『――置き去りにしてごめんね、炭治郎……』
闇の中で、母さんが呟いた。呟いた気がした。
――そして、オレは、意識を覚醒させる。
「うっ、うう……!」
俺は意識を失ってたのか?一体どうして?
俺は頭が回らない中、辺りを見回した。すると、俺のすぐ隣で、禰豆子が大きめの羽織を掛け布団代わりにして横たわっていたことに気づく。
「ね、禰豆子!」
全てを思い出した。急いで禰豆子を抱きかかえて様子を見る。
「い、生きてる……」
口に竹製の枷を噛まされている以外に特に変わった様子はない。どうやらあの半羽織の剣士は禰豆子を殺さないでくれたみたいだ。
「目が覚めたか?」
「うわぁ!?」
禰豆子の無事を確認してすっかり気が抜けてしまい、背後にいた誰かの声に驚きの声を上げる。
「そんなに驚かなくてもいいだろ」
「す、すみません!変な声を上げてしまっ……て」
俺は背後の人物の方に向き直り、謝罪する。その人は、額に陽炎のような痣があり、長い髪は結び、耳には桃色の花と紫の蝶柄の耳飾りを付けた赤羽織の男性だった。そして何より、雰囲気が……
「父さん?」
「……残念だが、俺は君の父親じゃない。俺は織斑一夏。冨岡さんから君たち二人に伝える事がある」
「冨岡さん?」
「ああ、すまん。名前知らないよな。半々羽織を着ていた人だって言えばわかるか?」
俺は織斑さんから色んなことを教えてもらった。鬼のことや鬼殺隊のこと、冨岡さんと織斑さんの事も……
鬼というのは、鬼舞辻無惨という鬼たちの始祖に血を与えられることでのみ増え、人を襲い喰らう存在ということ。鬼殺隊はそんな鬼を退治することを生業とする剣士の集まりだということ。
そして、織斑さんはそんな鬼殺隊の中でも当主と柱を除けば一番位の高い階級であり、冨岡さんはその柱と言われる階級の剣士なのだということも。
「鬼殺隊には幾つか隊律がある。その中でも、鬼を庇ったり見逃したりすることは、“絶対の禁忌”とされている。」
「っ!なら、貴方達はどうして……」
「君の妹さんは、気絶した君を守ろうとしたんだ。自分が重度の飢餓状態であるにも関わらずに、だ。正直驚いた。必死に家族を守ろうとする鬼は初めて見た」
「えっ……」
俺は今だ眠っている禰豆子の方を見る。本当は俺が皆を守らないといけないのに、誰も守れず更には守られていたなんて……悔しさに胸を締め付けられる。それと同時に、禰豆子がやはり心まで鬼に染まっていなかったことに、安堵した。
「冨岡さんと俺は、君の妹が普通の鬼とは何か違うと感じた。君達の存在は……俺達鬼殺隊に新たな風を吹かせる。そんな感じがした」
「織斑さん……」
「そして今、君には二つの選択肢があるが……それは後で話す」
そう言って、織斑さんは踵を返し歩き始める。
「まず、君たちの家族を……弔うのが先決だ。手伝わせてくれないか?」
「っ………はい!」
俺は眠っている禰豆子を背負い、織斑さんの後についていった。
そして家にたどり着くと、織斑さんと俺は母ちゃん達を弔うためのお墓を作り、遺体を埋める。俺は何故か涙が出なかった。泣いちゃいけない気がしたんだ……その後、織斑さんと俺は並んで手を合わせた。禰豆子は隣でボンヤリとしていた。
「すまない。君達の家族を……助ける事ができなくて」
家族を弔った後、織斑さんが突然頭を下げて謝罪をしてきたので、戸惑ってしまった。
「あ、謝らないでください!織斑さんが悪いわけじゃない!ですから…頭をあげてください!」
織斑さんはゆっくりと顔を上げてくれた。表情は変わらないが、今の織斑さんからは悲しみと悔しさの匂いがした。
「ありがとう。話の続きになるが、その前に……君の名前を聞かせてくれないか?」
「炭治郎!竈門炭治郎です」
「炭治郎か、良い名前だ。俺の事は一夏でいい。炭治郎、君には二つの選択肢がある……よく聞いてくれ」
一夏さんは真剣な表情で俺に語り掛ける。
「一つは、君たち二人とも冨岡さんの師匠の監視下で生活すること。君の妹、禰豆子の方は常に目の届くところにいてもらうから当然自由な時間なんてない」
当然だろう、いくら禰豆子が心まで鬼になってないと言っても、今後もそうだとは言いきれない。
そして鬼を殺すことを生業とする一夏さんたちが、自分たちが殺さずにいた鬼で誰かが傷つくなんて事態を起こすわけにはいかない。
「そして二つ目は、君が鬼狩りの剣士となって、禰豆子と一緒に鬼を人に戻す方法を探すこと」
「俺が剣士に!?でも、俺、刀なんて握ったこともないですよ?!」
「もちろん直ぐに剣士になれるわけじゃない。相応の鍛錬と試練を乗り越えないといけない。命を落とす可能性だって十分にある」
一夏さんは、「だが」と続け、
「強くなれば自分の手で今度こそ誰かを護れるかもしれない。炭治郎……君はどうする?悔いのない方を……選べ」
一夏さんは俺に問う
答えなんて、決まってる。俺は……俺が禰豆子を護らなきゃ駄目なんだ。俺は、これ以上誰かに頼って生きるだけなんて出来ない!!
「……覚悟は、決まってるみたいだな」
「………はい」
今度こそ護ってみせる。禰豆子を護りながら人に戻して、家族の仇をとる。
「俺は鬼狩りの剣士になります!」
「……そうか、いい目だ」
一夏は満足そうに言うと、懐から紙を取り出し、俺に渡してくれた。
「それは狭霧山の場所を示した地図だ。冨岡さんからの伝言は二つ……『麓に住んでいる鱗滝左近次という老人に尋ねろ』,『“冨岡義勇に言われて来た”と言え』、と」
「わかりました。ありがとうございます」
「それから、禰豆子を絶対に日の光に当てさせるな。今は日が遮られているから大丈夫だが、鬼が日の光を浴びれば消滅して死ぬ。いいな?」
「わ、わかりました」
一夏さんの言っていることに嘘の匂いはしない。絶対に日の光に禰豆子を当てさせないよう気を付けなければ……
「俺が伝えるのは以上だ。後……一つ聞いてもいいか?なんで君は……“日の呼吸”を使えたんだ?」
「え、日の呼吸?」
「すまないが、説明は省く。君が冨岡さんの攻撃を躱したあの動きだ」
「えっと、俺も無我夢中で……冨岡さんに向かっている途中、父さんの言葉を思い出して……それに、あれは、戦国時代からこの耳飾りと一緒に竈門家代々伝わる“神楽の舞”です」
「(耳飾りと一緒に受け継いだもの……間違いない、この子は、炭吉さんの子孫)」
一夏は、縁壱の記憶で見た炭吉との記憶を一部思い出しており、炭治郎が炭吉の子孫なのは透き通る世界で見てわかっていた。
「それから炭治郎、今言う事は、君と俺の秘密で頼む。君の妹を、禰豆子を人に戻す方法はある」
「え、ほ…本当ですか⁉︎」
「ああ、今からいう事をしっかり聞いてくれ」
一夏は炭治郎に鬼を人間に戻す薬や、鬼の始祖を倒すために、鬼の血を集めている事、その協力者が医者をしている鬼である事を説明した。
すると炭治郎は驚いた表情となり不安な様子を見せる。
「お、鬼と協力関係。だ、大丈夫なんですか?」
「その気持ちもわからんでもないが、俺が信用した“人達”だ」
「(……嘘の匂いはしない)」
炭治郎が持つ五感は真菰と同じく、嗅覚が並外れており、相手の感情すら読み取ることができる。一夏からは嘘の匂いはせず、純粋な真実の匂いしかしなかった。
「わかりました。一夏さんの話を信じます」
「ありがとう。禰豆子の事は、珠世さんに伝えておく。それから最後に……狭霧山まで同行しようか?」
「いえ、そこまで迷惑をかけることは出来ません。俺達二人で向かいます」
「……わかった。それなら、俺は行く。今度また会うときは、同じ鬼殺の剣士として……会おう」
「はい!」
最後に一夏さんはそう言って、シュン!!と消えた。この場にいるのは俺と禰豆子の二人だけ。
「禰豆子……行くぞ」
ギュッと禰豆子の左手を握った炭治郎は、竈門家を離れ、狭霧山を目指して歩き始めた。
一方、山から離れた一夏は街中を歩いている最中、
「(炭治郎が言っていた“神楽の舞”。日の呼吸が舞として伝えられていたなんてな。)」
一夏は竈門家に日の呼吸が神楽の舞として受け継がれていたことに一夏は、嬉しい気持ちが埋まっていた。
日輪刀をスマホの拡張領域に収容しているため、目立たないが、一夏の容姿もあってか、女性からの視線もあったが、周りの視線を気にすることなく歩いている。
「炭吉………ありがとう」
一夏の表情は、穏やかだった。
この日、未来の日輪と大正の日輪が……交差した日になった。
中の人の繋がりで、一夏に使わせるとしたらどっち?
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神気合一
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冥我神気合一