「ここは…今回は一体なんだ?」
ある少年は竹林の道に立っていた。辺りを見渡すと、そこにいたのは、腰に刀を帯びた何処か侍の様な雰囲気を醸し出す和装の男性だった。額には自身と“ 似た痣”を持つ耳飾りの剣士がいた。そして今回は、彼と向かい合うように一組の男女も立っていた。
耳飾りの剣士が対峙している男を見て、少年は一気に顔色が悪くなる。
「な、なんだよあいつ……!?」
少年の目には、人体や物が透けて映る為、男の体に心臓と脳がいくつもあることに気づく。少年は初めて見る異形に戦慄した。
耳飾りの男性は抜刀して異形の男へと迫っていく。異形は触手のようなものを、普通の人では視認できない速さで振るうが、耳飾りの剣士は少年と同様に目で捉える事ができるようだった。
「…凄い、攻撃を全て躱してる、それにやっぱり、あの人の剣術……」
耳飾りの剣士が使っている剣術は、自身が習っているものに似ていた。始めた当初は身体が何故か勝手に動き、しかもそのことに違和感が無かった。そして、耳飾りの剣士が出てくる夢を見るようになってからは、自身が学んでいる剣術の技法と理解する様になった。
……話を戻そう。耳飾りの剣士はまるで日輪のような動きを体現し、相手をあっという間に戦意喪失するまで追い込んだ。
『失われた命は回帰しない 二度と戻らない。生身の者は鬼のようにはいかない。なぜ奪う?なぜ命を踏みつける……?』
耳飾りの剣士は問うが斬られた異形の男は何も答えなかった。そして、その光景を見た女性の瞳は、希望を見たかのように輝いていた。
しばしの沈黙の後、突然、異形の男は身体を変化させ、数多の肉塊に分裂する。耳飾りの剣士は対応するものの幾つかの肉塊を取り逃してしまう。
その瞬間、少年の意識が暗転した。
◇
「っ!またあの夢か、それに、ここはいったい…」
目が覚めると廃墟のようなところに手足を縛られて居た。
俺は織斑一夏。第二回IS世界大会《モンド・グロッソ》に出場する姉の織斑千冬を応援するためにドイツに来ていた。
一回目の大会で優勝した千冬姉は当然のように有名になり、俺は周りの人達からいつも姉と比べられ、『出来損ない』やら『凡人』やら罵られた。痣があるせいか『汚物』だの『お前みたいなやつが何故存在しているの?』と言われたこともある。
だけど、そんな自分を理解してくれる人は少なからずいた。千冬姉は勿論のこと、数少ない友達の五反田弾やその家族,御手洗数馬.鳳鈴音,IS 《インフィニット・ストラトス》の生みの親である篠ノ乃束だ。
この人たちだけがいつも俺を支えてくれた。
「(確か俺は、試合が始まるまで余裕があったからトイレに行って……客席に戻ろうと歩いている途中、誰かに布のようなもので口と鼻を抑えられて……)」
自分の身に何が起きたか確認し、今に至る。
「気が付いたか、織斑一夏」
俺は声がした方に振り向くと数人の男女がこちらを見ていた。
「お前達は?」
「俺達は織斑千冬の大会二連覇を阻止するためにお前を人質にした」
「それにしてもこれがあの織斑千冬の弟か。本当にあいつの弟か?不気味な痣なんて持ちやがって」
「(……言われ慣れてはいるけど、やっぱり…他の人から見てもそう思うんだな)」
一夏の額には陽炎のような痣があり、この痣のせいで周りからは気味悪がられ、いじめられていた。しかし一夏はそれを無視し過ごしてきた。
一夏は冷静に状況を把握し様子を窺う。その時、部下と思しき男が目の前の女に近づいた。
「織斑千冬が試合を放棄しました」
「そうか、それじゃあこいつは用済みだな」
女はそう言うと、懐から拳銃を取り出した。
「悪く思うなよ、ガキ。目撃者でもあるお前に私達の事をバラされるわけにはいかないからな。恨むんなら非力な自分を恨むんだな」
女は銃口を俺に向ける。
「(まずい、このままじゃ…)」
しかし……
ピシ、パリン
突然何かが割れる音がした。
「なんだ?」
「なんの音だ?」
自分を誘拐した仲間の一人が上を見る。俺も上に視線を向けると何もない空間に亀裂が入っていた。
「な、何だ、あれ?」
ピキ、ベキ、パキ
「お、オイ、何がどうなってやがるんだ?」
亀裂は徐々に広がる。すると、突然、吸い寄せられるほどの強風が吹き、手足を縛られていた俺は、その中にいとも簡単に引き寄せられた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
一夏が亀裂に飲み込まれた後、空間は元に戻った。
「す、吸い込まれやがった…」
「お、オイどうするんだ!人質が消えちまったぞ!」
「狼狽えるんじゃないよ!消えたのなら寧ろ好都合だ。目的は遂行した。もうこの場所には用はない」
その後、誘拐犯は爆薬を辺りに仕掛け、廃墟から離れた。その直後、大きな爆発を起こし、廃墟は跡形もなく消え去った。
織斑一夏は、この誘拐事件により、死亡扱いとなった。
◇
「……う、うう、ここは?」
一夏は目を開け上半身だけを起こし、辺りを見渡す。気付けば全く知らない場所にいた。
「……一体ここは?何で和室に?俺は確かドイツにいたはず」
一夏は突然の事に混乱していた。ドイツの廃墟にいたはずが、目を覚ますと自身の国で見慣れた和室で寝かされていたからだ。
「それに、手当てまでされてる」
手足を見ると拘束されていた縄は解かれており包帯が巻かれていた。
自分の現状を整理したのち、周りを見渡すと、机やタンスなどの家具が目についたが、それらは全て古めかしい物ばかりだった
「(随分と古いものばかりだな。この家に住んでいる人の趣味だろうか?)」
「あっ!よかった。気が付いたのね」
「うわっ⁉︎」
急に横から声が掛かった。驚きながら振り向くと、いつの間にか襖から蝶の髪飾りをつけた少女が部屋へと入ってきていた。その姿を見て一夏はまた驚いた。少女が、今の時代では珍しい着物を着ていたからだ。
「ごめんね、急に声をかけて…気分はどう?どこか痛いところはあるかしら?」
「と、特に問題はない…です」
「そう?二日も眠ったままだったから心配したわ。顔色は……う~ん。どうかしら?」
「……大丈夫です」
少女が近付き、こちらの顔を心配そうに覗き込んでくる。他人に心配そうに見つめれるのは初めてで一夏は曖昧な返事をした。
少女の容姿は一目見れば美少女と呼ぶに相応しいものだった。長いこと間近で観察された一夏は恥ずかしくなったのか、無意識に視線を逸らしてしまう。まだ幼い彼が、女性の眼差しに耐性が無いのは、流石に無理からぬことである。
しかし少女は気にすることなく、一夏の顔色を観察する。
「……うん。顔色も良さそうだし、問題なさそうね。お医者様に診てもらって熱があったから心配したけど、気が付いて本当に良かったわ」
「そ、その…ありがとうございます」
「気にしないで。困ったときはお互い様よ」
体温が元々平均より高いのは後で説明するとして、少女の言葉と笑みに安堵を覚えるた。少女の笑みは優しく、まるで太陽の光に当てられたように感じられた。温かく、何の悪意もなく、純粋にこちらを心配する笑み……女尊男卑の世界とは思えないくらい優しい少女だった
「(……この感じ、前にも、あれ?いつだっけ)」
他人からそんな笑みを向けられるのは初めてではない気がした。
俺のいた場所では、周りの視線は冷たくいつも罵倒されいじめられていたが、目の前の女性の笑みは、親しい幼馴染達とはまた違う安らぎがあった。
「あ、そうだ、空気の入れ替えをしましょうか。窓を開けてもいい?」
「あ、はい、お願いします」
「任せて」
少女は嬉しそうな返事をして窓へ近づき、新しい風を運んでくれた。一夏も起き上がり、開いた窓から外を見渡すが……。
「………嘘だろ」
「だ、大丈夫?やっぱりまだ気分が悪い?」
少女は、一夏の様子を心配する。
アスファルトで舗装されていない道路、まばらに走っている旧型の車、通りを歩く人の服装は殆どが和服で統一されている。見れば見るほど現代の風景とは異なっていた。
「………いくつか聞いてもいいですか?」
「う、うん。いいわよ……あ、自己紹介してなかったわね。私の名前は胡蝶カナエ。カナエでいいわよ」
「……織斑一夏です」
「織斑一夏……一夏くんだね。で、聞きたいことって何?」
「第二回IS世界大会《モンド・グロッソ》って知ってますか?」
「あ、あいえす?もんど・ぐろっそ?ご、ごめんなさい、全く知らないわ」
「そうですか、二つ目の質問です。今の年号は……」
「明治三九年だけど。それがどうかしたの?」
一夏は片手で顔を抑えた。
「はは、嘘だろ?俺、とんでもないとこに来ちまったのかよ」
織斑一夏は明治時代終盤にタイムスリップしてしまったのだ!
プロフィール壱
織斑一夏 10歳
額に陽炎の痣がある。
スペック 耳飾りを付けた侍の夢をよく見ており、その記憶から独自で全集中の呼吸を会得
中の人の繋がりで、一夏に使わせるとしたらどっち?
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神気合一
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冥我神気合一