壊れた立花響   作:(:_;)

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題名のない世界線

ギャラルホルンの暴走によって平行世界へと飛ばされた奏者一行。そこは、とある事件を機に人の倫理観や考えが改められた、良い意味でも悪い意味でもいい世界だった。

 

彼女らが目覚めるとそこは渋谷。放課後なのか学生服に身を包む学生が多く見られる、とある一点を除けば至って普通の光景だった。まずはこの世界の二課に話をしようと音楽院へと向かったのだが、近づいていくにつれ誰も言わないが共通の疑問点が浮かび上がっていた。

 

———なぜ、リディアンの制服を着た生徒が一人も見当たらないのか

 

校舎が視界に入りつつある距離まで来たというのに下校途中の生徒と全く会わないのだ。加えて、普段なら聞こえるはずの吹奏楽部の練習の音色すら耳に入らない。正門に守衛も不在で喧騒の無い、門扉の閉ざされたとても静かな音楽院は傍から見てもとても不気味で、彼女らは不安と謎の胸騒ぎに襲われることとなった。

 

校舎内へと侵入した彼女らは二課へと通じるエレベーターを操作するも、固く閉じた扉が開くことはなく、職員室にある緊急用のタブレットも応答しないことも彼女らの不安に拍車をかけていった。

情報を得ようと各フロアを2人1組で探索を始めてわずか1分後、実習棟のフロアを担当した月読調と暁切歌の悲鳴が響き渡った。騒ぎを聞きつけた全員が腰を抜かして座り込んでいる2人のもとへ駆けつけると、そこは天井から床まで血で汚れたグロテスクという言葉も生ぬるく感じるほどの光景。綺麗な廊下と隣接してるとは思えない教室には真紅に染まった譜面台、ピアノ、楽譜などが散りばめられていて、何が起きたかを言わなくともそこで起きた出来事の悲惨さを物語っていた。

 

惨状に耐えきれず胃の中のものを吐き出してしまう彼女たち。お互いを支えつつ教室から離れるも、一度見た光景を早々忘れられることもなく、沈黙の時間がただただ続いていた中で全員が確信していた。

 

———リディアンは休校したのではなく閉鎖されたのだ、と。

 

ふらふらとした足取りで音楽院の敷地を出ると周囲が騒がしくなっていた。警察のサイレンや怒号も聞こえ、何事かとその方向を向くと何十人もの大人が警察と争いながら通行人に署名を求める活動をしていたのだ。その中には今でも響と仲のいいクラスメイトの安藤創世や寺島詩織の両親の姿もあった。

 

すぐさま駆け寄ろうとした響を注意深く観察していたクリスが肩を掴んで止めた。睨むように振り返った響にクリスが小声で指摘する。指を差した先、掲げている旗へ視線を移す。そこには響には受け入れ難いようなメッセージが書かれていた。

 

———殺人鬼【立花響】の死刑を求める!

———私たちの宝物を返せ!

 

カッと熱くなっていた響の顔がみるみる青ざめていく。この世界では響はリディアンを崩壊させた殺人犯になっていたのだから無理もない。今このまま彼ら彼女らの前に飛び出していけば事態はややこしくなるのが目に見えている。その場にへたり込んだ響を連れて一行はその場から離れていった。

 

喧騒の声が聞こえなくなってしばらく。気が付けば巣鴨へと来ていた一行。普段であれば観光気分で探索するだろうが、そのような余裕がある訳もない。情報整理とメンタルケアの為に近場の喫茶店へと足を運ぶのだった。

 

小日向未来が付きっきりで立花響と話す隣のテーブルには喫茶店にあった新聞や週刊誌のアーカイブが所狭しと並べられ、残る全員が事態の把握に務めていた。あれでもないこれでもないと芸能、政治、ゴシップなど様々な記事を取捨選択していく中、彼女達はついに目的の記事を捉えた。

 

——————————————————

 

【リディアン音楽院にて大量殺人事件 指名手配された少女の真相に迫る】

 

———数年前の9月某日、日本中を震撼させた『リディアン音楽院殺人事件』を覚えているだろうか。死者を40名も出した平成最大の未成年による殺人事件は、かの有名なアーティスト『ツヴァイウイング』も在籍しているリディアン音楽院の高等部の生徒によって引き起こされた。一部ではその校則の厳しさを前時代的と揶揄する者がいるほど厳格なこの学園でこのような事件が起こるとは思えなかっただろう。本記事では取材陣が総力を上げて事件のあらましを調査している。

 

———事の発端は殺人事件から更に数ヶ月前にまで遡る。ツヴァイウイングのライブで起こった大量のノイズによる大災害は現代人は誰もが覚えているだろう。今でこそライブの生還者を迫害する者は減少してはいるが、当時は悲惨なものだった。生還者であることを知られれば街を歩けなくなるほどの殺伐とした世間は中世ヨーロッパの魔女狩りを彷彿とさせるほどだったと言える。事件の重要参考人となった彼女もその生還者の一人だった。

 

———しかし彼女は被害者でもあったのだ。ライブ当日から彼女は都内にある某病院にて入院生活を余儀なくされていたことがリサーチの結果明らかとなった。具体的な理由は定かではないが、救急車による搬送であったことは判明しているため緊急性の高い重傷を負ったための入院であったことが考えられる。

 

———退院した彼女を待ち構えていたのは大災害によって家族や知人を失った音楽院の生徒、教員達だった。彼らは彼女が戻ってきたことを快く思わなかったことが推測された。結果としてあっという間に集団いじめが始まったとされている。中には一部の教員もこのいじめに参加していたということが関係者への取材により判明した。

 

———日々のストレスに耐えきれなくなったのであろう彼女はついに凶行に及んだ。この後は世間でも認知されているであろう情報となる為割愛する。

 

———また、彼女にも親友と呼べるであろう人物が学院内にいたという情報を入手したものの、ライブ後に転校しているという情報があり、事実確認が取れていないため真偽は不明である。

 

 

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あまりの内容に全員が絶句した。もしもこれらが事実だったとしたら、とてつもない世界であることは火を見るよりも明らか。このまま対策もしないで先程のように世間の目に響の姿を晒せばどうなるかは考えたくもなく、早急に手を打たなければならないが、それすらも思い浮かばないほど心は揺さぶられていた。

 

 

 

長い沈黙を破ったのはノイズ発生の警報サイレン。急いで店を出ようとする彼女たちとは対照的にどこにも行こうとしない店主に翼は避難を呼びかけるも、店主は必要がないとばかりに首を横に振って窓の外へと指を差した。全員がその指につられその先を見ると、誰もが逃げることなく立ち止まって黙祷を捧げていたのだ。驚きの余りに振り返ると店主も同じように目を閉じ、祈るように両手を合わせていた。

時間にして僅か一分、サイレンが鳴り止むと外の人々はまた、それぞれ歩き出していった。戸惑いを隠せない彼女達に店主はその詳細を話しだした。この世界にまつわるとある話を。

 

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【店主の一人語り】

 

「どうやら何も知らないようだね。どれ、少し話してあげよう…そのペンダント、シンフォギアだろう?…おっと警戒しなくてもいい、世界中の人がそれについて知っているから。理由?まぁ端的にいえば各国政府がその存在を公表したからさ。『シンフォギアとは何か』『ノイズとは何だったのか』をね」

 

「では何故公表したのか。それは『シンフォギアシステム自体が使えなくなった』からだ。歌のエネルギーをどうにかして戦えるように変換しているとか言っていたが、この世界では【唄が歌えない】呪いがかけられたと言われている。荒唐無稽かも知れないが、疑うなら実際に歌ってみるといい………ほら、声が出ないだろう?」

 

「この呪いがいつ掛けられたかは原因共々全くの不明。ただ、この呪いと時をほぼ同じくしてノイズが現れなくなり、さっき君たちも読んでいた例のあの事件の女の子の死体が見つかった…誰も口には出さないけれど、全て繋がっているんじゃないかと思われているのさ。だからみんな鎮魂の意を込めてシステムチェックも兼ねて不定期に鳴る警告音を合図に黙祷しているんだよ」

 

——————————————————

 

突如告げられたこの世界の現実、それはどの世界線よりも闇が深く、彼女達が放つ光ですら消しきれない程どす黒いものだった。誰もが口を開かなくなり、無言の時間が続く。それぞれで店主の話を飲み込もうとしているのか、それとも見たくない現実から背けているのか。




気が向いたら続きます
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