日輪を宿す暁   作:狼ルプス

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日と水

「全く、冨岡さんも冨岡さんですよ。あんなだからみんなに嫌われるのよ」

甘味屋で団子を食べている三人組。しのぶと一夏、真菰の十四歳組だ。

俺の隣で、額に青筋を浮かべたしのぶが、シュッシュッと拳を前に振るっている。どうやら合同任務があったらしく、さっきから愚痴ばかりだ。しのぶは冨岡さんに苦手意識を持っているらしいが、俺から見ると仲が良さそうに見えて、少し、妬ける。

 

そして、真菰は、仲良くなったしのぶの話を聞き、ため息を吐いていた。

 

 

「えっと、ごめんねしのぶ。義勇って昔はあんな感じじゃなかったんだけど」

 

「…俺から見る冨岡さんはいい人だと思うが」

 

「あれの何処がよ?喋らないし、何考えてるかもわからないし。口を開いたと思ったら、イラつかせるようなことばかり言う人なのよ?ぬぁにが『俺は嫌われてない』ですかっての!!」

 

「(義勇、やっぱりまだあの最終選別の事を引きずってるのかな……)」

 

「冨岡さんは肝心なところを言葉で伝えきれてないだけなんだよ。別に相手を不快にさせるために言ったわけじゃないと思うぞ」

 

「え、一夏……あんたまさか、冨岡さんの言ってる事理解できてるの?姉さんと私は、一夏が蝶屋敷にくる前から関わりがあるから、あの人の性格は一応理解してる方だと思ってたんだけど……」

 

「私は義勇と修行時代からの関係だから、大体何を考えているかわかるけど、一夏って義勇とはまだそんなに関わってないよね?」

 

 

しのぶと真菰はあり得ないと言いたげな顔で一夏を見つめる。

 

「ああ、なんて言うか、あの人は、雰囲気が何処となく縁壱さんと似てるんだ。言葉足らずな所とか何を考えてるかわからない所とかもな。」

 

「冨岡さんが縁壱さんに似てる?」

 

「ああ、俺が参加した柱合会議から三日後、しのぶが任務で外出してた際に冨岡さんが蝶屋敷を訪ねてきたんだ……」

 

「(縁壱って誰?)」

 

真菰は聞いた事のない名前に内心突っ込むが、一夏の話を最後まで聞く事にした。

 

 

 

一夏は、蝶屋敷で音楽を聴きながら空を眺めていた。

 

「(久しぶりだな、一人で過ごすのも)」

 

しのぶは任務に、カナエはまだ療養中で、アオイはカナヲ達を連れて出かけている為、一夏は蝶屋敷の留守番を任されていた。

   

「織斑、暇か」

 

縁側で音楽を聞いていた際、突如目の前に特徴的な半羽織を着た訪問者が現れた。一夏は突然の訪問者にビクッとなるも、すぐ応対する。

 

「み、水柱さ「名前でいい、様付けもいらん」えっと、冨岡さん……どのようなご用件ですか?」

 

「(手合わせ願いたい。)来い。」

 

 

「わかりました。準備するので道場で待っててください」

 

「わかった。」

 

 

「(なんだろう、あの人とはーー)」

 

「(あいつとはーー)」

 

 

 

「(うまくやっていけそうだ/うまくやっていけそうな気がする)」

 

 

道場着に着替えた一夏は道場に入ると、義勇から木刀を投げ渡された。

 

これから水柱・冨岡義勇と甲・織斑一夏の鍛錬が始まる。

 

「(真菰を助けてくれた事、)礼を言う」

 

「いえ、俺はそんな大層な事はしていません。冨岡さんの事は……真菰から聞いていました。あなたが兄弟子であることも」

一夏は最終選別で真菰と一緒に行動していた時、彼女の兄弟子のことは聞いていた。義勇の方は真菰との手紙のやり取りで、一夏が彼女を助けてもらったこと、そして、錆兎や兄弟子達を殺した鬼を共に倒したことを聞いていた。

 

「……お前は(柱になる素質を十分兼ね備えている柱候補なんだ。柱代理の)オレとは違う」

 

「そんな事ありません。冨岡さんだって十分すごいと思います。柱になるにはそれ相応の力を身につけないとなれない称号です」

 

「…お前は花柱を守り抜いた」

 

「俺は家族を助けただけです。」

しばらくそんな会話を交わした後、二人は木刀を構える。

 

 

「…いくぞ」

 

 

「はい、よろしくお願いします」

 

そして、木刀を打ち鳴らす音が道場に鋭く響く。

  

「水の呼吸 壱ノ型・水面斬り」

 

「(真菰で水は見た事はあったが、柱となるとやはり剣筋もちがうな」

 

ーー日の呼吸 壱ノ型・円舞

 

「…!」

 

義勇の表情が変わる。余りの重い攻撃に驚きが隠せなかったのだ。

 

 

「参ノ型・流流舞い」

 

「日の呼吸 陸ノ型・日暈の龍・頭舞い」

 

ーー水の呼吸 漆ノ型・雫波紋突き

 

ーー日の呼吸 伍ノ型・陽華突

 

義勇は冷静に技を連続に繰り出す。

ある程度の強さを持つ者ならば、それなりの空気を纏っている。義勇が一夏から感じるその空気は異質だった。「何も感じない」……義勇が感じ取った感覚だった。一夏の表情は「無」、義勇は一夏に底知れない何かを感じ取れた。

 

「日の呼吸 拾ノ型・火車」

背後に回った一夏は木刀を両手で握り、身体ごと垂直方向に回転して義勇の背後から斬りつけると、

 

 

「水の呼吸 陸ノ型・ねじれ渦」

上半身と下半身を強くをねじった状態から、強い回転を伴って斬撃を繰り出し防御した。一夏は距離を取る。

 

「日の呼吸黒式 弐ノ型・炎陽紅焔」

 

一夏は焔の斬撃を放つ

 

弐ノ型・炎陽紅焔は、たった三秒弱の間に15連撃を仕掛ける超高速連撃で、雑な表現をすれば「円環」の超簡略版である。

円環ほどの派手さや威力は無いが、それでも圧倒的なラッシュは攻撃だけでなく、多方向からの時間差攻撃に対する迎撃等使い勝手が良く、また連発することも可能だ。

一夏が使用すると刀が届かない広範囲に迄、日輪刀の効果を宿した焔の衝撃波を飛ばして攻撃することが可能となる。

 

今回は義勇に向けて斬撃波を放ったのだ。

 

「水の呼吸 拾壱ノ型・凪」

 

一夏は焔の斬撃を、型に対応する型で義勇は繰り出し、斬撃を受け流した。

 

「(流石は柱、実力は伊達じゃない。それに今の技、斬撃を受け流したのか…)」

 

「(斬撃が重い、やはり俺とは違う。上弦の鬼を一人で斬っただけのことはある)」

 

そして一夏は、義勇が無表情で対応している姿に、縁壱を思い出した。夢や記憶で見た縁壱は常に無表情で、底知れない何かを感じられたこともあったからだ。

 

「(大体動きはわかってきた。あれを試すか)」

 

「(…!気配が変わった。次で決めるつもりか)」

一夏の気配が変わり、義勇も深く呼吸を行う

 

 

ーー全集中 水の呼吸 拾ノ型・生生流転

 

義勇は、うねる龍の如く刃を回転させながらの斬撃を重ねる連撃を繰り出した。

 

 

「日の呼吸改 陽華突・龍王」

一夏は火の高速剣技で水の龍を無力化して、義勇の木刀を砕き、首元に木刀の剣先を突きつける。義勇は、一夏の高速の突き技に対応できずあっさりと剣先を突きつけられた事に動揺していた。

 

陽華突・龍王は一夏が陽華突を強化した突き技・・・突き技というより、刺突を含めた九つの斬撃を相手に叩き込む神速の斬撃技である。義勇の隊服にできたいくつかの切り傷がそれを物語っている。

 

 

「まだ続けますか?」

 

「いや、止めておこう」

 

 

一夏は、フゥと一息吐いて、木刀を下ろす。

 

 

「ありがとうございました」

 

 

「……」

 

お互いに一礼をした後、一夏は義勇に手拭いを手渡す

 

 

 

「使ってください。井戸で汗を拭きましょう。」

 

「…感謝する」

 

水洗いをしながら冷水で濡らした手拭いで体を拭く。無言の時間が続く。

 

「……」

 

「………」

 

「(………やっぱり似てる。これは、何を言おうか考えてる顔だ)」

 

一夏が記憶や夢で見た縁壱は顔を変えずに無言だったことが多々あった。最初は困惑したが、夢を見るにつれ、表情や雰囲気を読み取り、何を考えてるかわかるようになっていったのだ。

 

数十秒待っていると、義勇は口を開いた。

 

「…やはりお前は、俺とは違う。」

 

「…俺は周りが思うような大層な人ではないです」

  

「お前は、胡蝶姉を守りきったのだろう。俺とは、違う。姉も、友も守れなかった俺とは、違う。だから織斑……俺の様になるな。」

 

「………冨岡さん」

 

真菰からある程度聞いていたが、この人も、俺たちと同じで大切な人を喪った人なのだ。その苦しみを、俺に同じ悲しみを繰り返さないために鍛錬をしてくれたのだろう。

 

 

 

「……(この人、不器用だな。そう言う所は千冬姉に似てるかも)」

 

 

「お前は、鬼を殺している。それも、上弦を単独で。」

 

「はい」

 

「お前は、俺に勝った。誰よりも強い鬼殺の剣士だ。守りたい者を守り、鬼を下した。それで十分だろう。」

 

「ありがとうございます。カナ姉としのぶから冨岡さんの事は聞いてはいたんですけど、意外と喋るんですね」

 

「…俺はもともとよく喋る」

 

「……なんか、すみません」

 

「………………」

 

一夏は冨岡義勇という男を理解した。この人は、口下手で言葉が足りない上に、口を開けば、物事の核心をつくことばかり言うタイプだ。わざと人の中にズケズケと入り込んでくる天然さに、一夏は苦笑いを浮かべる。

 

「はは、(しのぶが嫌うわけもわかる気がする)」

 

沸点が低く、無駄を嫌うしのぶからしたら、逆鱗にわざと触れてくる感じの物言いは、耐えられないだろう。

 

「……胡蝶妹の方とは…良い仲だと聞いている。」

 

「はい、そうですね。」

俺は否定せず頷く。柱合会議で俺達が恋仲であるのはカナ姉が話してしまったから、全員知っている。 

 

「お前は、守れ。何があろうと」

 

「言われなくても」

 

それを聞くと、義勇は隊服を着直し、無表情のまま踵を返した。

 

「邪魔をした」

 

「いえ、またいつでも来てください。俺は歓迎します。また手合わせしたかったらいつでも相手します」

 

「……感謝する。」

 

そうして、一夏は、背を向ける義勇の姿が見えなくなるまで、見送った。ほんの僅かだが義勇が踵を返す一瞬、笑みを浮かべていたのを一夏は気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うことがあったんだ」

 

「嘘、一夏…義勇に勝ったの?」

 

「当たり前でしょ?上弦の鬼を一人で無傷で勝てる実力者なのよ?冨岡さんごときに一夏が負けるわけないじゃない」

 

「そう言うしのぶは一度俺に勝ってるだろ?」

 

「えっ⁉︎一夏に勝ってるのしのぶ⁉︎」

真菰は驚きながらしのぶに問い詰める。真菰も最終選別で一夏の実力はある程度理解していた。そして最終選別から翌日、鎹鴉から一夏が上弦の鬼の討伐したと報告され、真菰の育手である鱗滝も驚いたほどだ。

 

「い、いや、勝てたと言うか、一夏は相手の実力に合わせてやってるだけで…」

 

「相手に合わせる方も難しいと思うけど…それでもすごいよ」

 

「今のしのぶの実力なら、対人相手で一部の柱の人には勝てるんじゃないか?」

 

「え?それ…本当、一夏」

 

「嘘は言わない、流石に悲鳴嶼さんは難しいかもしれないが、他の柱だったらいい線行くんじゃないか?」

 

「……いいわねぇ、折角だから冨岡さんに相手をしてもらましょうか〜」

 

「しのぶ、え、笑顔が怖いんだけど?」

 

「うふふ、気のせいですよ」

 

「はは、ほどほどにな…しのぶ」

 

 

 

 

後日しのぶは鎹鴉で冨岡を鮭大根を餌にし呼びつけ、模擬戦を行った。勝負の行方は一夏の相手を毎日していたしのぶに軍配が上がった。

 

 

因みに鮭大根は可哀想と思ったのか、カナエが振る舞い、冨岡は美味しそうに食べたのであった。

 

中の人の繋がりで、一夏に使わせるとしたらどっち?

  • 神気合一
  • 冥我神気合一
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