あれから一年の月日が経った。俺はカナヲの教育をしながら蝶屋敷の手伝いをしている。時間に余裕がある時は、煉獄邸に戻り、槇寿郎さんや伊黒さん達と打ち合いをしたり、千寿郎の相手をしたりなどもした。
そして蝶屋敷は、新たな住人が増え、更に賑やかになった。
アオイ,きよ,なほ,すみ…… 鬼殺ができない隊士、そして鬼に親を殺され、身寄りがなかった子達を引き取ったのだ。
アオイは家事が上手く、しのぶと同様器用で、しのぶから教わった事は直ぐに出来る様になった。
最初の頃、アオイは俺に対し何処か目上に対する言葉遣いを使っていたので、年齢を教えたらすごく驚かれた……そんなに老けて見えるか?君と一つしか変わらないんだが……。
きよ,なほ,すみは、患者の看病の他に、機能回復訓練での指南役も担当している
三人は心の傷も深く、根性強く接していると懐いてくるようになった。悪戯で、結んでいた髪に蝶の髪飾りをつけられたことが何度かあった。気付かず屋敷内をうろついていたらアオイやしのぶに笑われてしまった。しかもその姉も共犯者だったのは言うまでもない。
その後も俺は三人娘(かんたんシスターズ)と暇さえあれば子どもらしく遊んだ。その分、髪もよく弄られた。
カナヲは……変わらず無表情無感情だ。
命令や決め事は、硬貨がないと決めることが出来ない。だけど、偶に俺が寝ている時に、布団へ入り込んでくることがあった。
俺は平熱が人より高い為、カナヲにとっては心地よいのだろう。
体温については、胡蝶家のみんなから信じてもらえるまでに苦労したことを思い出す。
因みに、アオイ達にも、自分が未来人であることも話している。スマホのフォトアルバムのお陰もあって、この時代での思い出が沢山増えた。中には動画で撮っているものもある。
「一夏さん、こちらは終わりました!」
「ありがとうアオイ!」
「一夏さん、一緒にお手伝いをしても構いませんか?」
「私も手伝います!」
「私も!」
「わかった。じゃあこっちを手伝ってもらっていいか、きよ、なほ、すみ」
一夏は鬼殺隊でない為、アオイ達と蝶屋敷の仕事に明け暮れていた。
◇蝶屋敷道場
板張りの床を強く踏み締める音が壁に反響する。それは、大人ですら身を竦ませる重い音だ。
――花の呼吸 伍ノ型・徒の芍薬
カナエはバネのように前方に飛び出し、一夏の周囲を舞うように動き、部位を狙って木刀を振るう。
カナエの斬撃は、一夏の肩,胴,足,手,手甲と狙うが、彼の表情に変化は無い。
「(カナ姉もかなり腕を上げたな。以前よりも動きが更に良くなってる。流石柱は伊達じゃない)」
一夏はカナエが更に腕を上げていたことに驚くも、その斬撃を受け流していく。
「(捉えた!)」
――花の呼吸 肆ノ型・紅花衣
「日の呼吸 拾壱ノ型・幻日虹」
カナエは一夏に斬りかかったが、一夏は彼女の木刀をすり抜け残像と化した。
「(消えた⁉︎…っ!後ろっ⁉︎)」
「日の呼吸 拾弐ノ型・炎舞」
カナエは直ぐに体を捻り、一夏の火の二連撃を木刀を受け止める。しかし一夏の一振りは重く、カナエは押されていく。そして、カナエはなんとか一夏を押し返し、距離を取り、呼吸を整え、再度接近する。
―― 弐ノ型・御影梅
自分を中心とした周囲に向けて無数の連撃を放ち一夏の行動範囲を絞らせる。しかし、一夏は斬撃を回避しながら接近し……
「日の呼吸 参ノ型・烈日紅鏡」
カナエに連撃を与える。しかし、それを受け流したカナエは飛び上がった。
「花の呼吸 陸ノ型・渦桃」
「日の呼吸 弐ノ型・碧羅の天」
互いに空中で体を大きく捻りながら、花の斬撃、円を描くような火の斬撃が交差し、互いに地面に着地すると、カナエの木刀が粉々に砕ける。
「うふふ、今回も私の負けみたいね」
カナエは両手を上げ、降参の姿勢を取る。
一夏は木刀を下ろし、一礼をする
「やっぱり一夏は強いわね。そのお陰か私も強くなった気がするわ」
「そうか?カナ姉の力になれたならよかったけど」
カナエは柱の任務で忙しいため、帰ってくる日も少ない。その為、一夏は時間がある時に手合わせをしたり、正しい呼吸などの助言もしていた。
「うん!あっ、そう言えば、一夏は明日、“最終選別”を受けに行くのよね?」
カナエが言う“最終選別”とは、藤襲山で行われる鬼殺隊に入隊する為の試験のことだ。一夏も今年の最終選別に参加する。
カナエは「だけど」と言葉を続ける。
「一夏、あなたが強いのは私としのぶも嫌でもわかってる。元炎柱の煉獄さんが認めるほど実力もある。だけど、万が一もある。決して無茶はしないこと!逃げる事は決して恥じゃない。人は死んでしまったら、そこでお終いだから……」
鬼殺隊への入隊志願者は多いのだが、それでも志願者のうち大半は、最終選別で落ちるそうだ。
受かるのは二人か三人、酷い時は合格者が零人なんてこともあるらしい。合格しても両目と両足、片腕を失った者もかつてはいたと言う。ちなみに、杏寿郎が参加した最終選別は十人生き残ったと聞いた。
しかし数年前、一人の剣士を除き全員が生き残った異例もあったらしい。
その一人は現在、鬼殺隊の水柱を務めているとも言われる。
カナエは、心配そうに、そう言って眉を下げるが、一夏は余程のことが無い限り、最終選別を余裕で突破することも可能だろう。一夏には、その力量が備わっている。しかしそれでも不安が払拭されることはなかった。また無茶をするかもしれないと心配しているからだ。
「……必ず、私達の元へ帰って来て、帰ってこなかったら、しのぶが泣くんだから。私たちだって…………!」
カナエは心配そうに一夏を覗き込む。
「うん、必ずみんなの元に帰ってくる!俺にとって、この時代で帰る場所だから……」
「約束よ、しのぶを泣かせたらお姉さん許さないんだから」
そう言ってから、カナ姉は微笑んだ。
「ああ、約束する」
そう言いながら、一夏も微笑み返した。
その後、屋敷に戻り、夜食を食べてから、一夏は縁側に座り音楽を聴きながら月を眺めていた。
「一夏……」
「しのぶか、どうした?」
「隣…いい?」
「ああ…構わないよ」
そして、しのぶは一夏の隣に座り、月を眺める。
「一夏も、明日から最終選別を受けて来るのよね」
「ああ」
「…一夏」
「ん、どうした?」
「無事に帰ってきなさいよ……一夏は強いから問題はないだろうけど、やっぱり…心配だわ」
「無茶はしない、心配するな」
「逆に心配になるわよ。ねぇ、一夏」
「……なんだ」
「月が……綺麗ね」
しのぶは何処か不安そうな眼差しで月を眺める。
「………そう…だな、今日に限って綺麗な満月だからな」
しのぶの言葉を聞き、一夏はしのぶに気づかれないように顔を背ける
実際、一夏はしのぶの贈った言葉の意味を理解している。戸惑ったのだ。
「……返事は今じゃなくてもいい。私、待ってるから……だから約束、絶対に蝶屋敷に帰ってくる事、いいわね?」
「………ああ」
二人は手をしっかり握っている。しのぶは一夏に寄りかかり、頭を一夏にくっつける。その後、音楽を二人で一緒に聴きながら、月の照らす夜空を眺めた。
◇翌日
遂に一夏が藤襲山に向かう日が訪れた。
縁壱と同じ赤色の羽織に袖を通し、両耳にはしのぶとカナエからプレゼントされた紫の蝶と花柄の耳飾りを身につけ、槇寿郎から託された赫の日輪刀を腰部に携えた一夏は、蝶屋敷の門前でカナエたちに送り出されていた。
「準備は出来たかしら?」
「ああ…準備は出来てるさ、カナ姉」
「一夏、これ。最終選別の途中で食べて、一週間分はあるから」
しのぶが一夏に手渡した包みの中には、おにぎりとその他非常食が包まれている。一週間分……しのぶは一夏が最終選別で命を落とすなんて考えは捨てているのだ。
「後はこれ、一夏なら無茶して怪我なんてしないだろうけどね」
しのぶが一夏に手渡したのは、小箱に入る塗り薬だ。即効性のある代物で、効果は折り紙付きだ。
一夏は食料と傷薬をスマホの拡張領域に仕舞う。
「……一夏兄さん。無事に…帰ってきて」
カナヲは、目に涙を浮かべながら、俺に抱きついてきた。しばらく離れ離れになるのが寂しく辛いのだろう。ここまでカナヲは心を開いてくれるようになった。まだまともな会話は少ないが、俺の事を兄と慕ってくれている。
「ありがとうな、カナヲ…」
一夏はカナヲを撫で笑顔で精一杯の気持ちを伝えた。
「一夏さん、お気をつけて」
「「「いってらしゃい、一夏さん!」」」
「ああ…行って来る!」
一夏は踵を返し、最終選別の舞台へと歩を進める。
「(縁壱さん…見守っててくれ。縁壱さんができなかった事、必ずやり遂げてみせる!)」
一夏は日輪刀の柄を握り鼓舞する。その間、蝶屋敷の少女達は、一夏の背が見えなくなるまで門前で見送り続けてくれたのだった。
中の人の繋がりで、一夏に使わせるとしたらどっち?
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神気合一
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冥我神気合一