清潔な長い廊下には、アタシと同じようにチラシを持った生徒達が、ある一点へと向かってる。彼女達の目的もアタシと同じと予想できた。
そして突き当りの角を曲がった先に、目的の場所は有った。教室よりも二回りは大きいだろう部屋。その扉にはこう書かれてた。
『新入生歓迎 一緒に全国へ行こう!! Byバトスピ部』
アタシは5歳年上の兄さんの影響を受けバトスピを始めた。
最初は色んなカードを使ってたけど、段々と自分にとって使いやすいカードが何なのかは分かってからは、自分でデッキ構築したり、好きなカードをどうしたら活かせるか研究したりしてた。
そしてアタシは次第に実力を付け、ついには全国中学校バトスピ大会の県予選でベスト4の成績を収めた。
でもアタシはそこで満足はしなかった。既にプロへと足を踏み出した兄さんの後を追うべく、まずは全国大会出場を目指し、県でも有数の実力を持つこの学校へと進学することを決めた。
「『竜騎士長ジャンヴァルジャン』でアタック!!」
そして今行われているのは、ガンスリンガーバトル。いわゆる勝ち抜き戦。
バトルで負ければ席から離れ、勝ったらまた新たなバトラーと連戦する。これで新入生の実力を図るらしい。
既に30分以上の時間は流れてるけど、アタシの敗北数は0。ずっと連勝を続けている。時折、それなりの実力がある相手も居ただけど、それでもアタシの敵じゃない。
そしてまた決着が付く。
「止めよ、『天空の竜騎士スクライヴァー』でアタック!!」
「くっ、ライフで受ける……」
相手は私のスピリットの攻撃をブロックすることも出来ず、最後のライフを奪われ敗北した。
「ねえ、あの子凄くない?」
「もう何連勝かも忘れちゃうくらい勝利してるよね」
「確か、去年の県大会で見たよ。あの時とはデッキが違うみたいだけど……」
周りが騒めくが気にしない。これはある種の当然。アタシの実力が周りよりも突出していることの現れ。これなら、すぐにレギュラーにだってなれるはず。
アタシはそう考え、次のバトルの準備をしようとしていたが、すぐ横でざわめきが聞こえ、思わずそちらへ視線を移した。
「『天蠍機動スコルビウム』のアタック時効果発揮。BP+5000し、さらに回復!」
「っ『ソーダライト・ゴレム』でブロック!」
「BPはこちらが上なので、『ソーダライト・ゴレム』は破壊。回復した『スコルビウム』で再度アタック!」
「……ライフで受けます」
どうやら、ちょうど向こうのバトルの終わったみたいだ。それにしても、横目で見たけど、今勝利したこいつ……どこかで見たことあるような?
「あの……良いですか?」
それがどこなのか思い出せずに唸っていると、アタシの前に新しい挑戦者が現れた。すぐに意識を戻して再びバトルを行う。
だけどそれからさらに30分経過しても、アタシと隣のヤツもどちらも一切負けることなく、椅子に座り続けたのだった。
「そこまで!」
艶やかな黒い髪を持つ部長の声が部室内に響き渡る。ガンスリンガーバトルが終了し、アタシは一息吐いて椅子にもたれ掛かる。
「ありがとうございました」
隣では、あいつが対戦相手とにこやかな笑みを浮かべて握手を交わしていた。
「ほう、無敗が二人も居るのか。これは面白いな」
そんなアタシ達に気付いた部長が視線を向けてくる。どうやらお眼鏡に掛かったようだ。
「確か君は、昨年の県大会でも良い成績を出していたな。これなら即戦力になりそうだ」
「ありがとうございます」
部長の言葉にアタシは内心でガッツポーズした。
この部が実力主義を掲げているのは知っている。これなら今年中にレギュラー入りすることも出来るかもしれない。
だけどレギュラーの枠は多くは無い。もしその少ない枠を争うとしたら……。アタシは無意識の内に隣に視線を動かしていた。部長も同じように、あいつに視線を向ける。
「確か君は……ああ、前にニュースに出ていた星見さんか!」
部長が口にしたその名に、アタシはやっと思い出す。
そうだ、こいつは前にニュースにチラッとだけ顔が出ていた。
それは数か月前の事。とある伝説的なカードデザイナーが密かに残していた未発表のカードが明らかになったという内容だった。
そのデザイナーが作り出したのは、並行世界のカードバトラーをイメージしたカード達。異なる世界で様々な危機を救ってきた勇者達が、自分達にキーカードに導かれ、一つの世界で戦い合うというストーリーの下、デザインされている。
発見されたカードは今、折を見て新たに製造、順次発売されるらしいけど、それを待たずに使うことが出来る人物が居る。そいつこそ、その眠っていたカードのオリジナルを発見し、アタシの隣でバトルしていたこいつだった。
アタシはそのことに気付くと同時に、心の中でモヤモヤしたものが湧きあがるのを感じた。こいつが連勝したのは、その新しいカードのおかげなんじゃないかと。勿論、どんなに強いカードを持っていても、それを使いこなす実力が無ければただの紙屑同然だ。きっとこいつにはそれを扱うだけの力は有るのだろう。だけれど、それでもアタシはこいつより強いはずだという気持ちは消えない。それはちょっとしたプライドみたいなのかもしれない。負けたくないという気持ちが、こいつの実力を疑う気持ちに繋がっているんだろう。
そんなアタシの考えを読み取ったのか、部長はこんな提案をしてきた。
「なあ君達、折角だから二人でバトルしてみないか」
「「はい?」」
突然のことに、アタシもこいつも目が点になる。
「新入生の中でも、二人が飛び抜けた実力を持っている。この際だから、その力を思う存分見せて貰いたいんだ」
「良いですよ!」
「はい、分かりました」
こいつの実力を試すには、実際に戦ってみるのが早い。こいつも乗り気だったようで、アタシのすぐ後に返事をした。
そしてアタシ達は部長に、学園でも3台しかないVRバトル装置へ案内される。
そしてお互いにデッキをテーブルに置き、ゴーグルをセットすると、急にアイツが声を掛けて来た。
「そう言えば、名前を名乗って無かったですね。私は
「あ、うん……よろしく。アタシは
急な自己紹介をされ、なんだか毒気を抜かれてしまった。だけどバトルは本気でやる。そうじゃなかったらやる意味は無いし、こいつにも失礼だろう。
「それでは……」
「いくわよ……」
準備を終えたアタシ達は、同時に口を開いた。
「「ゲートオープン、界放!!」」
掛け声とともに、アタシの視界は一瞬で切り替わる。
先程まで相対していたアイツとの距離は大きく広がり、間には荒野のようなバトルフィールドが出現した。
そしてアタシ達の姿も大きく変化している。アタシのコスチュームは、紫を基調とした鎧とドレスを合わせたようなもの。アタシのデッキに合わせた、自慢のコスチュームだ。
対してアイツのコスチュームは、まるで魔法使いが着るローブみたいだ。濃紺の生地に、淡い白のラインが目立つ。
そんなことを考えていると、アタシのテーブルが青く光った。つまりはアタシの先行だ。
「アタシのターン」
今引いたカードを加えた5枚のカードを確認する。よし、これなら……
「アタシは3コスト支払って、『魔石の竜騎士ザクソン』を召喚」
フィールドに姿を現すのは、竜を模した鎧を纏い巨大な旗を携えた騎士。
| 魔石の竜騎士ザクソン | コスト3 | 紫 | 起幻・魔影 | コア1(S) | Lv1 | BP2000 | シンボル紫1 |
|---|
「召喚時効果発揮。デッキの上からカードを3枚オープンする!」
アタシがそう宣言すると、デッキの上の3枚のカードが浮き上がる。
| オープンされたカード |
|---|
| 五英雄 竜騎士皇アヴァルケイン |
| 竜騎士の |
| 竜騎士ヘクゼット |
「そしてアタシは紫の
コアを使い切り、これ以上やることは無いため、アタシはそのままターンエンドを宣言する。
【第2ターン】
| 朝倉 紫帆 | ライフ5 | 手札6 | デッキ32 | リザーブ0 | トラッシュ3 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 魔石の竜騎士ザクソン | コスト3 | 紫 | 起幻・魔影 | コア1(S) | Lv1 | BP2000 | シンボル紫1 |
| 星見 光 | ライフ5 | 手札4 | デッキ36 | リザーブ4(S) | トラッシュ0 |
|---|
ターンはアイツに移る。
「私は『永遠のキズナ 馬神 弾』を配置!」
アイツの背後に現れたのは、見たことのない赤髪の青年の姿をした創界神ネクサス。どんな効果を持っているか分からない未知のカード。気を引き締めないと……。
「配置時に神託発揮。デッキの上からカードを3枚トラッシュに置く」
宣言と同時にアイツのデッキの上からカードが3枚浮かび上がり、トラッシュへと落ちる。
| トラッシュに置かれたカード |
|---|
| 天秤造神リブラ・ゴレムX |
| 天星12宮 炎星竜サジタリアス・ドラゴン |
| 銀河星剣グランシャリオ |
「対象のカードは3枚。よってコアを3つ乗せる。さらに『永遠のキズナ 馬神 弾』の効果により、トラッシュに置かれた系統:「超星」/「光導」を持つカード1枚を手札に加える。私が加えるのは『樹星獣セフィロ・シープ』」
トラッシュのカードを回収し、さらにアイツは手札から1枚のカードを抜き取る。
「続いて、バーストセット!」
そのままアイツはターンエンドを宣言した。
【第3ターン】
| 朝倉 紫帆 | ライフ5 | 手札6 | デッキ32 | リザーブ0 | トラッシュ3 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 魔石の竜騎士ザクソン | コスト3 | 紫 | 起幻・魔影 | コア1(S) | Lv1 | BP2000 | シンボル紫1 |
| 星見 光 | ライフ5 | 手札4 | デッキ32 | リザーブ1(S) | トラッシュ4 | バーストセット |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 永遠のキズナ 馬神 弾 | コスト4 | 赤 | 創界神・超星・光導 | コア3 | Lv2 | シンボル赤1・神1 |
「アタシのターン!」
引いたカードを確認し、このターンすべきことを考える。相手の場はがら空き。だけど、あの伏せられたバースト……一体どんなカードなのか分からないのが厄介だ。
だけど、動かなきゃどうしようもない。アタシは意を決して、1体のスピリットを召喚する。
「『キャメロット・ナイトX』召喚!」
アタシの場に召喚されたのは、デフォルメされた姿の小さな騎士。
| キャメロット・ナイトX | コスト3 | 紫 | 起幻・魔影 | コア1 | Lv1 | BP1000 | シンボル紫1 |
|---|
「召喚時効果でアタシはデッキからカードを1枚ドロー!」
さあ、どうなる?
アイツの様子を伺ってみた。だけど一向に相手のバーストが発動する気配は無い。ということは、召喚時効果が条件じゃないみたいだ。
少しだけ安心したアタシは、1枚のカードを手に取る。それはさっき、『ザクソン』の効果で手札に加えたカード。
「創界石ネクサス『竜騎士の創界石』配置!」
背後に現れたのは、アタシの身長よりも遥かに大きな紫色の結晶。縁取る装飾がどこか悍ましさを感じさせる。
| 竜騎士の創界石 | コスト3 | 紫 | 創界石・起幻 | コア0 | Lv1 | シンボル無 |
|---|
「アタックステップ……」
相手の場ががら空きの今、アタックすればアイツのライフは確実に削れるはず。だけど不用意なアタックをしては、あのバーストを発動させることになりかねない……でも、ここで待っているなんてアタシの性に合わない!
「『キャメロット・ナイトX』でアタック!」
小さな亡霊の騎士が浮遊しながら突進する。このアタックをどう受けるのか、ごくりと唾を飲みこんだ。
「ライフで受ける!」
だけどアタシの予想に反して、アイツはバーストを発動せず、騎士の槍がアイツのライフを砕く。まさかあのバーストはブラフ? それなら序盤に一気にライフを削る!
「『魔石の竜騎士ザクソン』でアタック!」
身の丈ほどもある旗を振りかぶって竜騎士が走り出す。
だけどその瞬間、アイツが笑みを浮かべた。
「相手のスピリットのアタック時、バースト発動!!」
「えっ!?」
アイツが伏せていたカードが浮かび上がり、同時にフィールドに亀裂が走る。
「星空に
地面から現れたのは、毒々しい色合いをした機械の巨人。
「『スコルビウム』でブロック!」
アタシの竜騎士はその巨人が振り下ろした槍の一撃を受け爆散する。
まさかアタシのフルアタックを誘うためにわざと『キャメロット・ナイト』のアタックはスルーしたの?
「っターンエンド!」
まんまとアイツの目論見に嵌まってしまったことに歯噛みするけど、それでもまだ取り返しは付く。今は冷静にだ。
「私のターン、スタートステップ!」
この失敗を取り返すと心に決めながら、アイツのターンへと移った。
【本話の最強カード】
『天蠍機動スコルビウム』
●相手のスピリット/アルティメットのアタックに反応して発動するバーストスピリット。
●ターンに1回、BPを上昇させたうえで回復するという攻防優れた効果を持っているぞ。