ワールズエンド・ヌルテカノヴァ〜ナマコブシとゆく終末世界〜 作:ナマコ教徒N771
それからは一方的な展開だった。ナマ太が巨大拳を数度振るえば、それだけでミミッキュたちは空の彼方へ飛んでいった。シロデスナはミミッキュがやられた時点で早めに逃げたのか、あるいは粉砕されて砂に変わったのか、知らぬ間に姿を消していた。
敵を一掃すると、ナマ太は"なかみ"を体内にしまい、傷ついたナマッキュのもとへ向かった。移動速度は相変わらずポケモン界最低で、救助としては何の役にも立っていないけれど、その必要はなかった。
ナマッキュがいたはずの場所には、ボロ布しか残っていなかった。布の下からは何かを引きずったような跡が一直線に伸びている。中にいたものはビーチと反対の方向へ去ったらしい。それを見たナマ太は頭で考えるより先に
「よかった」
と、呟いた。
◆
ビーチは静かになった。日向でくつろいでいたシロデスナもいなくなり、今度こそナマ太ひとりになった。前よりも静かな時間が、何日も何日も繰り返された。
けれど、ナマ太の
今度は失わずに済んだ。自分だけでなく友達も守ることができた。今もあの子はどこかで生きている。そばにいなくても、その事実は揺るがない。さよならも言わずに去ってしまった理由なんて、わざわざ探しに行って問い詰めるほどのことでもない。
ちっぽけな寂しさは、波音が流し去ってくれる。
隣にいなくても、どこかにはいる。
だからナマ太は動かない。
今日もビーチと海を往復する。
何もなければ、たぶん明日も。
このままひとりで、永遠に。
自然に還るまで、永遠に。
◆
結局のところ、ナマ太の行動原理は最初に語られたことが全てだ。
高潔な精神などない。ただ本能のまま、元いたビーチに居座っている。
明確な未来像などない。ただ何となく「このままではいけない」と思ったから、ビーチの掃除をした。
それ以上のことはしていない。
どうするべきか、どうしたいか、ナマ太自身にも分からない。
分からないまま同じことを繰り返している。
惰性だ。
あるいは怠惰ともいえる。
友達がいなくなったら寂しいけれど、寂しいままでも過ごしていける。
ナマコブシの本質は動かないことではない。
進まずとも平気でいられる持久力なのだ。
だからといって彼を責める者はいない。彼に「進む」ことを強要する者はいない。それはナマ太自身も含めてのことだ。
苦難を乗り越えて「先」へ進まねばならないというのは所詮人間の価値観であって、ナマコブシには関係のないことだ。
人間社会ですら絶対といえない理想像を、誰が何の権利をもって彼に強制できようか?
できるとすればそれは彼自身か、あるいは――
――彼を本当に想うものだけだ。
◆
夜明け前の薄明にまどろむビーチで、ナマッキュは砂を踏みしめる。久しぶりに感じる、やわらかな潮風。
「ナマ太さん!」
ナマッキュは叫んだ。ここ数ヶ月狂おしいほどに求めた、大きな背中に向かって。
「え? ナマッキュさん?」
ナマ太は振り向いた。出し入れできるようになった"なかみ"を駆使して、前より少しだけスムーズな動きで。
「久しぶり! その皮……」
「はい。新しく作ったんです」
ナマッキュは『ばけのかわ:ナマコブシversion改』を身にまとい、なかみクローでナマ太と握手を交わす。
「突然いなくなってごめんなさい。あなたに釣り合うポケモンになるため、研鑽を積んできたのです」
あの日。
「僕はミミッキュである自分と向き合う勇気もないくせに、尊敬するナマコブシになろうとしていました。陰湿で、卑怯で、傲慢でした」
ナマ太はそう思わなかったが、あえて反論することはなかった。きっと、ナマッキュにとっては大事な反省だろうから。
「外ヅラを変えただけじゃ得られないモノがある。変わらない
ナマッキュはナマ太を見上げ、力強く宣言する。
「ナマ太さん! 僕は進化しました。僕はようやく、あなたに恥じないポケモンになれました! 今なら僕は、あなたと世界の果てにだって行ける!」
「よくわからないけど、つまりぼくたち、また一緒にいられるんだね?」
「あなたが望むなら、永遠に……!」
ナマ太は嬉しくて、嬉しくて。"なかみ"でナマッキュを抱き上げ、広々とした背中に乗せた。ナマ太の鈍い神経でも、たしかに感じる一匹分の重み。それは数十メートルぶんの水圧より、身体の奥へ響いてくる。
「これからも、いっぱい遊ぼうね!!」
「はい!! ……ところでナマ太さん、『わざマシン』ってご存知ですか?」
「使うと新しい技を覚えられる道具だっけ?」
「そう。人間のいなくなった今は製造もストップしていますが、廃墟を漁るとたまーに見つかるんですよね」
ナマッキュは懐から円形のディスクを取り出した。ちょうど昇ってきた朝日に照らされて、わざマシンはキラキラと輝く。
「あちこちをひっくり返して、ようやく一枚見つけました。これは僕らに革命をもたらす技です」
「革命? それってナマコブシ投げよりすごい?」
「ナマコブシ投げよりすごいです!」
「すごい!!」
「ちょっと背中の突起を掴んでも大丈夫ですか?」
「ぼくは神経にぶいから平気だよ!」
ナマッキュは自分の背丈ほどもあるピンク色の突起に、しっかりと"なかみクロー"を巻きつけた。これから起こることを考えれば、命綱は確実に必要となる。
「では、いきますよ!」
ナマッキュは意識を集中し、覚えたばかりの新技を発動する。自身を起点に、世界を塗り替えていくように……
【ナマッキュは トリックルームを つかった!】
【ナマッキュは 時空を ゆがめ――
刹那、意識が飛んだ。
「おおおおおおおおおおおおおおおーーーーー!! 速あああああああああああーーーーーーーい!!」
気付いたときには、ナマ太は飛んでいた。サメハダーより速く、海面を切り裂いて、激しく水飛沫をぶちまけながら海の向こうへすっ飛んでいく!
「はっはぁー!! どうだ!! 見ましたか!? これぞ、僕の新たなチカラ! "遅い"と"速い"が反転する空間で、ナマ太さんは世界最速のポケモンとなる! 起点である僕が側にいる限り、あなたは最強無敵のナマコブシですよぉーーー!!」
「やばい!! これ!! た゛の゛し゛い゛っっっ!!」
生まれて初めて味わう「スピードの向こう側」の世界に、ナマ太は狂気乱舞した。ちょっと身体を動かすだけで、今まではヌメッ………ヌメッ……としか動けなかったのに、今はズビューン!! ドバーン!! と進んでいける。確かにこれならナマッキュの言う通り、世界の果てにだって行けそうだ!
「あっ! でも、これ以上行ったら帰り道がわからなくなっちゃう!」
「何を言ってるんですか。そんなもの分からなくたっていいんですよ。必要なら好きなだけ飛んで探しにいけます」
「えっ、でも……」
「ああもう! そういうところだけは尊敬できないなぁ!」
ナマッキュは苛立ち混じりに叫ぶ。
「ナマ太さん! ハッキリ言って、アンタはあんな場所に縛られていいポケモンじゃない! もっと綺麗でもっと素晴らしい、もっと広い世界に飛び出すべきナマコブシなんだ!」
「もっと、広い世界……?」
「そうだよ! 自分で掃除なんかしなくても、もっとマシなところが……救われる道があるはずなんだ! なければおかしい! 世界ってやつはそこまでクソじゃないはずだ!」
跳ね上げられた水飛沫が顔にかかる。ナマッキュは皮の中に侵入してきた水を、乱雑に吐き捨てながら言う。
「アンタには希望がある! むしろ、アンタこそが世界の希望かもしれない!」
「そんな、ぼくは……」
「たとえそうじゃなくても!! 僕が一緒に見つけてやるよ。アンタにとっての、僕らにとっての希望を! ……だから!!」
ナマッキュは魂から叫ぶ。
「黙って僕についてこい!!」
ナマ太も言った。
「――うん!!」
ふたりの行く先には、まばゆい朝日だけが見えていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
第1章【ぼくらのなかみ】
完
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ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
あらすじ通り独自解釈てんこもりでしたが、「ナマコブシは気に入った場所に居つく」「とびだすなかみはばけのかわを貫通する」といった描写は、原作の設定をもとにしたものでもあります。
お話が肌に合わなくても、これをきっかけにナマコブシというポケモンの魅力を知っていただけたなら幸いです。このお話は、ほとんどナマコブシへの愛だけで書き上げたものなので……クソだの陰湿だの酷い言葉を並べてしまいましたが、ミミッキュのことも好きですよ!
余談ですが、普通のナマコブシは背中のアレを触ると嫌がるので、パルレの際はご注意ください。
2章以降の更新予定は未定です。ゴースト以外の「生き残り」も登場させたいと思っているので、あまり期待せずにお待ちください。