~藤襲山~
数時間走り続け、無事に藤襲山に辿り着いた一夏は、設置されている階段を登っていた。
「ここが……藤襲山」
辺りは藤の花が満開に咲いており、幻想的な光景だった。
「凄い…これだけ咲いている藤の花ははじめてだ。けど…変だな、今の季節に咲くような花じゃないと思うが」
季節外れに咲いている藤の花に疑問を持ちながらも、幻想的な光景に目を奪われる。周りに人がいない事を確認するとスマホを手に取り、写真を撮り始めた。
「(藤の花は鬼除けの効果がある。この量の藤の花だと、鬼にとっては牢獄の役割になってるのか。そして、しのぶはこれを使って毒を作った……改めてすごいな、しのぶは)」
「こんなところで何を突っ立ている…織斑」
「うわぁっ⁉︎」
突如背後に声をかけられ驚きながら振り向くと、一夏にとって見知った人物がいた。
「い、伊黒さん!」
一夏の背後に伊黒小芭内がいた。白黒ボーダーが入った羽織を着用している彼の首周りには蛇の鏑丸が巻き付いていた。
「俺の存在に気づかないとは……いつの間にお前の気配察知は舐められるようになったんだ?」
「あはは、すみません。この光景に目を奪われてしまって……」
「ふん、わからんでもないが、本番は気を付けろ…一つの油断が命取りになるぞ。仮に俺が藤の花を克服していた鬼だったら…お前はもう死んでいる」
「……以後気をつけます。それより、伊黒さんも今年の最終選別に参加するんですね」
「誰かさんが色々と助言をしたおかげで、課題を全て終わらせただけだ」
一夏と小芭内が、藤の花が咲き乱れる石階段を上り切ると、そこには既に大勢の人が集まっていた。
歳は俺とそう変わらないだろう。腰や背中に刀、中には太刀を携えているーーー一目で彼らも鬼殺隊への入隊志願者なのだと分かった。
「(結構人はいるんだな。これが僅か数人、ゼロなんてこともあるんだなんて……)」
「ふん、他の者は何処か自惚れているな。指導者は何をやっているんだ?」
小芭内がそう呟いたので、、一夏は透き通る世界で他の参加者の身体を診る。
「(あの体付き、いざって時には対応出来そうにないな。まだまだ発展途上だ、大丈夫だろうか…)」
一夏は他の参加者に不安を持ちながらも、開始時間まで小芭内と会話をしながら待機していた。
「――――刻限になりました。では、まずご挨拶を。皆さま、今宵は最終選別に集まっていただき心より感謝を」
凛とした声を発しながら姿を見せたのは、日本人とは思えない美しい白髪と漆のような瞳を持ち天女の様な神秘的な美しさを纏う女性だった
「この藤襲山には鬼殺の剣士様方が生け捕りにした鬼が閉じ込められておりますが、外に出ることはできません。山の麓から中腹にかけて鬼が忌避する藤の花が一年中咲き乱れているからでございます」
「鬼が閉じ込められている」という言葉を聞いた途端、場の空気が一段と張り詰めたものになった。この場に居る大半は、鬼の脅威を、身を以て知っている者ばかり。だからこそ、緊迫した空気を出さずにはいられない、鬼という恐怖に打ち勝つために。
「そして、ここから先、藤の花は咲いておりません。故に鬼共がその中を跋扈しています。この中で七日間生き抜くーーーそれが最終選別の合格条件となります」
ガチャリとそこかしこから日輪刀の鞘を握る音がする。それから一人、また一人と歩を進めはじめる。
「では、ご武運を」
「織斑、俺は一人で行動する。修行の成果も発揮したいからな」
「わかりました。伊黒さんも、お気をつけて」
「ふんっ、お前もせいぜい死なないことだ…… “一夏”」
「え?伊黒さん、今名前で……?」
追及する前に小芭内は一瞬にして消え既に鬼の巣窟に足を踏み入れていた。
一夏は、日輪刀の柄に触れ、ゆっくり深呼吸を行う
「よし…行くか」
一夏は、大口を開けて待っている鬼の巣窟へと歩み始めた。
長い夜が始まったーーー
◇
一夏は、鬼が徘徊する山の中に入り、身を隠しながら奥へ奥へと進んで行く。
「(鬼の弱点は二つ、日光と日輪刀で頸を切ること。鬼の活動は夜に活発化する。日の光が入ってこない場所……つまり昼間は襲われない。朝日が昇る東側に陣を取らないとな)」
一夏は地形を確認する為、東に向かって走り出すがーーー
「人間だァーーー!!!」
走っていると、木の影から一体の鬼が不意打ちを仕掛けるかのように唐突に飛び掛ってきた。
俺は、敵意のある気配を素早く察知し、飛び掛ってきた鬼の攻撃を、余裕を持って避ける。
「大人しくクワレロォォォォォォ‼︎人肉ゥゥゥ!!」
「(久しぶりに見るな。改めて見ると…見た目は人間とは変わらな。だが、邪気は、通常の人とは数倍も違う)」
一夏は鬼を冷静に分析し、刀の柄に手を掛ける。
「日の呼吸改 円舞一閃」
苛烈な踏み込みによって、一瞬で鬼との間合いを詰めて、すれ違い様に横薙ぎをお見舞いする。
一夏は、刀に付いた血脂を振り払った後に振り向き、頸を斬られ、灰と化していく鬼を眺める。
円舞は本来一閃の型ではない。現代にいた頃、一夏が独自に編み出した改の型である。現代のとある作品に影響を受けた一夏は、抜刀術の鍛練をしており、日の呼吸の型に合わせるのにしっくりきたのが円舞だった。
「………」
鬼が消えた後、一夏は複雑な表情をしながら再び走り出す。
無論、周囲の地形の確認も忘れない。
「………」
風が吹いた瞬間、一夏は足を止め、刀の柄に手を掛ける。
「(いるな、木々に何体か隠れている……全方位か!)」
一夏の気配感知に、木々に隠れ奇襲を仕掛けようとする悪鬼共の姿が見えた。全方位に気を張り巡らせ、呼吸を整える。
「(さて、どこから来る…………!)」
一夏はあえて気づかぬふりをし、様子を窺いながら進んでいく。
「グアァァァッ!人間だァーーー!!!」
「人間ーーーー!!!」
「人肉ゥゥゥ!!」
「……」
飢えているのか、三体の鬼は一夏に迫るように向かってきた。
一夏は冷静に刀を構え
「日の呼吸改 円舞回天」
超高速回転の円舞を鬼に向け三連続で放つ、この技も一夏が未来で読んだある作品を元に編み出した改の技である。回天する方向は左右どちらでも可能だ。
そして襲いかかってきた鬼達の頸は斬り落とされて、断末魔をあげながら地面に落ちた。
そして、肉体は消え、後には何も残らなかった。
「本当に、日輪刀で頸を斬ると鬼は死ぬんだな……いや、消滅の方が正しいのか…これは」
一夏は、赫く吠える日輪刀を見つめる。
「(赫の刀身に更に纏わりつく赫い光…この日輪刀は謎だらけだ。共通するのはこの刀で鬼の頸を斬れるくらいことだな。カナ姉としのぶの日輪刀を握らせてもらった時も赫く変化していた。でも、二人は赫く変化させる事はできなかった。色変わりの刀、他にも別の意味があるのか?)」
日輪刀は鬼殺隊が持つ刀にして、鬼を殺せる唯一の武器である。この刀で鬼の頸を落とすことで、鬼を殺すことができる。
一夏は考えるのをやめ、刀を鞘に納める。一夏は鬼が倒れた辺りを見渡し、自身の手を開いたり閉じたりしながら、確認するように見つめた。
「一度鬼は倒しているけど、嫌な感触だ。鬼とは言え、元は人間………あまりいい気分じゃないな……この気持ち、今ならわかる気がする」
手を合わせ、鬼に黙祷をする。
「安らかに眠ってください。もし来世があったら………平和な世界に生まれますように」
修行時代、悲鳴嶼さんの家でお世話になった時、カナ姉は「鬼と仲良くしたい」と語った。
『鬼は虚しい生き物で、悲しい生き物なのよ』
その時のカナ姉の気持ちもわかっている。縁壱さんも、争いを好まない性格だった。俺も剣術は好きだけど、殺し合いは好きじゃない。だけど……
「今だけは戦わないと生き残れない。俺にできるのは、これ以上、悲劇を繰り返させないためにも鬼を斬る。それが、今の俺にできる唯一の手向けだ……」
一夏は立ち上がり、その場から離れる。
「絶対に生き残る。生き残ってしのぶ達のところに帰る。俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ!」
中の人の繋がりで、一夏に使わせるとしたらどっち?
-
神気合一
-
冥我神気合一