ワールズエンド・ヌルテカノヴァ〜ナマコブシとゆく終末世界〜   作:ナマコ教徒N771

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第1章 ぼくらのなかみ
1-1「ナマッキュ爆誕」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

【ミミッキュ】ばけのかわポケモン ゴースト・フェアリータイプ

 恐ろしい姿をボロ布で隠し人や他のポケモンに近づく寂しがりや。

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 同族(ミミッキュ)は嫌いだ。率直に言ってセンスが悪い。何が悲しくて、あんな媚び媚び電気ネズミの物真似なんかしなきゃならないんだ。いくら取り繕ったって、もう、見てくれる人はいないというのに……。

 それに、奴らは野蛮だ。ちょっかいをかけてくるラッタどもを返り討ちにする程度なら正当防衛だが、ビーチで休んでいるシロデスナたちを襲って場所を奪うのはやり過ぎだ。

 例の"大爆発"のあとでも、太陽は変わらず空にある。多少足場がグチャグチャであることに目を瞑れば、日光浴なんてどこでも出来るのだ。なのに略奪に走るのは、奴らが少しでも快適な場所で暮らしたい欲張り野郎であると同時に、住処だった瓦礫の山を掃除しようともしない怠け者であることの証明だ。

 

 それに比べて、ああ……"彼"のなんと高潔なことか。

 あるポケモンは彼のことを「掃除屋」と呼ぶ。

 また別のポケモンは彼のことを「ビーチのヌシ」という。

 そのまた別の某クソ陰湿皮被りポケモンたちは彼のことを「反撃してこないデクの棒」などと蔑んだりもするが、どいつもこいつも何も分かっちゃいない。

 彼はただ、元のまま、あるがままの姿でいようとしているだけなのだ。黒焦げ穴ボコだらけになったビーチを可能な限り元の姿に戻し、また「日常」を始めようとしている。暑い日も寒い日もゴーストポケモンに虐められても、全く動じず黙々と。

 何が起きても、誰が死んでも、そんなこと関係なく空は晴れるし風だって吹く。泰然とビーチに佇む彼の姿は、そんな「世界」の象徴であるようにすら思えた。

 彼はきっと、伝承に語られる英雄や聖人の類と同じ魂を持って生まれたポケモンに違いない。あるいは、この絶望的な世界を救うためにやって来た勇者かもしれない。そう考えると、彼の体表を覆うヌルヌルした粘液も、テカテカと輝いて見えてくる。

 

 

 ……さて、以上のことは、僕の頭の中で考えたことだ。そう、実のところ、僕は今まで一度も、尊敬する彼と直接顔を合わせたことがない。彼が他のポケモンに虐められていても、せいぜい、こっそりシャドーボールを投げ込んで助けるくらいが関の山。面と向かっては挨拶すらできない。

 なんていうか……その……勇気が出ないのだ。同族とすらマトモに喋ったことなんてないのに、いきなり彼とだなんて、クソ陰湿ポケモンにはハードルが高すぎる。

 だから、準備を整えることにした。まず、昔から嫌々被っていた電気ネズミの皮は捨てる。それから、新しい皮を作る。幸い、手頃な廃墟から材料と裁縫道具をかっぱらうことができた。

 一枚布に目出し穴を開け、目と目の間に口を描く。そして背中の部分に、大小さまざまな突起物を六つ縫い付ければ――完成する。完全で、完璧な、『ばけのかわ:ナマコブシversion』が!!

 うん。我ながら素晴らしい出来だ。あの、特徴的な一頭身ボディをよく再現できている。お尻のほうがちょっと破けて"本体"が漏れ出しているけれど……まぁ、"なかみ"が出ることぐらいナマコブシにとっては日常茶飯事。どうとでも誤魔化せるだろう。

 気合いを入れるために「つるぎのまい」を三回踊って……いざ、彼の待つビーチへ!!

 

 

 で、数時間後。時は夕暮れ。水平線の向こうに沈みゆく夕陽が美しい。なんでそんな時間になったかって? 例のごとく直前でビビっちゃったからだよああもう我ながら情けない。でも、今度こそ、日が沈みきる前に声をかけてみせるぞ。

 憎らしいほど赤い空の下、彼はいつもの定位置に鎮座していた。一歩近づくごとに、大きくなっていく彼の真ん丸な背中。

 すぐ隣に立って見上げた彼は、思っていた以上に……異常に大きかった。通常のナマコブシの平均サイズを遥かに超え、シロデスナよりも遥かに背が高い。一体何をしたらここまで育つんだろう。"大爆発"の影響で変異した木の実をたらふく食べてもこうはならない。やはり彼には特別な才能があるのだろうか?

 

「こっ……こけこ……こんにちは!!」

 

 余計なことを考えていたせいか、盛大に噛み、声量も無駄に大きくなってしまった。

 

「うん……? こんにちは……?」

 

 彼は不思議そうに身をよじらせながら挨拶を返した。ああ、そうか、身体が大きいから、僕の姿が死角に入って見えづらいんだ。

 

「こんにちは!」

 

 僕は改めて彼の正面に立ち、目をまっすぐ見つめて挨拶した。すると彼は僕を見つけて、丸い目をさらに丸くして、

 

「えっ、ナマコブシ? ぼく以外にも生き残りがいたんだ……」

 

と言った。同族と認識してもらえて嬉しくなると同時に、少し悲しくもなった。

 "大爆発"以降、環境は激変した。人間の兵器に込められていた正体不明の毒がそこらじゅうに撒き散らされ、大地も海も汚染された。

 その影響を真っ先に受けたのは、自然と一番親密な関係にあったくさタイプやじめんタイプ、そして、みずタイプのポケモンたち。彼の同族であるナマコブシもまた、汚染された海に適応できず、ほとんどが姿を消してしまったのだろう。

 暗闇を友達とするゴーストタイプにとってすら、孤独は辛く苦しいものだ。同朋を失った彼の悲しみは察するに余りある。

 

「ぼ、僕、ミミ――じゃなくて、()()ッキュです! よろしくね!」

「ぼくはナマ太。こちらこそよろしくね。せっかく来てもらって悪いけど、ぼく、『みずびたし』は使えないんだ。ずいぶん前に使い方を忘れちゃって」

「飲み水を()()()に来たんじゃないよ! 僕はあなたと、お、お話が……!」

 

 僕の本当の目的を理解してもらうまでに、それなりの時間がかかった。そうか、ゴーストタイプでもなければ、ポケモンや人がたくさん死んだ後で楽しくおしゃべりする習慣なんて無いよね……。

 みんな、日々を生きるための水や食料をかき集めるのに必死だ。僕みたいな穏便で社交的なポケモンのほうが珍しい。

 

「僕、あなたを尊敬してるんです!」

「尊敬? よく分からないけど、ぼく、そんな偉いポケモンじゃないよ」

「ビーチを管理しているじゃありませんか」

「管理なんてとんでもない! ぼくは勝手に掃除をしてるだけだよ」

 

 なんてこった、ナマ太さんは「謙遜」を知っている! どこかのクソ陰湿以下略とは大違いだ。

 

「その掃除のおかげで、みんな気持ちよく太陽を浴びられるんです」

「そうかなぁ? たまに、スナバァのスコップをごみと間違えて怒られるよ。迷惑じゃないかな」

「それこそ、とんでもない! あなたは史上最高のポケモンです、なぜなら――」

 

 僕はとにかくナマ太さんを褒めちぎった。必要以上に自分を低く見る彼に自信を持ってもらいたいという思いもあったが、ほとんど本心なので言葉選びに苦労はなかった。

 ナマ太さんは「いや……」「そんな……」と否定するけれど、やはり褒められて悪い気はしないようで、徐々に心を開いてくれた。汚染された海での食糧事情とか、日々の砂浜生活でのちょっとした困りごととか、いろいろ話をしてくれる。

 

「海に入れば、意外と食べ物には困らないよ。変な味のカラフルな泥が底にたくさん溜まってて、ちょっと食べたらお腹いっぱいになるんだ」

「なるほど。だから身体が大きいんですね」

「でも、そのせいで最近思うように歩けなくなって……海とビーチを行き来するだけで疲れちゃう」

「だったら、お任せください! 僕はパワーには自信があります。あなたを海まで運んで差し上げましょう!」

 

 僕は満を持して、ばけのかわの口部分にあけた「大」の字型の切れ込みから、ナマコブシが"なかみ"を出すのと同じように、「シャドークロー」で作った五本指の手――名付けて"なかみクロー"をお披露目した!

 

「え!? ナマッキュさん大丈夫!? "なかみ"が真っ黒だよ!?」

「あっ、えっと、その、お昼にブリーの実を食べすぎちゃって……!」

「あー、アレ食べると口の中まっくろになるもんねぇ」

 

 なかみクローの完成度の高さもあって、どうにか信じてもらえた。練習しておいて良かったよ。

 

「ともかく、これであなたを運べます!」

 

 僕はなかみクローをナマ太さんの下に差し入れ、そのまま巨体を持ち上げ……持ち……上げ……

 

「フンッ! んぬ゛っ! うごごごご!」

「……無理しなくていいよ?」

「なんのこれしき! ウーッ! ハアァーーーーーーッ!!!」

 

 持ち上げた! 持ち上げたぞ! どうだ見たかコノヤロー! 「つるぎのまい」三積み舐めんなよッォラー!

 

「うわー! すごいすごい! 本当に持ち上げちゃった! すごいよナマッキュさん!」

「ハッハァー! これぐらい余裕のヨーギラスですよぉー!」

 

 嘘だ。今、ナマ太さんを天に掲げて勝ち誇っているこの瞬間も、シャドークローの影筋肉繊維とでもいうべきものがギリギリと悲鳴を上げている。しかし、ナマ太さんに気を遣わせるわけにはいかない! あくまで余裕の表情(ばけのかわ)を貫いてみせよう。

 

「じゃ、じゃあさ、もっとワガママ言っていい?」

「いいですとも! どんとコイキング!」

「昔、ビーチにいたアルバイトの人みたいに、ぼくを投げてもらえる!?」

「キ゜ュッ」

 

 な……投げる……?

 

「アレさ、ぼく、ちょっと好きだったんだ。なかみヒュンッてするのが気持ちよくて。どうかな。流石に無理かな……?」

「でっ………………………………きます! できますとも! やってみせましょう! ウオオオオオオ!!」

 

 世界よ、とくと御覧(ごろう)じろ。これが、僕の、ゼンリョクだ!!

 

「ひっさつのナマコブシューーーート!!」

 

 大きく振りかぶって、デタラメな技名を叫び、投げるッ!!

 

「おぉーーーーーー!! 高ぁーーーーーい!!」

 

 幸い、投擲は成功した。ナマ太さんは見事な放物線を描き、沖のほうへ飛んでいく。

 

「ナマッキュさん、ありが――」

 

……が、思ったより飛距離が伸びなかったせいで、ナマ太さんがお礼を言い終わる前に、ドボーンと着水してしまった。ちょうど同じくらいに、沈みかけだった太陽も、とっぷりと海に浸かってしまった。

 再び静かになったビーチでひとり、僕のなかみクローだけがプルプルと震えている。

 いや、まぁ、結果オーライだ。成り行きで投げてしまったばっかりに次会う約束もできなかったけど、ナマ太さんなら明日も同じ場所にやってくるだろう。今日一日でずいぶん仲良くなれたし、明日はもっと楽しくお話ができるはずだ。僕はただ、明日に備えてゆっくり寝て……もう一度ナマコブシ投げを頼まれてもいいように、影筋肉を回復させればいいのだ。

 それにしても、と、寝ぐらへの道すがらに思う。ナマコブシと仲良くなったミミッキュなんて、野生では世界初じゃないだろうか。"大爆発"前は文字通り住む場所が違いすぎて、出会うこともなかったはずだ。まだ本当の姿を見せることはできないけれど、いつか、種族を超えた友好関係を築いていく、架け橋のような存在になれるかもしれない――

 

「みゅふふ……」

 

――ああ、明日が楽しみだな。

 

 

 翌朝。もはや躊躇う理由はない。弾むような足取りで朝一番にビーチへ向かった僕は――胸の高鳴りに反して、クソみたいな現実を目撃することになる。

 

「なんだこのデクの棒! いつもよりヌメヌメしてやがるぞ! 水分たっぷりだ!」

「おら! 『みずびたし』出せ!」

 

 クソ陰湿ポケモン(ミミッキュ)が寄ってたかってナマ太さんを小突いている。

 それを見た僕は反射的に「やめなさい!」と言いたくなるのを抑えて、穏便かつ社交的に

 

「野郎!! ぶっ殺してやる!!」

 

と叫んだ。

 ……あれ? 心と台詞が逆だったかな?






 ちなみに舞台は「アローラに近いどこかの地方」を想定していますが、特にどことは定めていません。第七世代以外の要素が入ってくることもあるのでご了承ください。
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