ワールズエンド・ヌルテカノヴァ〜ナマコブシとゆく終末世界〜   作:ナマコ教徒N771

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2-1「ナマコ in the Forest」

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

【ヤレユータン】けんじゃポケモン ノーマル・エスパータイプ

 森の隅々まで知り尽くし傷ついたポケモンがいると薬草を探して治療する。

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

「サメハダーだ!」

「構わん、ブチ抜け!!」

 

 ナマッキュの号令にあわせ、ナマ太はまっすぐ海上を走る。わずかな動作が理不尽なほどの加速を生み、弾丸のごとくナマコが跳ねる。

 ナマッキュが「ウルトラナマコライド」と名付けたこの移動方法は、ナマ太の行動範囲に革命的な拡張をもたらした。今やふたりは毎日のように海へ漕ぎ出し(?)、島から島へ渡り歩くワイルドな船旅(?)を楽しんでいる。

 

「よし抜いたァ!」

「追いかけてくるよ!」

「しつけぇなクソザメがよぉ!」

 

 しかしこのウルトラナマコライド、尋常ではないほど目立つ。「トリックルーム」特有の時空の歪みはまだ良いとして、まるまる太った巨大ナマコが海を切り裂く際に生じる激烈な爆音と水飛沫は、生き残った海棲ポケモンたちの注目を大いに引いてしまう。

 背後から猛追してくる凶暴な背ビレをチラチラ見つつ、ナマ太は叫ぶ。

 

「思ったんだけどさ! ぼくならサメハダーにやられても大して痛くないし、いっそのこと()()()()からナマッキュさんに追い払ってもらうのもアリじゃないかな!」

「馬鹿野郎! ンな危険な真似――いや――待てよ――うん、アリですね」

 

 ナマ太を餌にするなどという卑劣な作戦を一刀のもとに切り捨てようとしたナマッキュであったが、ふと思うことがあって冷静になった。ふたりはあえて速度を落とし、追手との距離を詰めていく。

 

「ただ、噛ませるのはナシです。僕らは()()()()()()だけでいい――」

 

 迫るサメハダーに対し、ナマッキュがとった行動はたったひとつ。「トリックルーム」の範囲を広げ、寄ってきた敵を巻き込むだけ。

 

「ギシャアアアアア!! ……ァア?」

 

 今まさにナマ太の大きな尻へ喰らいつこうとしていたサメハダーは、急激に身体が重くなって虚空を噛んだ。速度が反転し、ウルトラナマコライドについていけなくなったのだ。

 ナマッキュはナマ太の背中から、離れていくサメハダーへ「バイバーイ」と(シャドークロー)を振る。

 

「浅瀬で泥でも食ってろや」

 

 捨て台詞は潮風に乗って心地よく消える。一方で、遠ざかっていくサメハダーの身体は、ひどく痩せて、萎れて、しょぼくれて見えた。

 

 

 旅に出てから何度目かの夕暮れ。いくつめかの島の海岸で、ナマ太はしょんぼり肩を落とす。

 

「はぁ……」

「お疲れですか? 背中でも揉みましょうか」

「ううん、そうじゃなくて、心の問題」

「というと」

「なんていうか……みんな、想像以上に(すさ)んでるね」

「……そうですね」

 

 元々ミミッ(すさみきった)キュ族(コミュニティ)で暮らしていたナマッキュとしては想像以上というより「どこもそんなモンだろ」という感覚だったが、落ち込むナマ太の気持ちも理解できた。

 襲われたことが悲しいのではない。生きるための捕食行動は、そのポケモンが生きているという証拠でもある。サメハダーの存在が確認されたこと自体は、むしろ希望ともいえる。

 けれど……姿がいけなかった。ナマ太を追ってきた個体は、骨が浮き出るほど痩せ細っていた。食う物がないのか、それとも汚染されたものを無理に食って病んだのか、かつて海のギャングと呼ばれ恐れられた容貌は見る影もなく……あれでは生きているというより、死ぬまでのわずかな猶予を食い潰しているようにしか見えない。

 

「みんな余裕がないんだ。朝日を見てきれいだなーとか、海を見て向こうに行きたいなーとか、そんなことを考えてるヒマがない」

「生きてるだけマシですけどね」

「でも、自分で選んだわけじゃない。仕方ないからそうしてるんだ。やっぱり悲しいよ」

「気持ちは分かります」

「この世界、ぼくらは……ポケモンは、楽しく暮らしていけるのかな……」

 

 実のところ――あえて口に出すこともないが――ナマ太たちの旅路だって、そう簡単な道のりではない。特に切実なのは食料問題だ。浅瀬で泥を啜っていれば腹を満たせるナマ太はともかく、ナマッキュの食べる木の実なんかは、汚染されていないものを見つけるほうが難しい。見慣れた木の実であっても汚染の影響で突然変異していたりするから油断できない。

 それに……これはナマッキュの個人的な希望だが……ナマ太にはカラフル泥以外のマトモな食事も味わってほしい。不幸な世界で幸せに生きていくためには相応の労力が要るのだ。

 

「他のポケモンのことを心配していても始まりません。まずは僕らのことだけ考えましょう」

「うん。わかった」

「この島は前より森が豊かなようです。変異していない木の実も見つかるかも……」

 

 日が完全に沈んでしまう前に、陸で木の実なり、安全な寝床なりを見つけておきたい。ナマ太たちは行動を開始した。

 海岸づたいに島の外周を見て回り、ナマ太が通れそうな川があれば泳いで陸側へ進入する。川幅が狭くて泳げそうになければ地上を歩く。ウルトラナマコライドほどでなくとも、「トリックルーム」を使えばナマ太は快速で陸を歩ける。最高速を出すと圧倒的な質量で木々をなぎ倒してしまうので、手加減しながら歩く……この辺りの調整も、ここ数日でずいぶん慣れた。

 

「ほんとに豊かな森だね! ここならポケモンもいそうだよ」

「ナゾノクサくらいなら埋まってるかもしれませんね」

 

 木々の密度が高いとナマ太の巨体が通れないこともあるが、その場合はナマッキュの「シャドークロー」で切り払って道を作る。そんなことしなくてもナマ太のタックルでブチ抜けるが、万が一ナマ太のぷにぷにお肌に植物のトゲでも刺さったら大変だ(そうなった場合ナマッキュがブチ切れて目につく限りのトゲ植物を根絶やしにする)。必要以上の環境破壊を防ぐためにも、この役割分担は不可欠なのだ。

 

「見て! 木の実があるよ。食べられるかな」

「あー……ヒメリの実ですか。アレは変異してる可能性が高いのでやめたほうがいいです」

「食べるとどうなるの?」

「僕が知ってる(ミミッキュ)は片目を失明しました」

「うわぁ……かわいそうに」

「かわいそうですねぇ」

 

 そんな返事をしながらもナマッキュは内心「本体とは別に目を二つも描いてる癖に失明するたぁザマァねぇな」とほくそ笑んでいた。相変わらず同族には辛辣である。

 

「あのヒメリの実、採っておこうよ。他のポケモンが間違って食べるとかわいそうだし」

「燃やしておきましょうか? 『おにび』のわざマシンなら持ち合わせがありますので」

「それがいいかも」

 

 ナマッキュは「なかみクロー」でヒメリの実をもぎとり、焼き払おうとした。

 しかし、懐からわざマシンを取り出そうとしたところで、ナマ太とは異なる第三者から声がかかった。

 

「待て。捨てるのは早計だ」

 

 ナマ太とナマッキュが振り向くと、木々の向こうから一匹のポケモンが歩み出てきた。

 

「あなたは……?」

「ミナモトの森シサズ血族が薬師、ユーヤクという者だ」

「要はヤレユータンだな」

 

 ナマッキュに自己紹介を受け流されてしまったヤレユータンは、目を丸くしたかと思うと、次の瞬間には穏やかに笑った。

 

「はは、そうだな。異種間交流において個体名など意味を持たないか」

 

 ヤレユータンはヒメリの実を指差し、理性的に言う。

 

「森の中の全てのものには使い時がある。それは変異ヒメリの果実も例外ではない。そちらが不要なら、私に譲ってはくれないか」

「嫌だね。これは僕らのものだ。毒でも薬でもタダでは渡せない」

 

 ヤレユータンの言葉をことごとく跳ねのけるナマッキュだが、別に不機嫌というわけではない。ナマ太以外の初対面の相手に応じる際の、ナマッキュの標準的な態度だ。

 

「対価は払う。変異ヒメリでなくとも、シサズ血族は常識的な労働に対して相応の報酬を用意する」

「先払いだ。食える木の実をくれたら考えてやる。もらった木の実に毒でもあったらブチ殺すけど」

「ナマッキュさん、そこまで冷たくしなくても……」

 

 ヤレユータンは静かに微笑んでいる。

 

「いや、今の世界においては平均的な姿勢だ。むしろ先制攻撃が飛んでこないぶん有情ともいえる。ご要望の木の実を用意するまで待ってくれるなら、信用に値するものをお見せしよう」

「いけ好かないな」

「もう、ナマッキュさん!」

 

 ナマ太としてはナマッキュ以来初めて会えた友好的なポケモンだ。警戒しすぎて関係が絶たれるのは避けたい。

 

「食料のある居住地へ案内する。ついてきてくれ」

「行こうよナマッキュさん。嫌なら"走って"帰ればいい。ね? ね?」

「わかりました」

 

 ナマ太が乗り気なので、ナマッキュはヤレユータンについていくことにした。無抵抗を装い、しかし、『ばけのかわ』の内側でこっそりわざマシンを操作しながら。

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