竜也が倒れ、竜也の担当するアイドルは他のプロデューサーが臨時的に担当することとなった。また、アイドル活動も会議の末一部自粛する流れとなった。アイドルのみの仕事は極力控え、他事務所のタレントや芸人との撮影のみを許可した。
今回の犯人の目的は不明瞭だが狙いが346プロのアイドルである以上、他の巻き添えを出そうとはしないという考えだった。しかし、それからしばらくして再び事件は起きた。
その日は北条加蓮が生放送に出演する予定があった。しかし、スタジオに向かう途中で北条加蓮はインベスに襲われた。怪我こそなかったものの、同一犯による襲撃と考えられる。そして夢見りあむがSNSで炎上した。これはいつも通りに思えたが、本人曰く記憶にない投稿だという。
その他にも現場に何度かバイオレンスが現れ、仕事の妨害をしていた。
「……」
千夜はここ数日の間に起きた事件をまとめていた。いつどのような条件でバイオレンスが現れているのかを予測していた。
「千夜ちゃん、遅くまでお疲れ様」
「お嬢様」
「どう?何かわかった?」
「………恐らく犯人は…わかりました」
これまでまとめたデータから犯人の可能性のある人間が浮上していた。
「そうなの?」
「ですが、証拠はありませんし、そう簡単に尻尾も見せないでしょう…………罠を張るしか」
「罠?」
「はい…」
翌日、千夜は佐城家の前に来た。そしてインターフォンを鳴らす。
「おはようございます。千夜です」
しばらくすると玄関から雪美が出てきた。
「おはようございます、雪美さん」
「おはよう……千夜」
千夜は竜也が死にかけたことがよっぽどショックだったらしく、2日ほど学校もレッスンも休んだ。そこで千夜が雪美を説得し、何とか家から出したのだ。
そして、少しでも気が和らぐようにとここ数日千夜が一緒に登校していたのだ。
「…………竜也……は?」
「まだ目を覚ましませんが、少なくとも命には係わることはないとのことです。安心してください」
「………そう」
雪美が聴きたいのはそんな話ではない。それは分かっていたがそれでも、千夜はそういうしかなかったのだ。
「どうか、笑ってください。あいつ………竜也は雪美さんの悲しむ顔を望んでいません」
「うん………」
「……」
月並みな言葉しか浮かばないが、それでも言うしかなかった。それからしばらく静かな時間が続いたが、とある交差点に差し掛かったところで雪美が口を開く。
「………時々……竜也と……ここで会った」
そこは雪美が登校中、竜也と時々で会っていた場所だった。
「そうなのですか」
「また………一緒に…歩きたい…………」
「ええ。歩けますよ。プロデューサーは………どうしようもないほどお人好しですから。足が千切れようと、雪美さんがそれを望めば一緒に歩いてくれますよ」
(そうだ………あいつはそういう男だ。だから……さっさと戻ってこい…)
「………雪美さん」
「…?」
「一つ、お願いがあります」
-346プロ-
放課後、346プロに雪美と千夜はレッスンにやってきた。
「おはよう。雪美ちゃん。白雪さん」
いま雪美と千夜のプロデュースは竜也の先輩である宇随佐一郎が見ていた。
「おはよう……」
「おはようございます」
「今日はレッスンだっけ?頑張ってね」
宇随は本来高垣楓の専任プロデューサーなので仕事も自粛されていることもあり雪美たちへの関与は最低限という感じだった。雪美たちからも宇随にそこまで関与することはなかった。
「宇随プロデューサー」
「はい?」
仕事をしている宇随の基にちひろがやってきた。
「急で申し訳ないのですが、竜也プロデューサーの仕事メモにこんなものが………」
ちひろは竜也がいつも使っている手帳を見せた。そこには明日、雪美の次の仕事の下見があることが明記されていた。
「雪美ちゃんの仕事の下見?そうか………わかりました。俺が同行します」
どうしてもプロデューサーの力を借りなければならないときなどはこうして宇随が同行する形で仕事をこなしていた。
「…ですが、当日は雪美さんとプロデューサーの二人きりです。危険では?」
「今回の犯人がどんなやつかは知りませんが、仕事の下見のスケジュールまで把握はしてないと思いますよ。それに、もし犯人が現れたら私が雪美ちゃんを守ります」
「………わかりました。お願いします」
部屋を出たちひろは、ドアの付近にいた千夜の前に立つ。
「言われた通りにしましたけど…本当にこれで良かったんですか?」
「はい。ありがとうございます。ちひろさん」
ー翌日ー
宇随は雪美を連れて次回の撮影場所まで来た。場所は山奥にある廃工場だった。
「こんな場所で撮影するのか…?」
「うん………」
そこは、かなり古びた廃工場で、とてもアイドルが撮影するような現場には見えなかったが、竜也のメモ帳には確かにここが下見の場所と書いてある。
「………しばらく………見回る…から…………一人に…して?」
「……そうか…」
仕事場の見学時に一人になるようにお願いするアイドルや役者は少なくない。宇随は特に疑問を持たず雪美を置いて車に戻った。
「………」
雪美はその場で一人、うつむいた。
「竜也……」
しばらくすると、廃工場の外から悲鳴が聞こえた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
「!?」
雪美は声のした方向を見る。その声は確かに宇随のものだった。悲鳴のすぐ後から聞こえてきた足音が廃工場の入り口に近づいてくる。そして、その足音の主が廃工場に現れた。
「……」
現れたのはやはりバイオレンス。バイオレンスはボロボロのネクタイを雪美に投げた。雪美の足元に落ちたネクタイは、宇随の物だった。
「っ!」
「殺しはしない………ただ、アイドルには戻れなくなってもらう…」
バイオレンスはソニックアローを構え、レバーを引く。
「…………竜也!」
その時、廃工場の奥からショットガンをもった千夜が飛び出してきた。そして、バイオレンスに向けてショットガンを発砲する。
「!」
散弾を浴びせられ、バイオレンスは少し退く。さらに二発、三発と続けてショットガンを撃つ。
「雪美さん逃げて!」
「…うん」
雪美は慌てて廃工場の奥へ逃げ、物陰に隠れる。千夜が雪美が離れるのを確認すると、再びショットガンを放とうとしたが、バイオレンスは急接近し、ショットガンの重心をソニックアローで切り落とした。
千夜はすぐにバックステップで距離をとる。
「案外簡単に釣れましたね………宇随佐一郎」
千夜の発言に、バイオレンスは明らかに戸惑うしぐさを見せた。
「………っ!」
少ししてからバイオレンスはソニックアローを下げ、そしてゲネシスドライバーにセットされているライムエナジーロックシードを閉じた。変身が解除され、アーマードライダーのマスクの下には宇随がいた。
「よくわかったな…」
「………いろいろ要因はありました。あなたが二回目に現れた時、出演ができなくなった北条加蓮の代わりに高垣楓が出演したこと……妙だと思いました。私が襲われた時も、ほかのアイドルが襲われたスタジオにも、必ず高垣楓とあなたがいた」
「楓は君らと違って多忙なんだ。どこにいたって不思議じゃない。それにそれだけじゃ私を犯人に仕立て上げられないぞ?」
「極め付きは今日のことです。アイドル単身の仕事を了承したこと。雪美さんをアイドルでさせられなくする絶好のチャンスを逃すとは思いませんでした。それに楓さんは今日仕事だというのに、下見なんていつでもできることをあなたは優先した……」
「ふむ……少し安易だったか。だがまぁ、真実を知られたのなら仕方ない」
宇随はライムエナジーロックシードを構える。
「申し訳ないが……消えてもらおう。おそらくこの下見は君がでっち上げたんだろう?しばらくここには誰も来ない……そう簡単には見つからないだろう?」
『ライムエナジー』
「変身」
宇随はアーマードライダーバイオレンスに変身する。
「さぁ、消えてもらおうか!」
千夜に飛びかかろうとしたとき、千夜が持っていたバッグから何かを取り出したのを見た宇随はその場で止まった。
「それは…」
千夜が取り出したのはゲネシスドライバーだった。
「………」
―数日前―
最初の襲撃があった日の夜、呉島貴虎が家に帰ると玄関前に二人の人影が見えた。よく見ると二人は千夜とちとせだった。
「君たちは………確か、月寒竜也の…………話は聞いている。また襲われたそうだな。それで、彼の担当アイドルがいったい何の用事なんだ?」
「大切な魔法使い…プロデューサーがここまでやられて私たちも黙っているわけにはいかないかなーって。とりあえず家に入れてもらえない?」
「………君たちが戦いに巻き込まれることを彼は望んでいないだろう。我々が……」
ちとせたちが望んで戦おうとするのは貴虎は望んでいなかったし竜也も望んでいなかった。
「そうじゃないの。あなたたちに頼りたいんじゃなくて、私たちの手で、犯人を追い詰めたいの」
「気持ちはわかる。だが…」
「あまり断られたくはなんだけどな~。伝え忘れたけど、私の名前はね?黒崎ちとせっていうの後ろの子は私の家のメイドの白雪千夜」
「!」
その名前を伝えられた瞬間、貴虎は表情を強張らせた。
「………わかった。とりあえず話は聞こう」
貴虎はそう言って家の門を開ける。
「ありがとう♪」
二人を屋敷のなかに案内し、応接室まで来た。
「それで…望みはなんだ?」
「ゲネシスドライバーとエナジーロックシード一つずつ。それだけです」
「戦うつもりか…」
「千夜ちゃんがだけどね」
「…さっきも言ったが、我々も、そして彼自身も、君たちが危険に身を投じることを望んでは…」
「ん~まだわからないかなぁ?私たちも本気なんだよね~。あなたのお父さんがだけど、千夜ちゃん利用して私を殺そうとしたこと明らかにされたら、呉島家はもうおしまいだよ?」
「命をかけることになるんだぞ!」
珍しく激昂した貴虎が立ち上がって叫んだ瞬間、千夜がテーブルに飛び乗って貴虎に水面蹴りを放った。しかし貴虎はそれをギリギリで避ける。千夜は蹴りの勢いでテーブルを降り、貴虎に格闘を仕掛けた。貴虎は反撃せず避けることに専念して回避を続けたが、途中で千夜が床に転がしたペンを踏み、バランスを崩す。
千夜はすかさず貴虎を抑え込み、マウントをとる。
「皮肉にも呉島家とユグドラシルのおかげで腕には覚えがあります。ご心配なく」
「そういう問題では………」
「兄さん。渡してあげよう」
そこに呉島光実が現れた。
「光実……」
「今のこの二人を見ていると、昔の僕を思い出すんだ………戦極ドライバーを手に入れた時の僕に。過去の自分に言い訳をするわけじゃないけど………僕も紘汰さんと同じ希望を信じていれば……道も間違えなかったかもしれない。だからこの二人の希望を、僕は信じてみたい」
「…希望………か」
貴虎は起き上がろうとした。千夜もそれに合わせて貴虎の上から退く。
「少し………待っていてくれ」
貴虎はそう伝えて部屋を出て行き、数分後にケースを抱えて戻ってきた。
「これは……私のゲネシスドライバーだ」
そしてケースの中からレモンエナジーロックシードを取り出し、千夜に差し出す。
「これは俺の友が残したロックシードだ。君たちの希望を……俺も信じてみようと思う。だが、我々頼ってほしい。俺でも、光実でも構わない。必ず連絡をくれ」
―現在―
「これは希望です。託された……希望」
そう言って千夜はゲネシスドライバーを装着し、レモンエナジーロックシードを解錠した。
『レモンエナジー』
「変身」
『レモンエナジーアームズ!ファイトパワー!ファイトパワー!ファイファイファイファイファファファファファイッ!』
千夜はアーマードライダーブラックバロネスレモンエナジーアームズに変身した。
「………さぁ、懺悔の準備はできているか」
千夜と宇随はソニックアローを構えて走り出した。
「はぁ!」
「ああぁ!」
宇随の斬撃を千夜は飛び超えて躱し、着地した振り向きざまにソニックアローを振ったが宇随はその攻撃をソニックアローで受け止める。
「おぉぉぉぉ!!!」
宇随は鍔迫り合いの状態のまま千夜を押す。千夜はそのまま後ろに押され、鉄柱に押し付けられる。千夜は宇随のソニックアローを千夜はうまくいなし、宇随の横に転がる。
そして地面に寝たままの体制でソニックアローのエネルギー矢を放った。宇随は体を反らして矢を躱してカウンターで矢を放つ。すでに起き上がっていた千夜は矢をソニックアローで弾き、返しに矢を放った。
そこから一気に矢の打ち合いに転じる。お互いに近くにあった物を利用して相手の矢を躱しながら反撃を続ける。
戦いが拮抗してから最初に動いたのは千夜だった。
「っ!」
『レモンエナジースカッシュ!』
物陰から飛び出すと同時にシーボルコンプレッサーを押し込み、エネルギーをソニックアローの刃に集中させてソニックアローを振りぬいた。
ソニックアローから黄色いエネルギー刃が飛び出し、宇随を襲う。
千夜の一撃を受けた宇随は吹っ飛び、瓦礫の山へ突っ込んだ。
「………」
斬撃と爆発の音が響き続けていた工場内にひと時の静寂が訪れる。
「だぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
しかし静寂もつかの間、瓦礫から宇随が飛び出す。千夜は急いで構えなおす。そしてソニックアローを構えた状態で一気に宇随のところまで飛んだ。そのまま切りかかるが宇随はその攻撃をソニックアローで受け止める。
「おらぁ!」
攻撃を受け止めた状態で千夜を蹴り飛ばした。地面を転がった千夜を起き上がる前に掴んで起き上がらせ、ソニックアローで切りつける。
「あぁ!」
再び地面に倒れた千夜だったがすぐに起き上がりソニックアローを構える。
「なぜこんなことをする………これがお前の求めたものか!?」
斬撃を繰り出しながら千夜は宇随に尋ねる。宇随は斬撃を躱し、反撃を繰り出しながらも答える。
「ああそうだ!お前のような虎の威を借る狐のようなものは真のアイドルではない!真に輝くべきアイドルのためなら俺はこの手を汚す!」
「貴様が不祥事を起こせば輝かせたいと言っているアイドルが輝けなくなるんだぞ!お前のやっていることは矛盾している!そんなことにも気づけないのか!」
「そのための仮面だぁ!!」
一瞬の隙をつかれ、千夜は切り飛ばされる。
「ぐぅ!」
「君たちは知り過ぎた………残念だが竜也のところに帰らせるわけにはいかない………」
宇随は何やら黒いロックシードを取り出し、ソニックアローに装填する。
「さぁ……覚悟してもらおう」
ソニックアローのレバーを引くと黒いエネルギーがソニックアローに充填されていく。
「終わりだ」
レバーを放つと黒いエネルギー矢が飛び出し、それは千夜の前で拡散し、そこらじゅうで爆発を起こした。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!」
全身に爆発の衝撃と拡散したエネルギー矢を受け、千夜は吹っ飛んだ。地面に倒れこんだ千夜の変身は強制解除される。
「がはっ………なんて………力だ…」
「…」
宇随は倒れた千夜をつかみ、立ち上がらせて壁に押し付ける。
「ぐ……」
「残念だよ………君のように若い子にはまだ可能性がある。それを摘み取ってしまうのはね………」
「お前は……」
ソニックアローが振り上げられる。千夜の首を狙ってソニックアローが振り下ろされた瞬間、何かが廃工場の壁を貫き、飛び込んできた。
「!?」
飛び込んできたのダンデライナーに乗った黒影トルーパーだった。黒影トルーパーはダンデライナーから飛び出し、宇随を影松で切り飛ばした。
「ぐぁ!!」
吹っ飛ばされた宇随は地面を転がりながらもカウンターに矢を放った。黒影トルーパーはエネルギー矢を食らうと吹っ飛ばされて変身解除された。
「ぐ…」
黒影トルーパーに変身していたのは病院から抜け出してきた竜也だった。
「お前!」
千夜は急いで竜也のところに駆け寄った。
「無茶をする…」
「俺の担当アイドルが戦っているんだ……俺が戦わないわけにはいかないだろう?」
千夜の肩を借りながら竜也は立ち上がる。
「それに……俺らは共犯者…だろ?」
「……………お前の代わりにいろいろやりました。このツケは高くつきますよ」
竜也の言葉に千夜はあえて何も答えずにいつもの毒舌を放った。
「ん………へいへい」
「どうして………どいつもこいつもぉぉ!!!」
立ち上がった宇随は荒れる。
「宇随さん………もうやめてくれ!あんたそんな人間じゃないだろ!!!」
竜也は病院で目覚め、ここに来るまでの間に事件の犯人等の話はちとせから聞いていた。
「黙れぇ!俺はこの使命を全うしなければならないんだよぉぉぉ!!」
「………どうやら話し合いは不可能みたいだな…」
竜也は戦極ドライバーを、千夜はゲネシスドライバーを装着する。
「行くぜ!千夜!」
「ああ!任せろ!」
「「変身!!」」
続く