日輪を宿す暁   作:狼ルプス

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一夏の現状

ある家の屋根の上で、一夏はイヤホンを耳につけ音楽を聴きながら、辺りの景色を眺めていた。風が吹き、髪が揺れると、額があらわになる。傍から見ると異質な形に映るであろう、陽炎の形の痣があらわになる。

 

「もう半年か……」

 

タイムスリップしてから半年の間、俺は胡蝶家の世話になっている。

 

何故半年も経ってスマホが使えるかって?それは、俺の知り合いのお陰だ。

 

 

 

ある場所で、一夏は一人木刀を無我夢中で振っていた。

 

その太刀筋からは火が生まれ、その剣舞はまるで日の神が舞っているかのようだった。周囲は動物達が集まっていた。

 

 

『日の呼吸……』

 

そして一夏は日輪を体現するような動きを見せたのち、振っていた木刀を止める。

 

『フゥー』

一夏は一息つくと、身に付けていた腕時計を見る。

 

『六時間、ここまでやっても息切れしないなんて、全集中の呼吸、とんでもない技法だな』

一夏は近くに置いていたバッグから水筒を取り出し、水分補給を行う。

 

 

『ヤッホー、いっくん!元気ぃ〜〜〜!?』

 

『束さん、どうしたんですか…一体』

 

『いっくん、ちょっと頼みがあるんだけどいいかな?』

 

『頼み…また何か作ったんですか?』

 

『ウーン、ちょっと違うかな⭐︎今回はいっくんのスマホを貸してもらおうと思ってさ♪』

 

『スマホを?なんでですか?』

この時の俺の頭の中は疑問符で埋め尽くされてたっけ。

機械のうさ耳を身に付けた女性、篠ノ之束さん……この時から後にIS(アイエス)を作り出し、世間からは「天災」と言わしめるようになる科学者だ。束さんは千冬姉以外で俺の痣を綺麗だと褒めてくれた人だ。

 

『お願い!すぐに終わるから…それに、きっとこれからいっくんの役に立つはずだから!』

一夏はしばらく考え込むと、ポケットからスマホを取り出し、束に手渡す。

 

『束さんがそこまで言うなら、なんだかんだで束さんが作る物好きだから、楽しみにしてます』

 

束は一夏にそう言われると表情を「パァ!」と明るくさせ、スマホを受け取る。

 

『うん!楽しみに待っててね!』

束は一夏のスマホを持ち離れていった。

 

一夏は束が戻るまでの間、瞑想をして、時間を潰していると、彼女が戻ってきた。

 

 

 

『お待たせいっくん!』

 

『早いですね。数時間しか経っていないと思いますけど…』

 

『うささっ!このてぇんさぁい科学者の手に掛かれば改造などお手の物なのだ!』

 

『はは、否定はしませんけど……スマホを改造したって一体どう言う…』

 

 

『そうだね、とりあえず返すね!』

一夏は束からスマホを返してもらったが、そこまで変わった様子は見当たらない。

 

『?何処が変わったんですか?』

 

『いっくん、スマホを持ったまま、持ってる木刀を消すイメージをしてみて』

 

『木刀を消す?それが一体何が…』

すると一夏の手にした木刀が粒子状となり消えた。流石の一夏もこれには驚く。

 

『ぼ、木刀が…束さん、これは一体』

 

『いっくんのスマホには拡張領域というどんな物でも収容できるすごい機能を搭載したのだ!ただ収容にも制限あるけどね。それから、いっくんのスマホはある永久機関で一生稼働できるシステムにしたからバッテリーの心配は無くなったのだ!』

 

『ありがとう、束さん。これなら重い荷物を持ち歩く時も手ぶらで歩くことが出来る。やっぱり束さんはすごいや…』

 

『どういたしまして!いっくんの嬉しそうな顔が見れたなら…束さんも嬉しいから……!』

 

束が笑みを浮かべると、一夏もつられて笑みを浮かべた。

 

 

 

「(千冬姉、束さん、弾達は今頃何してるかな……大正近くにタイムスリップなんて、普通ならありえない出来事だよな)」

一夏は今いない姉達を思い浮かべながら晴天の空を見上げる。

 

「一夏くーん!」

下から誰かが呼ぶ声がする。一夏はイヤホンを外しスマホに搭載された拡張領域へしまうと、屋根から顔を出す。

 

「どうしました…カナエさん?」

 

「一緒にお散歩にいきましょう!まだ見て回ってないところを案内してあげるから!」

 

「わかりました!」

一夏はそう言うと、屋根から飛び降りる。普通の者なら怪我をしてもおかしくない高さだが、一夏は難なく地面に着地する

 

「……もう見慣れたから何も言わないけど、一体どうしたらそんな動きが出来るのかしら?」

 

「ウーン、鍛えているとしか言えないです」

 

「鍛えただけでそんなことできるわけがないでしょう?どうやったら数時間息も切らず舞が出来るのよ?」

 

「俺は正直に言っただけだよ……しのぶ」

 

若干ぶっきらぼうに話してくるのはカナエよりも小さな少女、彼女の名前は胡蝶しのぶ……カナエの三歳年下の妹である。因みに彼女と一夏は同い年だ。

 

「うふふ、準備もできたみたいだし、行きましょ、一夏くん」

そういうとカナエは一夏の手を握る。

 

「あの、何故手を?」

 

 

「もちろん手を繋ぐためよ?それにしても、一夏くんの手はお日様のようにあったかいわねぇ〜。冷えた手が温まるわ〜」

今の時期はまだ冬のため、平均より高い一夏の体温は、他の人からすると、とても温かいのだ。

 

「あの……その」

 

「しのぶは反対側の手をお願い」

 

「……分かったわ。姉さん」

 

一夏の左手をカナエが握り、そして右手をしのぶが握る。柔らかく、温かな二人の手の感触が一夏に伝わる。

他人と手を繋ぐこと自体縁がなかった一夏は、どうしたら良いか分からずおろおろしていた。

 

「(あれ、この感覚…何処か懐かしい……)」

一夏の脳裏に、手を繋ぎ、笑顔を絶やさない女性の姿が浮かぶが、靄がかかっているのか姿がわからない。

 

「行きましょうか♪」

 

「あ、はい…」

胡蝶姉妹と一夏は歩き出した。

 

 

 

「この場所は……賑わっていますね」

街並みは古く、俺の住んでいた町とは違い、人は少ないが、それでも活気があった。古い写真でしか見ることがなかった光景に、一夏は辺りを見渡した

 

 

「やっぱり全然違う?未来で貴方が過ごしてた町と」

 

「はい…全く違います。俺が過ごしていた町は、スマホの写真の風景通りですからね。」

 

「そうだったわね。写真にあった高い建物が後に東京に建つなんて信じられないわ。父さんと母さんも、ものすごく驚いていたのが懐かしい……」

 

胡蝶夫妻は見知らぬ俺を暖かく迎え入れてくれた。俺が未来人と説明しても受け入れてくれた……とても優しくて、暖かい人たちだった。しのぶ達に俺の時代で過ごした写真を見せた時、高い建物に驚いていた。

 

「この場所も…その内変わってしまうのね」  

 

カナエさんはどこか寂しそうな表情で言う。見慣れた光景がなくなり、変わってしまう事にやはり寂しさがあるのだろう。

 

「……取り敢えずいきましょ、この辺りを案内しないと」

 

「そうだな(周りの視線があるのは気のせいだろうか、なんとなく女性からの視線が強い気が)」

 

一夏は十歳だが、前髪で多少額が隠れているとはいえ、痣を含めても見た目は美形の部類に入る。夢で見た剣術を使って我流で鍛えたため、同年代の男子の平均身長を余裕で超え、現在160はある。若い女性からの視線が集まるのも無理はない。

 

 

 

三人は他愛無いやり取りをしながら、街を歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえり」

 

「おかえりなさい。あらあら、随分仲良くなったのね」

 

胡蝶姉妹の両親が三人を出迎える。三人が手を繋いでいるのを見た胡蝶母は笑みを浮かべる。その指摘に恥ずかしくなったのか、頬を赤くしながらしのぶは慌てて手を放す。

 

「そ、そんなんじゃないわ……一夏が迷子になりそうだから、仕方なく手を繋いだだけよ」

 

「(迷子って……心外だな)」

あえて口には出さないが、一夏は気配感知に優れており、来た道はすぐに覚えられるため、迷子になる事はまず無い。

 

「あら、そうだったかしら? それにしては満更でもなさそうに一夏くんの手を繋いでいたと思うけど?」

 

「あらあら、そうなのね。しのぶが男の子と仲良くなってお母さん嬉しいわ。いつの間にか一夏くんのこと名前で、しかも呼び捨てで呼んでいるし、これでしのぶの将来は安心ね」

 

「〜〜〜〜っ!母さん!姉さん!」

 

 母と姉の揶揄い口撃に押された妹は思わず声を荒げる。

 

すると胡蝶父がこちらに手招きしているのに一夏は気付き、その誘いに従い、胡蝶父の隣へと座る。

 

 

「一夏君、街はどうだったかい?」

 

「はい。やっぱり生で見る光景はやっぱり、違いました。俺の時代に残っている光景は白黒写真でしか見たことがなかったので」

 

「そうか、楽しめたようでよかった。しかし、後に東京にあんな巨大な建物が並び立つなんて今でも信じられないよ。未来ではかなり技術も発展しているようだ。その内写真も鏡のように写る時代がくるとはね」

 

 胡蝶父が笑みを浮かべながら写真を見やる。その写真は明治では到底できない代物だ。そこには一夏を含めた家族四人が微笑ましく写っていた。優しい人柄がそのまま表現されたような温かな笑みだった。

 

一夏の束特製スマホは、撮った写真をプリントできる機能もついている。

 

「今の時代じゃ、写真を撮るだけでもお金がかかると言うのに、君の時代じゃ当たり前のように撮れる。君が来て半年、お陰で思い出がたくさん溜まったよ」

 

「はは、俺も…こんな風に過ごせる日が来るなんて思いもしませんでした。こんな不気味な人間を簡単に信じてもらえるとは今でもちょっと気が引けると言いますか…」

 

「…何度も言うが、しのぶの言った通り、君の額の陽炎の痣はとても綺麗な形をしている。あの舞を見せられたら、日の神様に愛されてると思っている程さ」

 

「はは、そこまで大層なものじゃないですよ」

 

一夏は一度、胡蝶一家に舞を見せたことがある。一夏はその舞を日輪ノ神楽と読んでおり、その時の胡蝶一家は一夏の舞に魅了されていた。

 

一夏の舞は、その太刀筋は幻視するほどの火を纏い、息を忘れる程綺麗で、その所作はあまりに美しく、まるで日の神、あるいは火の精霊が舞っているように見えたらしい

 

 

「一夏くーん!夕食の準備をするから一緒に手伝ってくれないかしら?」

 

「はーい!わかりました!」

一夏は胡蝶母の元に向かい、夕食の準備を始める。一夏は千冬が帰ることが少なかったため、家事はほとんどできる。その為胡蝶家の手伝いをよくしている。

 

 

 

 

そして数時間後、胡蝶一家と一夏は夕食を食べ終え、その後も楽しい時間が過ぎていった。

 

特にしのぶと一夏は良く二人でいる事が多く、そんな微笑ましい姿を、胡蝶夫妻とカナエは微笑ましく見守ったという。

 

楽しい毎日だった。一夏の過ごした時代とは違い、女尊男卑もなく、自身を「織斑千冬の弟」としてではなく、「織斑一夏」と言う一人の少年を見てくれる

 

胡蝶家との生活は一夏の心を癒していった、親がいたら、こんな風に過ごしていたのだろうかと思いながら……。

自身のいた時代には帰れず、一生を過ごすかもしれないと思う反面、この人たちと一緒なら悪くない。そう思えるくらいに温かかった。

 

 

 

 

しかし、一夏も、胡蝶一家も知らなかった。平和というのは当たり前にあるが―――突如として崩れ去ることを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸せが壊れるときには、いつも“ 血の匂い”がするということに

 

 

中の人の繋がりで、一夏に使わせるとしたらどっち?

  • 神気合一
  • 冥我神気合一
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