最終選別五日目
一夏はここまで目立った汚れも外傷もなく順調に鬼を倒してきた。
「肉をよこせ人間ー!」
「おいガキ!俺に喰われろ!」
「邪魔だ!俺が先に見つけたんだ!」
「うるせぇ!俺が先に目をつけたんだ!」
「………」
――日の呼吸 陸ノ型・日暈の龍・頭舞い
一夏はいくつもの炎の円を紡ぎ、流れるような蛇行の斬撃を放ち、鬼の頸を斬る。
頸を斬られた鬼達が消滅したことを確認して、一夏は日輪刀を鞘に納める。
「槇寿郎さん達に比べると動きが遅すぎる。実戦にもだいぶ慣れてきたかな……まだまだ油断はできないが。それにしても妙だ。ここまで来て、他の参加者と会えないなんて」
一夏は初日から三日目までは他の参加者を見る事はあったが、四日目からはとくと見かけない。
「この程度なら、伊黒さんと鏑丸なら大丈夫だろうけど、まさか、他の全員やられたのか?話に聞いていたから覚悟はしていたが……」
一夏はこれまで間に合わず目の前で鬼に殺された参加者を見てしまった。
その時の一夏は、一瞬にして鬼を斬り捨てた程である。
「一先ず、移動するか」
しばらく移動した後、水を飲もうとすると、茂みから音が鳴ったので、警戒する。しかし、相手は鬼ではなく、参加者であろう少年であった。少年は、木々を掻き分け、傍にあった木の幹を背に座り込んだ。その顔は恐怖に満ちており、震えていた。その様子に一夏はすぐ少年に近寄った。
「おい、大丈夫か?一体何があった?」
「ば、化け物だ!何であんな鬼が居るんだよ!?」
「化け物?どんな鬼だった?」
「腕の形をした触手を生やしてた。しかも、かなり大きい鬼だ。――あれは、異形の鬼だ!」
「異形の鬼……他に戦っていた参加者はいたか?」
少年は震えた声で呟く。
「いたけど、俺が知ってる限りじゃ、殆どそいつにやられた。今は……お、女の子が一人で鬼と戦ってる。狐面を付けた小柄な女の子……」
「わかった、ありがとう!」
「お、おい、お前、まさか、行くのか⁉︎やめろ!お前もやられるぞ!逃げた方がいい!」
「気遣いはありがたいが、俺には不要だ。俺は行く!もし生き残れたら、また会おう!」
一夏はその場から一瞬にして消え、ものすごい速さで駆け出した。
◇
私は真菰。最終選別に参加して、五日経過した頃、私は困惑してしまった。
確かに多くの鬼がおり、少しずつだが体力を消耗してきている。でも、本当にそれだけなのだ。
体力もこのままいけば充分保つであろう。何より鬼の強さが全くもって大したことなかったのだから……
「おかしい………」
何体かの鬼を狩ったが、総じて実力は低い。
私には二人の兄弟子がいた。一人は今も無事に生きて鬼殺隊の剣士として活動し、現在は柱を務めている義勇。
そしてもう一人。義勇と一緒に鬼殺隊最終選別へ赴き帰らぬ人となった錆兎。
話に聞く限り、どうやら錆兎は他の参加者を護って死んだらしい。
私はすぐにその話を信じることが出来なかった。だって錆兎は私たち三人の中で一番強くて、何より約束を守る人だったから。
この程度の鬼たちなら、例え誰かを庇いながら戦っても負けることはないだろう。こんな奴らにあの錆兎が敗れたのか?いや、やはり考えられない。
彼ならどうとでも対処できた筈・・・
「……っ!! 何、この臭い!?」
錆兎の死因について考えていた時、突如強烈な異臭が襲い掛かってきた。
「こっちに近づいてきている?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
悪臭を感じた瞬間、目の前に1人の男が絶望に陥ったような表情で走ってきた。
「何で大型の異形がいるんだよ!!聞いてない、こんなの!!」
大型の異形?どういうーーー
「ーーーーッッ!?」
どうもこの酷い臭いは一つの場所で発生しているものではなく、移動できる何かが放っているもののようだ。
そうなると、こんな大量の肉が腐ったかのような臭いをさせる存在は一つしかない。
私を笑いながら見る緑色の鬼は、人の形を保っておらず、四本の手足以外にも無数の腕を生やして胴体に結びつけていた。
「クククク、見つけたぁ…俺の可愛い狐ェ!お前、鱗滝の弟子だなァ!?」
「貴方、鱗滝さんを知ってるの!?」
「クフフフ、そりゃ知ってるさ。この檻の中にぶち込みやがったのは鱗滝だからなァ!――十一,十二……お前で十三だ」
「何の話?」
「喰った鱗滝の弟子の数だよ。アイツの弟子は、皆喰ってやるって決めてるんだ」
私の動きが止まる。
「お前がしてる狐の面。厄除の面と言ったかァ。それが、鱗滝の弟子の目印なんだよ」
鬼は言葉を続ける。
「だから喰われた。皆、オレの腹の中だ。弟子たちは、鱗滝が殺したようなもんだなァ。フフフフ、最近で言えば珍しい髪の色したガキを喰ったな。今までで一番強い奴だった!口元の傷も目立ってたから、よく憶えてるぜェ」
その言葉が決定打となってしまった。
「お前が、お前が兄弟子たちを……錆兎をッ!。鱗滝さんを悲しませた元凶かっ!」
ーー水の呼吸 壱ノ型・水面斬り
激怒した真菰は走り出し、地面を蹴って、型を繰り出すが、呼吸が乱れてしまい、本来の威力が出せず、思うように体も動かせなかった。
迫りくる腕を躱しつつ、腕を切り落としていく。
「(行ける!このまま行けば奴の頸を…!)」
その瞬間、地面を割って這い出てくる無数の腕に気づいた――鬼は、この瞬間を狙っていたかのように、腕を地面に隠していたのだ。
「(嘘⁉︎地面から腕を!まずい!)」
ーー水の呼吸 参ノ型・流流舞い
迫る腕を回避しながら斬ろうとしたが、呼吸を乱してしまった私はいとも簡単に四肢を掴まれて、宙に持ち上げられ、刀を落としてしまった。
――死。私はこの鬼によって惨めに殺されるのだろう。
『最終選別……必ず生きて帰ってこい、真菰』
ごめんなさい、鱗滝さん……約束、守れない。きっと鱗滝さんは、私が約束を破ったら酷く悲しむ。でも、私はここで……
「(鱗滝さん、義勇、ごめんなさい。私、帰れない)」
私は心の中で、師と兄弟子に詫びた。
「クフフフフ、捕まえたァッ。まずはどこから潰してやろうか?右腕か?左腕か?それとも、右足からがいいかなァ」
異形の鬼は私の四肢を掴んでいる手に力を入れてきた。
「痛い!!」
「そうか!痛いか!!キヒヒ、お前はゆっくり四肢をもいで殺して食ってやる!特に女の肉は柔らかくて美味いからなァァァ」
左右に四肢をゆっくりと引っ張られ、今にも裂かれようとしている時、鱗滝さん,錆兎,義勇と過ごした日々が走馬灯の様に頭に流れた。
「いや……死にたくない.....」
鱗滝さんに約束した、必ず帰ってくる、と。私はまだ生きたい、約束を果たす為に死にたくない……その思いが強くなった。
「誰か……助けて──」
自然とその言葉が口から溢れ、少女の頬に涙が流れる。
「日の呼吸 玖ノ型・輝輝恩光」
突然私の視界に紅蓮の炎が迸った。私の四肢を掴んでいた手が緩み、拘束から解放された。
高い所で拘束されていた私は、そのまま落下する。受け身を取ろうと体を動かそうとするが、鬼に掴まれていた部分に強烈な激痛がはしり、上手く体を動かせない。「このままでは地面に強く激突する」……そう思った瞬間、誰かが優しく受け止めてくれた。
「無事か?」
見えたのは、陽炎のような痣、先は赤みがかった髪、花と蝶の柄の耳飾り……男の子だった。不思議な感覚だ。私を抱えている彼の手はお日様のように温かかった。
◇時を遡り数十分前
「気配が近くなってきたな……しかも今までの奴らとは少し違う、禍々しい気配だ!」
俺は、さっき逃げてきた参加者から異形の鬼の事を聞き、ここまできた。
「俺が行くまで…持ち堪えてくれ」
戦場へ駆け出していくと、さっきの参加者が言った通り、狐面を付けた女の子がいた。しかしまずい、このままでは、四肢を引きちぎられる!
そして聞こえた、「助けて」と言う声が。それを聞いた途端、一気に速度を上げ、飛び上がる。
「日の呼吸 玖ノ型・輝輝恩光」
俺は狐面の少女を拘束していた腕を斬り落とした。
地面に落下しそうになった狐面の少女を抱え、鬼から距離を取り着地する。
「無事か?」
一夏は、真菰の容態を確認する。透き通る世界によると、鬼に掴まれていた腕の骨にヒビが入ったようだ。その他は、掴まれた時の跡が出来ていたくらいであった。
「(腕の骨以外は異常無しか。しかしこの状態じゃ、まとも戦うのは不可能だな)」
一夏は少女を降ろし無事を確認すると異形の鬼に顔を向ける。
「ちきしょうちくしょうちくしょう!このガキがぁぁぁ!!折角鱗滝の弟子を殺すところだったのに!!俺の邪魔をしやがってぇぇ!!!」
鬼はブチ切れながら二人にに向かって何本もの拳を伸ばして突き出す。
「日の呼吸 肆ノ型・灼骨炎陽」
一夏は刀を両腕で握り、太陽を描くようにぐるりと振るい、迫る手を全て斬り裂いた
「(ど、どういうことだ…!?コイツに斬られた腕が再生しない!!それに、さっき斬られた腕もだ⁉︎)」
鬼は何が起きたか分からなかった。この“手鬼”は普通の鬼とは違い、再生は早い方だった。目を逸らしたことは一瞬たりともない。だが、気付いたときには頸の守り以外に使った手を全て斬られていた。何が起こったのか。こいつが刀を振るった瞬間さえ見えなかった。
「(す、すごい…あいつの攻撃を…一瞬にして)」
真菰は一夏の美麗の剣筋に驚くも、一夏は無表情で冷静だった。
「君は下がれ、ここは俺が「それは無理」…え」
「助けてくれてなんだけど、あいつの頸は私に斬らせて、あいつは、私で決着をつけなきゃいけないの…お願い」
真菰はジッ、と真剣な目線を一夏に送る。きっと、あの鬼はこの少女にとって何かがあるのだろうと一夏は判断する。一夏は戦わせたくなかったが、少女に内に秘めた覚悟があるのを感じ取る。
「……分かった。ただし君は奴の頸だけを狙え、俺が道を切り開く。いいな」
「充分!ありがとう!!」
「よし、行くぞ!」
真菰は笑みを浮かべる。そして、二人は刀を構えて同時に鬼に目掛けて走り出した。
「調子に乗るなぁぁぁ!!!お前も纏めて食い殺してやる!!」
鬼は咆哮を上げながら腕を伸ばして拳を突き出す。
「気をつけて!!そいつの手は地面から」
「わかってる」
真菰の叫び声を聞いて、一夏は予期していたかのように跳び上がる。すると、地面からは鬼の腕が現れた。
「(なっ⁉︎この攻撃をッ!?)」
まさか躱されるとは思ってもいなかったのか、鬼は驚きの表情を浮かべる。
空中に浮いていたが、重力によって落下していくのを確認しながら
「花の呼吸 陸ノ型・渦桃」
地面から突き出された拳に一夏は空中で体を大きく捻りながら斬り付ける。
一夏が何故花の呼吸を使えるのかーーーカナエとの鍛錬の賜物だ。ただし一夏が使える花の型は伍と陸のみである。
「がァァァァ!!!」
赫刀に斬りつけられたことにより、手鬼は痛みにもがいている。そして赫刀に斬りつけられた腕は再生する気配はない。
「(どう言う事だ?)」
一夏は何故手鬼の腕が再生しないか疑問を持つが、後回しにし、目の前に迫ってくる腕を次々と斬り落とし、少女が行動しやすいような状況を作っていく。
そして、遂にーーー
「痛い!!クソぉぉっ!!なんだこの痛みは⁉︎何故腕が再生しないんだ!?」
首以外に巻き付いている腕と伸ばした一本を残し、全て斬られた鬼は身動きすることが出来なくなった。あとは手鬼の頸を少女が斬るだけだ。
「今だ!!」
「うおぉぉぉおおおおおおお!!!」
身動きが取れないうちに、真菰は残った鬼の腕に乗って呼吸を吸う。
「(錆兎、私に……力を貸して!!)」
ーー全集中 水の呼吸 壱の型
「水面斬り!!」
「ッッ!?」
スパァァン!!と真菰の振るった刀が巨体の鬼の頸を斬り落とした。
「やっ、やった」
少女は着地し、その場で座り込み、頸を斬り手鬼の頭を見やると、鬼は徐々に消滅していく、何か嘆いていたが、体が灰になりかけている手鬼は、何かを思い出したかのような目に変わっており、涙を流しながら手を伸ばしていた。
「兄ちゃん......兄ちゃん......どこに、いるの?」
「………っ」
今の異形の鬼から邪気は感じられなかった。目の前の鬼は、とても悲しくて、寂しそうな子どもだった。
「………」
一夏は刀を鞘に納刀し、鬼に近づき、伸ばした手に触れて、額をつける。
「大丈夫、君の兄ちゃんは向こうで待っていてくれてるよ。次があったら……来世は平和な世界に生まれ変われるといいな。」
不思議と、触れた鬼の手は、人のように温かい。
「(陽だまりのような……匂い)」
少女が持つ五感で見た一夏はまるで日輪のように温かい匂いがした。
「あ…りが……とう…耳飾りの…お兄さん」
その言葉を最期にパラリと灰になって散っていった。
「耳飾りのお兄さんか……生まれ変わっても、兄弟仲良くな」
手鬼の消滅を確認した一夏は、その場に座り込んだ狐面の少女真菰と対面するように腰を落とす。
「大丈夫か?動けるか?」
「うん、なんとか。助けてくれてありがとう。あなたが来てくれなかったら、私は殺されてた」
「そうか、一先ず手当てをできそうな場所へ移動しよう。この場に止まったら他の鬼が集まる」
俺は、少女を左手を握り、立たせて、肩に手を回しながらなんとか移動する。そして、安全そうな場所を見つけ、少女を木に背をかけさせた。とりあえず少女に見えないよう手を後ろに隠し、拡張領域から、包帯と傷薬を取り出す。胡蝶しのぶ大先生特製の塗り薬だ。
「えっ、と……あなた、それ、どこから取り出したの?」
「そこは気にしないでくれ。まずは手当てが先だ。さっき無理して動いたから、右腕の骨二箇所にヒビが入ったみたいだからな。あれ以上に無理をしていたら骨が粉々になっていた所だぞ?」
「ごめんなさい」
「いや、別に怒ってるわけじゃない…“彼”と君は何か訳ありのような感じもしたからな、君の意思を尊重しただけだ。無理だと判断したら俺が頸を斬っていた」
一夏は、真菰の右腕を透き通る世界で確認しながら処置を施し、傷薬を塗った後に包帯を巻く。
「器用だね。お医者さんでもやってるの?」
「世話になってるところが鬼殺隊の療養所でな。仕事を手伝ってたから自然とできるようになった」
「なるほど」
「後は傷の処置だな。まだじっとしててくれ」
「うん」
彼女に確認してから、俺は手や足首に薬を塗った。
「凄い。痛みが引いてきた」
「効果は折り紙付だ。胡蝶しのぶが作る薬は即効性があるからな」
その後、一夏はテキパキと真菰を手当てする。
「よし、これで手当ては終わりだ。動けそうか?」
「うん、大丈夫。だけど……この腕じゃまとも戦うことはできないかな」
先程の渾身の一撃で、今の彼女ではまともに刀は振れない。傷が悪化する恐れもある。正直戦闘は困難な状態だ。
どうするか、と悩むまでもない。状況からして、一緒に行動した方が得策だろう。
「なぁ……えっと」
「あ、自己紹介がまだだったよね。私の名前は真菰」
「真菰か、俺は織斑一夏。歳は十四だ」
「え、私と同い年なの?てっきり年上かと」
「よく言われる。周りからは大人と間違えられやすいんだ。そんなに俺って大人っぽく見えるのか?」
一夏の容姿は十四とは思えないくらい背が高い為よく大人と間違えられ、街に一人で買い出しに出た際も若い女性から視線が強く話しかけられることがよくあり困っていた。それで付いてきたしのぶに何度もヤキモチを焼かせてしまった。その当時の俺は、何故しのぶが不機嫌だったのか分からなかったからなおさらだろう。
「えっと、なんかごめんね」
「気にしないでくれ、もう慣れてる。話を戻すが、君が良ければ後二日、一緒に行動しないか?」
「……そうだね。どの道、この状態じゃまともに戦えないし、お願いしてもいいかな?」
「決まりだな。残り二日…よろしく頼む、真菰」
「うん、頼りにしてるよ、一夏!」
話が決まり、一夏は真菰の日輪刀を拾い、彼女と一緒にこの場を後にした。
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◇七日目早朝
今、俺たちは出口に到着し、鳥居を潜っていた。周りを見渡すが、この場に到着しているのは俺と真菰と、もう一人と一匹がいるのみ
「……私たち…だけ?初日は数十人くらいいたのに」
「そう……みたいだな」
「ようやく戻ったか、一夏」
「伊黒さん、鏑丸も……もう戻っていたんですね」
「ふん、あの程度の鬼、俺から見ればどうって事はない、その様子だとお前も同じようだな」
「はは…」
一夏と既に開始地点に戻ってきた伊黒は目立った外傷も汚れもなかった。ほぼ開始時点と同じ姿で戻ってきていた。
「あの、一夏…この人は?」
「伊黒小芭内さん、一時期修行をしていた仲かな。首に巻き付いてる白蛇が鏑丸」
「シュー」
「わぁ、綺麗な蛇」
「ジロジロ見るな…鬱陶しい」
――――選別の合格者は、三人だけ。
選別開始時は三十人居た筈なのに、合格者は一夏と伊黒、真菰の三人だけだった。
「お帰りなさいませ。ご無事でなによりです」
一夏たちの到着を待っていた、白髪の女性が説明を始める。
「まずは隊服支給の為、体の寸法を測らせていただきます。その後は階級を刻む『藤花彫り』をーーー階級についてですが、十段階ございます。甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸……今現在の御三方は、一番下の癸でございます。それから、御三方の為に鎹鴉を……」
女性が手を叩くと、上空から三羽の鴉が下りて来て、一夏と小芭内、真菰の肩に留まる。
「鎹鴉は、主に連絡用の鴉でございます。任務の際は、鎹鴉でご連絡致します」
鎹鴉……一夏は最初見たときはただの鴉と思っていたが、鎹鴉が喋ったのを見て「鴉って喋るものなのか?」と大変驚いたのも良い思い出だ。
そして今この鴉が、一夏の相棒となるわけだ。
一夏は一言「これからよろしくな」と挨拶すると、鴉は「カァー」と一鳴き……どうやら「よろしく」と返事をしてくれたらしい。
「では、こちらをご覧ください」
そして手前に置いてある長台に視線を向ける。そこには、幾つかの鉱石が置かれていた。
「こちらから刀を創る鋼を選んでくださいませ。鬼を滅殺し、己の身を護る刀の鋼は、ご自身で選ぶのです」
一夏達は長台の前まで移動し、鋼を見つめる。
「(どう言う基準で選べばいいんだ…これは?)」
どの鋼が良いのかが解らないので、伊黒の方は鏑丸が選び、一夏と真菰はほぼ直感で選んだ。
その後、隊服を支給され階級を刻み、一夏と真菰は下山した。ちなみに、刀が仕上がるまでは十日から十五日程かかるということだ。
◇
「真菰…腕は大丈夫か?」
「うん、激しく動かさなければ大丈夫かな」
一夏が、念のために、透き通る世界で確認した結果、全治一ヶ月はかかるようだ。
「一ヶ月くらいは鍛練をやめた方がいい。まずは怪我を治すことに専念するんだ。いいね?」
「アッハ……うん、わかった」
「よろしい…そろそろ俺は帰るよ。みんな待ってるしな」
「そうだね。私も鱗滝さんが待ってるから」
そして、三人は別々の道を歩み始める。
「一夏!伊黒さん!またねぇー!お互い生きてまた会えた時は何かお礼させて!」
一夏も振り向き、「ああ、またな」と一言だけ返した。
「ふん、随分と仲がいいみたいだな、一夏」
「さっき話したように、異形の鬼がいてなんとか助けられたようなものです。その後は一緒に行動しました。」
「お前とは反対方向にいたからな…その手鬼とやらを見ることはなかった」
伊黒には山を下る際に手鬼の事を話しており事情は知っている。伊黒は事情があり、まだ女性に対して苦手意識があるのか自己紹介だけで終わった。瑠火に対してはある程度はましになったと言う。
「伊黒さんは、煉獄邸に戻るんですよね?」
「ああ、何か伝言があるならば伝える」
「俺も無事に最終選別を合格しましたって伝えてもらっていいですか?」
「伝えておく」
伊黒は踵を返し、煉獄邸への帰路を歩く。
「… “小芭内さん”!お互いこれから頑張りましょう!小芭内さんから教えてもらいたことも沢山ありますから」
一夏が煉獄邸に戻った際、小芭内と書道をしたことがある。小芭内の書く字は、それはそれは綺麗な文字で書かれていたのだ。
小芭内は足を止めず歩くが一夏は確かに聞こえた。小芭内から穏やかに笑う声が聞こえたから……。
「さて、俺も…帰るか」
一夏も蝶屋敷へ帰路を歩く
◇~夜~
「(もう日が暮れたのか、早いな…時が経つのは。千冬姉…束さん、弾、鈴、蘭、箒、今…どうしているのだろうか)」
山を出て未来にいる友人達を思い浮かべながら、蝶屋敷を目指して歩いていたら、数刻後に日が落ちてしまった。その時、鴉が空中を旋回する。
「(ん?あの鴉…しのぶの鎹鴉か?なんでこんな所に?)」
一夏は最終選別を終えたばかりの為、一夏用の日輪刀も届いてないし、支給された隊服にも袖を通していない。
――そして、次の鴉の叫びで一夏に驚愕が走る。
「カー!カー!胡蝶しのぶヨリ通達!一里先ノ町デ花柱・・ガ十二鬼月、上弦ノ弐ト交戦中!隊士ニナッタバカリダガ、一夏、即刻向カエ向カエ!」
「っ!カナ姉が単独で迎撃してるのか!?」
「ソウダ!伝エ聞イタ同志カラノ話デハ、カナリ押サレテイルソウダ!急ギ救援二向カエ一夏!」
「……わかった、すぐに向かう!」
十二鬼月、鬼の始祖である鬼舞辻無惨が選別した直属の配下で、“最強”の十二体の鬼とのこと。
十二鬼月については、元炎柱の槇寿郎から説明されている。幾度と戦った柱が返り討ちにあったと言うくらいの実力らしい。槇寿郎さんの父も上弦にやられたとも聞いた。
十二鬼月の上弦は、数百年の間、討伐された記録がないらしい。
一夏はこの状況でも落ち着いており、即座に駆け出す。
「必ず助ける。これ以上……家族を喪ってたまるか!!」
一夏はあの光景が脳裏に浮かび、日輪刀の柄に右手を添える。
次の瞬間、一夏は火が見えるほど爆発的に加速し、カナエの元に向かった。
中の人の繋がりで、一夏に使わせるとしたらどっち?
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神気合一
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冥我神気合一