バトル描写でおかしい所が有ったらご指摘ください。
バトルスピリッツ。それは世界中で熱狂的に愛されているカードゲームだ。世界的大会も各地で催され、バトルスピリッツの実力は一種のステータスにまでなっている。
ここまで愛されることとなった要因の一つとして、VR技術の発達が挙げられるだろう。一人の研究者が生み出した卓越したVR技術により、カードを使うとそこに描かれた生物や物体がフィールドに現れる。自分が使ったカードが呼び出される。カードバトラーにとってこれほど嬉しいことは無いだろう。この革新的な技術は当時テレビで連日連夜報道され、それと同時にバトルスピリッツが世界中に広まったのだ。
今では街にカードショップがひしめく光景も珍しくない。多くの人々がショップへと集まり、自らのデッキを強化すべくカードを集める。そんな光景が広がっていた。
そしてここ、都有市にある一つのカードショップ。『ミカゲ屋』と店名が記された看板が堂々と掲げられたこの店の中へと私は踏み入った。
今日は日曜日と言うことも有り、店内では多くの人々がバトルしている姿が有る。だが特に目を引くのは、店内の奥でまるで舞台のようにせり上がった場所。その両端にはバトル用のテーブルが設置されている。それは最新式のVRバトルフィールドの装置。デッキを認証し、あの場所に立つことで、ただのカードゲームでは無くVRを活かしたバトルを行うことが出来るという画期的な装置だ。
誰もがあの場所でバトルをするべく、集まっていた。そして設置されているスクリーンでは、実際に今行われているVRバトルの光景が映し出されている。真っ赤なドラゴンが一角獣の頭上から攻撃し、打ち倒す姿。イラストからそのまま出たかのような光景に、思わず私は唾を飲みこんだ。
こんなバトルをしてみたい。それが私の長年の夢なのだ。
「あれ、見たことが無い顔だね。初めて来たのかい?」
そんな私に、背の高い一人の男性が声を掛けて来た。年齢は二十歳と言ったところだろうか。
突然声を掛けられびっくりしたが、私はその問い掛けに頷くと、彼は優し気な笑みを浮かべた。
「そうか。もしかしてカードショップに来るのも初めてかな?」
この質問にも頷く。実際に今の私がカードショップに来たのは初めてだ。すると彼は思案するような表情を見せる。
「ふむ、つまり初心者ってことだね。それならバトスピのルールとか教えた方が良いかな……」
「え、あの……一応ルールは分かります。あと、デッキも持ってます」
「あ、そうなのかい?」
私が鞄からデッキケースを取り出すと、彼は驚いたような表情を浮かべる。多くの人間は初めてデッキを作る際には、近くのカードショップに行き、店員からルールを教えてもらったうえで相談しながらデッキ構築を始める。そのため、初めて来た私がデッキを持っているということにびっくりしたようだ。
「そのデッキは自分で作ったのかい?」
「はい、一応……」
「なら初めてショップに来た記念だ。折角だからVRバトルをしてみないか?」
彼の言葉に私は満面の笑みを隠せなかった。このデッキは私にとって多くの思い出が込められたデッキだ。それを実際にVRバトルで使うことが出来るというのは願っても無いことだった。
しかし装置を使いたいというバトラーは多い。そのため整理券を配っているようだが、今から取りに行ってもどれだけ時間が掛かるだろうか。
「安心してくれ。既に整理券はここに有る!」
そんな心配は杞憂だったようで、彼は懐から一枚の紙を取り出す。それは間違いなく、VRバトル装置の整理券だった。
「本当なら友人と一緒にやる予定だったんだけど、そいつが急に予定が出来て帰っちゃったんだ。だから他にバトルしてくれる人を探していたんだ。どうだい?」
その彼の申し出を拒否する理由は私には無かった。早くこのデッキでバトルしたい。そんな私の思いが背中を押した。
「お願いします!」
それから十数分後。目の前で少年達のバトルが終了する。それと同時に店員が装置の前に立ち、マイクを構えた。
「それでは番号47番の方、どうぞ!」
それは男性が持っていた整理券と同じ番号。遂に自分がバトルする瞬間が来たのだ。
「それじゃあ、よろしく頼むよ」
「はい、お願いします!」
私達が装置の前に立つと同時に、にわかに観客がざわめきだす。
「おい、あれ十倉耕平じゃねえか?」
「そうよね、確か三年前の全国大会に出場してた……」
「最近はプロを目指しているって聞いてたけど、まさかこんなところで会えるなんて!」
どうやらこの人は有名なカードバトラーらしい。そんな人物とは知らずにバトルすることになっていたが、それでも逃げだすなんてもったいないことをする気は無い。
私はデッキをテーブルの上に置き、VR用ゴーグルを装着する。
「それでは皆様、ご唱和を!」
店員の言葉と共に店内に居た全ての人が、バトル開始の宣言をする。
「「「ゲートオープン、界放!!」」」
それと同時に私の視界は光に包まれる。
「……わあ!」
気付くと私の視界の先には、円形の闘技場のような空間が広がっていた。
そして私の服装も変化している。このVRバトルフィールドにおける戦闘服。私のものはグレーのボディスーツに胸や関節など装甲が装着されたシンプルなもの。胸の真ん中には青い光が五つ輝いている。
対して、向かい側に居る耕平さんのコスチュームは真っ赤なボディスーツに、鋭利な形状の銀色の装甲という派手なもの。私のものとは大きく装いが異なる。
このバトルコスチュームにはカスタム機能が有り、それぞれ自分に合ったコスチュームに改造することが出来る。私は初めてのVRバトルと言うことも有り初期設定のままであるが、耕平さんのはかなり凝ってカスタムされているのが見て分かる。
私はテーブルの機能によってオートシャッフルされたデッキから、最初の手札となるカードを4枚引く。思いのほか良い手札で顔が綻ぶ。
「おっと、俺の先行か」
そんなことを考えていると、耕平さんのテーブルが青く光る。これが自身のターンを表しているのだろう。
「それじゃ早速行かせてもらおう。スタートステップ!」
バトルスピリッツにおいて、ターンは七つの段階に分かれる。ターンの開始を告げる『スタートステップ』。カードを使う際に必要なコストであるコアを増やす『コアステップ』。デッキからカードを引く『ドローステップ』。トラッシュに有るコアをリザーブに戻し、疲労状態となったカードを回復する『リフレッシュステップ』。カードを使用して場を整える『メインステップ』。相手に攻撃を仕掛ける『アタックステップ』。そしてターンの終了を宣言する『エンドステップ』だ。
このうち、コアステップとアタックステップは先行1ターン目には行うことは出来ない。
耕平さんはデッキからカードを1枚引き、メインステップへと移った。
「まずは『角タヌ』を召喚!」
| 角タヌ | コスト0 | 赤 | 皇獣 | コア1(S) | Lv1 | BP2000 | シンボル赤1 |
|---|
彼の宣言と共に、フィールドに名前通りの角の生えたタヌキが現れる。
これが『スピリット』。バトルにおいて攻撃や防御を行う基本のカードタイプだ。
「続いて『パイル・ピューマ』召喚!」
| パイル・ピューマ | コスト3 | 赤 | 皇獣 | コア1 | Lv1 | BP3000 | シンボル赤1 |
|---|
さらに姿を現したのは、肩から2門の大砲を突き出す獣。見た目から攻撃的な性質であることが分かる。
「さて、これで俺はターンエンドだ」
2体のスピリットを呼び出して、耕平さんのターンは終了した。
【第2ターン】
| 十倉 耕平 | ライフ5 | 手札3 | デッキ35 | リザーブ0 | トラッシュ2 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 角タヌ | コスト0 | 赤 | 皇獣 | コア1(S) | Lv1 | BP2000 | シンボル赤1 |
| パイル・ピューマ | コスト3 | 赤 | 皇獣 | コア1 | Lv1 | BP3000 | シンボル赤1 |
| 星見 光 | ライフ5 | 手札4 | デッキ36 | リザーブ4(S) | トラッシュ0 |
|---|
そして私のターンが訪れる。このフィールドで初めてのバトル。緊張と喜び。2つの感情が混ざり合いながら私は宣言する。
「スタートステップ!」
そしてコアを増やし、デッキからカードを引く。私の手札にある1枚のカードを手に取る。それはかつて自分が憧れた存在。私が考える、最高のカードバトラーを表したカード。
「メインステップ。
私の背後に現れる、赤髪の青年。それは世界を救うべく、自らの命を捧げた一人のカードバトラー。
「そのカード……一体?」
耕平さんは私が出したカードを見て、怪訝な表情を浮かべる。
それは当然だろう。このカードは本来この世界には存在しないカード。
私には前世というものが有る。大学に通いながら友人に囲まれ充実した生活を送る、取り留めのない前世の私。
そんな私の趣味。それがバトルスピリッツだ。元々、私がこれを知ったのはアニメだった。そのアニメの主役である『馬神 弾』に私は強く惹かれた。純粋にバトルを楽しむ姿。カードを一体となったかのようなスタイル。どこまでも真っすぐで、決して諦めずに自分の信じる道を行くひたむきさ。どれも私には輝いて見えた。
そして私はバトルスピリッツを始め、次第に嵌まっていった。大学生活を送りながら、密かにイラストレーターを目指し、様々なスピリットを描く。そんな日々を続けていた。
だがある日、その生活が壊れた。講義を終えたある日、私が家路に着いていると、不意に頭上から鈍い音が聞こえた。思わず上を向くと、そこには落下してくる巨大な看板が有った。慌てて避けようとするも、突然のことに身体は上手く動かず、そのまま私は看板の下敷きとなった。
そんな最期を迎えたのが前世の私だ。その事実に気付いたのは、ちょうど半年前。それまで私は先天性の病気で病院に入院し続けていた。だがやっとその病気が完治し、それからはリハビリの日々。それが実を結び、こうして外を出歩くことも出来るようになっていた。
そんな私は、前世と今世の違いに気付く。今世ではバトルスピリッツが世界的ゲームとして認められている。それこそ囲碁や将棋、チェスなどと同じレベルだ。
しかし残念なことに、この世界にはバトルスピリッツのアニメが存在しない。正確には、前世で放映されていたアニメが影も形も無かった。それとは別に、バトルスピリッツを題材とした作品はあれど、どれも前世には無かった物でしかない。その影響か、アニメ由来のカードも存在していなかった。
その事実に落胆していた私だが、ある日、家の倉庫で古びた箱を見つける。思わず気になってそれを開けると、中に有ったのは私が前世で所持していたカード達だった。その一番上で輝いていたのは『創界神ダン』のカード。思わず涙が込み上げ抱きしめる。
そしてこのカードで戦ってみたいという思いが溢れ出した。十何年もの間、病院に閉じ込められバトル出来なかったのだ。ある種の禁断症状と言っても過言では無い。
そして私は密かに外出し、近くにあったカードショップへと足を運んだのだった。
そして今、私の願いが叶っている。このバトルフィールドで馬神弾と共に戦う。それがどれだけ素晴らしい事か、この場に居るものは誰も知らないだろう。
この世界に無いカードのため、使えるかどうか不安であったが、問題なかったようで安心する。これなら思う存分、戦うことが出来るだろう。心が躍り、喜びを隠し切れない。
そして私は獰猛な笑みを浮かべた。
【本話の最強カード】
『創界神ダン』
●系統:光導を持つ創界神ネクサス。神託は自身にコアを乗せるだけでなく、手札を補充することも出来るという独特なもの。
●加えて神技は、相手の防御マジックを封殺することも出来る強力なカードだ。