ワールズエンド・ヌルテカノヴァ〜ナマコブシとゆく終末世界〜 作:ナマコ教徒N771
2-0「みずびたしのプロローグ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「みずびたし」
ポケモンの技のひとつ。
たくさんの水を浴びせかけて相手をみずタイプにする。
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あの"大爆発"の日から、ナマ子の世界は真っ暗だ。目が焼け潰れてしまったのだろう。そんな状態でも炎から逃げおおせたのは、あの人がナマ子を抱えて走ってくれたからだ。
「あっ!」
衝撃、転倒、着地。勢いよく地面に投げ出されたナマ子は、音や雰囲気から、あの人が倒れたことを知る。
「ハヅキ!? ハヅキ、大丈夫!? 返事してハヅキ!!」
「あぁ……水……水……」
「水? 水って言ったのね!」
ハヅキにはナマ子の言葉が伝わらないが、ナマ子には人間の言葉が少し分かる。見えない世界を"なかみ"で探って、ナマ子はなんとかハヅキのもとへ這っていく。
「ハヅキ、お水だよ! さぁ飲んで!」
ナマ子は「みずびたし」を使った。バトルにも役立つし、ハヅキとの水遊びにも使える便利な技だ。ナマ子は出力と角度を調整して、ハヅキの口があると思われる位置に優しく水を注ぐ。
「うぷ……ぼこ……」
だが、衰弱したハヅキはうまく水を飲めなかった。口からこぼれた水が、地に落ちてビシャビシャと音を立てる。
ナマ子は再び出力と角度を調整して、ハヅキの口があると思われる位置に水を注ぐ。
「ぉぽ……」
失敗だ。ナマ子はハヅキが息継ぎするのを待って、三たびハヅキに水を注ぐ。
「う……ぶ……」
また失敗した。自分の注ぎ方が悪いのだろうか? ナマ子はもう一度やり方を変えて水を注ぐ。
「……、……」
ビシャビシャと水音が響く。全部こぼれている。おかしい、今度こそ、確かに口へ届いているはずなのに。ナマ子は"なかみ"でハヅキの顔を撫でながら問いかける。
「ハヅキ、どうしたの? お水いらないの? 具合が悪いの? 大丈夫? ねぇ、返事をして、お願い、ハヅキ……」
「な……ナマ子……」
「何?」
「だいすき……だよ……。」
「そんなの知ってるよ! おねがい、お水を飲んで!」
ハヅキの声があまりにも弱々しかったので、ナマ子は激しく不安になった。すぐに水を飲ませてあげないと、大変なことになってしまう。ナマ子は"なかみ"でハヅキの顎を支えて、ほとんどキスをするような至近距離で、優しく、優しく、水を注ぐ。
水を注ぐ。こぼれる。
水を注ぐ。こぼれる。
苦しいのかな? 一旦やめた。
水を注ぐ。こぼれる。
水を注ぐ。こぼれる。
顎に力が入ってない……。
ナマ子は何度も水を注いだが、開けっ放しの口から全部こぼれ落ちていった。いつしか、ハヅキは返事をしなくなった。
それでもナマ子は呼び続ける。
「ハヅキ……」
水を注ぐ。
「ねぇ……ハヅキってば……」
水を注ぐ。
「ハヅキ……」
水を注ぐ。
「ハヅキ……」
水を注ぐ。
「ハヅキ……」
◆
「族長。それは?」
「ナマコブシだ。眠らせて連れてきた」
「どうして」
「……焼死体に延々と水を飲ませていた。あのままではトレーナーと同じ末路を辿っていただろう」
「それは……哀れですな」
「他者を哀れむほど、我々にも余裕はなかろう」
「……仲間が多く死にました。これからどうしますか」
「分からん。が、ひとつ言えることは、これからは我々も手段を選んでいられないということだ」
「……ハ……ヅキ……」
「……ねむりが覚めかけている。急ぐぞ」