雪美Pは元ユグドラシル   作:瑠和

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お待たせしました。最新話です。よしのんのお話になります。この話の後にメインストーリーである鎧武外伝黒影トルーパーが入ります。よって、次回はメインストーリーのあとの話となります。


絆ノ章

そなたと出会ったあの日。そなたと手を重ねたあの日。それはきっと神の導き故、出会った運命。しかし、いつしかそこに、わたくしの欲が混じるようになったのは、いつからでしょう。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「…………」

 

電車が通り過ぎてから少しして、踏切のバーが開く。しかし、踏切が開いてもその前に立っていた芳乃は動かなかった。

 

「芳乃」

 

踏切の向こう側から来た人物が芳乃に語り掛ける。

 

「………そなたー?」

 

現れたのは芳乃のプロデューサーである竜也だった。今日は夜から生放送があり、竜也は芳乃を迎えに来ていたのだ。

 

「どうしたんだ?ぼーっとして」

 

芳乃は少し、竜也の顔を見てから答えた。

 

「いえー。己のなすべきことと、己の欲に関して、考えを深めておりましてー」

 

「………そうか。悩みがあったら言ってくれよ」

 

同事務所に所属する、神崎蘭子や二宮飛鳥というアイドルの話す言葉も理解が難しいと聞いたが、芳乃もたまに難しい言葉を話すなぁと竜也は思っていた。

 

「ええー。もちろんー………」

 

 

 

-生放送終了後-

 

 

 

生放送が終わり、仕事を終えた芳乃を乗せて竜也は女子寮に向かっていた。

 

「芳乃、眠かったら寝てていいぞ」

 

「いいえー、体力には自信がありましてー」

 

「そうか…無理はしないようにな」

 

芳乃は運転をする竜也の腕を眺めていた。竜也の左腕には悠貴からの贈り物の腕輪がはめられていた。

 

「クリスマスよりー変わりはないのでしてー?」

 

「ああ……特には」

 

「いつそこに封じられているモノがあふれ出るかわかりませんのでー、気配りを願いまして―」

 

「そうだな、気を付けるよ」

 

「事務所の中に漂っていた悪しき空気も………まもなく…」

 

今日は年を越してすぐの撮影だった。去年の中旬、346プロダクションの常務が海外から突如戻ってきた。戻ってきた瞬間、アイドルの急な路線変更を決定した。その影響は当然竜也にもあったが軽傷で済んだ。雪美も悠貴も芳乃もまだ路線がしっかり決まっていなかったからだ。

 

大きく影響を受けたシンデレラガールズプロジェクトは美城常務に逆らうように色々と活動していた。シンデレラガールズプロジェクトと常務の間に溝が生まれていたのだ。芳乃の言う悪しき空気とはそれのことだ。

 

芳乃を寮に送り、竜也は家に帰ろうとした。その帰り道、休憩にコンビニによった。買った缶コーヒーをコンビニの前で飲んでいると道路を挟んだ先に、とても美しい少女がいるのが見えた。

 

「………」

 

じっと見つめていると、少女と目が合う。

 

「あの子は…」

 

美しい金髪、紅い瞳、不思議と引き付けられるような魅力を持っていた。少女のいる方へ行こうと近くの信号に向かう。しかし、信号が青に変わったその時には少女はそこから消えていた。

 

「………さっきのはいったい」

 

 

 

-翌日-

 

 

 

「……」

 

あれから家に帰り、風呂に入って、夕食を食べ、眠りに就き、起きて朝食を食べ、会社に来ても、なぜか昨日の少女のことが頭から離れなかった。

 

彼女にもう一度会いたい。

 

その一心で竜也は昨日のコンビニ辺りを探し始めた。

 

探した。

 

探した。

 

探した。

 

探した。

 

探した。

 

いつしか日は暮れ、竜也の足は棒のようになっていた。「これ以上探すのは無謀か」そんな考えが脳裏によぎるくらいになったとき、背後から声がした。

 

「…………あなたの望みはなぁに?」

 

「!!」

 

振り返ったが、もういなかった。

 

 

 

-翌日-

 

 

 

さらに一日経った。ずっとあの少女の事を考えている。今日は書類を作らなければなかったので事務所で書類を作成していた。

 

「おはようございま………す!?」

 

そこに学校を終えた雪美が来たが、雪美らしかぬ大きな声を上げた。

 

「ど、どうした雪美?」

 

「り、竜也………?」

 

雪美は怯えた様子だった。それも竜也のことをみて怯えている。そこにレッスンを終えた芳乃がやってきた。

 

「お疲れ様で…………そなたー?」

 

「…?」

 

「どうなされましてー?その御顔ー」

 

「顔?」

 

芳乃は持っていた手鏡を竜也に向けた。鏡に映った自分自身を見た時、竜也自身も驚いた。竜也は目の下にクマを作り、顔も若干げっそりしていた。

 

「うわ…こいつはひどいな……」

 

「お疲れでして―?」

 

「ああ………よく眠れなくてな…」

 

竜也は数日前で会った少女について話した。その少女の事が気になって眠りが浅いこと、全くその少女が見つからずに困っていること。

 

「その子…………幽霊?」

 

一度見かけたはずなのに、全く足取りを追えないうえにまるで最初から実体がない様な行動に、雪美は幽霊なんじゃないかと怯えていた。

 

「幽霊……ありえるかもなぁ……」

 

「それ以上……だめ…………竜也………呪われる………」

 

気になる存在を追い続けているうちに徐々に生気を奪われ、殺される。ホラーならありがちな話だ。雪美は本気で竜也を心配していた。そんな雪美を見て、芳乃は微笑みながらなだめる。

 

「その心配はありませぬよー、雪美殿ー」

 

「え?」

 

「今、この者にそのような気配は感じないのでしてー。探しものは近く、見つかるでしょー」

 

「………そうだな……多分俺が焦りすぎてたんだ。一休み入れて、資料作ったらまた外回りで少し探してみるよ。心配してくれてありがとな、雪美」

 

竜也は雪美の頭を撫で、ソファに寝っ転がった。

 

「少し仮眠を取るよ」

 

雪美は休む竜也をみて微笑んでいたが、芳乃の様子がおかしいことに気付く。

 

「芳乃…………どうしたの?」

 

「………いえー。あの者はあの者の仕事をしているだけでしてー。ですが私の「欲」がざわついているのでしてー」

 

「……………?」

 

 

 

-街中-

 

 

 

再び街に赴いていろいろと探し回ったが結局あの少女は見つからなかった。また深く入れ込む前に帰ろうとした。その時、背後から声がした。

 

「捜しものは、見つかった?」

 

「…」

 

振り返る。

 

そこにはずっと探していた少女がそこにいた。

 

「会いたかった?」

 

悪戯っぽく少女は笑う。ようやく見つけたと竜也は安堵のような、何かをやりきった時の達成感のような、妙な気分になった。そして「会いたかった?」という質問に対して苦笑いで答えた。

 

「ああ。会いたかったよ」

 

「あはっ、可愛いところあるんだ」

 

話は聞いてくれそうだった。なんだか話をしていると心地良い空気が漂ってくる。雰囲気がいいのか、声がいいのか、わからないが心が落ち着く。

 

「……ねぇ、聞いてる?ぼーっとしないで」

 

「ああ………ごめん」

 

「貴方が何者なのかはまだ知らないけど……………それは、これから知るからいいよね。あなた、私が欲しいんでしょ?」

 

「あ……ああ」

 

少女の瞳に吸い込まれるような気分だった。竜也は薄々分かってきた。この少女には人を引き付ける何かがあるのだと。言ってみれば一種のカリスマ性の様なものだ。声や見た目などにそういったものを持っている子は多い。しかしこの少女は存在そのものにカリスマ性を持っているのだ。

 

竜也は笑顔で手を差し伸べた。

 

「アイドルになってほしい」

 

普段はやらないような気取った行動を無意識にやっていた。

 

「あはっ楽しそう。いいけどいくつか条件を守ってね」

 

「条件?」

 

「ひとつは、私を退屈させないこと。ふたつめ。私に嘘をつかないこーと」

 

声を聴いているだけで頭がぼんやりとしてくる。この少女が欲しいと思ってしまう。

 

「みっつめは…なーに、その顔。もう待てないの?」

 

「じゃあ、契約しよっか。……………もう、後戻りはできないよ」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

夢の中にいるようだった。

 

事務所から見える街の灯りはキラキラと輝き、クリスマスのイルミネーションのように見えた。

 

竜也が出会った少女は、黒埼ちとせという名前だった。竜也はちとせと出会ってからというものの、ずっと幻想の夢の中にいるようだった。どこかふわふわとした幻想のような世界にいて、その世界の中でちとせの声だけは甘美に、そして確実に脳に響く。そんな感じで日々が過ぎていた。

 

そして今、夜の事務所の屋上で竜也はちとせと二人きりでいる。

 

「魔法使いさん?」

 

「…なんだ?」

 

「もう、見惚れ過ぎ。あなたの仕事は私を見るだけじゃないでしょう?」

 

そう言ってちとせは竜也の頬をパシッと軽く叩く。

 

「…それも、そうだな…。でも、それはちとせに魅力があるからこそ…なんだよ」

 

「そんなんじゃ僕ちゃんに怒られるよ?」

 

「僕ちゃん?」

 

竜也は聞いたことのない名前に違和感を覚える。

 

「もうすぐ「ここ」に一人の女の子が来るから、迎え入れてあげて欲しいの。いい?」

 

どういう意味かよくわからなかった。しかし、竜也は自然と頷いてしまう。

 

「僕ちゃんは今、呪縛に捕らわれている………きっと貴方ならそれを解いてくれる。此処に来て、貴方が導いているアイドルを見て、そう思えた。だから…ね?」

 

 

 

-数日後-

 

 

 

竜也は今日、オーディションを行っていた。しかし、残念ながら竜也のお目にかかる候補はいなかった。オーディションに来た候補が全員落とされるのは稀にある話だ。特に先日行われた「シンデレラたちの舞踏会」で以前に増して346プロダクションの人気は上がった。そのせいでオーディションを受けるアイドルも増え、以前に増してオーディションの合格率も下がった。既に346プロダクションの所有するアイドルは190名を超えている。スカウトを含め、346のアイドルになるにはよほどの才を持ったものに限られる。

 

そんな風に思われていた時、オーディション会場の部屋にノックの音が鳴り響いた。オーディションも終わっているし、竜也は事務所の誰かが来たのかと思った。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

入ってきたのはセーラー服を着た一人の女子高生。346にいかにアイドルが多いとはいえ、見かけた記憶はない。

 

「………なにか?」

 

「はぁ……聴きたいのは私の方なのですが」

 

「……どういうこと?」

 

「お嬢様より此処へ行けと言われました。だから来た。それだけです」

 

「君は?」

 

「白雪千夜です」

 

名前を言われたがオーディションの中にそのような名前はない。

 

「…………」

 

「それで?」

 

「え?」

 

「私は何をすれば良いのでしょうか」

 

千夜という少女の見た目は良い。何より、千夜と話しているとなんだか目が覚めてくるようだ。

 

「……オーディションをしようか」

 

自然とその言葉が出た。ちとせをスカウトした時とは逆に流れるようにではなく、それが必要なことだと感じ、己の職務を全うしなければいけないという使命感のような思いから出た言葉だ。

 

「その前に、ここで私が何を求められているか………説明してもらいたい」

 

「ああ。是非聞いてくれ」

 

竜也は千夜に事細かく説明した。

 

「……お話は分かりました。では、アイドルのお仕事、承ります」

 

「へ?」

 

なにか分からずに来ただけなのに、アイドルの仕事をあっさり引き受けたことに竜也は驚いた。

 

「……意外に思われましたか。同意です。私も本心からお伝えしているわけではありませんから。これも戯れでしょう。なら、つきあうのみです。では、失礼します。お嬢様の食事を作らねば」

 

「お嬢様?」

 

「ええ。私のお嬢様です。なにか」

 

この346プロにお嬢様と呼ばれるアイドルは何人かいる。しかし、竜也はそのアイドルを思い出すよりも先に数日前の夜を思い出した。

 

「あ…僕ちゃん?」

 

口を滑らす。

 

「お前。私をその名前でもう一度呼んだら…」

 

瞬時に目の前に迫られ、竜也は軽く脅される。

 

「………すまない…。いや、待っていたよ。白雪千夜さん」

 

「待っていた?」

 

「君のお嬢様…ちとせから話を聞いているよ」

 

「そうでしたか。しかし意外でした。アイドルのオーディションというのは形式的なものなのですね」

 

「…いいや。私は君を見ていた。話をしている間の仕草、表情、手癖………これは私の勘でしかないがないが、君はアイドルの素質を持っている。そう判断したから君の言葉には異論を唱えない」

 

それは、竜也が認めなければ千夜の「アイドルのお仕事、承ります」という言葉は無視され、追い返されていたという意味だ。

 

「………私自身が求められていないと思うのですが…」

 

「ちとせの事とは別だ。君はアイドルの素質がある。そう判断しただけだ」

 

「そうですか…今後についての詳細は別途連絡をしてください。では」

 

そういって千夜は去って行ってしまった。変わった子だと竜也は感じた。しかしそれ以上に、会ったこともないような少女になぜか懐かしさを感じている。

 

それからしばらくして、千夜も正式に346に所属した。

 

これで竜也の担当するアイドルは雪美、悠貴、芳乃、美優、ちとせ、千夜の六人になった。竜也の仕事の忙しさは以前にも増し、常に時間に追われるようになっていく。そんなある日、竜也が疲れた顔で事務所に入ると、そこではレッスンを終えたちとせと千夜が優雅にお茶をしていた。

 

「あ、魔法使いさんお疲れ様ー」

 

「…お疲れ様です」

 

「ああ………お疲れ様」

 

ちとせはともかく、千夜の竜也に対する態度はとても冷淡なものだった。竜也の疲れはそれも多少は含まれている。ちとせの体力のなさには多少驚いたが、そういうタイプのアイドルの対応は雪美で慣れていた。

 

「んー?魔法使いさん疲れてる?」

 

「ん………ああ、少しな」

 

「じゃあ魔法使いさんもこっちにきて一緒にお茶しようよ。ちょっとだけ休憩…ね?千夜ちゃんもいいでしょ?」

 

お茶を飲んでいるのはちとせだけであり、千夜がお茶を淹れている。

 

「はぁ、まぁ、お嬢様がよければ」

 

疲れた竜也を見かねてちとせがお茶に誘う。

 

「………そう…だな」

 

仕事もひと段落したので竜也はその誘いを受けた。

 

「では、こちらにどうぞ」

 

「ああ…」

 

久しぶりに心が安らげる時間、竜也はそれを楽しんだ。そう、周りのことを忘れて。扉の外側に、芳乃の気配があったことに気付けなかったくらいに。

 

「……」

 

 

 

-数日後-

 

 

 

この日は芳乃が出演するドラマの撮影だった。しかし、珍しく芳乃はNGを連発し、撮影は思ったよりも長引いていた。

 

「大丈夫か?」

 

「ええ……少し、気分が優れないのでしてー」

 

「あっちで少し休憩すると良い。俺は少し監督と話してくるよ」

 

「……」

 

芳乃は撮影現場の川から少し離れて一人で休憩し始めた。

 

はやく気持ちの整理をし、ふっ切らなければならないと分かっているのだが、そう簡単にできることではなかった。

 

「わたくしは…」

 

小さなため息をついて座り込もうとした時、芳乃の口が何かで塞がれる。

 

「!」

 

それから少し時間が経ってから、竜也が芳乃を探して芳乃がさっきまでいた場所に来ていた。

 

「芳乃ー?………どこに行ったんだ?全然いない……」

 

その時、竜也の電話が鳴る。取り出してみてみると芳乃からだった。竜也は胸を撫で下ろして電話に出た。

 

「もしもし芳乃?どこにいるんだ?」

 

『初めまして月寒竜也プロデューサー』

 

電話に出たのは芳乃ではなかった。一気に血の気が引く。

 

「………誰だ」

 

『君のアイドルは預かった。すぐに撮影場所の近くにある廃工場まで戦極ドライバーを持って来てください』

 

電話が切れ、すぐに写真付きのメールが送られてきた。そこには椅子に縛られている芳乃の姿があった。

 

「芳乃!!」

 

「どうしました?声を荒げて」

 

そこに同じドラマで共演している千夜が戻ってこない竜也と芳乃を呼びに来た。

 

「千夜…」

 

「…?」

 

それから少しして、千夜が一人だけ撮影現場に戻ってきた。

 

「あれ、白雪さん。プロデューサーさんは?」

 

「………監督、自慢ではありませんが自分の入れるお茶の味には自信があります。是非ご賞味いただけませんか?」

 

「え?」

 

「さぁさぁ、こちらにどうぞ」

 

千夜は監督に何も言わせず椅子に座らせ、近くの机に手慣れた手つきでお茶の準備を完了した。

 

(お前がそう舞えというのなら、優雅に舞ってごらんに入れましょう)

 

一方で竜也は謎の誘拐犯に呼ばれた場所に走っていた。竜也は千夜に芳乃を取り返すまでの間、監督たちをどうにかごまかしておいてほしいと頼んだのだ。普通のアイドルであればそんなことは難しいのだが千夜には取っては不可能ではなかった。

 

以前からちとせの無理難題を押し付けられているのだ。多少難しくても不可能ではない。

 

そして、廃工場に竜也はたどり着く。

 

「…来たぞ!」

 

「やぁこんにちは。月寒竜也プロデューサー」

 

工場の二階から覆面をした男が姿を見せた。

 

「…望みはこいつか!」

 

竜也は懐からドライバーを取り出す。

 

「ああ。しかしドライバーだけが欲しいわけじゃない。ほしいのはデータと君の命だ」

 

「………どういうことだ」

 

「一つ、理由を教えておこう。私の名前は漆ヶ丘達也。私はそのドライバーの前のベルトオーナーの弟だ」

 

「!!」

 

今竜也が持っているドライバーは竜也がユグドラシルにいたころ、目の前で死んだトルーパー隊の男から奪ったベルトだった。竜也は助けられる状況にいたにも関わらず、それを見殺しにしてドライバーを奪ったのだ。

 

世界の終わりだと思っていた竜也がそういう行動をとったのは無理もない話だが、竜也はそれをずっと後悔していた。

 

「兄はあの日、俺を側の民家に隠して俺の為に戦って死んだ…………あまり兄のことが好きなわけではないが、家族だ」

 

漆ヶ丘は階段で一回に降り、竜也に対峙した。

 

「…………だったら…好きにしろ……あれは俺の自己中が引き起こした…惨劇だ。だから芳乃を今すぐ解放しろ!」

 

「ああ違う違う。データも欲しいと言っただろう。ここで私と戦ってほしい。私が勝てば私は君のドライバーを奪取して命も奪う、だが君が勝てば君はドライバーを奪われることも死ぬこともない。どうだ?いい条件だろう」

 

漆ヶ丘は戦極ドライバーを取りだした。

 

「なんだと…」

 

「変身」

 

『マンゴー!』

 

漆ヶ丘はマンゴーロックシードを取り出し、ベルトにセットした。

 

『マンゴーアームズ!ファイトオブハンマー!』

 

空からマンゴーアームズが落ち、漆ヶ丘はアーマードライダーブラックガイムマンゴーアームズに変身した。

 

「…っ!」

 

「さぁ、変身してくれ」

 

漆ヶ丘は腰に携えている無双セイバーを抜き、バレットスライドを引いてガンモードの弾を装填した。そして無双セイバーの銃撃で竜也の足元を撃った。

 

「くっ!もうやめてくれ!ドライバーが欲しければくれてやる!殺したいんなら殺せ!」

 

竜也はそう訴えるが漆ヶ丘は再び竜也の足元を撃った。

 

「さぁ、変身を」

 

「クソったれがぁ!!!」

 

竜也はドライバーを腰に巻き、マツボックリロックシードを取り出した。

 

「変身!」

 

『マツボックリアームズ!一撃!イン・ザ・シャドウ!!』

 

竜也は影松を構え、漆ヶ丘に向かって走った。

 

「はぁ!」

 

漆ヶ丘に渾身の突きを放ったが、その攻撃を無双セイバーでいなされ、それによって生まれた隙を狙われてマンゴパニッシャーでふっ飛ばされた。

 

「うぁぁ!」

 

竜也はすぐに立ちあがり、構えなおした。

 

「ぐ……」

 

「さぁ、どうする」

 

そう言って漆ヶ丘は竜也を無双セイバーのガンモードで撃った。竜也は若干仰け反りながらも近くにあった土嚢を漆ヶ丘に投げた。漆ヶ丘は無双セイバーで土嚢を切り裂く。その隙に竜也は飛んで切りかかった。

 

「甘い」

 

竜也の斬撃をマンゴパニッシャーで受け止め、がら空きの腹を無双セイバーで二度斬る。竜也がそのダメージで少し離れた瞬間、ガンモードで二発撃つ。

 

「ぐぁぁ!!」

 

漆ヶ丘は弾切れとなった無双セイバーの弾をリロードし、竜也に近付く。

 

「クソっ!」

 

竜也はカッティングブレードを二回倒す。

 

『マツボックリオーレ!』

 

影松にエネルギーが溜まり、それをエネルギー弾として漆ヶ丘に向けて三発放った。漆ヶ丘はエネルギー弾をマンゴパニッシャーで受け止めつつ、一気に竜也に接近した。

 

「はぁぁぁ!!」

 

「!」

 

漆ヶ丘はそのままマンゴパニッシャーを竜也に食らわせ、一気にふっ飛ばした。

 

「うぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

-工場内-

 

 

 

廃工場の中では芳乃が椅子に座らされていた。

 

「……」

 

数分前、芳乃は漆ヶ丘に捕らわれた。いや、芳乃自ら捕まりに行ったと言っても過言ではない。

 

(落ち着いて、動かないで。大人しくしてれば悪いようにはしない。君には人質になってもらいたい。私が用事があるのは君のプロデューサーだ)

 

そう言われた。

 

抵抗することはできた。大声で叫べばすぐに竜也が駆け付けただろう。しかし、漆ヶ丘から殺意は感じなかったし竜也が自分を助けに来てくれる。そのことに、芳乃は期待した。竜也が、自分を、自分だけを見てくれるチャンスだと、思ってしまった。

 

今ではその選択は後悔している。

 

「……そなたー」

 

その時、工場の壁をぶち抜いて竜也が吹っ飛んできた。

 

「あぁ!」

 

「!」

 

ふっ飛ばされた衝撃で竜也の変身は強制解除される。

 

「そなた!」

 

「ぐ…ぁ………よ、芳乃……よかった、無事だったんだな…」

 

竜也は笑って芳乃を縛っていたガムテープを持っていたハサミで切った。竜也は頭から血を流し、スーツで見えないが体中に打撲の傷もあった。芳乃はそれを見て強く自分の判断を後悔した。

 

くだらない嫉妬心で竜也をここまで傷つけてしまった。心配なんてしなくても竜也はこんなに傷だらけになっても自分の為に必死になってくれる。そんなこと、わかり切っていたのに。

 

「そなた…」

 

「芳乃、逃げるんだ…早く…」

 

その時、芳乃の足元に弾丸が撃ち込まれる。

 

「おっと、傷つけるつもりはないが君がいないと彼が必死に戦ってくれない。もう少しいてくれないかい?逃げるなら………命の保証はない。二人ともね」

 

「芳乃……大丈夫だから、隠れてて…」

 

再び竜也が変身しようとした時、体に蓄積されたダメージが基となり、その場に倒れる。

 

(身体が……動かねぇ…)

 

「…もう動けないのかい?もう少しデータがほしかったんだが……」

 

漆ヶ丘は無双セイバーの切っ先を竜也に向ける。

 

(…これで良いのかもしれないな……この事件を起こした原因を作ったのは俺だ…あの日、目の前で命を見捨てた償いをするときが来たのかもしれない…)

 

竜也は諦めていた。ずっと心に引っ掛かっていた罪悪感をこれからも持ちながら生きていくのも疲れると思った。

 

「死ぬと良い」

 

無双セイバーを振り上げ、一気に振り下ろす。

 

(………竜也から…………もらった……たくさんの…………大切な……気持ち………………プレゼント…………私からも………いつか)

 

刹那、竜也は無理矢理立ち上がり、悠貴からもらった腕輪で無双セイバーの刃を受け止めた。

 

「なに…?」

 

「まだだ…俺はまだ死ねない……っ!」

 

「さっきまで殺したければ殺せって言ってなかったかい?」

 

「あぁ…そうだ。お前には俺を殺す理由がある。俺がお前に殺される理由もある…だが俺はまだ死ねない…雪美を一人にはできない……なにより!芳乃にこんな思いをさせたお前を絶対許さねぇ!」

 

竜也はそのまま無双セイバーをはね上げる。

 

「うぉぉぉぉぉ!」

 

そしてそのまま漆ヶ丘を思いっきり殴り飛ばした。その衝撃と、斬撃を受け止めたことによって悠貴の腕輪が砕けてしまう。しかし竜也はそんなことを気に止めずに戦極ドライバーを取り出し、腰に巻いた。

 

そのまま変身しようとしたとき、工場の奥の部屋から芳乃が現れる。

 

「そなた!これを!」

 

芳乃は竜也になにかを投げた。受けとってみるとそれはロックシードだった。芳乃は工場内にあった漆ヶ丘の鞄を見つけ、そこからロックシードを二つほど拝借してきたのだ。

 

「サンキューな芳乃!」

 

『イチゴ!』

 

イチゴロックシードを戦極ドライバーにセットし、カッティングブレードを倒した。

 

『イチゴアームズ!シュシュっとスパーク!』

 

竜也はアーマードライダー黒影トルーパーイチゴアームズに変身した。

 

「ほぉ…面白い」

 

「はぁ!」

 

竜也はイチゴクナイを取りだし、それを漆ヶ丘に向かって投げる。漆ヶ丘はイチゴクナイをマンゴパニッシャーで防ぎ、無双セイバーのガンモードで竜也を撃つ。

 

竜也はジャンプで弾丸を避け、カッティングブレードを倒した。

 

『イチゴオーレ!』

 

イチゴクナイ三本を同時に投げる。漆ヶ丘はそれを再びマンゴパニッシャーで受け止めようとしたが、今回のイチゴクナイは着弾と同時に四方八方に小型のクナイを飛ばした。

 

「ぐぁぁ!」

 

「今だ!」

 

飛び散ったクナイを食らい、漆ヶ丘は少し怯む。竜也はその隙に再びカッティングブレードを倒し、高く飛び上がった。

 

『イチゴスカッシュ!』

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

 

エネルギーを足に集中した必殺キックを漆ヶ丘に放つ。しかし漆ヶ丘もすぐにカッティングブレードを倒して対抗した。

 

『マンゴースカッシュ!』

 

エネルギーが蓄積されたマンゴパニッシャーを竜也のキックにぶつける。二人の技は相殺され、二人とも吹っ飛んだ。

 

「ぐぅ…」

 

「今度はこいつだ!」

 

『バナナアームズ!ナイトオブスピアー!!』

 

竜也はすぐさま体勢を立て直し、イチゴアームズからバナナアームズにアームズチェンジした。そしてバナスピアーを構えて走り出す。

 

「だぁぁぁぁぁ!!」

 

「面白い!」

 

漆ヶ丘は無双セイバーで竜也を撃つが、竜也は止まらない。

 

「はぁ!」

 

無双セイバーをバナスピアーで弾き、そのまま回転切りを食らわせた。さらに次の攻撃を放つがそれはマンゴパニッシャーで防がれる。

 

「ロックシードの性能か、覚悟が変わったのか………どちらか知らないが君は面白い。さっきまでは赤子の手を捻るような感じだったが、やりごたえが出てきた!」

 

「黙れ!」

 

竜也は一旦離れ、カッティングブレードを倒してバナスピアーを地面に突き刺した。

 

『バナナスパーキング!』

 

地面からバナナ型のエネルギー体が三本出現し、漆ヶ丘を攻撃する。漆ヶ丘は地面を転がり、鉄柱に激突した。

 

「そうか………ここまで本気を出されては、私も本気を出さなければ不作法というもの…」

 

「…?」

 

漆ヶ丘はエナジーロックシードを取り出し、戦極ドライバーのフェイスプレートを外してゲネシスコアをセットする。そして、緑色のエナジーロックシードを取り出した。

 

「一度くらいなら、問題ないだろう…」

 

『ライムエナジー』

 

マンゴーロックシードが自動的に閉じ、一時的に開錠される。ライムエナジーロックシードをゲネシスコアにセットし、カッティングブレードを倒す。

 

『ミックス!マンゴーアームズ!ファイトオブハンマー!ジンバ―ライム!ハハーッ!!』

 

漆ヶ丘はアーマードライダーブラックガイムジンバ―ライムアームズに変身した。

 

「!」

 

「さぁ!行くぞ!」

 

ソニックアローを構え、竜也に飛び掛かる。ソニックアローの斬撃をバナスピアーで受けようとしたが受け止めきれず、切り裂かれる。

 

「ぐぅ!」

 

「はぁぁ!!」

 

斬られて後退した竜也はそのまま漆ヶ丘の追撃を受ける。二発ほど斬撃を受けたが、すぐに体勢を立て直し、三撃目をバナスピアーで受け止めた。

 

ソニックアローを弾き、突きを放つが即座にいなされて蹴りをもらう。それでも怯まずにバナスピアーを振るうが、ソニックアローで弾かれて斬撃を受けて倒れる。

 

「がはぁ!」

 

「………さすがに性能差は埋められないか………仕方ない君のその強さならそれさえも凌駕できると思ったんだが…」

 

「舐めるなぁ!」

 

『バナナスカッシュ!』

 

竜也は起き上がると同時にカッティングブレードを倒し、バナスピアーから巨大なバナナ型のエネルギー体を出現させる。そしてそれを一気に漆ヶ丘にぶつけようとした。

 

「…」

 

『マンゴースカッシュ!ジンバ―ライムスカッシュ!』

 

漆ヶ丘はその場でカッティングブレードを倒し、エネルギーを溜めたソニックアローでバナナ型のエネルギーを打ち砕く。

 

「!」

 

「もうそろそろデータは充分だ」

 

漆ヶ丘はそう言ってライムエナジーロックシードを外し、ソニックアローにセットした。

 

『ロック・オン』

 

「終わりにしよう」

 

ソニックアローのレバーを引き、エネルギーを充填する。エネルギーがマックスになると同時にレバーを離し、強力なエネルギー矢が竜也を襲った。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「そなた!!」

 

エネルギー矢に打ち抜かれ、竜也のいた場所で大爆発が起きる。

 

「…」

 

完全に終わったと漆ヶ丘が思った時、爆発の中から竜也がバナスピアーを構えて突進してきた。

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「なに!?」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

『マンゴースカッシュ!!』

 

バナスピアーの先端が命中する直前、とっさに漆ヶ丘が放った技が竜也に命中して竜也は強制変身解除させられた。

 

「が………はぁ………」

 

竜也は気絶してその場に倒れる。

 

「驚いたな……確実に仕留めたと思ったが…」

 

漆ヶ丘は倒れた竜也にソニックアローを向ける。しかしとどめは刺さずに変身を解除し、竜也が落とした戦極ドライバーとロックシードを拾った。

 

「…これは返してもらう。面白いものを見せてもらったお礼に命だけは助けてあげよう。君は、呉島貴虎程とは言わないが戦極ドライバーに高い適性を持っているようだ」

 

そう言い残して漆ヶ丘は去っていった。漆ヶ丘がいなくなったタイミングで芳乃は竜也の倒れる場所へ走った。

 

「そなた!そなたぁ!」

 

「…………う…」

 

スーツも破れ、ボロボロとなった竜也は少ししてから目を覚まして全身の痛みに耐えながらなんとか起き上がる。

 

「芳乃…」

 

「無事で………良かったのでして…」

 

「こっちのセリフだ……」

 

芳乃に肩を借りながら竜也は撮影現場に戻った。撮影現場では監督がえらくご機嫌だった。千夜のもてなしが気に入ったらしい。撮影に戻った芳乃はNGを一つも出すことはなく無事撮影を完了した。

 

この事件の数か月後、シンデレラガールズ総選挙が行われ、雪美を標的としたファンの暴走事件が発生する。竜也はそこで呉島貴虎に再開し、再び戦極ドライバーを得ることとなった。

 

 

 

続く

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