ワールズエンド・ヌルテカノヴァ〜ナマコブシとゆく終末世界〜   作:ナマコ教徒N771

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1-3「ぼくらのなかみ」

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

《とびだすなかみ》

 ナマコブシの特性のひとつ。

 相手に倒されたときHPの残りのぶんだけ相手にダメージを与える。

 

 

 

 

 

 

 

――それは散り際の一撃。

 

  生にしがみつく最後の抵抗。

 

  そうでなければ、あるいは……

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

――そいつはナマコブシじゃない。

 

 そう言われて、ナマ太は意味が分からなかった。

 内容が理解できなかったのではない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()が分からなかったのだ。

 

「……? えっと」

「なんだてめぇ、耳まで遠いのか!? 仕方ねぇ、もう一度だけ言ってやる。そいつは」

「ナマコブシじゃないと、何が問題なの?」

「は?」

 

 ミミッキュは一瞬固まった。そして丁寧に言い直す。

 

「いや……分かんねーのか? 騙されたんだぞお前は。そいつはナマコブシだって嘘をついたんだ」

「あれ、そうだっけ? ナマッキュさんが自分からナマコブシって言った? ぼくはナマッキュさんと喋ったことはなるべく覚えておくようにしてるけど、そんな記憶ないなぁ。馬鹿だから忘れちゃったのかな……ごめんねナマッキュさん」

「えっ、あ、いや」

 

 これには被疑者(ナマッキュ)も困惑した。告発を受けた時点で、ナマ太の怒りに触れることを覚悟していたからだ。

 蓋を開けてみれば、あべこべに謝られている始末。どうしてこうなった? という思いで、珍しくナマッキュと同族(ミミッキュ)の意見が一致した瞬間である。

 

「ミミッキュって確かフェアリータイプだっけ。なるほど、だから優しかったんだね」

「だ、騙されるな! そいつは無害なフェアリーの皮を被ってるけど、中身は恐ろしいゴーストタイプだ。ヤバくてワルくてすっごくヤバいやつだぞ!」

 

 世紀の大スクープを()()にされたミミッキュは、目の前にいるのがさっきまでデクの棒と呼び蔑んでいた相手であることも忘れ、必死で警告する。

 

「うーん。ぼくが言うのもアレだけど、"なかみ"なんてそんなに気にしなくても生きていけるもんだよ」

「お前……それでいいのか?」

「ナマコブシじゃなくたって、この子は()()()()()だ。ぼくの大切な友達だ。悪いことなんて、何もない!」

「クソッ。もういい!」

 

 しびれを切らしたミミッキュたちは、おのおの「ウッドハンマー」や「シャドークロー」を構えて戦闘態勢に入った。

 

「そこまで偽ナマコのことが大好きなら、予定通り二人仲良くボッコボコのぽっかぼかにしてやる!」

「やめてよ。殴るならぼくだけにして」

「駄目です、ナマ太さん!」

 

 ナマッキュはナマ太の前に立ち塞がり、同族たちを睨む。

 

「自分の嘘と……馬鹿な同族の不始末ぐらい、僕がケジメをつけます」

「おい、誰が馬鹿だ!」

「僕とお前らだよ」

 

 ナマッキュは"なかみクロー"……ではなく、通常の「シャドークロー」を構えた。乱暴で、先が鋭くて……"なかみ"とは似ても似つかぬ殺意の塊。

 

「ミミッキュは嫌いだ。率直に言ってセンスが悪い。外ヅラは全力で媚びを売るくせに、中身がまるで一致してない……」

 

 それは罵倒であり、自嘲。とどのつまり「ナマッキュ」も、大嫌いなミミッキュの別側面でしかない――ナマッキュ自身も薄々気付いていたこと。

 

「嫌いだ、嫌いだ、嫌いだ! だから全部ぶっ潰してやるよ、僕もろとも。皮かぶって棒振り回すしか能のない()()()()どもを――みんなまとめてぶっ潰してやる!!」

「おもしれぇ、やってみろよ!!」

 

 ナマッキュが駆け出すと同時に、戦いが始まった。

 

 

 先手をとったのはナマッキュだ。「シャドークロー」を最大限に延長し、届く範囲をまとめて薙ぎ払う。本来「シャドークロー」は複数への攻撃に適さないが、日々の砂ならし作業で射程が伸びていたのが功を奏した。初撃だけで五匹のミミッキュの首が折れた。

 しかし"ばけのかわ"の首を折ったところでミミッキュ本体には何のダメージもない。敵もそれは織り込み済みで、あえて首を晒して「シャドークロー」を受け流したのだ。力なく垂れ下がった首を揺らしながら、ミミッキュ軍団は構わず突っ込んでくる。

 殺到してくる敵集団に対して、ナマッキュが選択したのは上への回避。「シャドークロー」を地面に叩きつけた勢いで高くジャンプし、相手の頭上を山なりに越えていく。

 空中に躍り出たナマッキュのすぐ下を、四方八方から撃ち込まれた「シャドーボール」が通り過ぎていく。ナマッキュは肝を冷やしながら身体をひねり、申し訳程度の回避行動をとる。幸い、狙いの甘かった「シャドーボール」は全てナマッキュを逸れていった。

 同族たちと違い、ナマッキュの皮は一頭身(ナマコブシ)であるがゆえ首にあたる部位が存在しない。だから攻撃を受け流すこともできない。背中に六つの突起物があるけれど、サイズと配置の関係でアテにはならないだろう。一撃も受けない完璧な立ち回りが必要だ。つまり……勝算は限りなく薄い。

 ナマッキュは着地の寸前、真下へ「シャドーボール」を撃ち、砂を巻き上げて目くらましをしようと試みた――が、失敗。着地点のそばに待ち構えていたシロデスナが、「すなじごく」や「すなあつめ」といった砂を操作する技で、瞬く間に砂のカーテンを取り去ってしまった。

 次なる手は――悲しきかな、バトル慣れしていないナマッキュには咄嗟に思いつかない。立ち尽くすナマッキュのもとに、前後左右、さらには上からも、大勢の敵が飛びかかってくる。今度こそ逃げ場はない。

 

「あああああああ!!」

 

 ナマッキュは叫び、やたらめったらに技を放った。「シャドークロー」を振り回し、「シャドーボール」を連射し、「ウッドハンマー」も乱打した。何匹かのミミッキュに命中した手応えはあったが、どいつに当たったのか確認する余裕はなかった。

 やがて、当てた数の何倍もの攻撃が、雨あられと降り注いできた。

 

「きゅぐっ! がっ! 痛ッあ゛ッぶご」

 

 ナマッキュにとって、同じゴーストタイプの攻撃は痛かった。魂をねじ切られ、存在ごと押し潰されるような激痛が全身を襲う。命が、意識が、秒読みですり減っていくのが自覚できる。

 

「ナマッキュさん!!」

 

 目の前でナマッキュが傷ついていくのが、ナマ太には耐えられなかった。昔、いらないと思って「いたみわけ」の使い方を忘却の彼方へ放り捨ててしまったことを強く後悔した。アレさえ使えたら、ナマッキュのダメージを、代わりに引き受けることができたかもしれないのに……。

 戦闘手段を持たないナマ太は、ナマッキュが袋叩きにされる様を、ただ見ていることしかできない。

 これほど屈辱的な"観戦"は、初めてだった。

 

 

「ぁ、……ぅぶっ、…………」

 

 ナマッキュは砂地に埋没するほど殴りつけられ、まともに声を発することすらできなくなった。手製のばけのかわは見る影もなく、何がモチーフだったか分からないボロ布と化している。そこまでしてもミミッキュたちの攻撃は止まず、もはや半分砂を叩いている。

 

「ぅ……、……っ、………………。」

 

 痛くて、痛くて、痛すぎて、よくわからなくなって、逆に痛みも薄れてきたころ、ナマッキュは……安堵した。

 

――僕でも数秒耐えられたんだ。彼にとっては、アブリーの針程度にも痛くないはず。

 

 それが確かめられただけでも、目的の半分は達成したようなものだった。元より、ナマ太を「守る」者など必要ない。彼自身が攻撃を耐え切り、海へと逃げ込む時間さえあれば良いのだ。

 

――損失は軽い。

 

 大見栄を切っておきながらケジメをつけられなかったことは悔しいけれど、そんなちっぽけなプライドは、自分自身といっしょに砂に埋めてしまえばいい。

 

――ゴーストタイプなんて、元々半分死んでるようなものだから。

 

 ミミッキュは嫌いだ。自分も含めて。陰湿なゴーストポケモンには、薄暗くて、冷たくて、救いのない場所がお似合いなのだ。

 

――彼は失う悲しみを知っている。今度も同じように乗り越えられるだろう。

 

 砂に埋まっていく中で、一瞬だけ見えた空は青かった。地上で何が起きているかも知らず、太陽は照り雲は流れる。それが世界であり、ナマコブシという種族の象徴。

 

――ああ、だけど少しだけ。

 

 視界が砂の色に、砂すら砂に隠れて、暗く土色に沈んでいく。音がぼやけて、世界が遠くなる。

 

――寂しい、かもね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのとき、世界が弾けた。

 

 

 

 

 

 

 重みがなくなったことで、ナマッキュは砂が吹き飛んだことを知った。

 砂が吹き飛んだことで、ナマッキュは突風が吹いたことを知った。

 突風が吹いたことで、ナマッキュは何か()()()()()()()()()()()ことを知った。

 何が起こった?

 誰が起こした?

 

 宗教画のごとく左右に割れた砂の海。

 落ち葉のように風に煽られ宙を舞う同族たち。

 ビーチを縦に切り裂く半円筒(ハーフパイプ)の手前と奥で、ふたりだけが地に立っている。

 一方はナマッキュ。

 他方はナマ太。

 そして、ナマ太の口元からは、

 大きな、

 大きな、

 大岩のような、

 

 

 

 巨大な(なかみ)が飛び出していた。

 

 

 

「つらかったよ」

 

 ナマ太は言った。

 

()()()()つらかった」

 

 静かな声で。

 

「ぼくが殴られたわけでもないのに」

 

 動かない影。

 

「思い出したよ。これが……」

 

 引かれる拳。

 

「これが『痛み』ってやつなんだね」

 

 引き絞られる。

 

「もう痛いのは嫌だ。だから――」

 

 ミシミシと唸る拳を構えて、ナマ太は叫ぶ。

 

 

 

「――お前ら全員! ぶっ殺してやる!!」

 

 

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