな」

 

芳乃に礼をいい、竜也は車に走った。悠貴からもらった腕輪を付け、雪美の為に走る竜也を芳乃は手を振って見送った。いつも通りだ。そう思ったのに、芳乃の心はほんのすこしチクチクしていた。

 

(………そなたはそなた……あの日、手を重ねたままそなたのはず………なのに胸が痛むのは、なぜでしょうー?)

 

 

 

-雪美宅-

 

 

 

雪美は家で一人で夕食の準備をしていた。夕食の準備と言っても、雪美のお母さんが作ってくれたものを温めるだけで雪美でもできる。ペロと一緒に孤独な夕食を始めようとしていた。

 

「じゃあ……………食べようか。ペロ」

 

「ミャア」

 

食べようとした瞬間、家のチャイムが鳴る。

 

「………?」

 

雪美がインターフォンのボタンを押すと、画面に竜也が映った。

 

「……………竜也…………?」

 

雪美は玄関に向かいドアを開けた。

 

「雪美………」

 

「どうして…」

 

「悠貴から聞いたんだ。ご両親いらっしゃられないのか?」

 

「…………うん……でも………竜也………忙しい…………私だけの…………プロデューサー…………じゃない……から」

 

竜也は雪美の目線までしゃがみ、頭に手を置いた。

 

「…雪美、いい子だなぁ…お前は。確かに俺は雪美だけのプロデューサーじゃない………でも、みんなのことを大切に思ってる。美優も、悠貴も、芳乃も、雪美もだ。例え仕事じゃなくても、どんなに忙しくても、寂しいなら傍にいく。俺は、あの日に誰かのために戦うって決めたから」

 

「………竜也」

 

雪美は竜也に抱きつく。

 

「……………………寂し…かった………来てくれて………うれしい」

 

「雪美………さぁ、身体が冷えるから家に入ろう」

 

「………うん」

 

雪美は竜也の手を引いて家の中へ誘った。居間に到着すると、テーブルの上にはご馳走がならんでいた。きっと雪美一人では食べきれなかっただろう。

 

「凄いごちそうだな」

 

「うん…………一緒に………食べよう………?」

 

「ああ。いただくよ。あとで雪美のお母さんにお礼言っとかないとな」

 

「じゃあ……………いただきます………」

 

「いただきます」

 

もう、こうやって雪美と二人きりで食事をするのは何度目だろうか。雪美の両親は忙しいには忙しいが毎日いないわけではない。しかし、結構大切なタイミングで仕事が入ったりする。その時、親の代わりを務められるなら竜也的には本望だった。

 

二人でクリスマスディナーを食べ、ケーキも食べたらもう雪美がもう寝る時間となった。しかし、雪美は「しばらく一緒にいたい」というちょっとした我が儘を竜也は聞いてやった。雪美の家にある暖炉の前のソファに二人で座り、肩を寄せ合う。

 

「…………ペロも……サンタさんが……連れて来てくれたの」

 

暖炉の前で丸くなっているペロを見て雪美が話してくれた。いつかは分からないがクリスマスにペロをもらったのだろう。

 

「今年は何をお願いしたんだ?」

 

「…………お願いは…………内緒……。………知ってるの……サンタさんだけ……」

 

「そうか………」

 

「でも……………叶った………」

 

雪美は竜也には聞こえないように小さく呟いた。

 

「何か言ったか?」

 

「ううん…………何も…………それより………手………ぎゅって………して?」

 

「ああ。お安い御用だ」

 

竜也は雪美と手を繋いでやる。二人はそのまま静かな時間を過ごした。お話もたくさんした。雪美のパジャマは今日、サンタさんが来てくれるからお気に入りのパジャマを着ていること、飾りつけは雪美がやったということ、靴下の居心地がいいのかペロが入ること。

 

お話をしながらふと、竜也が窓の外を見ると、雪が降っていることに気付いた。

 

「雪美………見てみろ、雪が降ってる」

 

「…………ホワイト………クリスマス………素敵…………こんなの………初めて」

 

「俺もだ」

 

雪の降る夜空を眺めていると、雪美はだんだんと微睡に誘われていく。

 

「………竜也から…………もらった……たくさんの…………大切な……気持ち………………プレゼント…………私からも………いつか。………けど…………今日は………もう…………おやすみなさい」

 

「ああ。おやすみ」

 

竜也は雪美の手を握りながら、肩に手を回して頭を撫でてやる。

 

「竜也………帰っちゃう…………………?」

 

「そのうちな………でも、雪美が夢を見るくらいまでは、一緒にいるよ」

 

「…………………よかった………………撫でてくれる………竜也の手………………優しくて…………好き」

 

雪美は竜也に愛でられているうちに、どんどん瞼が重くなっていき、最終的に竜也の手の中で眠りについた。

 

「おやすみ。幸せな夢を………ペロ、行こう」

 

竜也は雪美をお姫様抱っこして雪美の部屋まで運んでやる。ペロもその後を付いていった。雪美の部屋に入り、ベッドに寝かせてやる。そして、起こさぬように居間に戻って帰ろうとしたとき、玄関のドアが叩かれたのを気づく。

 

「………?」

 

インターフォンも鳴らさず、いったい誰が来たのかと思いながらドアの覗き穴を見てみるとそこには見慣れたアイドルの顔があった。

 

「?」

 

扉を開けると、そこには五十嵐響子、荒木比奈、星輝子の三人がいた。クリスマス衣装だ。

 

「君たちはウチの………どうしてここに」

 

「今、346プロのアイドルの子供たちにプレゼントを届けている最中なんです。雪美ちゃんもう寝ましたよね?」

 

それを聞き、竜也はまさかと思った。

 

「君たち…見てたのか…」

 

さっきの二人きりで暖炉前で寄り添っている現場を、多分窓の外から見られていたのだろう。

 

「えへへ………寝たタイミングでいかないといけないので……」

 

「フヒッ………ラブラブ…だった……な」

 

「茶化さない。俺と雪美はそういうのじゃない…………雪美は部屋に寝かせてきたから、プレゼント置いてくるのは構わないが起こさないようにな」

 

「はい、もちろんです」

 

外を見るとハザードランプを付けた車が止まっているのが見えた。今回来ていたのは寮組の面子であることから彼女たちのうち、誰かのプロデューサーではなく原田美世であろう。

 

しばらくすると三人は居間に戻ってきた。

 

「じゃあ私たちは行きますね。おやすみなさい」

 

「ああ……おやすみ。あ、さっきの話広めないでくれよ?」

 

「大丈夫ッスよ。雪美ちゃんのお願いに付き合ってただけッスよね?」

 

「理解があって助かるよ」

 

急に現れたサンタクロースたちは帰っていった。竜也も雪美の寝顔を見てから家に帰った。翌日は雪美の撮影もあったのでさっさと帰って明日の準備もしなければならなかった。

 

 

 

ー翌日ー

 

 

 

翌日、雪美はクリスマスの生番組に出演することとなっていた。生放送は雪美にとって初体験なのでこの間まで緊張していたが、今朝迎えに行くと、その緊張はどこかへ飛んで行っていたようだ。

 

「昨日…………竜也……………一緒にパーティー…………してくれた…………たくさん…………サンタさん…………来てくれた…………素敵な思い出………たくさん………できた…………。生放送……怖い…………けど………頑張れる……」

 

「そうか………頑張ろうな」

 

「うん………お仕事………行こ………手を………繋いで」

 

竜也は雪美と手を繋ぎ、竜也の車まで歩く。

 

「竜也と………お仕事………向かうの…………夢に向かって………進んでる…………みたい………ふふ………アイドル……らしい……ね………」

 

「夢?」

 

竜也が尋ねると雪美は微笑んだ。

 

「…………秘密……竜也との………約束………自分の…夢………プレゼント………みたいに……………待つ……じゃなくて……………私……叶える………だから………待っていて」

 

「………ああ」

 

いまいち竜也はピンと来てない様子だったが、雪美は満足げに笑っていた。

 

雪美はスタジオに着くと、すぐに衣装に着替えて竜也に見せにきた。クリスマスツリーを思わせるグリーンのドレスに黒い猫耳をつけたかわいらしく、雪美らしい衣装だった。

 

「黒猫…………だよ………撫でて……いいよ………耳……とか」

 

「こいつは可愛らしい黒猫さんだな」

 

竜也は可愛らしい衣装に静かながらもはしゃぐ雪美を見て、微笑みながら雪美を撫でた。雪美は竜也の愛撫を嬉しそうに受ける。

 

「間もなく!本番でーす!」

 

そうこうしているうちに、もうすぐ雪美の出番がやって来る。

 

「雪美、頑張れ!」

 

「竜也が………信じて……くれれば…………きっと…………できる」

 

「………信じてるよ」

 

雪美の生放送は成功に終わった。仕事を終えた雪美を家に送り、竜也は346プロ本社に戻ってきた。

 

用事は一つだけだ。クリスマスを終え、次の仕事は悠貴と芳乃の正月仕事だけでもう本社に出向いてやる仕事はほとんどない。

 

レッスン場に赴くと、そこには美優がいた。

 

「美優……昨日はすまなかった」

 

「…………」

 

「それから、申し訳ないんだが、俺は美優の想いに………きっと応えられない。俺は、美優だけのプロデューサーじゃないから……………」

 

「………」

 

美優は何も言わない。

 

「ただ、それは………絶対じゃない。もっと時間をかけて、お互いを知ろう。早すぎたと思うんだ。俺も美優を知れるようにもっと努力を…」

 

「もういいんです」

 

沈黙をしていた美優がようやく口を開いた。

 

「美優…」

 

「最初からそんなことはどうでもいい…………私が欲しいのは貴様の力だけだ」

 

振り向いた美優の目つきがいつもの美優とは違った。

 

「美優………?」

 

「まだ理解できないのか?まぁ仕方ないか…………はぁ!!」

 

美優が竜也に手を向けると、何処から現れたのかもわからない大量の青いイナゴが竜也を襲う。

 

「うぁぁぁぁ!?」

 

イナゴの軍団は一か所に集まり、怪人になる。

 

「………なんだこいつは…」

 

「いつかチャンスがないかとこの女の身体の中に潜んでいたが、まさかチャンスがそちらから来るとはなぁ………」

 

美優の様子は完全に違った。突如現れたイナゴ怪人も美優が手懐けている様子だった。

 

「お前………何者だ!」

 

完全に美優とは別人であることに気付いた竜也は戦極ドライバーを取り出して腰に巻き、ロックシードを開錠した。

 

『マツボックリ!』

 

「変身!」

 

『マツボックリアームズ!一撃!イン・ザ・シャドウ!!』

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

黒影トルーパーマツボックリアームズに変身し、イナゴ怪人に立ち向かう。

 

「行け」

 

美優の指示でイナゴ怪人が動き出し、竜也と戦う。竜也は影松で突いたがイナゴ怪人はそれをいなして竜也を殴り飛ばした。

 

「ぐぁ!」

 

「以前はこいつを作り出すこともできなかったが、この女の闘争心を食らえたおかげでずいぶん力も戻ったようだ」

 

「貴様………何者だ!美優をどうした!」

 

竜也はイナゴ怪人に影松を押し付けながら壁際まで追いやり、押さえつけながら聞いた。

 

「かつてこの女は私が利用したのだ。私自身は無理やり切り離されてしまったが、私の残留思念はこの2年間ずっとこの女の身体に残り続け、チャンスを待っていたのだ」

 

「美優を返しやが…ぐあ!!」

 

イナゴ怪人は強かった。いくら鍛えているとはいえ、怪人の強さは一級品だ。美優のことを気にして戦っていられるほど、竜也に余裕はなかった。

 

すぐに立ち上がり、向かってくるイナゴ怪人に影松で切り上げて蹴り飛ばす。わずかな隙に竜也はカッティングブレードを稼働させた。

 

『マツボックリスカッシュ!』

 

竜也は影松を構えて飛びあがる。

 

「はぁぁぁ!」

 

エネルギーを溜めた影松の切先をイナゴ怪人に向け、一撃を食らわせようとした。しかし、イナゴ怪人は影松を脇に抱えて攻撃を避けた。

 

「なに!」

 

そのまま腹部にいい攻撃を食らい、影松を手放してしまう。ふらついたところを奪われた影松で切り裂かれ、壁に叩きつけられて竜也は床に伏せた。そして、ダメージが大きすぎたのが変身が強制解除された。

 

「ぐぅ………」

 

「言われずとも返してやるさ。その代わり、貴様を頂こう」

 

「なにっ……?」

 

イナゴ怪人がイナゴの軍団に分裂し、竜也を包み込んだ。

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

黒い感情が竜也の身体を支配していく。すべてを破壊したい、奪いたい、力が欲しい。そんな闘争心がどんどん膨れ上がっていく。それと同時に、美優は気を失ってその場に倒れた。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

完全に竜也が意識を乗っ取られそうになった時、悠貴にもらった腕輪が輝いた。

 

「な、なんだ!?」

 

「なんだと!?」

 

腕輪の輝きはどんどん強くなっていく。やがてレッスン場を包み込むほど大きくなり、そして徐々に小さくなっていった。

 

(今度こそ僕の力でこいつを封じて見せる…………だから、貴方も負けないで………諦めないで)

 

遠くなる意識の中で、青年の声が聞こえた気がした。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「………ん………さん………プロデューサーさん!!」

 

瞼を開けると、視界に入ってきたのは泣きそうな顔で竜也の顔を覗き込んでいる悠貴だった。

 

「ゆ………悠…貴?」

 

「プロデューサーさん!大丈夫ですか!?」

 

「ああ………」

 

まだ身体がだるかったが、何とか起き上がる。近くには美優も倒れており、その周りにはトレーナーと芳乃がいた。

 

「良かった………来たら二人とも倒れてて………何があったんですか?」

 

「…………」

 

竜也は思い出そうとするが、何も思い出せない。

 

「確か………今日は仕事があったから雪美と仕事して………終わったからここに帰ってきて……………どうしてこんなところに」

 

「うう………」

 

少しすると美優も起きた。

 

「おい、大丈夫か三船!」

 

「おきまして―?」

 

「あれ………私………レッスンしてて………どうして」

 

美優も記憶は残っていなようだ。

 

「美優………大丈夫か?」

 

「はい………」

 

一体何があったのか、現場にいた二人も覚えていなかった。竜也もこれまで何があったか部分的にしか覚えていなかった。イナゴ怪人も、美優の身体を何者かが乗っとっていたことも、ここ最近美優がおかしかったことも覚えていなかった。

 

「ともかくまぁ………疲れてたんだろう。休んでおけ。プロデューサーさんもな」

 

「はい………」

 

「お騒がせしました」

 

二人はそのままレッスン場を出て、自動販売機などが置いてある休憩場に来た。美優はずいぶん疲れている様子で、椅子に座る。

 

「美優」

 

「ありがとうございます」

 

竜也はコーヒーを買い、美優に渡してその隣に座った。

 

「……………なんだか、長い夢を見ていた気分です」

 

「俺もだ………大丈夫か?本当に」

 

「ええ………なんだか身体がだるいですけど……それ以外は。プロデューサーさんは?」

 

「俺もだるさはあるが……………特には」

 

「プロデューサーさん!」

 

そこに、悠貴が駆けてきた。

 

「悠貴、レッスンは?」

 

「私、たまたま近くにいただけで今日はレッスン無いんです。レッスン場にプロデューサーさんの荷物が置きっぱなしだったので届けに来ました」

 

悠貴が持ってきたバッグを竜也は受け取った。

 

「ありがとな」

 

「いえ…あ、プロデューサーさんプレゼント………つけてくれてるんですね」

 

「ん、ああ………あれ?」

 

なんとなく腕輪を外そうとしたとき、腕輪が外れなくなっていることに気付く。

 

「外れない………悠貴、これどうやって外すんだ?」

 

「え………?あれ………普段なら簡単に………?」

 

さっきまで簡単に付け外しすることができる腕輪は、まるで鍵がかかったように外れなくなっていた。

 

「それは邪な気配を封じているのでしてー」

 

そこに、芳乃が現れた。

 

「芳乃…」

 

「先刻までその邪な気配は美優さんにありましたがー、いまはその腕輪の中にありましてー。触らぬ神に祟りなしですよー」

 

「邪な気配…」

 

そのことで何か思い出せそうな気がしたが、記憶に靄がかかったように思い出せない。

 

「芳乃がそういうなら………触れないでおくか…………そういえば、悠貴はこの腕輪どこで仕入れたんだ?悠貴の腕輪はどこで手に入れたか覚えてないんだろ?」

 

「ああ、プロデューサーさんのは………あれ………私、何処で………あれ?」

 

 

 

…………………………………………………この時、まだ俺達は気づいて無かったんだ。俺や美優、悠貴の記憶の消失。これがここから始まる戦いの序章に過ぎなかったことを。

 

 

 

続く




よしのんを便利キャラにしすぎた気もしますが、よしのんならきっとこれくらいできる筈。
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