ワールズエンド・ヌルテカノヴァ〜ナマコブシとゆく終末世界〜   作:ナマコ教徒N771

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1-2「クソみたいな現実」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

【アブリボン】ツリアブポケモン むし・フェアリータイプ

 花粉を丸め団子を作る。食用から戦闘用までたくさんの種類があるよ。

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 正直なところ、僕は同族(ミミッキュ)のなかでもバトルが得意な方……では、ない。複数のミミッキュ相手に大立ち回りをやってのける自信なんて無かった。それでも、一度身体が動いてしまえば、『ばけのかわ:ナマコブシversion』のお陰もあり

 

「うわキモッ!」

「なんだコイツ妙に黒いぞ!」

「奇形ナマコだ!」

伝染(うつ)る前に逃げろ!」

 

などと言って、相手のほうから勝手に撤収してくれた。なんだかものすごく失礼なことを言われた気がするが、そんなことはどうでもいい。

 

「お怪我はありませんか? な……ナマ太さん」

 

 安否を確認するとともに、さりげなく……本当にさりげなく、初めて、名前で呼んでみた。い、嫌がられないよね?

 

「ありがとう。大丈夫だよ」

 

 二重の意味で安心した。と同時に、言葉通りまったく何事も起こらなかったような気楽な声色に驚きもする。

 

「ほ、本当に? ウッドハンマーらしき攻撃も受けていたように見えますが……」

「あんなの攻撃されたうちに入らないよ」

「か、カッコイイ……!!」

 

 実際に傷ひとつない普段通りのテカテカボディを見れば、その言葉が強がりなどではないとすぐに分かった。一切の誇張なく、彼にとってあの程度の()()()()()はダメージにもならないのだ。

 

「だから、反撃しなかったんですね!」

「あー、それはちょっと違うかな」

「というと……?」

「しないんじゃなくて、()()()()んだ」

 

 できないとは……? とこちらが聞く前に、ナマ太さんは答えてくれた。

 

「いつからか覚えてないんだけど……ぼく、"なかみ"が出せなくなったんだ」

「えっ、それは……」

 

 一大事だ。ナマコブシは元々防御に特化したポケモンではあるが、たとえ攻撃技を一切覚えていないとしても、種族の特性として、"なかみ"を出す機能そのものが失われることは無いはずだ。エスパータイプが「サイコキネシス」を覚えていなくても物を動かせるのと同じように、ナマコブシは「カウンター」を覚えていなくても相手を押しのける程度の防御行動がとれる、はず、なんだけど……。

 

「食事のときはどうしているんですか?」

「こう……頑張って身体を曲げて……口で直接……」

「うわあ! 再現しなくても大丈夫です!!」

 

 一瞬だけど、見てるこっちが心配になるほどの角度で身体が曲がっていた。そうか、ナマ太さんの口は、身体の大きさに比例して高い位置についている。海底の泥を舐め取るにも、いちいちダイナミックな柔軟運動を要求されるわけだ……。

 

「大変ですね……」

「慣れればそうでもないよ?」

「あんな角度で曲がっていいのは、ミミッキュの『ばけのかわ』だけです!」

「あはは、おもしろい例えだね!」

 

 笑わせようと思って言ったんじゃないんだけどなぁ。

 

「でも、"なかみ"が出ないと不便でしょ。何か方法はないかな……」

「死んじゃう一歩手前まで殴ってくれたら流石に『とびだすなかみ』は発動すると思うけど、やってみる?」

「やるわけねーだろ馬鹿か! あ、いえ、ごめんなさい馬鹿ではないです」

 

 つい、汚い言葉が出てしまった。

 

「謝らなくていいよ! ぼくはほんとに馬鹿だし、それに、その口調、なんだか落ち着くなぁ」

「落ち着く……? あんな汚い口調がですか」

「うん。昔の友達を思い出す」

 

 ナマ太さんの表情は基本的に動かない。そもそもナマコブシという種族が、顔に感情が出にくいタイプのポケモンなのかもしれない。どこか遠くを見ているようだけれど、どこに焦点が合っているのかは分からない。

 

「その方もナマコブシですか?」

「いや、アブリボン。知ってる?」

「えーと、確か、むし・フェアリータイプの」

「え、フェアリー入ってたっけ? あっ! そういえばあのとき、『りゅうせいぐん』の流れ弾を平気で浴びてたなぁ。今頃気付くなんて、はは、知らないこと、沢山あったんだなぁ……」

 

 僕の知らない友達を想って、ナマ太さんはカラカラと笑っている。僕は、ヤキモチを焼くより先に……()()()()()、と思ってしまった。いや、知らなかっただけで、彼はもともと、こういう()()()笑い方をする一面があったのかな。

 

「あの子はぼくを盾にするかわりに、『かふんだんご』を分けてくれたんだ。森の味だった。でも、森なんて行ったこともないから、どこの森なのか、なんの花から取った花粉なのか、ずっと知らないまんま。そのまんま……うん。そのまんまだよ」

 

 僕は質問を返さず、黙って聞いた。ナマ太さんが避けた結末を、僕が掘り返す必要はない。

 波の音が、ざざぁ、ざざぁ、と繰り返す。波は、話題を提供しなくても怒らない。

 

「たまに……」

「はい」

「さっきみたいな口調で喋ってよ。そっちの方が、ナマッキュさんも喋りやすいでしょ?」

「…………。」

「慣れたら……で、いいから」

「…………うん」

 

 

 それからの毎日は、同じことの繰り返しだ。ナマ太さんの変わらない日常に、僕という新しいパーツが組み込まれた。

 朝焼けとともにビーチへ来て、漂着物や飛んできたごみを整理する。シロデスナが残していった砂山があれば均等にならし、夜のゴーストポケモン・パーティーの跡をきれいに消す。もろもろの作業が終われば、ふたりで雑談したり、お馬鹿な遊びをやったりする。人間のいた頃に流行っていた歌をデュエットするとか、Zワザのポーズを真似するとか、いろいろ。日が暮れるまで遊んだら、最後は沈みゆく夕陽に向かって、僕がナマ太さんを死ぬ気で投げる……。

 最後だけは本当に、本当に抜本的な解決策を考えなければならないと思ってはいるけれど、なかなか良い案が思いつかない。このままではシャドークローがどんどんムキムキになってしまう、というか、すでにその兆候がある。あまりに筋肉がつきすぎるとなかみクローの偽装にも支障が出るので、早急になんとかしたいところだ。

 そんな些細な悩み事があるくらいで、おおむね平和で幸せな日々だった。

 

 だったのだ。

 

 

 "大爆発"の前だって、別に僕は不幸ではなかった。住処は薄暗いけど寝心地は悪く無いし、同族とも馴染めないなりに調子を合わせてはいた。"大爆発"で生活環境を土台からひっくり返されて、相応の苦労もした。

 それでも僕は結果的に"大爆発"を恨んじゃいない、だって"大爆発"は少なくとも、僕の生活だけを狙い撃ちにして壊しにきたわけじゃないから。僕は穏やかで優しいから。

 

――だけど、"これ"は流石に許せない。

 

「やい奇形ナマコ!」

「こないだはよくもやってくれたな!」

「今度という今度は許さねぇ!」

「デクの棒もろともぶっ潰してやる!」

 

 いつものようにビーチで遊んでいた僕たちを、ミミッキュたちが取り囲んだ。ミミッキュだけじゃない。シロデスナもいる。総数にして二十はくだらない。いつか僕が追い払った数とは比べ物にもならない、圧倒的な戦力差だ。

 

「悪いな、君たちに恨みはないんだが……」

「ミミッキュには逆らえない。許しておくれよ」

 

 シロデスナどもが何やら言い訳を並べているけれど、僕の頭はほのおタイプみたいに熱くなってしまって、内容を把握する余裕がない。お前らだって、ナマ太さんが整備したビーチで気持ちよく過ごしていたくせに……!!

 

「待ってよ。ナマッキュさんはぼくを心配して助けに来てくれただけなんだ。何も悪いことはしてないよ」

 

 僕がわなわなと震えている間に、先にナマ太さんが発言した。

 

「ハッ、よく言うぜ。お前だって被害者なのに」

「被害者? どういうこと?」

「さすがデクの棒、理解まで遅いな。いいぜ、冥土の土産に教えてやる」

 

 そのミミッキュは言った。

 

「お前の隣にいる奇形ナマコ。そいつはナマコブシじゃない。俺たちと同じ――ミミッキュなんだよ!」

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