「な、何だあの子供は!?まるで継国縁壱そのものではないか!」
上弦の鬼の一角が欠けた。しかもそれはたった一人の剣士により打ち砕かれた。
世にはこびる鬼達の頭である鬼舞辻無惨は冷や汗をかき、信じられないと言うような表情をしており、童磨を通して見た一夏に恐れをなしていた。
鬼舞辻無惨は一夏の何も映していない瞳や何を考えているか分からない表情に、頭部にある陽炎模様の痣に、そして紅蓮に染まる刀、何百年も前に死んだ継国縁壱を思い出していた。
「こんな悪夢があってたまるか!鳴女!」
「はい。此処に」
「今すぐ他の上弦を集めておけ……いいな!」
「…畏まりました。無惨様」
今まで見たことない無惨の態度に鳴女と呼ばれた鬼は何とも言えない表情をするがすぐに命令に従う。
「は、ハクシュッ!」
当の本人は庭の掃除をしていた。
「(なんだ?誰か俺のこと…噂しているのか?)」
一夏は現在、鍛錬をしながら蝶屋敷にて手伝いに明け暮れている。日輪刀を貰い、今は隊服に袖を通しているだけで、鎹鴉からの指令は今の所はない。
「(あの時、上弦に使った花と蟲を織り交ぜた改の技も違和感があった。本当に、いったい何が原因なんだ?)」
上弦の鬼との戦いで日の呼吸に他の呼吸を織り交ぜた改の技、日と花で《輝輝恩光・緋空斬》、日と蟲で《陽華突・無想覇斬》……この二つの技も《碧羅の天・斬月》と日と炎を織り交ぜた技と同じく違和感があったのだ。
「(しばらく使わない方がいいかもしれないな)」
一夏はしばらくこれらの技を封印する事にし、作業に集中する。すると上空では鴉が旋回しており、一夏の眼前に近づく。
『よぉ、よぉ!オイ一夏ちゃんよぉ、お館様がお呼びだぜ!準備ができたら胡蝶カナエと共に向かえってさ!』
俺の鎹鴉が指令を受ける。俺の鴉は何故か他の鎹鴉と違い何故か流暢に話す鴉だ。カタコトではなく流暢に喋った時は俺もしのぶも、そして、アオイも驚いた。
「お館様?お館様って、鬼殺隊の当主の人だよな?柱のカナ姉ならわかるけど、何故俺を?」
『そんなこと俺が知るわけねぇだろ?ホラ、とっとと準備しな』
それだけ伝えると鴉はどこかに飛んでいってしまう。
「一夏さん!後は私がやっておくので、すぐに準備を!」
「すまないアオイ、後は任せる」
丁度一夏の鴉の伝令を聞いたアオイが作業を引き受けてくれたので、一夏は急いで部屋に戻り、隊服の上に赤色の羽織を着て、出掛ける支度を整えていた。支度が終わり、部屋を出るとカナヲと出くわした。
「一夏兄さん、何処か……行くの?」
「ああ、お館様から招集されてな。少し出かけるよ、すぐに帰ってくるから」
「わかっ…た。いって…らしゃい、一夏兄さん」
一夏はカナヲを撫でながら言う。カナヲはだいぶ喋れるようになってきた。まだぎこちない所もあるが、カナヲは笑うことも多くなってきた。
「ああ、いってきます」
俺はカナヲの頭を撫で、そう言ってから玄関を出て、蝶屋敷から出た。鴉にお館様の所へ案内をしてもらおうとしたら、隠の人がやって来た。
「よっ、やっときたか一夏」
「後藤さん」
俺の元にやって来たのは鬼殺隊の隠を務める後藤さんだった。
後藤さんとは負傷した隊士を運んできた際に関わりを持ち話すようになった。暇な時は三人娘達の相手をすることもある。
「後藤さんは何用で此処に?」
「お前をお館様の元に連れていく為だ。胡蝶様は先に行ってる。まずはこれを付けろ」
後藤さんはそう言いながら黒い目隠しを取り出して俺に渡してきた。
「これは?」
「お館様の所への道は、柱か隠以外は覚えちゃいけねぇんでね。目隠しをしてお館様の元に連れていくのが決まりなんだ」
「俺に目隠は意味がないような……」
「目を瞑ればいいだろ!俺がお前を背負って向かうんだよ!」
俺が後藤さんの指示に従い背中に乗ってから目隠しをすると、後藤さんは走り出した。
「(こいつ熱いな、熱でもあるのか?)」
一夏を背負いながら走っている際、後藤は余りの一夏の体温の高さに心配をしていた。
◇
目隠しをした上に目を瞑りながら、後藤さんの背中で揺られながら、運んでもらっていると急に立ち止まった。そして、ゆっくりと俺を降ろして目隠しを取ってくれた。
「此処がお館様の御屋敷だ」
「すごい….」
「じゃあ、俺の仕事はここまでだから、くれぐれも失礼のないようにな」
「わかりました。ここまでありがとうございました、後藤さん」
お礼を言うと、後藤さんはこの場を走り去って行った。俺は御屋敷の門に近づいて、門を三回叩いた。すると、直ぐに、あまね様が出てきた。最終選別の説明してくれた御人だ。
「お待ちしておりました織斑一夏様。こちらへどうぞ」
屋敷内に入って、あまね様の後に着いてお館様のいる所へと向かった。あまね様の後ろに着いて歩いていると、人の話し声が聞こえる一室に着いた。
「失礼致します...。耀哉様、一夏様をお連れ致しました」
「ありがとう、あまね...。中に入ってくれるかい?」
あまね様の後に続いて部屋に入った。部屋に入ると、部屋の中に居る人達の視線が全て俺の方に向いた。
扉を開けると、行燈が照らす室内に元を含め五人の柱が座っていた。その場には、カナ姉の姿もある。
「階級癸、織斑一夏。招集の為参上しました」
そう言ってから一礼する。御館様の鴉経由で柱たちに伝わっていたらしいので、一番下の階級の俺が呼ばれたことに関しては突っ込まれることはなかった。
「久しいな一夏、息災で何よりだ」
「お久しぶりです悲鳴嶼さん、お元気そうで何よりです」
悲鳴嶼は、一夏達が胡蝶夫妻を亡くした際、一時期お世話になった人だ。カナエからは元気にしていると聞いていたが、こうして直接会うのは三年ぶりとなる。
「悲鳴嶼さんと知り合いか?胡蝶よォ。こいつか?お前が言っていた奴は」
風柱こと不死川実弥の問いに、カナエがにっこり笑う。
「ええ、彼が織斑一夏。私の家族で、一度も勝つことができなかった凄い子よ」
そう言うカナ姉だが、視線が俺に一気に集まる。
「こいつに勝てなかっただァ?てかァ、織斑は何者なんだァ?」
実弥の言う通り、悲鳴嶼を除き、階級癸の織斑一夏の名前は誰も聞いたことがないのだ。
「さっきも話したように一夏は私の家族よ。強さも、柱以上の実力に匹敵するわ」
「胡蝶の家族だァ?つか、弟がいるなんて聞いたことねェぞォ」
実弥の疑問…いや、他の柱たちの疑問は尤もだ。事情を知っている悲鳴嶼を除きカナエに弟がいるなんて聞いたことがない。
「一夏は妹の恋人でもあり、家族だから知らなくて当然よ。――それに、一夏がいなければ、私は死んでいたでしょうね」
カナ姉の言う通り、あの時しのぶの鴉の伝令がなければ、カナ姉の首は鬼の扇によって斬り落とされていただろう。
「初めまして一夏。私は産屋敷耀哉、今日は来てくれてありがとう」
「いえ、私の様な一隊士をお呼びいただきありがとうございます」
一夏は膝をついて産屋敷耀哉にそう言った。
「お館様、この隊士は本当に上弦の鬼を単独撃破した少年なのでしょうか?」
柱の一人、音柱・宇髄天元が一夏についての説明を産屋敷耀哉に求めた。産屋敷耀哉は、天元の問いに答えた。
「本当だよ……」
未だ納得出来ない天元に産屋敷耀哉は優しい声色でそう答えた。他にも納得出来ない様子の柱達に産屋敷耀哉は静かに語り出した。
「今年の最終選別合格後、一夏は、上弦の弐と戦闘を行った花柱・カナエの元へ単独で救援に向かい、上弦の鬼を討伐した。一夏は100年動かなかった均衡を破った。これはどの柱にもできなかったことだ。鬼殺隊を代表して、君に感謝する」
「……私は、家族を助けただけです。そんな大層な事はしてはおりません。」
「それでもだ。ありがとう、一夏」
「……有り難きお言葉。」
「さて……一夏、本題はここからなんだ。今現在柱は五人。カナエは今季をもって鬼殺隊を引退することになり、四人となる。本来の規定人数より5人下回る状況だ。そこでだ、上弦の弐を倒した一夏に、新たな柱になってもらいたい。」
「自分が柱に、ですか…」
予想していなかった訳では無いが、正直柱になる理由が今の所ないのが本音だ。
「申し訳ございません、お館様の提案に頷く事はできません。」
「それは何故だい?」
「私はそこまで大層な人ではないからです。運良く鬼を一体倒しただけで柱にはなれません。それに、私が倒した鬼は油断をしていたので、その隙をついたまでです」
「……わかった。一夏の意思を尊重しよう。最後に、一夏は何の呼吸を使っているか教えてくれないかい?」
「自分が使っている呼吸は……日の呼吸です」
「それは本当かい……一夏?」
お館様とあまね様は驚いた顔になり、カナ姉以外の柱は日の呼吸の存在すら知らないようで首を傾げていた。
「お館様、日の呼吸とは一体何ですか?」
「日の呼吸はね、炎、水、雷、風、岩の五大呼吸の原型となった始まりの呼吸だよ」
実弥の質問にお館様が答えた。縁壱さんは日の呼吸を編み出してから、当時の鬼殺隊士達に日の呼吸を教えるも、誰一人会得出来ず、一人一人に合った呼吸を編み出し、五大呼吸が生まれた。それは縁壱さんの記憶で知っていた。
「一夏、日の呼吸は誰に習ったんだい?」
「それは……」
一夏はどうするか考えていた。この場にいるカナエは縁壱の事を一夏から聞いており彼女以外の人達は全く知らない。皆が皆、信じてくれるとは限らない。
「……一夏、君のことは元炎柱の槇寿郎とカナエから聞いている。今は無理をして話さなくても構わない」
「……!お館様、まさか」
俺は無意識にカナ姉の方に振り向くと、カナ姉は気まずい様子で顔を逸らす。おそらくお館様に話したか、隠し事を見抜かれてしまったかの二択だ。
「(カナ姉ならともかく、槇寿郎さん…そう言えばお館様と飲んで行った時があったような……。帰ってきた時は相当酔っていたから話したのか)……いえ、すべてお話します。自分自身の事を、織斑一夏が何者なのかを」
一夏は内心何をしているんだと槇寿郎にぼやきながらも、耀哉に自分が生まれた時代のこと、そして、独自で呼吸を会得したことも話した。
「派手に信用できねぇな。呼吸はともかく、未来から来た人間とは到底信じられねぇ」
「証拠をお見せましょうか?この時代では到底作れない技術ですから」
一夏はスマホを出すと、カナエ以外は周りは不思議そうに見つめるが、一夏は気にせず無言でいる水柱・冨岡義勇を撮る。そしてそれを天元に見せた時、他の柱も集まってきた。
「これは…」
「マジか!冨岡が鏡みてぇに写ってるじゃねぇか⁉︎」
水柱・冨岡義勇の写真は、背景も色もしっかり写されていた為、周りは動揺しており、言葉が出なかった。
「織斑ァ、テメェは正確にいつの時代から来た人間だァ?」
「平成28……2016年です」
「今から百数年後の時代か、話してくれてありがとう、一夏」
「今の話を信じてくれるのですか?」
「勿論だよ。この世に鬼が存在しているのだから、そんな事があってもおかしくはない。一夏、聞いてもいいかい?鬼は、一夏の時代には存在しているのかい?」
周りからの視線が一気に集まる。未来から来たとあり、一夏は唯一呼吸や鬼の存在も知っている。どうなったのか気になるのだろう。
「鬼は……“俺”の時代では、存在していません」
一夏は確信が持てるからこそ言えた。一夏は未来にいた際、時折、外を出歩くことがあり、この時代で感じた鬼の邪気は感じられなかった。そして人食いとなると一夏の世界は情報が出回るのが早く問題になっているからだ。
「…そうか。よかった…」
その言葉にどんな思いを込めているのか俺にはわからない、その声には安堵のような感覚もあった。
「今回の会議はこれで終わりにするね。一夏、今日は来てくれてありがとう」
「礼には及びません。それと、私が未来の人間だと知っているのは、同期の伊黒小芭内さんと、蝶屋敷、煉獄家の人達です」
「わかった。一夏の事を知るのは、私とこの場にいる柱と一部の隊士のみとしよう」
「ありがとうございます。私はこれにて失礼致します」
一夏は耀哉に頭を下げて部屋を退出した。部屋を退出すると、あまねが部屋から出て来て、一緒に玄関へと向かう。その後は別の隠の人に背負ってもらい、蝶屋敷へ戻っていった。
「(後で槇寿郎さんには問い詰めておかないと)」
槇寿郎は口が堅い方だが、おそらく深酔いすると緩くなると確信していた。
翌日一夏は煉獄邸に訪れ、槇寿郎に説教をする事になった。槇寿郎は今後飲酒は控えめにするように瑠火と共に厳重注意された。酔った勢いで他人に言いふらさないようするためだ。
鎹鴉の性格はデビルメイクライ5のグリフォンを元にしています。
グリフォンの口調ってこんな感じで大丈夫でしたか?
次回もお楽しみに
中の人の繋がりで、一夏に使わせるとしたらどっち?
-
神気合一
-
冥我神気合一