日輪を宿す暁   作:狼ルプス

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日輪刀と担当刀鍛冶 

ーーーチュンチュン

 

朝日が昇り、スズメの囀りを目覚ましに、一夏はゆっくりと瞼を開けた。

 

「う、ぅん、朝、か?」

 

とても心地よい朝。陽だまりのような優しい温もりによって、一夏は昨日までの疲労を忘れてしまうほどの快調を感じている。

 

「(そう言えば俺、しのぶに想いを伝えたんだったな。あんなに緊張したのは初めてだ)」

一夏は目の前を見ると、しのぶが眠っていた。

 

「そうか、あの後寝落ちしてしまったんだな」

申し訳ないという気持ちが渦巻く中、しのぶは気持ちよさそうに布団に包まりながら幸せそうな顔を浮かべて寝息を立てている。それを見て一夏も思わず笑みを浮かべ、しのぶの顔をそっと撫でた。

 

「はは、いったいどんな夢を見ているんだ」

しのぶの寝顔を見つめる。すると一夏は耳元に顔を近づけ、

 

「これからも、色々とよろしくな…しのぶ」

そう囁くと、しのぶを起こさないように起き上がり、自室から退室する。部屋には眠ったしのぶだけが残った……………………が、

 

「〜〜〜ッ、バカ!」

実はしのぶは一夏より前に起きており、寝ているふりをしていたのだ。しのぶの顔は林檎のように真っ赤に染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから俺としのぶは晴れて恋人になったが、いつもと変わらず過ごしている。想いを告げて次の日からは気恥ずかしく顔を合わせるだけでも恥ずかしかった。

 

 

 

だが、アオイ,きよ,なほ,すみから何故か祝福された。どうやらアオイが偶然俺たちの部屋に来た際、一緒に眠っているのを見たらしい。布団をかけていたのはアオイが気を利かせてくれたようだ。アオイからは「やっと想いを告げられましたか」と、やれやれと、言うような感じだった。

カナヲも声は小さいが、「お、おめでとう、一夏兄さん」と祝福してくれた。俺がカナヲの頭を優しく撫でながら「ありがとう」と言うと、カナヲは気持ちよさそうにしていた。

 

 

 

 

カナ姉は一週間後に目を覚ました。しのぶは涙を流してカナ姉に抱きついた。そしてあのカナヲも涙を流していた。カナヲが涙を流していたのを見て、俺達三人はカナヲが泣き止むまで優しく抱きしめた。

 

 

 

そして、ことが落ち着き、カナ姉にしのぶに想いを伝えたのを報告すると、「式はいつあげるの!」と言われた。気が早すぎると内心突っ込んだ。俺としのぶはまだ十四だ……………いや、ある童謡では「十五で、ねえやは嫁に行き」と歌っていたけれども。

 

 

◇最終選別から十二日後

 

一夏は現在蝶屋敷の道場内でしのぶと稽古をしている。二人は木刀をぶつけ合い汗を流していた。

 

 

「(蟲の呼吸 蜈蚣ノ舞・百足蛇腹)」

強烈な踏み込みと同時に四方八方にうねる百足のような動きで撹乱するが、一夏は冷静に呼吸を整え木刀を構える。

 

 

ーー日の呼吸 漆ノ型・斜陽転身

しのぶの攻撃を躱しながら鋭い一薙を放つ。

 

 

「…くっ!」

 

しのぶは一夏の攻撃をなんとか受け流し距離を取る。しのぶは呼吸を整えながら一夏の追撃に備えるが、一夏が動く気配はない。よって、しのぶが先に仕掛ける。

 

ーー蟲の呼吸 蜂牙ノ舞・真靡き

 

 

ーー日の呼吸 伍ノ型・陽華突

 

一夏は、しのぶの突きを自身の火の突きで相殺し交差する中、追撃としてしのぶに木刀を振るう。しのぶはなんとか受け止めるも押されて後方へ下がる。

 

 

「(やっぱり一夏は強い。上弦の鬼すら無傷で倒せる実力、私が到底勝てるなんて思ってない。でも、せめて一瞬の隙を狙って……)」

 

 

「日の呼吸改・円舞回天」

 

「(っ!早い!)」

しのぶは判断が遅れ、木刀に重い三回転の円舞が当たり吹っ飛ぶ。しのぶはなんとか受け身は取るが受けた攻撃が重く手は震えてしまっている。

 

 

「はあ、はぁ、はぁ」

 

「…………」

しのぶは息を荒立ててはいるが落ち着き呼吸を整える。対して、一夏は汗をかいておらず、息は一つも切れておらず、表情一つも変えず凪いている。

 

「(一か八か、あの型で一瞬の隙を狙うしかない)」

 

ーー蟲の呼吸 蝶ノ舞・戯れ

 

 

「日の呼吸 肆ノ型・灼骨炎陽」

一夏は刀を両腕で握り、太陽を描くようにぐるりと木刀をしのぶに向けて振るう。

 

 

「日の呼吸 拾弐ノ型・炎舞」

 

 

「(ここだ!)」

 

ーー蟲の呼吸 妖蟲の舞・幻風虹影

 

 

「なっ…」

二連撃が不発と終わってしまったのだ。これには一夏も驚きを隠せなかった。

 

《妖蟲の舞・幻風虹影》は、これまでの一夏との鍛錬の果てにしのぶが編み出した剣技である。

日の呼吸の「㭭ノ型・飛輪陽炎」と「拾壱ノ型・幻日虹」の要素を取り込んだ剣技で、突きではなく切り払いに近いカウンター寄りの防御・回避技だ。相手の攻撃に合わせて切り払いによるカウンターを仕掛け、同時に「幻日虹」の残像によるかく乱効果と「飛輪陽炎」の本質そのものの認識をかき乱す効果により相手を幻惑し、攻撃を外させる。感覚が鋭い相手、そして戦闘経験が豊富な相手に対して特に効果が発揮され、特に感覚が鋭い相手ほど幻惑効果が強く長く残る。

 

 

「蟲の呼吸 虻ノ舞・瞬き!」

 

一夏の一瞬の隙をついて死角に回り込み、首に向けて攻撃をする。

無表情だった一夏は一瞬だけ表情を変えたが、直ぐに木刀の刀身でしのぶの攻撃を防ぐーーーが、

 

「…っ!」

 

 

 

バキババキバキ!

 

「…なっ⁈」

しのぶの技により、一夏の木刀にヒビが入り、砕けてしまった。そのまましのぶは一夏の首に木刀の切っ先を当てた。

 

「はぁっ、はぁ、はぁ」

 

「…………」

 

「はぁ、私の勝ち……よね、一夏?」

 

「ふふ、ああ…俺の負けだしのぶ、降参だ。」

一夏は両手を上げ降参の姿勢を取る。しのぶは木刀を下ろしその場にへたり込んでしまう。

 

「やった、一夏に……一夏に勝てた」

 

「千冬姉以外に負けたのは初めてだ。やっぱり凄いよ、しのぶは」

一夏はしのぶに手を差し伸べながら称賛する。しかし一夏は全集中を身につけた状態で千冬と手合わせをしていないため、世界最強を超えていると気づいていない。

 

「あ、ありがとう一夏」

しのぶは嬉しそうに、一夏の手を掴み立ち上がる。満ち足りた表情をしていた。

 

「それより一夏、あんたわざと負けたんじゃないでしょうね?」

 

「そんなわけないだろ?まぁ、しのぶに合わせてやっていたのは確かだが、しのぶは自身の限界を超えて俺から一本取ったんだぞ?まさか木刀を砕いたのは予想外だったが…」

 

 

「ならいいけど」

 

「それとさっき俺の攻撃を回避した技、日の呼吸を合わせた技か?」

 

「うん、自分なりに形にしてはみたけど、ここまで上手くいくとは思ってなかったわ」

 

「そうか、やっぱりすごいな…しのぶは」

 

「全集中の呼吸を独学で身につけた織斑先生にそう言われるなんて光栄ですね〜」

 

「いや、独学といっても、俺の内にいる縁壱さんの記憶を頼りに身につけただけさ」

 

「始まりの呼吸の剣士の生まれ変わり……普通なら信じられない話だけど、信じざるを得ないわよね。髪と目に変化も起こるくらいだし」

 

「はは、魂は宿ってしまってはいるが、俺は俺だ。俺は織斑一夏で継国縁壱じゃない」

 

「そうね、一夏は一夏だもの」

 

「………ありがとう、しのぶ」

 

しのぶは微笑みながらそう言ってくれた。その言葉に、一夏は笑みを浮かべる。しのぶの言葉に一夏は何処か嬉しそうだった

 

 

「しのぶは知っているとは思うが、縁壱さんは戦国時代の人だ。しかも鬼殺隊に呼吸を教えた始まりの呼吸の剣士だったんだ」

 

「“始まりの呼吸”……一夏が使ってる日の呼吸よね」

 

『始まりの呼吸』ーーー戦国時代において鬼舞辻無惨をあと一歩まで追いつめた鬼殺隊の核である「始まりの呼吸の剣士」が一人……それが、一夏の内にいる人物であり、日輪を体現したような存在である継国縁壱だ。

 

日の呼吸は、他の全集中の呼吸の源流である

 

「ああ、俺は縁壱さんの記憶で剣技に魅了されたんだ。それから独自で死ぬほど鍛えた、弱い自分から変わる為に……」

 

「弱い自分から変わる為に……か。私から見ると信じられないわ、一夏にもそんな頃があったなんて」

 

「前にも話したけど、俺は額の痣を理由に周りから気味悪がられた。虐められてもいたさ。正直、束さんに会うまでは全部がどうでもよかった。束さんは俺の痣を褒めてくれたんだ」

 

 

 

あれは、散歩で篠ノ之神社を訪れていた時だった。独りで歩いていると、一人の女性が樹にもたれながらパソコンのキーボードを打って、何かを制作しているように見えた。

 

 

『だれかいるの?』

 

『………』

 

『君は確か……ちーちゃんの弟君だよね?』

 

『……』

 

『だったらいっくんだね!私は後にてぇんさぁい科学者になる篠ノ之束だよ〜、よろしくね!』

 

『……』

一夏は無言で光の宿していないえんじ色の瞳で束を見ていた。

 

『え、えーと、何か言ってもらえると束さん嬉しいかな〜、一人で勝手に喋ってアホらしく感じるから』

 

 

『……千冬姉の…友達?』

 

『あっ、やっと喋ってくれた!そうだよ、私はちーちゃんと親友なのだ!それといっくん、どうしてここに?』

 

『ただの散歩…それだけ』

一夏は無表情で簡単な受け答えをする。しかし束は、一夏の事をある程度千冬から聞いていた為、少し思案した。

 

『(ウーン、ちーちゃんの言った通りあまり感情を出さないね。それにちょっと妙な気が)…って!いっくん、それどうしたの!』

束は一夏の腕を見ると何かをぶつけられた痣があった。

 

『…別に、階段で転んだだけだよ』

 

『どう考えてもそれで出来たもんじゃないよ!』

束は、慌ててパソコンを閉じて、一夏を強引に自身の部屋に連れて行き、湿布などを貼り付けた。

 

『…いっくん、いったい何があったの?誰かにやられた痕だよね?』

 

『……』

一夏は前髪を額が見えるように退けると痣があった。その痣の形は異質だった。

 

『いっ、いっくん……』

 

『痣だよ、俺は生まれつきこの痣があるんだ。これが原因『なんかかっこいいね!』……へ?!』

一夏は束の突然の言葉に驚き素っ頓狂な声を出してしまう。

 

『だって陽炎みたいな形した綺麗な痣なんてなかなかないよー!将来絶対ちーちゃん並みにかっこよくなるんだから!それに、いつかいっくんを受け入れてくれる人は必ず現れるよ。なんたって天っ才の私がその第一号だから!』

 

『…本当に?』

 

『うん!タバネサン、ウソツカナイ!それと、いっくん、宇宙に興味ある?』

 

『宇宙?』

 

『おっ、知りたい?だったら教えてあげましょう!』

それから束とよく関わるようになり、一夏の瞳に光が宿った。そして一夏は束の発明品にも興味を持ち目を輝かせるようになった。

 

 

 

「千冬姉、そして、束さんのおかげで、今の俺がある」

 

 

「そう、今の一夏を創ってくれたのは、その人達のおかげなんだね」

 

「ああ、俺にとっては尊敬する二人だ」

その後、二人は縁側に座りながら雑談していたら、居間の方からアオイの声が響く。

 

「一夏さーん、お客様でーす!」

 

 合点がいかず、一夏は首を傾げる。

 

「もしかして、日輪刀じゃない?」

 

「言われてみれば、今日を合わせたら十三日目だったな」

 

 

 

 そして一夏が、自分のために打たれた刀を持ってきてくれた人の元へ向かうと、その人は玄関に腰をかけていた。

 

 

「俺は鋼鐵塚蛍と言う者だ。織斑一夏の刀を打ち、持参した」

 

「織斑一夏は自分です。わざわざ遠い所ご足労様です。中へど「これは日輪刀、俺が打った刀だ」……」

 

「日輪刀の原料は、太陽に近い山で採れる猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石。それで日の光を吸収する鉄が出来る」

 

「(ヘェー、日輪刀の素材はそうやってできるものなのか)」

 

鋼鐵塚と名乗った刀鍛冶は一夏の挨拶を遮って話し始めたが、元々一夏は日輪刀の詳細を聞いた際、素材が気になっていた為、素直に話を聞くことにした。

 

 

そして、勢いよく一夏に振り向いたその顔はひょっとこの面をつけていた。

 

「(何故にひょっとこ?ああ、鍛冶屋だから、竈の神を!)」

 

「ん?んん?んん!おいお前、赫灼の子じゃねぇか。これは縁起がいいな」

 

 

「赫灼の子…それは一体なんですか?」

 

「頭の毛が赤みがかって、目ん玉が赤いだろう。火仕事をする家はそういう子が生まれると縁起がいいって喜ぶんだぜ。」

 

「いや、俺は火仕事は全く縁はないのですが……それにこの髪は訳ありで変色してしまっただけのものでして」

 

一夏の髪と瞳は縁壱との擬似的な同化にによって、髪の先は赤みを帯び、瞳の色は赫く変化していた。

 

「そんな事は関係ない、こりぁ刀も赤くなるぞ」

 

その後、鋼鐵塚を居間へ案内した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでしのぶとアオイもいるんだ?」

 

「いいじゃない、一夏の刀…何色になるか気になるし」

 

「す、すみません。私も気になったので」

 

 

「さぁ、さぁ、抜いてみな。日輪刀は通称“色変わりの刀”と言ってな、持ち主によって色が変わるのよ」

 

「(色変わりの刀…か)」

 

日輪刀の色変わりは杏寿郎の担当刀鍛冶から説明されている為、知っている。そして一夏の手元に日輪刀が置かれた。黒い鞘に金色の鍔,黄色の下緒,白色の柄といった色合いだった。

 

「(抜くか。俺の場合は赫色、もしくは)」

 

内心一夏は何色が出るかワクワクしながら抜く。すると刀は鋼鐵塚の期待した赤ではなく深い漆黒の色に変色した。

 

「黒っ!?」

 

「黒いですね」

 

「……真っ黒ね」

 

 

 

予想に反して漆黒に変色した刀を見て一夏はなぜか嬉しそうに微笑んでいた。

 

「(縁壱さんと同じ漆黒の刀、やっぱり…黒の色は日の呼吸の適性で間違いなさそうだ。それに握り心地もいい、流石職人さんだ)」

 

一夏は刀の出来に素直に感嘆する。これほどの職人が自身の担当になったことに対して尊敬の意が現れる

 

 「キーッ!俺は鮮やかな赤が見られると思って楽しみにしてたのにぃ!!クソガァ!!」

 

一方納得いかない鋼鐵塚は暴れだすが、一夏はその場から移動していた為に不発に終わる。

 

「私達の屋敷で暴れないでください!あなた一体何歳なんですか?」

 

「三十三だ!!」

 

「三十三!?大人げなさすぎますよ!!少しは冷静さというものを身に着けたらどうですか!」

 

 しのぶは、荒れる三十三歳児にあきれるしかない。アオイも呆れの視線を向けている。一夏は既に庭に移動しており、右手には鋼鐵塚の打った刀を握っていた。

 

「おいガキ!俺の話は終わってねぇ……ぞ」

鋼鐵塚の言葉は続かなかった。今、一夏が握っている日輪刀が漆黒の色から赫く紅蓮に染まったからだ。

 

 

「日の呼吸 壱ノ型・円舞」

 

一夏は日の呼吸を行い型を繋げていく。その太刀筋は無駄もなく美しい剣捌きだった。

 

「相変わらず綺麗ですね。一夏さんの日輪ノ神楽は」

 

「ええ、何度見ても精霊が舞っているようだわ」

 

一夏はしばらく日の呼吸を繋げ続け、暫くして手を止めた。そして、握っている刀を見つめながら鋼鐵塚の元へ赴いた。

 

「鋼鐵塚さん、この刀…凄く手に馴染みます。こんな凄い刀を打ってくれて、ありがとうございます」

 

すると鋼鐵塚は一夏に迫り両肩を掴みかかる。

 

「おいお前!なんで刀の色が赫く変わった⁉︎教えろ!どうやったら色が赫く変わるんだ!」

お面越しだが、一夏には透けて見える為すごい形相で迫ってくるのが分かる。そして問われた一夏はつい、

 

「どうって、ただ強く柄を握っているだけとしか」

 

ピントのズレた答えを返す。

 

 

「テメェふざけてんのか?」

 

 

 

 

その後キレられた。日の呼吸のことを説明すべきだったか?

 

その後なんとか鋼鐵塚さんを落ち着かせたが、帰り際に「刀折ったら殺す」との言葉をいただいた。そして、鋼鐵塚さんは長居すること無く帰って行った。

 

 

そして一夏は縁側で一人、漆黒の色から太陽のように、紅蓮に染まった自身の日輪刀を見つめていた。

 

「(赫い刀、この日輪刀でわかったことが一つ、この状態の日輪刀は鬼の再生能力を阻害することができる)」

 

一夏は最終選別と上弦の鬼との戦で赫い日輪刀の謎が一つ解けたのだった。

中の人の繋がりで、一夏に使わせるとしたらどっち?

  • 神気合一
  • 冥我神気合一
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